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決着 5
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Sと護衛の男が警察の人に放送室から連れ出されていく。
それをぼんやりと見つめながら、わたしとスバルくんはその場に立ち尽くしていた。
スバルくんの持っていた銃も、抜き取った実弾も既に警察の人に回収されていた。彼の手にあるのはさっき、Sに渡されたメモ用紙だけ。
「あの、スバルくん。」
「……何?」
わたしの方を見ずに、スバルくんが短く応える。
返事をしてくれたことにほっとして、わたしはおそるおそる彼の持つメモを指さした。
「それ、そこに、何が書いてあったの……?」
「ああ、これか。連絡先だよ。」
「連絡先?」
ああ、とスバルくんが淡々と言った。
「……組織の連絡先ってことだろうね。」
「えっ。」
思わず、息を呑む。
スバルくんは自嘲するように笑うと、紙を見下ろした。
「オレがその気になったらここに連絡しろって、多分、そういうことだろ。」
――その気になったら、連絡。
それって、万が一スバルくんが組織ってところに入りたくなったら、ここに連絡すれば、スバルくんはその人たちの仲間になっちゃうってこと……?
「そ、そんなのだめだよっ。」
そう考えたら思わず、スバルくんの手からメモ用紙をひったくってしまっていた。
スバルくんが面食らったようにわたしを見る。無理やりわたしがメモを奪ったことに驚いてるんだろう。
「ご、ごめんなさい。でも、こんなとこに連絡なんてしちゃだめだよ!」
「こころ……。」
「わたしは、君のことを道具だなんて言うやつらに、絶対に渡さない……っ!」
メモを持つ手に力を入れる。……こんなものっ!
ビリビリビリッ、と破けた紙に、スバルくんが一瞬「あっ」という顔をしたのが見えたけど、わたしはかまわずさらに細かく破っていく。
そうだよ、絶対にスバルくんは渡さない。だって。
「――スバルくんは道具なんかじゃなくて、わたしの大切な弟なんだから!」
えいっ、と。
放送室の窓から細かい紙片を投げ捨てる。
風に乗って舞いながら飛んでいくそれらを唖然として見つめながら、スバルくんがぼそりと一言。
「……ポイ捨て」
「ウッ」
容赦なく告げられたその言葉に、わたしはうめき声を漏らした。
た、たしかに。これって立派な不法投棄だ……。
ゴミ箱に捨てればよかった、と落ち込んでいると、スバルくんが唐突に「ははっ」と笑った。ひどく、おかしそうに。
「別に最初からあいつらの仲間になる気なんてないのに。何やってんの、こころ。」
「えっ。」
目をまたたかせる。スバルくんはなおもおかしそうに笑いながら、「それに。」と続ける
「重要な証拠、破り捨てて。もったいないな、もう。」
「えっ、えっ?」
「あれを警察に渡してれば、Sが所属する組織とやらも少しは詳細がわかったかもしれないのにな。」
「あっ」
あーーーーーーっ‼
わたしは声なきさけびを上げ、あわてて窓に駆け寄る。
どうしよう! 拾い集めるにももう、行方がわからないよ!
「すっ、スバルくん! わかってるなら早く言ってよ!」
「止める暇もなかったよ。ふふ、全くやってくれたよな。」
「わー! ど、どうしようっ!」
笑いつづけているスバルくんをにらんでから、わたしは放送室を出ようと扉に手をかける。早く拾い集めないと、ほんとにどうしようもなくなっちゃう!
