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26 双子の願望者
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ソファーに腰かけ、カーラが用意したミルクティーを口にする。ほのかに柑橘系の香り。口の中に広がるまろやかな甘味。
「うわあ、美味しい……。こんなの飲んだのはじめて」
イルネージュがうっとりとした感想を洩らす。
俺も同じだ。身体中に染み渡る、ホッとする心地よさ。
シエラはちょっと甘過ぎる、と文句を言っている。機嫌を損ねたらダメと言ってたくせに。
カーラは自分の席に座り、ティーカップ片手に微笑んだ。
「さて、本題に入りましょう。すでにこのギルド【ブルーデモンズ】内の願望者で新たな能力……つまりチートスキルを得た者は調べてあるわ。全員で五名」
「おお、さすがカーラ。話が早い。しかも五人もいるなんて……」
シエラが感心したように言う。
カーラは紅茶を一口飲んでから頷く。
「ええ。そしてその内ふたりはもうここへ来るよう、呼んでいるの」
なんという手際の良さ。どこぞの《女神》とは大違い……おっと、悪口に関しては思っただけでも気づくんだっけな。
シエラがジロリと横目で見たが知らんぷりする。同時にノックの音。
カーラがドアに向かって声をかけ、中に入ってきたのは──少年と少女。
ふたりともアニメにでてきそうなピンク色の髪。そして顔がそっくり……双子か? 年は小学五、六年生ぐらいだろうか。男の子のほうは黒地に白いラインが入った制服ふうの格好。左腕に青い腕章。
女の子は赤ずきんのような格好で、赤いリボンの付いたショルダーバッグを斜めにかけている。こちらも左腕に青い腕章。
俺の頭の中にダダダダ、とふたりの名が打ち込まれた。
《バーニングサン》ヒューゴ・ミルズ。
《ファントムムーン》ネヴィア・ミルズ。
「お互い刻印があったでしょうから、自己紹介は不要よね。さて、このふたりの能力はね──」
「先生、俺はこの能力を譲る気はないですよ。そいつが勇者だろうが、なんだろうが」
男の子のほう、ヒューゴが口を挟む。女の子のほう、ネヴィアも視線を泳がせながらわたしも……と呟いた。
「あら、どうしてかしら?」
カーラはそれこそ優しい先生のように質問する。ヒューゴは俺のほうをにらみながら言った。
「この能力って、魔王を倒す時の切り札ですよね。だったら、俺が魔王をブッ倒してもいいってことじゃないですか。こんな願望者になって間もないヤツにくれてやるなんて、もったいないですよ」
このセリフにシエラがププ~ッ、と吹き出した。
「何を言っちゃってるんだか、このお子ちゃまは。魔王はね、勇者にしか倒せないんだよ。なんにも知らないくせに……」
「……お前、知ってっぞ。《女神》なのになんも出来ない駄女神だろ。お前こそ引っ込んでろよ。戦いに役に立たないヤツはいらねーんだよ」
おお……このヒューゴという少年、見た目のわりにキッツい事を言うタイプなのか。
ネヴィアのほうは口を押さえてプププ、と笑っている。これは血の雨が降るぞ……!
おや、シエラの反応──冷静だ。いつもなら怒り狂って暴れるはずだが。
すました顔でツーンとしている。隣に座っているイルネージュも驚いている。
「ヒューゴ、口を慎みなさい。彼女がいなければ勇者は存在せず、前回の世界の危機を救うことも出来なかったのよ」
カーラがヒューゴをたしなめる。そして、改めて俺にその紅い瞳を向けた。
「ごめんなさいね。この子達、才能はずば抜けているんだけど性格がね……。でも、どちらにしろ戦わないとチートスキルは手に入らないのだから丁度いいわ。ひとつ、この子達に胸を貸してもらえないかしら。上には上がいる事を知るにもいい機会だし」
「うむ、それは構わんよ。こちらこそ願ってもない事だ。さあ、溢忌君。用意したまえ」
俺が返事するより早くシエラが承諾した。なんだ、戦うのか? しかし、あんな子供相手に……。
「マジでやってもいいんですか、先生。そいつ、死んじゃいますよ」
ヒューゴがニヤニヤ笑いながら聞くと、カーラはもちろん、と答えてさらに付け加えた。
「先に地下の修練場で待っててなさい。それと、戦うときは必ずはじめからふたりがかりで戦うこと」
これを聞いてヒューゴの表情が変わる。俺を睨みながら舌打ちし、ネヴィアとともに部屋を出ていった。
ふたりが出ていった後。鬼の形相でシエラが俺の首をギリギリと締める。
「あんのガキ~ッ、なんて生意気……この《女神》に向かってなんちゅう無礼な。シエラはオネーサンだから怒らないでいたのに……ムギギ、許さん!」
「く、苦しいっスよ。八つ当たりはヤメてくださいっス」
俺は早々に降参したが、シエラの怒りは収まらない。次はイルネージュの胸を乱暴に揉みだした。
「いたたっ、ゴ、ゴメンなさい~っ」
何故か謝るイルネージュ。その様子をクスクス笑いながら見ていたカーラも部屋の出口へ。
「わたしも先に地下で待っておくわ。準備が出来たら降りてきて」
部屋には三人だけになる。
シエラは俺の胸ぐらをグイイッ、と掴み、血走った目をしながら言った。
