5 / 77
5 はじめての戦い
しおりを挟む
川面に映った自分の顔を撫でてみる。
サラサラの黒髪。少し細いが涼しげで凛々しい目。顔も以前は丸みを帯びていたのだが、キリッと引き締まっている。
超絶、とまではいかないが、なかなかのイケメンだ。
「おい~、溢忌。まだかい~。レクチャーはまだ終わってないぞう」
シエラが急かす。川の水でバシャバシャと顔を洗ってから少女の元へ。
「うむ、それでは改めて確認だ。我々は魔王を倒さなくてはならない」
「まあ……お約束っスよね」
「うむ、溢忌はすでにシエラの祝福によってバカ強くなっている。フツーの願望者にはない特別なスキルもはじめからバカみたいに持っている」
「まあ……それもよくある展開っスね」
ここでシエラはモゴモゴと急に小声になる。
「……ほんとは……なんだけど……なんだよね」
「え? えっ? 聞こえないっスね。なんて言ったんスか」
シエラは覚悟を決めたような顔で言った。
「だからっ! ほんとは、もっとスゴいチートスキルってのがあったの。それを全部アンタにぶち込む予定だったんだけどさあ~、ちょいとミスっちゃって……」
「はあ。無くなったとか?」
「……違うの。手違いでバラまいちゃったの。この世界中の願望者に。全部で108個ね。これを回収しないと魔王には勝てないわ」
うつむき、もじもじしながら足で地面に丸を描いている。いや、別にそんなしおらしくしなくても。
「わかったっスよ。そのチートスキルを取り戻せばいいんスよね。やりましょう。長い旅になりそうっスね」
励ますように言うと、シエラは喜んで正拳突きを繰り出す。
「おっ、おっ。分かってるね、話が早いね~。そうなの。まあ、借り物のスキルだからぶっ倒せば自動的にスキルはアンタのものになんの。そういうことだから。あ、あと仲間になりそうなヤツも見つけること」
「ちょ、痛いっスよ。殴らないで。ああ、その願望者って、殺してもいいんスか?」
この質問に、シエラは口をあんぐりと開け──しばらくして今度はローキックを繰り出した。ッシャア、ッシャアッ、と。
「アホ! アンタは曲がりなりにも《女神》の勇者なんだよっ! 評判は大事なの! 魔物倒したり、ライバルを倒したり……名声を得て、多くの人から認識してもらうんだ。それが更なる強さに繋がるって、さっき言ったよね。シエラ、言ったよね!」
「あたた、分かったっスよ。痛い、痛いっス」
なんて凶暴な《女神》なんだ……。
まあ、ここはおとなしく言うことを聞いておこう。
そのチートスキルを全て手に入れ、魔王とやらを倒せば……もはや怖いものはない。この駄女神にも用はない。
そこまでは、この不慣れな世界のガイド役として働いてもらおう。
「ようし。そんじゃあ、次は実戦だ。ほら、都合よく来たよ魔物が」
シエラが指さす先に、小型の人? らしきものが五体見えた。
放牧されている牛を狙っているようだ。囲むようにしてジリジリと近づいている。
「あれ……魔物っスかねえ。ちょっと小さなおっさんとかじゃないっスか?」
「バカ、お前バカ。あんな赤黒くて口が裂けて牙の生えたおっさんいるか。あれはゴブリン。ほれ、試しにアレ相手に戦ってみ? 楽勝だから。素手で簡単に倒せるから」
「はあ……分かったっス」
俺はおもむろに空中に指を這わせる。ピピッ、ピッ、と光る窓のようなものが出現──ステータスウインドウだ。
スクロールしてざっと能力を確認。たしかにスキルの数は多い……ひとつひとつ確認している暇はない。
「お、これを使ってみるっスか」
ステータスウインドウを閉じ、右手を前に。
五本の指にボボボボ、と炎が灯る。左手は肩を押さえつつ、ハッ、と声を発した。
ドドドンッ、と指先から炎弾が放たれる。
それは見事ゴブリンどもに命中。勢い余ってボガアアン、と周りの地形をかえてしまったが。
「おっ、やったっス! 成功っス!」
「やったっス、じゃねーよっ! やりすぎだよ! ゴブリン相手に! 見てみ、砲撃じゃん、アレ。牛も木っ端みじんじゃん!」
そういえば……でも、加減なんてわからない。そんなに怒らなくてもいいのに。
「あのね、一般ピーポーを魔物から守ったりもするんだよ、勇者だからね。あんなん街や村でブッ放したらマジ許さんかんね。シエラ、マジキレるからね」
「はあ……なんだか面倒っスね。まあ、気をつけますよ」
その後、《女神》シエラの小言を聞きながら近くの村へ立ち寄ることにした。
拠点となる村、街で願望者の情報を集め、チートスキルを持っていそうなヤツを特定。
そいつを追い詰めて倒す。チートスキルを取り戻す。それが当面の目的になりそうだ。
「シエラって、そのチートスキルを持っている願望者がどこにいるとか分からないんスか? そんなやり方じゃ、すごい時間かかりそうっスね」
「ふ……分かるかもしれないし、分からないかもしれない……。勇者よ、これは試練なのだ。楽をしてはならない。《女神》にそんな事を期待してはならないのだ」
