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はじまり 5
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「楽しそうな話、してるね?」
ふと軽やかな声がしたかと思うと、目の前には茉莉花ちゃんがいた。どうやら、今、登校してきてらしい。やば、というようにメイちゃんが顔を青ざめさせている。
この様子だとやっぱり、茉莉花ちゃんの前で百城くんのことを話すのはNGのようだ。
「ねぇねぇ、ユキちゃん、ちょっといい? あたし、聞きたいことがあるんだけど。」
「え、っと……。」
「なあに? いいでしょ?」
スクールバッグを自分の机の上に置いた茉莉花ちゃんが、ぐっ、とわたしの手をつかむ。
笑顔だけど、目が笑っていない。ぞっ、と背中の毛が逆立った。
「ほら、あっち行こっ!」
「ちょ、ちょっと茉莉花ちゃ……。」
強引に引っ張られ、席を立つ。
そのまま引っ張らながら教室を出て、少し歩く。どこに行くんだろうと不安になってきた時、ぴた、と茉莉花ちゃんが足を止めた。そして、こちらを振り返る。
「……ねえ、ユキちゃん。昨日の放課後、宗くんと二人でしゃべってたんだってね。」
「えっ……。」
わたしが目を見張ると、茉莉花ちゃんは険しい顔で、「知り合いの先輩に聞いたの。」と言う。
「あたし、言ったよね。宗くんを独り占めするのはルール違反なんだよって。それなのに、どういうつもりなの?」
「いや、それはっ。わたし、ただ……。」
「宗くんはあたしのトクベツで、あたしの恩人なのっ!」
変なこと聞かれただけで、と。
……そう言い訳するより先に、茉莉花ちゃんが声を張り上げた。
「でも、宗くんはトクベツを作らないから、あたしもただのファンでガマンしてる。告白したら、メーワクになるから……でも!」
キッ、と尖った目で、思い切りにらみつけられる。
「自分だけ抜け駆けして、しかも宗くんに迷惑かけようなんて、あたしゼッタイに許さないから。」
「ま、茉莉花ちゃん……?」
そう言うと、茉莉花ちゃんはふい、と顔をそむけて教室へ戻ろうとする。
……ギラギラした目の茉莉花ちゃんは、正直怖かった。
怖かったけど……どちらかというと、好奇心の方が勝った。
だから、わたしはあわてて、横を通り過ぎようとする茉莉花ちゃんの手をつかんだ。
「待って、茉莉花ちゃん! 百城くんが恩人って、どういうこと?」
「な……なによ、あんたには関係ないでしょっ!」
「そ、それは……っ。」
思い出すのは、昨日の朝のこと。百城くんが、あの手をふみつぶした時。
……やっぱり、あれって、わたしを助けてくれたんじゃないの?
「ッ、離してよ!」
「わっ!」
思いっきり手を振り払われ、よろける。
すると、そのはずみで、チャリ、と小さな金属音がした。
あっ、と思うも、茉莉花ちゃんも気づいたらしい。眉を寄せると、わたしの首に手を伸ばし――セーラー服の襟から覗いたペンダントをつまんだ。
「何これ。アクセサリー? 校則違反じゃない。」
「ち、ちがうよ、それはお守りで……!」
「お守り? これが?」
「あっ。」
茉莉花ちゃんがさっ、とわたしの首からペンダントを外した。そして手に取ったそれをまじまじと見つめ、「ウソ。どう見てもアクセサリーでしょ、これ。」と吐き捨てる。
「か、返して。それ、大切なものなの。肌身離さずつけてろって、言われてて……。」
「はあ? イヤだけど。そもそもアクセサリーは校則違反だし、先生にはあたしから渡しといてあげる。」
「ちょ……!」
「やめなよ、茉莉花! ペンダント、返してあげて!」
「は?」
突然の声に、茉莉花ちゃんが顔をしかめる。
声の主はメイちゃんだった。真っ青な顔で、すぐそこに立っている。
全然気づかなかったけど、どうやらわたしを心配して来てくれたらしい。
「何、メイ。あんた、あたしに文句でもあるの?」
「ちがうよ茉莉花。文句なんかない。でも早くそれ、ユキちゃんに渡して!」
「メイちゃん……。」
わたしは、必死に言いつのってくれるメイちゃんに感動して、声を漏らす。
対して茉莉花ちゃんは、怒ったようにギリッと歯を食いしばると、「なんなのよ、人を悪者みたいに。」と低い声で言った。
「ッ、いいよ、返せばいいんでしょ。こんなの、別にどうだっていいし!」
「あっ!」
茉莉花ちゃんが、勢いよくペンダントをわたしに向かって投げつける。
そんな思いっきり投げても、受け止められない!
