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46 領主亡きあと
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村で一泊し、ようやく出発──。
伊能もこれ以上もたつくことなく、街へと向かう。
街へは午前中に着いたが、何かしら騒然としている。
シエラとイルネージュのいる宿へと行こうとしたが、伊能はまず城へ報告してからだ、と言ってきかない。
仕方なく城へと向かう。
途中、人々の噂話が聞こえてくるが、すでに領主アドンの死は伝わっているようだ。
俺がもう一体の超級魔物を倒した事も知られている。前のように集まって騒がないのは、アドンの死に遠慮している為か。
城門の前で兵に囲まれた。アドンを死なせてしまった責任を問われるのでは、と警戒したが、敵意がある様子ではない。
謁見の間に通される。左右にズラッ、と文官、武官が並び、空の玉座の左右には《神算司書》ミリアムと《聖騎士》マックス。
マックスはまだ最初の討伐のケガが治っていないようだ。はじめて見たときの鎧姿ではなく、軽装に痛々しい包帯姿。悲痛な表情をしている。
「二体目の超級魔物の討伐、ご苦労様でした。アドン様の死はすでに聞いています。この場にいる全員には話しましたが……あなたに魔物討伐の依頼をし、その手柄をアドン様の物とする為に同行させた結果、このような事態に……。この責任は全てわたくしにあります」
ミリアムが粛々と語りだす。だがその表情に自責や哀悼は感じられない。事務的に淡々と伝えているように見えた。
まわりの者はうつむきながら黙っていたが、マックスだけは足で激しく床を踏み鳴らし、叫んだ。
「わたしがついていればっ……! 何故だっ、何故わたしがいない時に、そのような者達にアドン様を任せたのだっ! ミリアムッ、貴様の責任だけで済む話ではないっ!」
激昂するマックス。対するミリアムは冷静に返す。
「それはもう昨日の会議で話した事でしょう。ここで我らが言い争ってもこれから先、超級魔物の出現を止められはしませんし、諸国の圧力から逃れることも出来ないのです。すでに北東の辺境の地では、黄武迅なる願望者が近隣の国を併合、その勢力を拡大させています。いずれはこの国にも侵攻して来るでしょう。その時に指導者がいないこの国の末路は……語るまでもないでしょう」
「だからといって……先代の領主から託されたこの国を……そのような得体の知れない者などに!」
「すでに議会で決定した事。溢忌さん……いえ、溢忌様は二度も超級魔物を倒し、しかもアドン様の仇も取られた。諸国と魔物の脅威からブクリエを守れるのは、この方のみ。つまり、この方以外に新しい領主は考えられません」
新しい領主、と言ったのか、今。
俺が? こんなロクな知識もない高校生が?
異世界の住人になってまだ一ヶ月ほどなのに?
無茶苦茶にも程がある……。
俺が驚きで口をパクパクさせていると、ミリアムがツカツカと歩み寄り、目の前でひざまずいた。
「《餓狼系主人公》葉桜溢忌様。これはこの城内の者だけでなく、街の者達……いえ、ブクリエ国全ての民の願いでもあるのです。どうかお引き受け下さいますよう……」
なんという展開だ。いや、話が早すぎる。これは……だいぶ前から周到に用意しなければ、こんなトントン拍子に話が進むわけない。もしや、このミリアムと伊能はグルではないのか。
──伊能。いつものようにすっとぼけた顔をしているかと思えば……真剣な顔だ。眼帯とは逆の右目で後には引けねえぞ、と睨んでいる。
ワアアア、と城の外からか。人々の歓声がここまで聞こえてくる。
俺の名を呼んでいる。新領主様、溢忌様、と。
「待て、わたしはまだ認めていないぞ。議会の重要決定事項では、このわたしの賛同がなければ認められないはずだ」
マックスの指摘に、ミリアムは立ち上がりながら答えた。
「たしかに。そう決まっていますし、先代からの重臣であるあなたの意見を軽視するわけにはいけませんね……。わかりました。ここは古式にのっとり、決闘という形で決着をつけましょう。《聖騎士》のあなたなら、これで納得するでしょう」
「……挑発しているのか? いいだろう。ここにいる者たち全員を敵に回そうと……先代、そしてアドン様が治めていたこの国を渡すわけにはいかない」
マックスはこちらを睨みつけ、ゴオオッ、と願望の力を高めた。あれ、決闘ってもしかして俺がするのか?
