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真相 2
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*
「――南芽以はオレのイトコだ。
あいつ、今は大人しく優等生やってるみたいだけどさあ、小六のころとかはよく学校さぼってよくここに来てたんだぜ。まあ、最近はたまにしか顔を見せないけどな。」
さびついたパイプいすに座ってそう言った原さんを思い出し、わたしはぐっ、とくちびるを噛みしめる。
廃ゲームセンターから出ると、もう日も暮れかけていた。
月の姿は見当たらないが、その代わりとばかりに一番星がかがやいている。
……メイちゃんには、ここに出入りしてた過去があった。
そして、このたまり場でのリーダー格である原さんのイトコなら、きっとここに来る中学生とも親しかったんだろう。
大人や、先生に話せないことも、同じ子どもになら話せることもある。
メイちゃんはたぶん、伊藤さんや野村さん、寺田さんからも、ここで時間をかけて話を聞き出したんだろう。
そして、いざ行方不明になっても、家出の可能性が強いと思わされる子だけを、『人封じの鏡』に閉じ込めて誘拐した。
「……ごめん、百城くん。」
「どうしたんだ?」
「わたしがしっかりしていれば、もっと早く、気づけたかもしれないのに。」
わたしはメイちゃんの金色のコンパクトミラーに、気づいていた。
もっと早く『人を隠す手段』について注目していれば、少なくとも茉莉花ちゃんがさらわれることはなかったかもしれない。
すると、百城くんが首を横に振った。
「木花は何も悪くない。お前が悪いって言うなら、調査の役目を負っていたオレが気づかなかった方が、ずっと問題だ。……だがな!」
さけび、百城くんが怒りの表情で、氷の王をにらみつけた。そしてのばした手で、氷の王のまとう着物の胸ぐらをつかみ、その小さな身体ごと持ち上げる。
『……おい、何の真似だ? これは。』
「お前……気づいていたな? 南芽以が、鬼であることに。」
低い、地獄の底をはうような声。わたしはするどく息をのむ。
そうだ。その通りだ。氷の王は鬼の王様、【原初】の鬼。
メイちゃんが鬼であることに、気づいていなかったとは思えない。
だとすると、もしや――氷の王は、わざと、黙っていた?
『くくっ。』
不意に、氷の王があざけるように笑った。そして、言った。
『――だから、なんだ?』
「何?」
『言っただろう。俺は小娘の命令「には」従うと。今度もそうだ、聞かれなかったから、黙っていた。それだけだ。』
わたしも百城くんも、絶句する。
やっぱり氷の王は、わたしたちが中学生たちをさらった鬼を見つけるために奔走していたのを知っていて、わざと黙っていたんだ。心の中で、わたしたちをあざ笑いながら。
ああ、なんて。なんて、
「邪悪な……っ。」
『はははは! おいおい、忘れたか小娘。俺は鬼。【原初】の鬼、氷の王だぞ。』
おぞましくも美しい小さな少年の、銀の瞳が、ギラギラとあやしくかがやく。
『しもべにされたからと言って、俺が人間の意のままに動くと思うか?』
「くそっ……!」
百城くんが悔しげにうめき、氷の王の着物から手を離す。
氷の王はふわりと地面に着地すると、『それに。』とほほえんでみせた。
『何もヒントを出していなかったわけではないだろう? 鬼が人になりすましている可能性を示したのは俺だ。』
「それはお前が、オレたちが右往左往するのを見るのを楽しむためだろうが……!」
『否定はせん。しかし気づくタイミングならいくらでもあったはずだぞ?』
たとえば、と氷の王がこちらを見る。
いきなり視線を向けられて、わたしはびくっと肩を跳ねさせた。
『俺が復活する直前のことだ。鏡の中から見ていたが、あの女は必死にペンダントを取り返そうとしていたな。会ったばかりの、ただの人間であるお前の持ち物をだ。それはなぜだと思う?』
「それは、ただ、わたしのために……、」
善意で取り返そうとしてくれたんだ、とそう言いかけて口をつぐむ。
……そんなはずがない!
彼女は鬼なんだ。中学生を五人もさらって平然としてられる、邪悪な鬼。
ならどうして、彼女はペンダントを守ろうとした?
(――そうか!)
