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氷の王 2
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つややかな黒髪、均整のとれた身体つき。間違いない、百城くんだ。
けれどその手には、鈍く光る刀がある――。
わたしが呆然としていると、彼はおもむろに口を開いた。
「……まさか、【原初】のうちの一体が現れるとは思わなかった。この、全てを氷漬けにする力、文献で読んだことがある……お前、二千年前に封じられた、氷の王だな?」
『ほう、退治屋の童か。甘ったればかりのこの時代の者にしては、なかなかの腕前のようだ。この俺を前に、気丈にふるまうとは肝の太さも上々……。』
だが、と白い男が目を細める。
『やはり、恐ろしいか、俺が。……足が震えているぞ?』
「――黙れ!」
低い声で吐き捨てた百城くんが、ダン! と強く地面を蹴り、白い男に斬りかかる。
飛び散る血を想像して悲鳴を上げそうになったが、寒さで舌がうまく動かない。
……それに、白い男から血は出なかった。
扇子のようなものを構えた男が、軽く百城くんの刀を受け止めていたからだ。
「くっ……!」
『よい太刀筋だ。だが、』
ブン。
刀を受け止めたまま、扇子が大きく振り抜かれ、百城くんが空中に投げ出される。
わたしのすぐ横に叩きつけられた彼は、がは、と口から空気を漏らしてうめいた。
「も、百城くん!」
『退治屋の童よ。まずは貴様の生命力から頂くとしようか。』
白い男がうっそりと笑い、扇子を構える。
それを見て、わたしは思わずさけんだ。
「や……やめて! 近づかないで!」
はっ、はっ。
肩で息をしながら、わたしはこちらのさけび声に足を止めた男をにらみつけた。
……あの男が誰なのかも、何が起こっているのかも、何もわからない。
何もわからないけど、このままじゃ、この学校にいる全員が死んでしまうということだけは、ヒシヒシと肌で感じる。
今この場で起きているのが、わたしだけなら。
わたしが、どうにかしなきゃ……!
「転入、生……やめろ、大人しくしてろ……!」
百城くんが苦しげにうめきながらも、起き上がろうとする。
『そうだ小娘。そう急がずとも、貴様はこの童の次に喰ろうてやるぞ?』
「喰らう……やっぱりあなたは言い伝えの、鬼……ってこと?」
『ふ、ははは! そうよ。俺は鬼。貴様のはるか彼方の先祖に、鏡に封じられた、【原初】の鬼が一柱――氷の王だ。』
「鏡……って、まさか!」
あの、わたしの、ペンダントのミラーが……⁉
一気に顔を青くしたわたしを見て、白い男は愉快そうに笑って、言った。
『その通り。あの小さな鬼封じの鏡は、二千年間俺を封じ込めていた呪具だったのだ!』
(そんな……!)
じゃあ、この白い男、氷の王とやらが出てきてしまったのは、鏡が割れたから?
わたし、そんな……そんなこと、知らなかった。鏡の中に、こんなのが閉じ込められていたなんて!
『よい表情だな、木花の小娘よ。おのれのせいで俺が出てきてしまったのが、衝撃的か?』
「……っ、」
『お前がもっとこれを丁重に扱っていたら、俺を封じたままでいられたかもしれんのになあ?』
「そいつの言葉を聞くな、転入生!」
なんとか上体を起こした百城くんが、さけぶ。
「絶望させて、抵抗する気力を失わせてから生命力を吸い取るのは、鬼の常套手段だ!」
(でも、そんなこと言われても……っ。)
わたしのせいで、こんなことになっちゃったのは、本当のことだ。
知らなかったで、済まされるはずない。
巻き込まれたのは、自分だけならまだいい。でも、みんな、巻き込まれてしまっている。
こんな極寒の中じゃ、みんな死んでしまう。
このまま校内のみんなを死なせるなんて、ゼッタイにダメだ――!
