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氷の王 1
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――一瞬、何が起きたのか、わからなかった。
「……え?」
寒い。
寒い、寒い……寒い!
瞬時に、頭がその言葉でうめつくされる。反射的に自分をだきしめるように身を縮めた。
「なに、これ……!」
気がつけば、辺り一面が銀世界になっていた。
雪が降っているわけじゃない。校舎ごと凍らされたように、視界に入るすべてが真っ白になっているのだ。
見れば、セーラー服やソックスに霜が降りている。
こんなの、ありえない。だって、今は六月のはず。
ついさっきまで、蒸し暑いくらいだったのに!
(うそでしょ、なにこれ、夢……⁉)
大きく息を吸い込むと、空気が冷たすぎて肺が鋭く痛んだ。思わずうめいてうずくまる。
……夢じゃない。こんな痛みを感じるのに、こんな寒さを覚えるのに、夢のはずがない。
目の前で起こっていることは、紛れもなく現実だ……!
(どうして、こんなことに? ミラーが割れて、それで、気が付いたら……!)
短く息をしながら辺りを見回してみれば、茉莉花ちゃんが地面に倒れていた。
いや、茉莉花ちゃんだけじゃない。メイちゃんもろうかの壁に寄りかかって座り込んだまま動かないし、他にろうかにいた生徒も地面に伏している。
「みんな……っ!」
駆け寄ろうとして、冷たさのあまり手足がほとんど動かないことに気がついた。
これ、学校中、こうなってるの?
外は? 外はどうなってるの? 窓も真っ白で、外が見えない……!
どうしよう。このままでは。
『素晴らしい! 封印が解かれて――実に二千年ぶりの現世だ!』
刹那、ぞわり、と背筋が震えた。
この、声。さっきの笑い声と、同じ……!
『手始めに、この学び舎にいる人間と鬼の生命力をまとめて喰ろうてやるわ。いまいましい退治屋の連中を皆殺しにしてやるにしても、これでは力が足りぬ……!』
見ると、
そこには、美貌の男が立っていた。
雪のように真っ白な髪。透き通るような白い肌。硬質に光る銀色の瞳。冬そのものが人のかたちをしてそこにいると言われても、ああそうなんだ、と納得してしまうような容姿。
人間とは思えないうつくしさを持つ男が、おぞましい笑い声を立てている――。
『……おや?』
白い着流しを着た美貌の男が、ちらりとこちらを見た。
あわてて顔をそむける前に目が合ってしまい、全身が凍りついたように動かなくなる。
男が、ニィ、と笑う。
『まだ起きていられる人間がいるとは、驚きだ。』
「……っ!」
怖い。誰なの、この人。いつ、どこから現れたの。
わからない。わからないけど……この男が、今のこの状況を作ったってことだけは、わかる……!
『なるほど、俺をここに封じ込めた木花の家の人間か。衰退したとはいえ退治屋の家系、生命力がふつうの人間よりも強いらしい。』
ひた、ひた。
美しい顔に凄絶な笑みを浮かべた男が、ゆっくりとこちらに近寄ってくる。
何、なんなの、いやだ、怖い。
(来ないで――!)
パリン!
ぎゅ、と強く目をつむったその瞬間。
はじけるような音がして、窓が割れた。
そして、ずしゃ、という音とともに、人が外から転がり込んでくる――ってえっっ⁉ 外から、人が⁉
(ウソでしょ⁉ ここ、三階だよ……⁉)
恐怖も忘れてあ然としていると、窓ガラスを破って中に転がり込んできた人影が、ゆっくりと立ち上がった。
霜が降りたガラスの破片を服からはたき落としながら、わたしと男の間に立ちふさがったその人は――。
「百城くん……⁉」
「……え?」
寒い。
寒い、寒い……寒い!
瞬時に、頭がその言葉でうめつくされる。反射的に自分をだきしめるように身を縮めた。
「なに、これ……!」
気がつけば、辺り一面が銀世界になっていた。
雪が降っているわけじゃない。校舎ごと凍らされたように、視界に入るすべてが真っ白になっているのだ。
見れば、セーラー服やソックスに霜が降りている。
こんなの、ありえない。だって、今は六月のはず。
ついさっきまで、蒸し暑いくらいだったのに!
(うそでしょ、なにこれ、夢……⁉)
大きく息を吸い込むと、空気が冷たすぎて肺が鋭く痛んだ。思わずうめいてうずくまる。
……夢じゃない。こんな痛みを感じるのに、こんな寒さを覚えるのに、夢のはずがない。
目の前で起こっていることは、紛れもなく現実だ……!
(どうして、こんなことに? ミラーが割れて、それで、気が付いたら……!)
短く息をしながら辺りを見回してみれば、茉莉花ちゃんが地面に倒れていた。
いや、茉莉花ちゃんだけじゃない。メイちゃんもろうかの壁に寄りかかって座り込んだまま動かないし、他にろうかにいた生徒も地面に伏している。
「みんな……っ!」
駆け寄ろうとして、冷たさのあまり手足がほとんど動かないことに気がついた。
これ、学校中、こうなってるの?
外は? 外はどうなってるの? 窓も真っ白で、外が見えない……!
どうしよう。このままでは。
『素晴らしい! 封印が解かれて――実に二千年ぶりの現世だ!』
刹那、ぞわり、と背筋が震えた。
この、声。さっきの笑い声と、同じ……!
『手始めに、この学び舎にいる人間と鬼の生命力をまとめて喰ろうてやるわ。いまいましい退治屋の連中を皆殺しにしてやるにしても、これでは力が足りぬ……!』
見ると、
そこには、美貌の男が立っていた。
雪のように真っ白な髪。透き通るような白い肌。硬質に光る銀色の瞳。冬そのものが人のかたちをしてそこにいると言われても、ああそうなんだ、と納得してしまうような容姿。
人間とは思えないうつくしさを持つ男が、おぞましい笑い声を立てている――。
『……おや?』
白い着流しを着た美貌の男が、ちらりとこちらを見た。
あわてて顔をそむける前に目が合ってしまい、全身が凍りついたように動かなくなる。
男が、ニィ、と笑う。
『まだ起きていられる人間がいるとは、驚きだ。』
「……っ!」
怖い。誰なの、この人。いつ、どこから現れたの。
わからない。わからないけど……この男が、今のこの状況を作ったってことだけは、わかる……!
『なるほど、俺をここに封じ込めた木花の家の人間か。衰退したとはいえ退治屋の家系、生命力がふつうの人間よりも強いらしい。』
ひた、ひた。
美しい顔に凄絶な笑みを浮かべた男が、ゆっくりとこちらに近寄ってくる。
何、なんなの、いやだ、怖い。
(来ないで――!)
パリン!
ぎゅ、と強く目をつむったその瞬間。
はじけるような音がして、窓が割れた。
そして、ずしゃ、という音とともに、人が外から転がり込んでくる――ってえっっ⁉ 外から、人が⁉
(ウソでしょ⁉ ここ、三階だよ……⁉)
恐怖も忘れてあ然としていると、窓ガラスを破って中に転がり込んできた人影が、ゆっくりと立ち上がった。
霜が降りたガラスの破片を服からはたき落としながら、わたしと男の間に立ちふさがったその人は――。
「百城くん……⁉」
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