アオイナツ物語

伊藤 苺

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マコトの野望④

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猛暑を考慮して紅白戦は7回終了。
5-1で僕ら現役チームが勝利した。


先輩を除いては引退組の先輩達はウチの野球部がまだバリバリの弱小だった世代なのでこうしてメンバーに加わってくれるだけでありがたい。




先発は先輩かと思われたけれどさすがマコト主将は合宿までの短期で新バッテリーを完成させていて今日はそのお披露目も兼ねていた。


その他の1年生も攻守に練習の成果が表れていて、僕が出遅れ感を覚えてしまう程その成長は目覚ましい。

後輩がこんな頑張れてるなんて…

「マトコ、自主トレって何やって来たんだ?」

マコトに尊敬の念もこめて疑問をぶつけると意外な答えが返って来た。


「実は俺ともあろうものが自主トレ参加者募集ー!って宣伝しておきながら肝心の夏休みの学校のグランド使用許可を貰うの忘れてて…あっ、でも大丈夫なんだ、直ぐにリカバリーするのが捕手の習性と言うか、俺の凄さ?これは人に言って貰えると嬉しいけどな。

とにかく使える野球施設を探してたらあったんだよ。これが。

ちょっと遠いんだけどオヤジの知り合いにバッティングセンターやってるおじさんがいて、
グランドもあるからって貸してくれてさ。

ホントはシニアチーム優先なんだけどそっちの監督さんにも頼んでくれて。

そしたらそこ結構やるシニアでさ、色々勉強させて貰えてとんでもなくお得な自主トレになりましたって訳よ。」

「そうなんだ。それは運がよかったな。
で、俺に投手をやらせるのはいつから考えてたんだ?」

「お前に付いてここに入学した時からずっとその構想はあったよ。」


「俺に付いて来たって?どう言う事だ?

お前が強豪のスカウトを蹴ったって、それもずっとおかしいと思ってたんだ。」


「だよな。
それは俺の自尊心が傷付いたからなんだ。
声は掛かったけど打者として関心があるって。
つまり捕手としては要らないって。
そりゃあ上には上がいるから正捕手になるのは厳しいのは承知の上だ。
だけど俺には捕手のポジションはないってハッキリ言われたよ。
努力さえさせて貰えないなんてな。
野手に転向して打撃でチームに貢献しろってさ。

なぁハヤタは知ってるよな。

俺はオヤジに憧れて初めて野球みたいな事をした日から
高校野球でキャッチャーマスクを空にかざして
(シマッテイコー!)
って叫ぶんだ。
夢はそれしかなかったのをさ。

だから高校野球で捕手が出来ないならそこが強豪だろうと行く価値はなかったんだ。

捕手で声を掛けてくれた所は他にもあったけど
大した実力も無いのに自惚れてたのかな、と思ったら何か色々とフラットになっちゃったんだ。

ここの感情は長くなるから割愛するな。

そしたらお前の去就が気になって。
ユウスケに頼まれた事もあったけど
お前に野球をやめさせない為にはマンツーマンでお前を引っ張らないとダメだって。

弱小校に進学するって判明した時は正直終わった…と思ったけど考えてみればライバル0だし
お前の巻き込みに成功さえすれば後は何とかなるかな、と思ってさ。

巻き込みには成功したけどマウンドに立たせるのに1年半かかったのは計算式違いだったなー。
けどお前に付いて来たの正解だったよ。
やっぱ野球って楽しいな。

そんな訳で俺の新チーム
強豪への道作戦はまだ始まったばかりなので詳細は追ってまた、だ。」


胸のつかえが下りたのかマコトは空を見上げて思い切り夏の空気を吸い込んだ。


「んじゃ、午後連はショーゴ先輩はハヤタにマンツーマン指導お願いします。

身体能力に問題はないげどマウンド感とか取り戻さなきゃならない物が山ほどあるのでよろしくです!
よーし!昼にするぞー!」


そんな悔しい経験をしたのにいつも過剰にイキイキしているマトコが大人に見えた。

けどアイツさっき昼飯の匂い嗅ぎ取ってたんだ。





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