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5 はじめての戦い
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川面に映った自分の顔を撫でてみる。
サラサラの黒髪。少し細いが涼しげで凛々しい目。顔も以前は丸みを帯びていたのだが、キリッと引き締まっている。
超絶、とまではいかないが、なかなかのイケメンだ。
「おい~、溢忌。まだかい~。レクチャーはまだ終わってないぞう」
シエラが急かす。川の水でバシャバシャと顔を洗ってから少女の元へ。
「うむ、それでは改めて確認だ。我々は魔王を倒さなくてはならない」
「まあ……お約束っスよね」
「うむ、溢忌はすでにシエラの祝福によってバカ強くなっている。フツーの願望者にはない特別なスキルもはじめからバカみたいに持っている」
「まあ……それもよくある展開っスね」
ここでシエラはモゴモゴと急に小声になる。
「……ほんとは……なんだけど……なんだよね」
「え? えっ? 聞こえないっスね。なんて言ったんスか」
シエラは覚悟を決めたような顔で言った。
「だからっ! ほんとは、もっとスゴいチートスキルってのがあったの。それを全部アンタにぶち込む予定だったんだけどさあ~、ちょいとミスっちゃって……」
「はあ。無くなったとか?」
「……違うの。手違いでバラまいちゃったの。この世界中の願望者に。全部で108個ね。これを回収しないと魔王には勝てないわ」
うつむき、もじもじしながら足で地面に丸を描いている。いや、別にそんなしおらしくしなくても。
「わかったっスよ。そのチートスキルを取り戻せばいいんスよね。やりましょう。長い旅になりそうっスね」
励ますように言うと、シエラは喜んで正拳突きを繰り出す。
「おっ、おっ。分かってるね、話が早いね~。そうなの。まあ、借り物のスキルだからぶっ倒せば自動的にスキルはアンタのものになんの。そういうことだから。あ、あと仲間になりそうなヤツも見つけること」
「ちょ、痛いっスよ。殴らないで。ああ、その願望者って、殺してもいいんスか?」
この質問に、シエラは口をあんぐりと開け──しばらくして今度はローキックを繰り出した。ッシャア、ッシャアッ、と。
「アホ! アンタは曲がりなりにも《女神》の勇者なんだよっ! 評判は大事なの! 魔物倒したり、ライバルを倒したり……名声を得て、多くの人から認識してもらうんだ。それが更なる強さに繋がるって、さっき言ったよね。シエラ、言ったよね!」
「あたた、分かったっスよ。痛い、痛いっス」
なんて凶暴な《女神》なんだ……。
まあ、ここはおとなしく言うことを聞いておこう。
そのチートスキルを全て手に入れ、魔王とやらを倒せば……もはや怖いものはない。この駄女神にも用はない。
そこまでは、この不慣れな世界のガイド役として働いてもらおう。
「ようし。そんじゃあ、次は実戦だ。ほら、都合よく来たよ魔物が」
シエラが指さす先に、小型の人? らしきものが五体見えた。
放牧されている牛を狙っているようだ。囲むようにしてジリジリと近づいている。
「あれ……魔物っスかねえ。ちょっと小さなおっさんとかじゃないっスか?」
「バカ、お前バカ。あんな赤黒くて口が裂けて牙の生えたおっさんいるか。あれはゴブリン。ほれ、試しにアレ相手に戦ってみ? 楽勝だから。素手で簡単に倒せるから」
「はあ……分かったっス」
俺はおもむろに空中に指を這わせる。ピピッ、ピッ、と光る窓のようなものが出現──ステータスウインドウだ。
スクロールしてざっと能力を確認。たしかにスキルの数は多い……ひとつひとつ確認している暇はない。
「お、これを使ってみるっスか」
ステータスウインドウを閉じ、右手を前に。
五本の指にボボボボ、と炎が灯る。左手は肩を押さえつつ、ハッ、と声を発した。
ドドドンッ、と指先から炎弾が放たれる。
それは見事ゴブリンどもに命中。勢い余ってボガアアン、と周りの地形をかえてしまったが。
「おっ、やったっス! 成功っス!」
「やったっス、じゃねーよっ! やりすぎだよ! ゴブリン相手に! 見てみ、砲撃じゃん、アレ。牛も木っ端みじんじゃん!」
そういえば……でも、加減なんてわからない。そんなに怒らなくてもいいのに。
「あのね、一般ピーポーを魔物から守ったりもするんだよ、勇者だからね。あんなん街や村でブッ放したらマジ許さんかんね。シエラ、マジキレるからね」
「はあ……なんだか面倒っスね。まあ、気をつけますよ」
その後、《女神》シエラの小言を聞きながら近くの村へ立ち寄ることにした。
拠点となる村、街で願望者の情報を集め、チートスキルを持っていそうなヤツを特定。
そいつを追い詰めて倒す。チートスキルを取り戻す。それが当面の目的になりそうだ。
「シエラって、そのチートスキルを持っている願望者がどこにいるとか分からないんスか? そんなやり方じゃ、すごい時間かかりそうっスね」
「ふ……分かるかもしれないし、分からないかもしれない……。勇者よ、これは試練なのだ。楽をしてはならない。《女神》にそんな事を期待してはならないのだ」
