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30 ギルドの仕事
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ギルドでの仕事を手伝いだして一週間が過ぎた。
魔物討伐や隊商の護衛など、複数の願望者が関わるものから、街の警備、小荷物の配達、街周辺の斥候など、単独で行うものまで。
ギルドの仕事というのは思ったより種類があり、けっこう地味なものが多い。
双子の指示を受けながらそつなくこなした。イルネージュも不器用ながら頑張っている。
シエラは……まあ、いつも通りだ。
ギルド内で俺たちに割り当てられた部屋。小綺麗でそれなりに広い。
男女三人まとめて同じ部屋、というのには戸惑ったが、願望者同士の宿泊ではそうめずらしくないとの事。
願望の姿なので、リアルな性別は不明だからだそうだ。
とはいっても、部屋内でシエラはあからさまに仕切りを使ってここから入るなよ、と俺に厳命。部屋の5分の4を占拠するという暴虐っぷりを発揮している。
「やっぱり溢忌さん、可哀想ですよ。あんな狭いところに押しやられて。もう少しスペースを分けてあげないと……」
「いんや、美少女ふたりと同室なだけでも贅沢と思わなきゃ。この仕切りも、もっと分厚いのに変えないとダメだ。童貞には刺激が強すぎる」
イルネージュは同情してくれるが、シエラは頑として受け付けない。俺はやれやれとベッドの上でふたりに背を向けた。
今日はギルドの仕事の予定は入ってない。
まだゆっくりと街の中を見てないので、あとで出かけようかと考えているとドアからノックの音。
シエラがどうぞ~、と声をかける。
ガチャ、とドアがわずかに開いた。狭い隙間からジー、と見つめるのは双子の女の子のほう、ネヴィアだ。
「………………」
「………………」
しばらく沈黙が続く。おお……シエラのガンつけがハンパない。まだバカにされたことを根に持っているのか。睨みすぎて白目になっている。
「……チートスキルの情報が手に入ったって。今日はそれを追うから、早く用意して。十分後に外で集合」
それだけ言うとバタンッ、とドアを閉めた。シエラがなんだアイツ~と叫ぶ。
約束通りチートスキルの情報を集めてくれていたようだ。
ギルド内の人員も限られている中でありがたい事だ。
準備を済ませ、三人で建物の外へ。
外ではヒューゴとネヴィアがムスッとした顔で待っていた。
「ついて来い」
ヒューゴが先頭に立ち、街の中を歩く。
歩きながら簡単に説明をはじめた。
「チートスキルを持っている疑いのあるヤツは、この街の住人だ。まだ確定したわけじゃねえ……作戦は迅速に行う。ヘマすんじゃねえぞ」
今までの任務と同じだ。ヒューゴは詳しい内容を語らない。
まだ嫌われているのか、信用されていないのか……単に誰にでもこうなのか。
作戦? チートスキル所有者を特定して、それを奪うだけの話ではないのか。そもそも五人もの願望者(ひとりは戦力外だが)で向かうなんて大げさだ。
向かった先……職人街だ。トントン、カンカン、と職人たちの作業する音が賑やか。
皮革、家具、陶器、ガラス……それぞれの工房を通り過ぎ、とある鍛冶屋でヒューゴは足を止めた。
「ここだ。おい……気ぃ抜くなよ。ただのチートスキルだけの用件じゃねえ。街の治安維持の内容も含んでる。ここ数日、おかしなヤツらがこの鍛冶屋に出入りしてるっつー噂があった。溢忌とイルネージュは裏口を固めろ。怪しいヤツが飛び出してきたら遠慮なく攻撃しろ」
治安維持……ということは、このセペノイアの街からの依頼だ。
この商業自治都市セペノイアは、どこの領地にも属していない。よって領主も存在しない。
複数の代表者……各組合の長などが開く評議会によって運営されている。カーラもその役員のひとりだ。
街の警備をする兵士もいないため、そういった依頼は評議会を通じてギルドに回ってくる。
以前は他の領土から攻め込まれたとき、カーラのギルド【ブルーデモンズ】のメンバーだけで数千の軍隊を撃退したこともあるそうだ。
狭い通路から裏口のほうへ。通路も裏口周辺も物置がわりになっていて、通るのに苦労した。大半が鉄屑だ。
「ヒューゴさんもネヴィアさんも、緊張した顔してましたね。何かそんなに危ないことがあるんでしょうか……」
ふたりで物陰に隠れながら裏口を見張る。
イルネージュの不安そうな声に、俺は大丈夫っスよ、とステータスウインドウを開く。
「鷹の目で用心深く見ておくっスから。不意討ちとか奇襲は受ける心配ないスよ」
この一帯の視覚に入る変化はどんな些細なものでも見逃さない。超高速で動こうと、姿を消す隠密でも、実体があるものが動くときは何かしらの変化──予兆がある。
数分が過ぎて、鍛冶屋の建物内から何やら騒ぐ声、争う音。
「ん、誰か出てくるっス」
裏口のドアが勢いよくバァン、と開いた。
出てきたのは──頭に布を巻いた、作業服のたくましい男。
ダダダダ、と俺の頭に文字が打ち込まれた。
《星打ち》エルンスト・ゾンネ。
鍛冶屋の主か。願望者としての特殊な鍛冶能力を持っているようだが、やはりチートスキルの有無は分からない。
