異世界の餓狼系男子

みくもっち

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43 一夜明けて

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 超級魔物のギガオーガを倒し、俺と伊能は素材を剥ぎ取る作業に入る。

「ちゃんと証拠を持って帰らんとムダになるからな。魔物の死体は地面に触れた状態だと数時間もすれば土に還っちまう」

「不思議っスね。しかし、こんなバカでかい魔物のどこを持って帰るのか……ああ、調べてみるっス」

 ステータスウインドウでスキル神器練精アーティファクトの項目から、ギガオーガの使えそうな部位を調べる。
 いくつかの部位を切り取って袋に詰める。こんな肉片や角の一部なんかでギガオーガと分かるのだろうか? 伊能に確認したが、問題ねえ、と意味ありげな含み笑い。



 ブクリエの街へと戻る。
 再び穏形おんぎょうを使い、番兵には見つからないように。

 そのまま城へは戻らなかった。街の中で、もともとシエラとイルネージュが泊まる予定だった宿へ。そこで朝まで待つ。

「なんで直接、城へ戻らないんスか」
 
「考えがある。ああ、それとシエラとイルネージュはこの宿に残っておいてくれ。数日後に迎えに行く」

 伊能は何か企んでいるようだ。
 城のご馳走が食べられないじゃん、とシエラがごねる。イルネージュもはっきりと口には出さないが、不審な目を伊能に向けている。

 翌朝──宿から出た俺と伊能は城へと向かう。
 途中で賑やかな朝市の開かれている大通りを通る。
 
 おかしい。やたらと人の視線を感じる。
 俺の姿を見て、人々が何やら噂をしているようだ。
 タタタ、と帽子を被ったひとりの少年が駆け寄ってきた。
 
「ねえっ、お兄さんって、あの超級魔物を倒したってホント!?」

 唐突に聞かれ、俺は驚く。なぜその事をもう知っているのか──。
 伊能がわざと周りに聞こえるような大声で答えた。

「ああ! その通りさ、坊や! この方は凶悪な魔物を倒す為にこの国へ来た勇者様なんだよ! 領主様が討伐に失敗したと聞いて、そのカタキを取ったのさ!」

 これをきっかけに、わっ、と民衆が集まってきた。
 人々から感謝と称賛の声を浴びせられる。身体をベタベタと触られ、次々に握手を求められる。
 伊能が、これこそ超級魔物ギガオーガを倒した証! と、袋の中から角の欠片を取り出してみせる。おお~、と民衆はさらにどよめく。
 
「こらこら、勇者様は忙しい身! 今から領主様に謁見し、褒美をもらわねばならない! きっと高い位や大きな土地、屋敷を頂けるであろう!」

 伊能が大声を出すと、人々は城までの道を開け、拍手で見送ってくれた。いったい、これは……。

「ふふ、驚いたか? 昨夜から朝にかけて噂をバラまいてたのさ。この街には協力者がいるからな……おっと、お出迎えが来たぜ」
 
 武装した兵の一団が城のほうから現れた。
 なおも俺に近づこうとする民衆を追い払い、俺と伊能を取り囲む。

「ブルーデモンズ副長、伊能九十朗殿。そして勇者、葉桜溢忌殿。おとなしく城まで御同行願おうか」

 隊長格の兵が緊張した面持ちで話しかけてくる。伊能ははいはいと、両手を上げてそれに従った。



 城へと戻り、兵に囲まれたまま、謁見の間へ。
 壇上の玉座には、あのマヌケな格好の領主、アドン・レオミュールが片肘つき、ものすごく不機嫌な顔でこちらを見下ろしている。
 壇下の左側には《神算司書》ミリアム・エーベンハルト。ケガはもういいのか。
 もうひとりの腹心、《聖騎士》マックスの姿は見えない。

 伊能はすぐにひざまずく。俺も隣でそれにならった。

「客人よ。勝手に城を抜け出し、何やら魔物討伐の真似事をしたというが……まことか?」

「はっ、隣におります勇者──葉桜溢忌を現在、当ギルドで預かっておりまして。この者となら、閣下を悩ませる超級魔物とて倒せると思いたった次第……閣下の許可も得ず、勝手な真似をして申し訳ありません。しかし、この国と民、そして閣下を想うがゆえの行動なのです。何とぞ、そこだけはご理解頂けますよう……」

 不機嫌なアドンの質問に、伊能は低く頭を下げながら答える。
 しかしまあ、思ってもない事をベラベラと。
 ちらと頭をあげてアドンの顔を見たが、まだ怒っているようだ。
 それはそうだろう。領主である自分が失敗した魔物討伐を、よそ者が一晩で達成したのだから。  
 しかも街中の人々はもう知っている。国中へ噂が広がるのも時間の問題だ。アドンは領主としてのメンツを完全に潰されたのだ。

「しょ、証拠はあるのか。そこいらの弱い魔物を倒して、素材を持って帰ってきただけではないのか」

 アドンが身を乗り出し、唾を飛ばしながらいちゃもんをつけてくる。
 伊能はギガオーガから剥ぎ取った素材の入った袋を、うやうやしく差し出す。
 
 ツカツカとヒールの音を立てながら近づくのは、ミリアム。
 袋から素材を取り出し、ひとつひとつをよく観察して、アドンに告げた。

「わたくしの鑑定のスキルで確認しました。間違いありません。超級魔物、ギガオーガのモノです」

 アドンはそれを聞くと玉座から転げ落ちそうになるが、なんとか踏みとどまる。

「そ、そうか。そこの者……勇者だとかいったな。ふむ、小汚ない身なりに貧相な顔立ちだが……なかなかやるではないか」

 なんとか体面を保とうとしているが、目が泳いでいる。次に何を言おうか悩んでいるようだ。

「お前達は下がれ。アドン様とわたくし、この者達だけで話す」

 ミリアムがその場にいる武官、文官、警護の兵にもそう命じた。
 ぞろぞろと退出するアドンの配下達。これから何を話すのか──。
 

 
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