「事は急を要します。早速で申し訳ありませんが、明日にでも街の広場を解放して、そこで決闘を行いましょう」
「いいだろう。今すぐでもいいくらいだが。勇者よ、首を洗って待ってるがいい……」
ミリアムの提案する急な日取りを、マックスは堂々と受けた。
マジでやるつもりか。あの《聖騎士》マックスという長髪イケメン……たしかに強そうだが、まだ負傷しているのではないか。
「ああ、こっちもOKだ。決闘の様子は出来るだけ多くの一般人に見られるようにな。準備のほうは任せたぜ」
俺に代わって伊能が承諾。またコイツは……。
俺をこの国の領主に据えて、どうするつもりだ。
そしていつからこの国の重鎮、ミリアムに接近したのだろうか。ここの先代の領主が死に、若いアドンが跡を継いだ時からだろうか──。
伊能は真剣な顔からニカッ、と笑って俺の首に腕を回す。そして囁いた。
「頼むぜぇ、勇者殿。お膳立ては済んだ。ここからが肝心だぜ。ここからがな……」
伊能もこれ以上もたつくことなく、街へと向かう。
街へは午前中に着いたが、何かしら騒然としている。
シエラとイルネージュのいる宿へと行こうとしたが、伊能はまず城へ報告してからだ、と言ってきかない。
仕方なく城へと向かう。
途中、人々の噂話が聞こえてくるが、すでに領主アドンの死は伝わっているようだ。
俺がもう一体の超級魔物を倒した事も知られている。前のように集まって騒がないのは、アドンの死に遠慮している為か。
城門の前で兵に囲まれた。アドンを死なせてしまった責任を問われるのでは、と警戒したが、敵意がある様子ではない。
謁見の間に通される。左右にズラッ、と文官、武官が並び、空の玉座の左右には《神算司書》ミリアムと《聖騎士》マックス。
マックスはまだ最初の討伐のケガが治っていないようだ。はじめて見たときの鎧姿ではなく、軽装に痛々しい包帯姿。悲痛な表情をしている。
「二体目の超級魔物の討伐、ご苦労様でした。アドン様の死はすでに聞いています。この場にいる全員には話しましたが……あなたに魔物討伐の依頼をし、その手柄をアドン様の物とする為に同行させた結果、このような事態に……。この責任は全てわたくしにあります」
ミリアムが粛々と語りだす。だがその表情に自責や哀悼は感じられない。事務的に淡々と伝えているように見えた。
まわりの者はうつむきながら黙っていたが、マックスだけは足で激しく床を踏み鳴らし、叫んだ。
「わたしがついていればっ……! 何故だっ、何故わたしがいない時に、そのような者達にアドン様を任せたのだっ! ミリアムッ、貴様の責任だけで済む話ではないっ!」
激昂するマックス。対するミリアムは冷静に返す。
「それはもう昨日の会議で話した事でしょう。ここで我らが言い争ってもこれから先、超級魔物の出現を止められはしませんし、諸国の圧力から逃れることも出来ないのです。すでに北東の辺境の地では、黄武迅なる願望者が近隣の国を併合、その勢力を拡大させています。いずれはこの国にも侵攻して来るでしょう。その時に指導者がいないこの国の末路は……語るまでもないでしょう」
「だからといって……先代の領主から託されたこの国を……そのような得体の知れない者などに!」
「すでに議会で決定した事。溢忌さん……いえ、溢忌様は二度も超級魔物を倒し、しかもアドン様の仇も取られた。諸国と魔物の脅威からブクリエを守れるのは、この方のみ。つまり、この方以外に新しい領主は考えられません」
新しい領主、と言ったのか、今。
俺が? こんなロクな知識もない高校生が?
異世界の住人になってまだ一ヶ月ほどなのに?
無茶苦茶にも程がある……。
俺が驚きで口をパクパクさせていると、ミリアムがツカツカと歩み寄り、目の前でひざまずいた。
「《餓狼系主人公》葉桜溢忌様。これはこの城内の者だけでなく、街の者達……いえ、ブクリエ国全ての民の願いでもあるのです。どうかお引き受け下さいますよう……」
なんという展開だ。いや、話が早すぎる。これは……だいぶ前から周到に用意しなければ、こんなトントン拍子に話が進むわけない。もしや、このミリアムと伊能はグルではないのか。
──伊能。いつものようにすっとぼけた顔をしているかと思えば……真剣な顔だ。眼帯とは逆の右目で後には引けねえぞ、と睨んでいる。
ワアアア、と城の外からか。人々の歓声がここまで聞こえてくる。
俺の名を呼んでいる。新領主様、溢忌様、と。
「待て、わたしはまだ認めていないぞ。議会の重要決定事項では、このわたしの賛同がなければ認められないはずだ」
マックスの指摘に、ミリアムは立ち上がりながら答えた。
「たしかに。そう決まっていますし、先代からの重臣であるあなたの意見を軽視するわけにはいけませんね……。わかりました。ここは古式にのっとり、決闘という形で決着をつけましょう。《聖騎士》のあなたなら、これで納得するでしょう」
「……挑発しているのか? いいだろう。ここにいる者たち全員を敵に回そうと……先代、そしてアドン様が治めていたこの国を渡すわけにはいかない」
マックスはこちらを睨みつけ、ゴオオッ、と願望の力を高めた。あれ、決闘ってもしかして俺がするのか?
「事は急を要します。早速で申し訳ありませんが、明日にでも街の広場を解放して、そこで決闘を行いましょう」
「いいだろう。今すぐでもいいくらいだが。勇者よ、首を洗って待ってるがいい……」
ミリアムの提案する急な日取りを、マックスは堂々と受けた。
マジでやるつもりか。あの《聖騎士》マックスという長髪イケメン……たしかに強そうだが、まだ負傷しているのではないか。
「ああ、こっちもOKだ。決闘の様子は出来るだけ多くの一般人に見られるようにな。準備のほうは任せたぜ」
俺に代わって伊能が承諾。またコイツは……。
俺をこの国の領主に据えて、どうするつもりだ。
そしていつからこの国の重鎮、ミリアムに接近したのだろうか。ここの先代の領主が死に、若いアドンが跡を継いだ時からだろうか──。
伊能は真剣な顔からニカッ、と笑って俺の首に腕を回す。そして囁いた。
「頼むぜぇ、勇者殿。お膳立ては済んだ。ここからが肝心だぜ。ここからがな……」
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