名探偵が弟になりまして

雨音

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「はあ? お前、何を……!」
 スバルくんが目を見開く。しかし、Sは「本気だ」と口角を上げた。
「あの、宝石強盗事件。実はあれは、うちの組織の末端のメンバーが起こした事件でな。」
「なんだと……⁉」
「そいつらが、『数年姿を消していた名探偵・時浦昴を現場で見た』という報告を、総帥に上げたんだ。そして、総帥はそれを聞き、お前をこの組織に入れることを望んだ。今回の桜傑学園襲撃は、お前を勧誘するために起こした事件でもあったんだよ。」
「そんな……。」
 あまりのことに、わたしとスバルくんはそろって絶句する。
 まさか、あの宝石強盗事件も、『組織』の関係者が起こしたもので……そのせいで、スバルくんが狙われることになっていた、だなんて。
「それから、名探偵。お前は自分の過去を隠しているだろう? 俺はその理由を知ってる。」
「!」
「だがお前のその頭脳、のまま隠すには惜しい! だから存分に組織で振るえ! お前さえ総帥の元につけば、組織は安泰だ。俺が捕まった甲斐があるってもんだ。総帥ならお前の頭脳を、推理力を必ず役立ててくれる! お前は素晴らしい道具だ!」

「――バカにしないで!」

気づいたら、わたしはSに向かってさけんでいた。
いきなりのさけびに、スバルくんが驚いたようにわたしを振り返る。
……でも、今の自分の行動に一番驚いたのはわたしだった。
こんなふうに大きな声で誰かに反論したことなんて、ほとんどなかったことだったから。
「スバルくんは、あなたたちみたいなのの仲間になるような人じゃない!」
言い切った。
スバルくんはどこか唖然としながら、ぼそっと「こころ……。」とわたしの方を見てつぶやく。
「……そんな話には乗らない、か。それはどうかな」
まるでこちらの反応を楽しむような声に、スバルくんが眉を寄せ、わたしはぶるりと身震いする。
Sの表情はもはや、敗北した者のそれなんかじゃなかった。
これから警察につかまるけれど、それを全く苦に思ってないというような顔。
「お嬢さん、お前はこの時浦昴の何を知ってる? かつてこいつが名探偵だったということには驚いていなかったが、知っていたのはそれだけか?」
「おい、やめろ!」
スバルくんが始めて明確に怒りを表情にあらわした。
Sはそれを面白そうに横目で見ながら、わたしに視線を寄越した。
「……なら、どうしてこいつが『名探偵』をやめたのかは、知ってるか?」
スバルくんがやめろ、と苦しげな表情でもう一度言った
スバルくんがこんなに焦っているのは、憔悴しているのはじめて見る。
やっぱり、二年前のことはスバルくんにとってそんなに知られたくないことなの?
……そして、わたしの沈黙を、『知らない』という答えととらえたんだろう。Sがさらに嫌な笑みを深めた。
「知らないなら、教えてやるよ。時浦昴……こいつはな、」
Sがそう言って振り向いた、その瞬間――パトカーのサイレンが聞こえてきた。
警察が到着したのだ。
「残念だ。勧誘は時間切れだな。」
Sはふう、と息をつくと、放送器具の近くにあったメモ用紙とボールペンに何かを書きつける。
そしてそれを、銃を持っていない方のスバルくんの手に押し付けた。

「だがいつでも我々は、お前を歓迎するぞ。『名探偵』」

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