ああ、これは分からないという事なんだな。前途多難だが、ここは地道にやるしかなそうだ。
サラサラの黒髪。少し細いが涼しげで凛々しい目。顔も以前は丸みを帯びていたのだが、キリッと引き締まっている。
超絶、とまではいかないが、なかなかのイケメンだ。
「おい~、溢忌。まだかい~。レクチャーはまだ終わってないぞう」
シエラが急かす。川の水でバシャバシャと顔を洗ってから少女の元へ。
「うむ、それでは改めて確認だ。我々は魔王を倒さなくてはならない」
「まあ……お約束っスよね」
「うむ、溢忌はすでにシエラの祝福によってバカ強くなっている。フツーの願望者にはない特別なスキルもはじめからバカみたいに持っている」
「まあ……それもよくある展開っスね」
ここでシエラはモゴモゴと急に小声になる。
「……ほんとは……なんだけど……なんだよね」
「え? えっ? 聞こえないっスね。なんて言ったんスか」
シエラは覚悟を決めたような顔で言った。
「だからっ! ほんとは、もっとスゴいチートスキルってのがあったの。それを全部アンタにぶち込む予定だったんだけどさあ~、ちょいとミスっちゃって……」
「はあ。無くなったとか?」
「……違うの。手違いでバラまいちゃったの。この世界中の願望者に。全部で108個ね。これを回収しないと魔王には勝てないわ」
うつむき、もじもじしながら足で地面に丸を描いている。いや、別にそんなしおらしくしなくても。
「わかったっスよ。そのチートスキルを取り戻せばいいんスよね。やりましょう。長い旅になりそうっスね」
励ますように言うと、シエラは喜んで正拳突きを繰り出す。
「おっ、おっ。分かってるね、話が早いね~。そうなの。まあ、借り物のスキルだからぶっ倒せば自動的にスキルはアンタのものになんの。そういうことだから。あ、あと仲間になりそうなヤツも見つけること」
「ちょ、痛いっスよ。殴らないで。ああ、その願望者って、殺してもいいんスか?」
この質問に、シエラは口をあんぐりと開け──しばらくして今度はローキックを繰り出した。ッシャア、ッシャアッ、と。
「アホ! アンタは曲がりなりにも《女神》の勇者なんだよっ! 評判は大事なの! 魔物倒したり、ライバルを倒したり……名声を得て、多くの人から認識してもらうんだ。それが更なる強さに繋がるって、さっき言ったよね。シエラ、言ったよね!」
「あたた、分かったっスよ。痛い、痛いっス」
なんて凶暴な《女神》なんだ……。
まあ、ここはおとなしく言うことを聞いておこう。
そのチートスキルを全て手に入れ、魔王とやらを倒せば……もはや怖いものはない。この駄女神にも用はない。
そこまでは、この不慣れな世界のガイド役として働いてもらおう。
「ようし。そんじゃあ、次は実戦だ。ほら、都合よく来たよ魔物が」
シエラが指さす先に、小型の人? らしきものが五体見えた。
放牧されている牛を狙っているようだ。囲むようにしてジリジリと近づいている。
「あれ……魔物っスかねえ。ちょっと小さなおっさんとかじゃないっスか?」
「バカ、お前バカ。あんな赤黒くて口が裂けて牙の生えたおっさんいるか。あれはゴブリン。ほれ、試しにアレ相手に戦ってみ? 楽勝だから。素手で簡単に倒せるから」
「はあ……分かったっス」
俺はおもむろに空中に指を這わせる。ピピッ、ピッ、と光る窓のようなものが出現──ステータスウインドウだ。
スクロールしてざっと能力を確認。たしかにスキルの数は多い……ひとつひとつ確認している暇はない。
「お、これを使ってみるっスか」
ステータスウインドウを閉じ、右手を前に。
五本の指にボボボボ、と炎が灯る。左手は肩を押さえつつ、ハッ、と声を発した。
ドドドンッ、と指先から炎弾が放たれる。
それは見事ゴブリンどもに命中。勢い余ってボガアアン、と周りの地形をかえてしまったが。
「おっ、やったっス! 成功っス!」
「やったっス、じゃねーよっ! やりすぎだよ! ゴブリン相手に! 見てみ、砲撃じゃん、アレ。牛も木っ端みじんじゃん!」
そういえば……でも、加減なんてわからない。そんなに怒らなくてもいいのに。
「あのね、一般ピーポーを魔物から守ったりもするんだよ、勇者だからね。あんなん街や村でブッ放したらマジ許さんかんね。シエラ、マジキレるからね」
「はあ……なんだか面倒っスね。まあ、気をつけますよ」
その後、《女神》シエラの小言を聞きながら近くの村へ立ち寄ることにした。
拠点となる村、街で願望者の情報を集め、チートスキルを持っていそうなヤツを特定。
そいつを追い詰めて倒す。チートスキルを取り戻す。それが当面の目的になりそうだ。
「シエラって、そのチートスキルを持っている願望者がどこにいるとか分からないんスか? そんなやり方じゃ、すごい時間かかりそうっスね」
「ふ……分かるかもしれないし、分からないかもしれない……。勇者よ、これは試練なのだ。楽をしてはならない。《女神》にそんな事を期待してはならないのだ」