ああ、これは分からないという事なんだな。前途多難だが、ここは地道にやるしかなそうだ。
サラサラの黒髪。少し細いが涼しげで凛々しい目。顔も以前は丸みを帯びていたのだが、キリッと引き締まっている。
超絶、とまではいかないが、なかなかのイケメンだ。
「おい~、溢忌。まだかい~。レクチャーはまだ終わってないぞう」
シエラが急かす。川の水でバシャバシャと顔を洗ってから少女の元へ。
「うむ、それでは改めて確認だ。我々は魔王を倒さなくてはならない」
「まあ……お約束っスよね」
「うむ、溢忌はすでにシエラの祝福によってバカ強くなっている。フツーの願望者にはない特別なスキルもはじめからバカみたいに持っている」
「まあ……それもよくある展開っスね」
ここでシエラはモゴモゴと急に小声になる。
「……ほんとは……なんだけど……なんだよね」
「え? えっ? 聞こえないっスね。なんて言ったんスか」
シエラは覚悟を決めたような顔で言った。
「だからっ! ほんとは、もっとスゴいチートスキルってのがあったの。それを全部アンタにぶち込む予定だったんだけどさあ~、ちょいとミスっちゃって……」
「はあ。無くなったとか?」
「……違うの。手違いでバラまいちゃったの。この世界中の願望者に。全部で108個ね。これを回収しないと魔王には勝てないわ」
うつむき、もじもじしながら足で地面に丸を描いている。いや、別にそんなしおらしくしなくても。
「わかったっスよ。そのチートスキルを取り戻せばいいんスよね。やりましょう。長い旅になりそうっスね」
励ますように言うと、シエラは喜んで正拳突きを繰り出す。
「おっ、おっ。分かってるね、話が早いね~。そうなの。まあ、借り物のスキルだからぶっ倒せば自動的にスキルはアンタのものになんの。そういうことだから。あ、あと仲間になりそうなヤツも見つけること」
「ちょ、痛いっスよ。殴らないで。ああ、その願望者って、殺してもいいんスか?」
この質問に、シエラは口をあんぐりと開け──しばらくして今度はローキックを繰り出した。ッシャア、ッシャアッ、と。
「アホ! アンタは曲がりなりにも《女神》の勇者なんだよっ! 評判は大事なの! 魔物倒したり、ライバルを倒したり……名声を得て、多くの人から認識してもらうんだ。それが更なる強さに繋がるって、さっき言ったよね。シエラ、言ったよね!」
「あたた、分かったっスよ。痛い、痛いっス」
なんて凶暴な《女神》なんだ……。
まあ、ここはおとなしく言うことを聞いておこう。
そのチートスキルを全て手に入れ、魔王とやらを倒せば……もはや怖いものはない。この駄女神にも用はない。
そこまでは、この不慣れな世界のガイド役として働いてもらおう。
「ようし。そんじゃあ、次は実戦だ。ほら、都合よく来たよ魔物が」
シエラが指さす先に、小型の人? らしきものが五体見えた。
放牧されている牛を狙っているようだ。囲むようにしてジリジリと近づいている。
「あれ……魔物っスかねえ。ちょっと小さなおっさんとかじゃないっスか?」
「バカ、お前バカ。あんな赤黒くて口が裂けて牙の生えたおっさんいるか。あれはゴブリン。ほれ、試しにアレ相手に戦ってみ? 楽勝だから。素手で簡単に倒せるから」
「はあ……分かったっス」
俺はおもむろに空中に指を這わせる。ピピッ、ピッ、と光る窓のようなものが出現──ステータスウインドウだ。
スクロールしてざっと能力を確認。たしかにスキルの数は多い……ひとつひとつ確認している暇はない。
「お、これを使ってみるっスか」
ステータスウインドウを閉じ、右手を前に。
五本の指にボボボボ、と炎が灯る。左手は肩を押さえつつ、ハッ、と声を発した。
ドドドンッ、と指先から炎弾が放たれる。
それは見事ゴブリンどもに命中。勢い余ってボガアアン、と周りの地形をかえてしまったが。
「おっ、やったっス! 成功っス!」
「やったっス、じゃねーよっ! やりすぎだよ! ゴブリン相手に! 見てみ、砲撃じゃん、アレ。牛も木っ端みじんじゃん!」
そういえば……でも、加減なんてわからない。そんなに怒らなくてもいいのに。
「あのね、一般ピーポーを魔物から守ったりもするんだよ、勇者だからね。あんなん街や村でブッ放したらマジ許さんかんね。シエラ、マジキレるからね」
「はあ……なんだか面倒っスね。まあ、気をつけますよ」
その後、《女神》シエラの小言を聞きながら近くの村へ立ち寄ることにした。
拠点となる村、街で願望者の情報を集め、チートスキルを持っていそうなヤツを特定。
そいつを追い詰めて倒す。チートスキルを取り戻す。それが当面の目的になりそうだ。
「シエラって、そのチートスキルを持っている願望者がどこにいるとか分からないんスか? そんなやり方じゃ、すごい時間かかりそうっスね」
「ふ……分かるかもしれないし、分からないかもしれない……。勇者よ、これは試練なのだ。楽をしてはならない。《女神》にそんな事を期待してはならないのだ」
ああ、これは分からないという事なんだな。前途多難だが、ここは地道にやるしかなそうだ。
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