メイちゃんがあんなに焦って、茉莉花ちゃんからペンダントを取り返そうとしたのは。
「あなたを恐れていたからね……!」
「――南芽以はオレのイトコだ。
あいつ、今は大人しく優等生やってるみたいだけどさあ、小六のころとかはよく学校さぼってよくここに来てたんだぜ。まあ、最近はたまにしか顔を見せないけどな。」
さびついたパイプいすに座ってそう言った原さんを思い出し、わたしはぐっ、とくちびるを噛みしめる。
廃ゲームセンターから出ると、もう日も暮れかけていた。
月の姿は見当たらないが、その代わりとばかりに一番星がかがやいている。
……メイちゃんには、ここに出入りしてた過去があった。
そして、このたまり場でのリーダー格である原さんのイトコなら、きっとここに来る中学生とも親しかったんだろう。
大人や、先生に話せないことも、同じ子どもになら話せることもある。
メイちゃんはたぶん、伊藤さんや野村さん、寺田さんからも、ここで時間をかけて話を聞き出したんだろう。
そして、いざ行方不明になっても、家出の可能性が強いと思わされる子だけを、『人封じの鏡』に閉じ込めて誘拐した。
「……ごめん、百城くん。」
「どうしたんだ?」
「わたしがしっかりしていれば、もっと早く、気づけたかもしれないのに。」
わたしはメイちゃんの金色のコンパクトミラーに、気づいていた。
もっと早く『人を隠す手段』について注目していれば、少なくとも茉莉花ちゃんがさらわれることはなかったかもしれない。
すると、百城くんが首を横に振った。
「木花は何も悪くない。お前が悪いって言うなら、調査の役目を負っていたオレが気づかなかった方が、ずっと問題だ。……だがな!」
さけび、百城くんが怒りの表情で、氷の王をにらみつけた。そしてのばした手で、氷の王のまとう着物の胸ぐらをつかみ、その小さな身体ごと持ち上げる。
『……おい、何の真似だ? これは。』
「お前……気づいていたな? 南芽以が、鬼であることに。」
低い、地獄の底をはうような声。わたしはするどく息をのむ。
そうだ。その通りだ。氷の王は鬼の王様、【原初】の鬼。
メイちゃんが鬼であることに、気づいていなかったとは思えない。
だとすると、もしや――氷の王は、わざと、黙っていた?
『くくっ。』
不意に、氷の王があざけるように笑った。そして、言った。
『――だから、なんだ?』
「何?」
『言っただろう。俺は小娘の命令「には」従うと。今度もそうだ、聞かれなかったから、黙っていた。それだけだ。』
わたしも百城くんも、絶句する。
やっぱり氷の王は、わたしたちが中学生たちをさらった鬼を見つけるために奔走していたのを知っていて、わざと黙っていたんだ。心の中で、わたしたちをあざ笑いながら。
ああ、なんて。なんて、
「邪悪な……っ。」
『はははは! おいおい、忘れたか小娘。俺は鬼。【原初】の鬼、氷の王だぞ。』
おぞましくも美しい小さな少年の、銀の瞳が、ギラギラとあやしくかがやく。
『しもべにされたからと言って、俺が人間の意のままに動くと思うか?』
「くそっ……!」
百城くんが悔しげにうめき、氷の王の着物から手を離す。
氷の王はふわりと地面に着地すると、『それに。』とほほえんでみせた。
『何もヒントを出していなかったわけではないだろう? 鬼が人になりすましている可能性を示したのは俺だ。』
「それはお前が、オレたちが右往左往するのを見るのを楽しむためだろうが……!」
『否定はせん。しかし気づくタイミングならいくらでもあったはずだぞ?』
たとえば、と氷の王がこちらを見る。
いきなり視線を向けられて、わたしはびくっと肩を跳ねさせた。
『俺が復活する直前のことだ。鏡の中から見ていたが、あの女は必死にペンダントを取り返そうとしていたな。会ったばかりの、ただの人間であるお前の持ち物をだ。それはなぜだと思う?』
「それは、ただ、わたしのために……、」
善意で取り返そうとしてくれたんだ、とそう言いかけて口をつぐむ。
……そんなはずがない!
彼女は鬼なんだ。中学生を五人もさらって平然としてられる、邪悪な鬼。
ならどうして、彼女はペンダントを守ろうとした?
(――そうか!)
メイちゃんがあんなに焦って、茉莉花ちゃんからペンダントを取り返そうとしたのは。
「あなたを恐れていたからね……!」
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