ああ、これは分からないという事なんだな。前途多難だが、ここは地道にやるしかなそうだ。
0
お気に入りに追加
48
あなたにおすすめの小説
異世界の剣聖女子
みくもっち
ファンタジー
(時代劇マニアということを除き)ごく普通の女子高生、羽鳴由佳は登校中、異世界に飛ばされる。
その世界に飛ばされた人間【願望者】は、現実世界での願望どうりの姿や能力を発揮させることができた。
ただし万能というわけではない。
心の奥で『こんなことあるわけない』という想いの力も同時に働くために、無限や無敵、不死身といったスキルは発動できない。
また、力を使いこなすにはその世界の住人に広く【認識】される必要がある。
異世界で他の【願望者】や魔物との戦いに巻き込まれながら由佳は剣をふるう。
時代劇の見よう見まね技と認識の力を駆使して。
バトル多め。ギャグあり、シリアスあり、パロディーもりだくさん。
テンポの早い、非テンプレ異世界ファンタジー!
*素敵な表紙イラストは、朱シオさんからです。@akasiosio
1×∞(ワンバイエイト) 経験値1でレベルアップする俺は、最速で異世界最強になりました!
マツヤマユタカ
ファンタジー
23年5月22日にアルファポリス様より、拙著が出版されました!そのため改題しました。
今後ともよろしくお願いいたします!
トラックに轢かれ、気づくと異世界の自然豊かな場所に一人いた少年、カズマ・ナカミチ。彼は事情がわからないまま、仕方なくそこでサバイバル生活を開始する。だが、未経験だった釣りや狩りは妙に上手くいった。その秘密は、レベル上げに必要な経験値にあった。実はカズマは、あらゆるスキルが経験値1でレベルアップするのだ。おかげで、何をやっても簡単にこなせて――。異世界爆速成長系ファンタジー、堂々開幕!
タイトルの『1×∞』は『ワンバイエイト』と読みます。
男性向けHOTランキング1位!ファンタジー1位を獲得しました!【22/7/22】
そして『第15回ファンタジー小説大賞』において、奨励賞を受賞いたしました!【22/10/31】
アルファポリス様より出版されました!現在第四巻まで発売中です!
コミカライズされました!公式漫画タブから見られます!【24/8/28】
*****************************
***毎日更新しています。よろしくお願いいたします。***
*****************************
マツヤマユタカ名義でTwitterやってます。
見てください。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
おっさんの異世界建国記
なつめ猫
ファンタジー
中年冒険者エイジは、10年間異世界で暮らしていたが、仲間に裏切られ怪我をしてしまい膝の故障により、パーティを追放されてしまう。さらに冒険者ギルドから任された辺境開拓も依頼内容とは違っていたのであった。現地で、何気なく保護した獣人の美少女と幼女から頼られたエイジは、村を作り発展させていく。

アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~
明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!!
『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。
無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。
破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。
「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」
【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?

「破滅フラグ確定の悪役貴族、転生スキルで「睡眠無双」した結果、国の英雄になりました」
ソコニ
ファンタジー
過労死したIT企業のシステムエンジニア・佐藤一郎(27歳)が目を覚ますと、ファルミア王国の悪名高い貴族エドガー・フォン・リヒターに転生していた。前の持ち主は王女を侮辱し、平民を虐げる最悪の人物。すでに破滅フラグが立ちまくり、国王の謁見を明日に控えていた。
絶望する一郎だが、彼には「いつでもどこでも眠れる」という特殊なスキルが備わっていた。緊張するとスイッチが入り、彼は立ったまま眠りに落ちる。目覚めると周囲の状況が思わぬ方向へ好転しているのだ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる