ご主人様と呼びなさい! ―ひょんなことから最強の鬼の主になりました―

雨音

文字の大きさ
上 下
17 / 26

異変 4

しおりを挟む




百城くんは廃ゲームセンターを出てから、ずっと難しい顔をして考え込んでいる。
何を考えてるんだろう……。 
黙り込んだまま歩いている百城くんに、わたしと氷の王は顔を見合わせる。氷の王は無言で小さな肩をすくめてみせた。
そこでふと、百城くんが足を止めた。……松野さんを見かけた交番の近くで。
「百城くん? どうしたの?」
「……実は、可能性はずっと考えてたんだ。だが信じたくなくて、なるべくそう思わないようにしていた。」
「え?」
意味をはかりかねて問い返すと、百城くんはわたしを見て、それから交番を見た。

「警察内部に鬼がいたら、四件の失踪も正式に『家出』だってことにしやすいんじゃないか、って。」

「……!」
するどく、息を呑む。
……たしかに、そうだ。氷の王が、人に化けたり、のりうつったりできる異能を持つ鬼もいると言っていた。
それはつまり、鬼が、警察の人間に成りすますこともできるということ。
警察が一連の件を家出だと結論づければ、もう、消えた人を気にするのは、近しい人以外にいなくなる。
「さっき、たまり場に警察が出入りすることもあるって言ってただろ。なら、消えた四人と接触する機会があったってことになる。」
「そんな……!」 
真っ青になる。
警察官はみんなを守ってくれる存在のはずだ。それなのに……。
「鬼はいったい誰に成りすましてるの⁉」
「わからない。あそこに出入りしてるって言うんだから、おそらく上層部の人間じゃない。だから交番の警官か、現場の刑事だとは思うが……。」
見つけるまでに、消えた四人が無事でいられるかどうか。
険しい表情の百城くんに、わたしはごくりとつばを飲み下した。
いったい、どうすれば……。
すると、その時だった。

「――すまない、少し話を聞いてもいいか。」

見知らぬ、スーツの男の人に声をかけられたのは。
……だれだろう? 不審者?
四十代になるかならないか、というくらいのその男性は、どこか焦った顔をしている。
身構えながらそっととなりの百城くんをうかがうと、彼は少しびっくりしたような顔をしていた。そして、「弁護士だ。」とぽつりとつぶやく。
「えっ?」
「この人は弁護士だ。ほら、スーツのえりにバッジがついてるだろ。」
たしかに、男の人のスーツには、くすんだ金色のバッジがついている。
「自由と正義を表すひまわりと、公正と平等を表す天秤がデザインされたバッジ。あれは、弁護士であることを示す身分証なんだ。」
「へぇ……そうなんだ。」
 ということは、不審者ではないか。よかった。
 それにしても物知りだなあ、と思っていると、スーツの男の人も感心したように言った。
「驚いたな、一目でこのバッジを一目で弁護士バッジだと見抜く子どもがいるとは。君は中学生か?」
「はい。」
百城くんが表情を変えずにうなずく。
「……それで、弁護士の方がオレたちに何の用ですか?」
「ああ、そうだった。すまないな、いきなり。君たちは第一中の生徒か? それとも別の中学の生徒かな?」
「えっと、第一中の一年生ですけど……。」
百城くんがいぶかしそうにして押し黙ったので、わたしが代わりに応える。
すると、彼は軽く目を見開いて、わたしの肩をつかんだ。
「第一中の一年生というのは本当か? なら、茉莉花の居場所を知らないか⁉」
「えっ?」
 面食らってのけぞると、男性は名刺を取り出して、わたしの手に押しつける。
 そこには、法律事務所の名前と、『宝生直人』という名前が印字されていた。
「私は茉莉花の父親だ。学校から茉莉花が無断欠席したと連絡がきて、つい先ほど茉莉花が日曜日から帰ってきてないと知ったんだ。」
ドクン、と。
心臓が嫌な音を立てる。
「妻はプチ家出か何かだろう、この歳の子ならよくあることだし心配いらないだろうと言うが……どうしても気になってな。仕事を抜け出して、あてもなく探しているんだが……。」
弱った表情で、スーツの男性――茉莉花ちゃんのお父さんがこぼす。
……茉莉花ちゃん、やっぱり家でうまくいってなかったんだ。
だって、新しいお母さんは明らかに、茉莉花ちゃんを心配していない。ふつう、二日も娘の行方がわからなければ、心配するはずだよね。
それに目の前のお父さんも、茉莉花ちゃんの失踪を今の今まで知らなかったようだ。お仕事がいそがしかったにしても、きちんと毎日家に帰っていれば異変に気がついたはず。
心配していないわけではなさそうだけど……。
「家出を疑われてもおかしくない家庭環境……。やっぱり今までのケースと、カブるな。」
茉莉花ちゃんのお父さんに気づかれないくらいの小さな声で、百城くんがつぶやく。
わたしも、同意見だった。
茉莉花ちゃんは不良じゃない。たぶん、廃ゲームセンターに出入りもしていない。
でも――。
(茉莉花ちゃんはたぶん、『五人目』の行方不明者になっちゃったんだ……!)
――五人目を待っているのかもしれんな。
かつて、わたしたちにそう告げた氷の王が、ゆっくり目を細めて笑う。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