エルンストは焦った感じで周りをキョロキョロと見渡し、塀を乗り越えて隣の工房へ逃げようとしている。
危険な人物ではなさそうだが、止めたほうがいいのか──。
魔物討伐や隊商の護衛など、複数の願望者が関わるものから、街の警備、小荷物の配達、街周辺の斥候など、単独で行うものまで。
ギルドの仕事というのは思ったより種類があり、けっこう地味なものが多い。
双子の指示を受けながらそつなくこなした。イルネージュも不器用ながら頑張っている。
シエラは……まあ、いつも通りだ。
ギルド内で俺たちに割り当てられた部屋。小綺麗でそれなりに広い。
男女三人まとめて同じ部屋、というのには戸惑ったが、願望者同士の宿泊ではそうめずらしくないとの事。
願望の姿なので、リアルな性別は不明だからだそうだ。
とはいっても、部屋内でシエラはあからさまに仕切りを使ってここから入るなよ、と俺に厳命。部屋の5分の4を占拠するという暴虐っぷりを発揮している。
「やっぱり溢忌さん、可哀想ですよ。あんな狭いところに押しやられて。もう少しスペースを分けてあげないと……」
「いんや、美少女ふたりと同室なだけでも贅沢と思わなきゃ。この仕切りも、もっと分厚いのに変えないとダメだ。童貞には刺激が強すぎる」
イルネージュは同情してくれるが、シエラは頑として受け付けない。俺はやれやれとベッドの上でふたりに背を向けた。
今日はギルドの仕事の予定は入ってない。
まだゆっくりと街の中を見てないので、あとで出かけようかと考えているとドアからノックの音。
シエラがどうぞ~、と声をかける。
ガチャ、とドアがわずかに開いた。狭い隙間からジー、と見つめるのは双子の女の子のほう、ネヴィアだ。
「………………」
「………………」
しばらく沈黙が続く。おお……シエラのガンつけがハンパない。まだバカにされたことを根に持っているのか。睨みすぎて白目になっている。
「……チートスキルの情報が手に入ったって。今日はそれを追うから、早く用意して。十分後に外で集合」
それだけ言うとバタンッ、とドアを閉めた。シエラがなんだアイツ~と叫ぶ。
約束通りチートスキルの情報を集めてくれていたようだ。
ギルド内の人員も限られている中でありがたい事だ。
準備を済ませ、三人で建物の外へ。
外ではヒューゴとネヴィアがムスッとした顔で待っていた。
「ついて来い」
ヒューゴが先頭に立ち、街の中を歩く。
歩きながら簡単に説明をはじめた。
「チートスキルを持っている疑いのあるヤツは、この街の住人だ。まだ確定したわけじゃねえ……作戦は迅速に行う。ヘマすんじゃねえぞ」
今までの任務と同じだ。ヒューゴは詳しい内容を語らない。
まだ嫌われているのか、信用されていないのか……単に誰にでもこうなのか。
作戦? チートスキル所有者を特定して、それを奪うだけの話ではないのか。そもそも五人もの願望者(ひとりは戦力外だが)で向かうなんて大げさだ。
向かった先……職人街だ。トントン、カンカン、と職人たちの作業する音が賑やか。
皮革、家具、陶器、ガラス……それぞれの工房を通り過ぎ、とある鍛冶屋でヒューゴは足を止めた。
「ここだ。おい……気ぃ抜くなよ。ただのチートスキルだけの用件じゃねえ。街の治安維持の内容も含んでる。ここ数日、おかしなヤツらがこの鍛冶屋に出入りしてるっつー噂があった。溢忌とイルネージュは裏口を固めろ。怪しいヤツが飛び出してきたら遠慮なく攻撃しろ」
治安維持……ということは、このセペノイアの街からの依頼だ。
この商業自治都市セペノイアは、どこの領地にも属していない。よって領主も存在しない。
複数の代表者……各組合の長などが開く評議会によって運営されている。カーラもその役員のひとりだ。
街の警備をする兵士もいないため、そういった依頼は評議会を通じてギルドに回ってくる。
以前は他の領土から攻め込まれたとき、カーラのギルド【ブルーデモンズ】のメンバーだけで数千の軍隊を撃退したこともあるそうだ。
狭い通路から裏口のほうへ。通路も裏口周辺も物置がわりになっていて、通るのに苦労した。大半が鉄屑だ。
「ヒューゴさんもネヴィアさんも、緊張した顔してましたね。何かそんなに危ないことがあるんでしょうか……」
ふたりで物陰に隠れながら裏口を見張る。
イルネージュの不安そうな声に、俺は大丈夫っスよ、とステータスウインドウを開く。
「鷹の目で用心深く見ておくっスから。不意討ちとか奇襲は受ける心配ないスよ」
この一帯の視覚に入る変化はどんな些細なものでも見逃さない。超高速で動こうと、姿を消す隠密でも、実体があるものが動くときは何かしらの変化──予兆がある。
数分が過ぎて、鍛冶屋の建物内から何やら騒ぐ声、争う音。
「ん、誰か出てくるっス」
裏口のドアが勢いよくバァン、と開いた。
出てきたのは──頭に布を巻いた、作業服のたくましい男。
ダダダダ、と俺の頭に文字が打ち込まれた。
《星打ち》エルンスト・ゾンネ。
鍛冶屋の主か。願望者としての特殊な鍛冶能力を持っているようだが、やはりチートスキルの有無は分からない。
エルンストは焦った感じで周りをキョロキョロと見渡し、塀を乗り越えて隣の工房へ逃げようとしている。
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