「おい、カーラの仲間だろうが弟子だろうが構わん。もれなく半殺し以上にして差し上げろ」
やれやれ……でもまあ、たしかにイキリキッズな感じではあった。ちょっと痛い目にあわせるのには賛成だ。
「うわあ、美味しい……。こんなの飲んだのはじめて」
イルネージュがうっとりとした感想を洩らす。
俺も同じだ。身体中に染み渡る、ホッとする心地よさ。
シエラはちょっと甘過ぎる、と文句を言っている。機嫌を損ねたらダメと言ってたくせに。
カーラは自分の席に座り、ティーカップ片手に微笑んだ。
「さて、本題に入りましょう。すでにこのギルド【ブルーデモンズ】内の願望者で新たな能力……つまりチートスキルを得た者は調べてあるわ。全員で五名」
「おお、さすがカーラ。話が早い。しかも五人もいるなんて……」
シエラが感心したように言う。
カーラは紅茶を一口飲んでから頷く。
「ええ。そしてその内ふたりはもうここへ来るよう、呼んでいるの」
なんという手際の良さ。どこぞの《女神》とは大違い……おっと、悪口に関しては思っただけでも気づくんだっけな。
シエラがジロリと横目で見たが知らんぷりする。同時にノックの音。
カーラがドアに向かって声をかけ、中に入ってきたのは──少年と少女。
ふたりともアニメにでてきそうなピンク色の髪。そして顔がそっくり……双子か? 年は小学五、六年生ぐらいだろうか。男の子のほうは黒地に白いラインが入った制服ふうの格好。左腕に青い腕章。
女の子は赤ずきんのような格好で、赤いリボンの付いたショルダーバッグを斜めにかけている。こちらも左腕に青い腕章。
俺の頭の中にダダダダ、とふたりの名が打ち込まれた。
《バーニングサン》ヒューゴ・ミルズ。
《ファントムムーン》ネヴィア・ミルズ。
「お互い刻印があったでしょうから、自己紹介は不要よね。さて、このふたりの能力はね──」
「先生、俺はこの能力を譲る気はないですよ。そいつが勇者だろうが、なんだろうが」
男の子のほう、ヒューゴが口を挟む。女の子のほう、ネヴィアも視線を泳がせながらわたしも……と呟いた。
「あら、どうしてかしら?」
カーラはそれこそ優しい先生のように質問する。ヒューゴは俺のほうをにらみながら言った。
「この能力って、魔王を倒す時の切り札ですよね。だったら、俺が魔王をブッ倒してもいいってことじゃないですか。こんな願望者になって間もないヤツにくれてやるなんて、もったいないですよ」
このセリフにシエラがププ~ッ、と吹き出した。
「何を言っちゃってるんだか、このお子ちゃまは。魔王はね、勇者にしか倒せないんだよ。なんにも知らないくせに……」
「……お前、知ってっぞ。《女神》なのになんも出来ない駄女神だろ。お前こそ引っ込んでろよ。戦いに役に立たないヤツはいらねーんだよ」
おお……このヒューゴという少年、見た目のわりにキッツい事を言うタイプなのか。
ネヴィアのほうは口を押さえてプププ、と笑っている。これは血の雨が降るぞ……!
おや、シエラの反応──冷静だ。いつもなら怒り狂って暴れるはずだが。
すました顔でツーンとしている。隣に座っているイルネージュも驚いている。
「ヒューゴ、口を慎みなさい。彼女がいなければ勇者は存在せず、前回の世界の危機を救うことも出来なかったのよ」
カーラがヒューゴをたしなめる。そして、改めて俺にその紅い瞳を向けた。
「ごめんなさいね。この子達、才能はずば抜けているんだけど性格がね……。でも、どちらにしろ戦わないとチートスキルは手に入らないのだから丁度いいわ。ひとつ、この子達に胸を貸してもらえないかしら。上には上がいる事を知るにもいい機会だし」
「うむ、それは構わんよ。こちらこそ願ってもない事だ。さあ、溢忌君。用意したまえ」
俺が返事するより早くシエラが承諾した。なんだ、戦うのか? しかし、あんな子供相手に……。
「マジでやってもいいんですか、先生。そいつ、死んじゃいますよ」
ヒューゴがニヤニヤ笑いながら聞くと、カーラはもちろん、と答えてさらに付け加えた。
「先に地下の修練場で待っててなさい。それと、戦うときは必ずはじめからふたりがかりで戦うこと」
これを聞いてヒューゴの表情が変わる。俺を睨みながら舌打ちし、ネヴィアとともに部屋を出ていった。
ふたりが出ていった後。鬼の形相でシエラが俺の首をギリギリと締める。
「あんのガキ~ッ、なんて生意気……この《女神》に向かってなんちゅう無礼な。シエラはオネーサンだから怒らないでいたのに……ムギギ、許さん!」
「く、苦しいっスよ。八つ当たりはヤメてくださいっス」
俺は早々に降参したが、シエラの怒りは収まらない。次はイルネージュの胸を乱暴に揉みだした。
「いたたっ、ゴ、ゴメンなさい~っ」
何故か謝るイルネージュ。その様子をクスクス笑いながら見ていたカーラも部屋の出口へ。
「わたしも先に地下で待っておくわ。準備が出来たら降りてきて」
部屋には三人だけになる。
シエラは俺の胸ぐらをグイイッ、と掴み、血走った目をしながら言った。
「おい、カーラの仲間だろうが弟子だろうが構わん。もれなく半殺し以上にして差し上げろ」
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