名探偵が弟になりまして

雨音
児童書・童話
中1のこころは小柄ながら空手・柔道・合気道で天才的な才能を持つJC。けれども彼女はとある理由から、自分のその「強さ」を疎むようになっていた。 そんなある日、両親の再婚によってこころに義弟ができることに。 その彼はなんと、かつて「名探偵」と呼ばれた天才少年だった! けれども彼――スバルは自分が「名探偵」であったという過去をひどく疎んでいるようで? それぞれ悩みを抱えた義姉弟が織りなすバディミステリ!

コボンとニャンコ

魔界の風リーテ
児童書・童話
吸血コウモリのコボンは、リンゴの森で暮らしていた。 その日常は、木枯らしの秋に倒壊し、冬が厳粛に咲き誇る。 放浪の最中、箱入りニャンコと出会ったのだ。 「お前は、バン。オレが…気まぐれに決めた」 三日月の霞が晴れるとき、黒き羽衣に火が灯る。 そばにはいつも、夜空と暦十二神。 『コボンの愛称以外のなにかを探して……』 眠りの先には、イルカのエクアルが待っていた。 残酷で美しい自然を描いた、物悲しくも心温まる物語。 ※縦書き推奨  アルファポリス、ノベルデイズにて掲載 【文章が長く、読みにくいので、修正します】(2/23) 【話を分割。文字数、表現などを整えました】(2/24) 【規定数を超えたので、長編に変更。20話前後で完結予定】(2/25) 【描写を追加、変更。整えました】(2/26) 筆者の体調を破壊()3/

荒川ハツコイ物語~宇宙から来た少女と過ごした小学生最後の夏休み~

釈 余白(しやく)
児童書・童話
 今より少し前の時代には、子供らが荒川土手に集まって遊ぶのは当たり前だったらしい。野球をしたり凧揚げをしたり釣りをしたり、時には決闘したり下級生の自転車練習に付き合ったりと様々だ。  そんな話を親から聞かされながら育ったせいなのか、僕らの遊び場はもっぱら荒川土手だった。もちろん小学生最後となる六年生の夏休みもいつもと変わらず、いつものように幼馴染で集まってありきたりの遊びに精を出す毎日である。  そして今日は鯉釣りの予定だ。今まで一度も釣り上げたことのない鯉を小学生のうちに釣り上げるのが僕、田口暦(たぐち こよみ)の目標だった。  今日こそはと強い意気込みで釣りを始めた僕だったが、初めての鯉と出会う前に自分を宇宙人だと言う女子、ミクに出会い一目で恋に落ちてしまった。だが夏休みが終わるころには自分の星へ帰ってしまうと言う。  かくして小学生最後の夏休みは、彼女が帰る前に何でもいいから忘れられないくらいの思い出を作り、特別なものにするという目的が最優先となったのだった。  はたして初めての鯉と初めての恋の両方を成就させることができるのだろうか。