「お願い、やめて、みんなを殺すのは……っ。」
『ほう?』
寒さと恐怖にがくがく震える足を、身体を叱咤して、立ち上がる。
……おばあちゃんが、強い心を持って生きろ、って言ってたのは、きっとこの鬼に付け入られる隙を作らないためだっだんだろう。だから、強い心を持つことで、お守り『が』効くんじゃなくて、お守り『に』効くって、そう言ってたんだ。
それなのに、わたしは、まんまとこいつを鏡から解き放ってしまった。
――その責任は、取らなければ。
「わたしの生命力をあげる。」
けれどその手には、鈍く光る刀がある――。
わたしが呆然としていると、彼はおもむろに口を開いた。
「……まさか、【原初】のうちの一体が現れるとは思わなかった。この、全てを氷漬けにする力、文献で読んだことがある……お前、二千年前に封じられた、氷の王だな?」
『ほう、退治屋の童か。甘ったればかりのこの時代の者にしては、なかなかの腕前のようだ。この俺を前に、気丈にふるまうとは肝の太さも上々……。』
だが、と白い男が目を細める。
『やはり、恐ろしいか、俺が。……足が震えているぞ?』
「――黙れ!」
低い声で吐き捨てた百城くんが、ダン! と強く地面を蹴り、白い男に斬りかかる。
飛び散る血を想像して悲鳴を上げそうになったが、寒さで舌がうまく動かない。
……それに、白い男から血は出なかった。
扇子のようなものを構えた男が、軽く百城くんの刀を受け止めていたからだ。
「くっ……!」
『よい太刀筋だ。だが、』
ブン。
刀を受け止めたまま、扇子が大きく振り抜かれ、百城くんが空中に投げ出される。
わたしのすぐ横に叩きつけられた彼は、がは、と口から空気を漏らしてうめいた。
「も、百城くん!」
『退治屋の童よ。まずは貴様の生命力から頂くとしようか。』
白い男がうっそりと笑い、扇子を構える。
それを見て、わたしは思わずさけんだ。
「や……やめて! 近づかないで!」
はっ、はっ。
肩で息をしながら、わたしはこちらのさけび声に足を止めた男をにらみつけた。
……あの男が誰なのかも、何が起こっているのかも、何もわからない。
何もわからないけど、このままじゃ、この学校にいる全員が死んでしまうということだけは、ヒシヒシと肌で感じる。
今この場で起きているのが、わたしだけなら。
わたしが、どうにかしなきゃ……!
「転入、生……やめろ、大人しくしてろ……!」
百城くんが苦しげにうめきながらも、起き上がろうとする。
『そうだ小娘。そう急がずとも、貴様はこの童の次に喰ろうてやるぞ?』
「喰らう……やっぱりあなたは言い伝えの、鬼……ってこと?」
『ふ、ははは! そうよ。俺は鬼。貴様のはるか彼方の先祖に、鏡に封じられた、【原初】の鬼が一柱――氷の王だ。』
「鏡……って、まさか!」
あの、わたしの、ペンダントのミラーが……⁉
一気に顔を青くしたわたしを見て、白い男は愉快そうに笑って、言った。
『その通り。あの小さな鬼封じの鏡は、二千年間俺を封じ込めていた呪具だったのだ!』
(そんな……!)
じゃあ、この白い男、氷の王とやらが出てきてしまったのは、鏡が割れたから?
わたし、そんな……そんなこと、知らなかった。鏡の中に、こんなのが閉じ込められていたなんて!
『よい表情だな、木花の小娘よ。おのれのせいで俺が出てきてしまったのが、衝撃的か?』
「……っ、」
『お前がもっとこれを丁重に扱っていたら、俺を封じたままでいられたかもしれんのになあ?』
「そいつの言葉を聞くな、転入生!」
なんとか上体を起こした百城くんが、さけぶ。
「絶望させて、抵抗する気力を失わせてから生命力を吸い取るのは、鬼の常套手段だ!」
(でも、そんなこと言われても……っ。)
わたしのせいで、こんなことになっちゃったのは、本当のことだ。
知らなかったで、済まされるはずない。
巻き込まれたのは、自分だけならまだいい。でも、みんな、巻き込まれてしまっている。
こんな極寒の中じゃ、みんな死んでしまう。
このまま校内のみんなを死なせるなんて、ゼッタイにダメだ――!
「お願い、やめて、みんなを殺すのは……っ。」
『ほう?』
寒さと恐怖にがくがく震える足を、身体を叱咤して、立ち上がる。
……おばあちゃんが、強い心を持って生きろ、って言ってたのは、きっとこの鬼に付け入られる隙を作らないためだっだんだろう。だから、強い心を持つことで、お守り『が』効くんじゃなくて、お守り『に』効くって、そう言ってたんだ。
それなのに、わたしは、まんまとこいつを鏡から解き放ってしまった。
――その責任は、取らなければ。
「わたしの生命力をあげる。」
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