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任務協力 4

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今年四月から二ヶ月半、このあたりで行方不明になっている中学生は全部で四人。
いずれも、希正第一中、希正第二中、希正第三中のどれかに通っている生徒だ。
一人目の行方不明者である伊藤トモミさんは、第三中の二年生。四月の半ばに姿が見えなくなったらしい。
そして、二人目は野村誠さん。彼は一年生で、同じく第三中の生徒だ。
三人目は希正第一中、つまりうちの三年生で、寺田涼介さん。四人目は希正第二中の二年生、真木千歳さん。
全員、素行不良で有名な中学生だという。

「伊藤さんかぁ。うん、今年から学校で見てないよ。」 
部活中の生徒を狙って「伊藤さんのクラスメイトを知りませんか?」と聞いて回って。
先生たちに気づかれないように、こっそりと第三中の生徒に案内してもらった先にいたのは、銀色のトランペットを持つ女子。
土曜日の部活のために学校に来ていたらしいその人は、あっけらかんとそう言った。
「見てない、ですか……。学校に来てないんですか?」
「うん。あたし一年の時も伊藤さんと同クラだったけど、こういうこと、よくあったよ。」
「あまり心配していなさそうですね? 学校に来ていないどころか、家にも帰っていないのに。」
挑発するように百城くんがそう言うと、案の定、トランペットの女子生徒はちょっと不愉快そうに眉をしかめた。
「……そういう言い方をされるのはなー。だってどうせ、家出か何かでしょ?」
「どうしてそう思うんです?」
「だって伊藤さん、不良少女として有名だもん。危ないクラブとかに行ってるとかいう話も聞くし。失踪なんて大げさだと思うな。」
「でも、連絡が途絶えて二ヶ月も経ってるんですよ?」
「そんなのあたしに言われても知らないよ。誘拐とかなら警察だって、本気で探すはずでしょ? そうじゃないなら、長期の家出に決まってるもん。伊藤さん、家族仲もよくないってウワサもよく聞くし。
……もういい? あたし、練習でいそがしいんだよね。」
それを聞いて、わたしと百城くんはそっと顔を見合せた。
そして、「ありがとうございました。」と言って、その場を立ち去った。
 
「うーん……、やっぱり家出なんじゃないかな?」
ほかの行方不明者のクラスメイトや先輩たちにも話を聞きに行って――その帰り道。
わたしは腕を組んで、横を歩く百城くんを見上げた。
思っていたより時間がかかったため、もうすでに日は傾いている。あたりはそろそろ暗くなりそうだ。
「なんでそう思うんだよ?」
「それは、だって……。」
……他の中学にも、同じようにいろいろな話を聞きに行ってはみたものの、帰ってきたのは伊藤さんのときの同じような言葉ばかり。
ひんぱんに家出をしているとか、高校生の不良グループにまじっているとか……。
根も葉もないウワサかもしれないけど、やっぱり家出と言われて納得できてしまう。
「……オレは逆にそこが引っかかる。不良で、しかもわざわざ『家族仲が悪い』ってウワサがあるやつばっかりいなくなってるだろ。」
「え? 家族とうまくいってないから、家出するんじゃないの?」
「そうじゃなくて。『いきなり姿を消してもおかしくない』と思われる人間ばっかり行方不明になってるのが、逆に不自然だってことだよ。」
それはまあ、たしかに。
でも、かといって連続誘拐事件にしては、二ヶ月半で四人の失踪は間が空きすぎてるように思える。失踪のウワサは聞くけど、消えた四人の家に身代金の要求があった、とかいうウワサは聞かないし。
わたしは、ちら、と宙に浮かぶ人影を見やる。人影――小さな氷の王は、わたしたちが聞き込みをしているあいだ、ずっとつまらなさそうにあくびしていた。
(うーん……。)
わたしは、この世に『鬼』がいることを知った。
だから、鬼の仕業である可能性がないとは言えないけど……やっぱり、家出が一番ありえそうって考えちゃうなあ。
「……おい、氷の王。」
『ふぁーあ……。なんだ、退治屋の童。』
「お前、【原初】の鬼なら、何かわかったりしないのか?」
氷の王がピタリとあくびを止める。そして、『ほう。』と面白そうに言った。
『退治屋が鬼に頼るのか? 退治屋の風上にも置けんな。』
「お前は鬼だが、オレの協力者のしもべだろ。」
『ふ、はは! 貴様もなかなか肝が太いと見えるな、面白い。……だが、そう、俺はその小娘のしもべなのでな。』
氷の王が、ついとこちらに視線を向ける。
『小娘の命令なしには言えんなあ?』
チッ。舌打ちした百城くんが、わたしを見る。
「……木花、頼んでいいか。」
「う、うん。」
あんまり愛想はよくないけど、百城くんって基本的には品行方正そうなのに、氷の王の前だとかなりガラ悪いな……。
そう思いながらもうなずいて、わたしは小さな氷の王に「話して。」と命じた。
『ふん、いいだろう。……まあ結論から言えば、一連の件に鬼が関わっている可能性は高い。』
「……可能性? 断言はできないのか?」
『あいにく、この身体なのでな。微弱な力ではろくに索敵もできんわ。……それともまた封印を解いて、俺本体を味方につけるか?』
「ふざけるな。」
視線をとがらせた百城くんに、『気が短いことだ。』と氷の王。そしてさらに百城くんが表情を険しくする。
あああー、往来で火花を散らさないで……。
心なしか痛んできた胃のあたりをおさえようとしたとき、少し離れた場所から、怒鳴り声が聞こえてきた。

「警察は何をしてんだよ! ホントに、トモミのことちゃんと探してんのかよ!」

声は、女の子のものだった。この道の先にある、交番のあたりから聞こえてくる。
百城くんも気づいたのか、氷の王との小競り合いをやめてこちらを見た。
――『トモミ』。たしかに、声はそう言った。
「話、聞きに行くぞ。」
「うん!」
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