【総集編】日本昔話 パロディ短編集

Grisly
児童書・童話
❤️⭐️お願いします。  今まで発表した 日本昔ばなしの短編集を、再放送致します。 朝ドラの総集編のような物です笑 読みやすくなっているので、 ⭐️して、何度もお読み下さい。 読んだ方も、読んでない方も、 新しい発見があるはず! 是非お楽しみ下さい😄 ⭐︎登録、コメント待ってます。

極甘独占欲持ち王子様は、優しくて甘すぎて。

猫菜こん
児童書・童話
 私は人より目立たずに、ひっそりと生きていたい。  だから大きな伊達眼鏡で、毎日を静かに過ごしていたのに――……。 「それじゃあこの子は、俺がもらうよ。」  優しく引き寄せられ、“王子様”の腕の中に閉じ込められ。  ……これは一体どういう状況なんですか!?  静かな場所が好きで大人しめな地味子ちゃん  できるだけ目立たないように過ごしたい  湖宮結衣(こみやゆい)  ×  文武両道な学園の王子様  実は、好きな子を誰よりも独り占めしたがり……?  氷堂秦斗(ひょうどうかなと)  最初は【仮】のはずだった。 「結衣さん……って呼んでもいい?  だから、俺のことも名前で呼んでほしいな。」 「さっきので嫉妬したから、ちょっとだけ抱きしめられてて。」 「俺は前から結衣さんのことが好きだったし、  今もどうしようもないくらい好きなんだ。」  ……でもいつの間にか、どうしようもないくらい溺れていた。

魔法アプリ【グリモワール】

阿賀野めいり
児童書・童話
◆異世界の力が交錯する町で、友情と成長が織りなす新たな魔法の物語◆ 小学5年生の咲来智也(さくらともや) は、【超常事件】が発生する町、【新都心:喜志間ニュータウン】で暮らしていた。夢の中で現れる不思議な青年や、年上の友人・春風颯(はるかぜはやて)との交流の中でその日々を過ごしていた。 ある夜、町を突如襲った異変──夜にもかかわらず、オフィス街が昼のように明るく輝く事件が発生する。その翌日、智也のスマートフォンに謎のアプリ【グリモワール】がインストールされていた。消そうとしても消えないアプリ。そして、智也は突然見たこともない大きな蛇に襲われる。そんな智也を救ったのは、春風颯だった。しかも彼の正体は【異世界】の住人で――。 アプリの力によって魔法使いとなった智也は、颯とともに、次々と発生する【超常事件】に挑む。しかし、これらの事件が次第に智也自身の運命を深く絡め取っていくことにまだ気づいていなかった――。 ※カクヨムでも連載しております※

チェリーパイ

夢蘭
児童書・童話
かえでは普通の女の子だった、、、はずなのだ。しかしある日突然目の前に妖精チェリーが現れる。 普通の女の子だったはずのかえでは、どんどん普通から離れていく。 チェリーはなんのために来たのか? かえでは普通の生活にもどれるのか? この作品は、下書きなしで書いてるので誤字脱字があるかもしれません。なのであったら感想等で指摘してください! また、初心者なので内容としてえって思うこともあると思いますが、温かい目で見てください!また、こうしたら見やすいよ!とか、もっとこうしたら良いよ!とかアドバイスがあったらこれもコメントでよろしくお願いします。🙇‍♀️

忠犬ハジッコ

SoftCareer
児童書・童話
もうすぐ天寿を全うするはずだった老犬ハジッコでしたが、飼い主である高校生・澄子の魂が、偶然出会った付喪神(つくもがみ)の「夜桜」に抜き去られてしまいます。 「夜桜」と戦い力尽きたハジッコの魂は、犬の転生神によって、抜け殻になってしまった澄子の身体に転生し、奪われた澄子の魂を取り戻すべく、仲間達の力を借りながら奮闘努力する……というお話です。 ※今まで、オトナ向けの小説ばかり書いておりましたが、  今回は中学生位を読者対象と想定してチャレンジしてみました。  お楽しみいただければうれしいです。

処理中です...