しかしわたしが放送室を出る前に、スバルくんに腕をつかまれた。
「スバルくん? 何――」
振り返って固まる。
わたしの腕をつかんでいたスバルくんが、穏やかで優しく笑っていたからだ。
「ありがとう」
向けられたのは、短いお礼。何に対してのお礼なのかも、わからない。
でも、むくむくと嬉しい気持ちが湧き上がってきて、わたしも笑顔になった。
そして言った。
「どういたしまして!」
Sと護衛の男が警察の人に放送室から連れ出されていく。
それをぼんやりと見つめながら、わたしとスバルくんはその場に立ち尽くしていた。
スバルくんの持っていた銃も、抜き取った実弾も既に警察の人に回収されていた。彼の手にあるのはさっき、Sに渡されたメモ用紙だけ。
「あの、スバルくん。」
「……何?」
わたしの方を見ずに、スバルくんが短く応える。
返事をしてくれたことにほっとして、わたしはおそるおそる彼の持つメモを指さした。
「それ、そこに、何が書いてあったの……?」
「ああ、これか。連絡先だよ。」
「連絡先?」
ああ、とスバルくんが淡々と言った。
「……組織の連絡先ってことだろうね。」
「えっ。」
思わず、息を呑む。
スバルくんは自嘲するように笑うと、紙を見下ろした。
「オレがその気になったらここに連絡しろって、多分、そういうことだろ。」
――その気になったら、連絡。
それって、万が一スバルくんが組織ってところに入りたくなったら、ここに連絡すれば、スバルくんはその人たちの仲間になっちゃうってこと……?
「そ、そんなのだめだよっ。」
そう考えたら思わず、スバルくんの手からメモ用紙をひったくってしまっていた。
スバルくんが面食らったようにわたしを見る。無理やりわたしがメモを奪ったことに驚いてるんだろう。
「ご、ごめんなさい。でも、こんなとこに連絡なんてしちゃだめだよ!」
「こころ……。」
「わたしは、君のことを道具だなんて言うやつらに、絶対に渡さない……っ!」
メモを持つ手に力を入れる。……こんなものっ!
ビリビリビリッ、と破けた紙に、スバルくんが一瞬「あっ」という顔をしたのが見えたけど、わたしはかまわずさらに細かく破っていく。
そうだよ、絶対にスバルくんは渡さない。だって。
「――スバルくんは道具なんかじゃなくて、わたしの大切な弟なんだから!」
えいっ、と。
放送室の窓から細かい紙片を投げ捨てる。
風に乗って舞いながら飛んでいくそれらを唖然として見つめながら、スバルくんがぼそりと一言。
「……ポイ捨て」
「ウッ」
容赦なく告げられたその言葉に、わたしはうめき声を漏らした。
た、たしかに。これって立派な不法投棄だ……。
ゴミ箱に捨てればよかった、と落ち込んでいると、スバルくんが唐突に「ははっ」と笑った。ひどく、おかしそうに。
「別に最初からあいつらの仲間になる気なんてないのに。何やってんの、こころ。」
「えっ。」
目をまたたかせる。スバルくんはなおもおかしそうに笑いながら、「それに。」と続ける
「重要な証拠、破り捨てて。もったいないな、もう。」
「えっ、えっ?」
「あれを警察に渡してれば、Sが所属する組織とやらも少しは詳細がわかったかもしれないのにな。」
「あっ」
あーーーーーーっ‼
わたしは声なきさけびを上げ、あわてて窓に駆け寄る。
どうしよう! 拾い集めるにももう、行方がわからないよ!
「すっ、スバルくん! わかってるなら早く言ってよ!」
「止める暇もなかったよ。ふふ、全くやってくれたよな。」
「わー! ど、どうしようっ!」
笑いつづけているスバルくんをにらんでから、わたしは放送室を出ようと扉に手をかける。早く拾い集めないと、ほんとにどうしようもなくなっちゃう!
しかしわたしが放送室を出る前に、スバルくんに腕をつかまれた。
「スバルくん? 何――」
振り返って固まる。
わたしの腕をつかんでいたスバルくんが、穏やかで優しく笑っていたからだ。
「ありがとう」
向けられたのは、短いお礼。何に対してのお礼なのかも、わからない。
でも、むくむくと嬉しい気持ちが湧き上がってきて、わたしも笑顔になった。
そして言った。
「どういたしまして!」
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