「っ、」
案の定、ペンダントはわたしの手に当たって、地面に落ちて。
パリンと、小さく音を立てて、ミラーが割れて。
そして――次の瞬間だった。
『ふ、ははははははは‼』
美しくもおぞましい、ナゾの、大きな笑い声が響き。
――その場が、極寒の地に変わったのは。
ふと軽やかな声がしたかと思うと、目の前には茉莉花ちゃんがいた。どうやら、今、登校してきてらしい。やば、というようにメイちゃんが顔を青ざめさせている。
この様子だとやっぱり、茉莉花ちゃんの前で百城くんのことを話すのはNGのようだ。
「ねぇねぇ、ユキちゃん、ちょっといい? あたし、聞きたいことがあるんだけど。」
「え、っと……。」
「なあに? いいでしょ?」
スクールバッグを自分の机の上に置いた茉莉花ちゃんが、ぐっ、とわたしの手をつかむ。
笑顔だけど、目が笑っていない。ぞっ、と背中の毛が逆立った。
「ほら、あっち行こっ!」
「ちょ、ちょっと茉莉花ちゃ……。」
強引に引っ張られ、席を立つ。
そのまま引っ張らながら教室を出て、少し歩く。どこに行くんだろうと不安になってきた時、ぴた、と茉莉花ちゃんが足を止めた。そして、こちらを振り返る。
「……ねえ、ユキちゃん。昨日の放課後、宗くんと二人でしゃべってたんだってね。」
「えっ……。」
わたしが目を見張ると、茉莉花ちゃんは険しい顔で、「知り合いの先輩に聞いたの。」と言う。
「あたし、言ったよね。宗くんを独り占めするのはルール違反なんだよって。それなのに、どういうつもりなの?」
「いや、それはっ。わたし、ただ……。」
「宗くんはあたしのトクベツで、あたしの恩人なのっ!」
変なこと聞かれただけで、と。
……そう言い訳するより先に、茉莉花ちゃんが声を張り上げた。
「でも、宗くんはトクベツを作らないから、あたしもただのファンでガマンしてる。告白したら、メーワクになるから……でも!」
キッ、と尖った目で、思い切りにらみつけられる。
「自分だけ抜け駆けして、しかも宗くんに迷惑かけようなんて、あたしゼッタイに許さないから。」
「ま、茉莉花ちゃん……?」
そう言うと、茉莉花ちゃんはふい、と顔をそむけて教室へ戻ろうとする。
……ギラギラした目の茉莉花ちゃんは、正直怖かった。
怖かったけど……どちらかというと、好奇心の方が勝った。
だから、わたしはあわてて、横を通り過ぎようとする茉莉花ちゃんの手をつかんだ。
「待って、茉莉花ちゃん! 百城くんが恩人って、どういうこと?」
「な……なによ、あんたには関係ないでしょっ!」
「そ、それは……っ。」
思い出すのは、昨日の朝のこと。百城くんが、あの手をふみつぶした時。
……やっぱり、あれって、わたしを助けてくれたんじゃないの?
「ッ、離してよ!」
「わっ!」
思いっきり手を振り払われ、よろける。
すると、そのはずみで、チャリ、と小さな金属音がした。
あっ、と思うも、茉莉花ちゃんも気づいたらしい。眉を寄せると、わたしの首に手を伸ばし――セーラー服の襟から覗いたペンダントをつまんだ。
「何これ。アクセサリー? 校則違反じゃない。」
「ち、ちがうよ、それはお守りで……!」
「お守り? これが?」
「あっ。」
茉莉花ちゃんがさっ、とわたしの首からペンダントを外した。そして手に取ったそれをまじまじと見つめ、「ウソ。どう見てもアクセサリーでしょ、これ。」と吐き捨てる。
「か、返して。それ、大切なものなの。肌身離さずつけてろって、言われてて……。」
「はあ? イヤだけど。そもそもアクセサリーは校則違反だし、先生にはあたしから渡しといてあげる。」
「ちょ……!」
「やめなよ、茉莉花! ペンダント、返してあげて!」
「は?」
突然の声に、茉莉花ちゃんが顔をしかめる。
声の主はメイちゃんだった。真っ青な顔で、すぐそこに立っている。
全然気づかなかったけど、どうやらわたしを心配して来てくれたらしい。
「何、メイ。あんた、あたしに文句でもあるの?」
「ちがうよ茉莉花。文句なんかない。でも早くそれ、ユキちゃんに渡して!」
「メイちゃん……。」
わたしは、必死に言いつのってくれるメイちゃんに感動して、声を漏らす。
対して茉莉花ちゃんは、怒ったようにギリッと歯を食いしばると、「なんなのよ、人を悪者みたいに。」と低い声で言った。
「ッ、いいよ、返せばいいんでしょ。こんなの、別にどうだっていいし!」
「あっ!」
茉莉花ちゃんが、勢いよくペンダントをわたしに向かって投げつける。
そんな思いっきり投げても、受け止められない!
「っ、」
案の定、ペンダントはわたしの手に当たって、地面に落ちて。
パリンと、小さく音を立てて、ミラーが割れて。
そして――次の瞬間だった。
『ふ、ははははははは‼』
美しくもおぞましい、ナゾの、大きな笑い声が響き。
――その場が、極寒の地に変わったのは。
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