異世界の餓狼系男子

みくもっち

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16 はじめての超級

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 ボッ、とフェンリルが動いた。
 まず風圧──そして衝撃。
 気づいたときは村の外まで吹っ飛ばされていた。

 舌打ちし、すぐに立ち上がる。
 フェンリルの足元では千景がイルネージュをかばうように二刀を振り回していた。

 すぐに駆けつけ、跳躍。
 首を狙って剣を振る。入る──と思ったが、前足ではたき落とされ、地面に激突した。
  
「バラバラに攻撃してもムダじゃ。わしに合わせい」

 二刀を振りかざした千景。全身がバリバリと音を立て、発光する。 
 
「おとなしくせいっ!」

 二刀でフェンリルの足にバツの字に斬りつける。俺は両手を向け、炎弾を連続で放った。
 
 足を攻撃され、よろめいたところに多連装ロケット砲ばりの炎弾。
 フェンリルの顔面にドドド、ドンドンドン、と炸裂した。

「まだじゃっ、ふたりを運べっ」

 千景の指示。煙幕が張られたスキに、俺は両脇にシエラとイルネージュを抱えて走った。
 
 まだ壊れてない家屋の陰にふたりを降ろす。ふたりともケガはないようだ。イルネージュは願望の力を使い過ぎたのか、気を失っているが。 
 
「やべーよ、超級だよ。あんなん出てくるなんて、世界も末期状態だよ。街や村なんかすぐに消し飛ぶよ」

 シエラは青くなって、ガタガタ震えている。

「そんなヤバい相手なんスか。勇者の俺でも勝てないんスか」

「不完全なお前じゃ、まだ危険だ。願望者デザイアが何十人束になっても勝てない相手なんだぞ。超越者リミットブレイカーの千景でもかなりキビシイはずだ」

 千景──脇差しを投げ、走る。
 フェンリルの胸辺りに脇差しが突き刺さる。

 跳躍。爪をかわしながら刺さった脇差しの柄を握り、そこからビイイイッ、と斬り下げる。
 血が噴き出し、フェンリルの咆哮。
 
 周囲の空気が震える。
 千景は吹き飛ばされ、俺が身を隠している家屋がガタガタと揺れた。

 ガアアッ、と千景めがけ、フェンリルの牙が迫る。
 
「まずいっ!」

 とっさに炎弾を放つ。が、間に合わない。千景の身体は牙に引き裂かれ、宙を舞う。

「ああっ、千景ぇ……」

 もうダメだ、とシエラが膝をつく。ドサドサッ、と無残な肉塊と化した千景が目の前に転がる。

「おおうっ、これはR18指定か……」

 シエラが手で顔を覆う。
 だが、もはや原形をとどめていない千景の身体がシュルルルとビデオの逆再生のように元通りに。 

「ああっ、チートスキル、超再生だっ!」

 シエラが叫び、再生した千景が太刀と脇差しを拾いあげる。

「この不思議な力、合点がいったわ。やはりお主のチートスキルか」

「まあ、ちょっと手違いで……でも、千景に渡ってるなんて思わなかった」

「よい、今は好都合じゃ。わしが突っ込む。勇者よ、援護を頼むぞ」
 
 フェンリルに真正面から向かっていく。
 右腕を顔の前で振ると、ガシャンッ、と鬼の面付きの兜が装着された。

 ガカアッ、と突然の雷。千景にモロに落ちたが、千景の身体がバリバリバリと稲妻をまとい、発光。

 俺も走る。炎弾を放ちながら接近。
 ダメージは期待できないが、やはり獣。炎を嫌がっているように見える。
 ガアアアッ、とこちらに飛びかかってきた。

 ステータスウインドウを開き、俺は剣を振り上げた。
 地面から隆起した土柱。ゴンゴンゴン、と何本もフェンリルを下から突き上げる。

 ギアアアッ、と暴れながら土柱を破壊。だが──動きは止めた。
 
 フェンリルの頭上には鬼兜の千景。
 太刀と脇差しの柄をガシン、とくっつけて一本の武器に。それは形状を変え、両端に刃を持つ薙刀になった。

 ギュラララッ、と薙刀を回転させながら落下。首に打ち込む。
 ブ厚い首に半分ほど刃がめり込んだ。
 ギャアアッ、と絶叫するフェンリル。だが倒れない。

 着地した千景が薙刀を左前足に。俺は炎属性を属性付与エンチャントした剣を右前足に打ち込んだ。

 たまらず倒れるフェンリル。その左目に俺は剣を突き立て、千景は跳躍から脳天めがけ薙刀を振り下ろす。  
 ズガアアンッッ、と落雷を伴う一撃。フェンリルの頭部を両断した。

「うおーっ! 久しぶりに見た! 鬼フォームからのゲル○グ斬り! カッチョいい~!」

 シエラが興奮して叫ぶ。
 兜を脱いだ美しき鬼姫、千景は苦笑する。

「その技名、やめい。前にカーラに散々イジられたのじゃ」

 なんとか超級魔物フェンリルを倒すことが出来た……。
 村はメチャクチャだが、奇跡的に死傷者はいない。はるか格上相手に善戦したイルネージュのおかげだ。

「さて、戦いが済んだばかりで申し訳ないが、勇者よ」

 村人が片付けや負傷者の手当てに奔走している中、千景が話しかけてきた。

「見ての通り、この世界にはあまり時間がないようじゃ。急ぎ散らばったチートスキルを集め、魔王を倒さねばならん。つまりお主はわしも倒さねばならんということよ」

「ええっ、マジスか。ていうか、事情に詳しいっスね。もしかしたら前回も……」
 
 シエラのほうを見ると、駄女神はあらぬ方向を向いてヘッタクソな口笛を吹いている。ああ、間違いない。

「そうじゃ。前回も手違いでチートスキルをばら蒔きおった。とりあえず、夜が明けてから立ち合うとしよう」
 
 なんてことだ。あんな化け物をやっと倒したと思ったら、今度は鬼のように強い……いや、鬼そのものの願望者デザイアと戦わなければならないなんて。
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