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決着 3
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――わたしたち二人と、Sとその護衛との勝敗は決したけれど、放送室の中の空気は相変わらず張り詰めたままだった。
爆弾は解除したし、Sを人質にとっているのはたしかだけど……放送室を奪還したのがわかるからといって、仲間の犯人たちが本当にSが人質にとられていると信じるかはわからない。
まだ、全然安心することはできない。
さゆり、みんな。どうか、どうか何もありませんように。
もう職員室の先生たち、警察に通報してくれたかな。
「くっふ、」
唐突に。
スバルくんに銃を向けられていたSが肩を揺らした。
「くっはははははは! さすがだな、名探偵!」
「っ⁉」
いきなりの哄笑に、わたしとスバルくんは目を見開いて身構える。
な、なに⁉ なんでいきなり、笑ってるの……?
「動くな。いきなりなんなんだ?」
「そう警戒するな。……勝敗は決まったんだ。俺は別にもう何もしない。」
「はあ?」
スバルくんが不快そうな声を漏らす。わたしは混乱して眉を寄せる。
しかしSはそんなわたしたちの様子など、どこ吹く風だ。
というか、今、『名探偵』って言ったけど……どうしてSが、スバルくんが昔探偵だったことを知ってるんだろう。
スバルくんも、そのことを疑問に思ったらしい。きびしい口調でSに問うた。
「なんでお前がオレのことを知ってる? オレの過去については、警察内部でも秘められて久しいはずだ。」
「まあ、ちょいと上の人間がな。」
にや、とSが笑って答える。
上の人間……って、ちょっと待って。
まさか、Sの上にも、まだだれかいるってこと? Sは、犯罪グループの、リーダーではない……⁉
スバルくんが、まさか、とつぶやいてSを見た。
「……『桜傑学園の隠し財産』が実在するとお前に知らせたのは、その『上の人間』なのか?」
「いいや、それは違う。隠し財産っていうのは実は、先代理事長のものなんだが……俺はここの先代理事長の遠縁なんだよ。」
「えっ!」
驚いて、声を上げる。
しかしスバルくんは眉一つ動かさなかった。
「……そう。お前、やっぱり学園関係者だったんだな。」
「や、やっぱり?」
その、まるでわかっていたような口ぶりにわたしが思わず声を上げると、スバルくんが「覚えてないの?」と言ってわたしを振り返った。
「こいつの仲間が、この学園じゃケータイやスマホは朝に教師に回収されるってことを誰に教わるでもなく知ってただろ。そんな内輪の習慣が、一般で知られてるわけがない。ということは、こいつらの仲間に学園関係者がいるってことになる。」
「あ……!」
た、たしかに。クラスにいた男は、わたしたちからケータイやスマホを没収しようとしなかった。
先生たちが朝に集めて職員室に置いておくってこと、あらかじめ知っていたっぽかったもんね。なら当然、学園内の習慣にくわしい人間が、彼らの中にいるということになる。
「じゃあ次。こっちが本命。」
スバルくんの声が、一段、低く沈む。
「――オレが以前、探偵をやっていたことは、その『上の人間』に聞いたのか?」
スバルくんの冷たい声に、まるでわたしたちを包む空気まで冷えていくようだ。
わたしは鳥肌の立った腕をおさえながら、スバルくんの背中を見つめる。
Sが笑って言った。
「そう。俺の所属する組織の上司に聞いたのさ。」
所属する、組織――?
そんな、まさか。わたしはいよいよ混乱して声も出せない。
彼らはただの、犯罪グループじゃなくて、もっと大きな組織のメンバーだったってこと?
「警察にすら重宝された頭脳を持つ、たった十一歳の少年。そんな名探偵が、いきなり二年前、姿を消したことも、俺は知っていた。組織のやつにいつだったか、お前のことを聞かされたことがあったからな。」
「お前の今回の学園襲撃も、その組織から出された命令だったってこと?」
「まあ、そういうことになるな。悪党にも金が必要なんでね。」
なんてことだ。わたしはさらに蒼白になる。
……でも、そうか。おかしいとは、ちょっと思ってたから。
だってこんな大きな事件をおかせば、たとえお金を奪えても、Sたちが長く逃げ続けられるとは思えない。遊ぶお金ほしさに起こす悪事にしては、危なすぎる。
――つまりSたちは、自分から、その組織の捨て駒になりにきたんだ。
「そこでだ、時浦昴。お前に一つ提案がある。」
唐突なSの言葉に、スバルくんもいぶかしげに「は?」と声を漏らした。
Sが、にやりと邪悪に笑う。
「――うちの組織に、入らないか?」
爆弾は解除したし、Sを人質にとっているのはたしかだけど……放送室を奪還したのがわかるからといって、仲間の犯人たちが本当にSが人質にとられていると信じるかはわからない。
まだ、全然安心することはできない。
さゆり、みんな。どうか、どうか何もありませんように。
もう職員室の先生たち、警察に通報してくれたかな。
「くっふ、」
唐突に。
スバルくんに銃を向けられていたSが肩を揺らした。
「くっはははははは! さすがだな、名探偵!」
「っ⁉」
いきなりの哄笑に、わたしとスバルくんは目を見開いて身構える。
な、なに⁉ なんでいきなり、笑ってるの……?
「動くな。いきなりなんなんだ?」
「そう警戒するな。……勝敗は決まったんだ。俺は別にもう何もしない。」
「はあ?」
スバルくんが不快そうな声を漏らす。わたしは混乱して眉を寄せる。
しかしSはそんなわたしたちの様子など、どこ吹く風だ。
というか、今、『名探偵』って言ったけど……どうしてSが、スバルくんが昔探偵だったことを知ってるんだろう。
スバルくんも、そのことを疑問に思ったらしい。きびしい口調でSに問うた。
「なんでお前がオレのことを知ってる? オレの過去については、警察内部でも秘められて久しいはずだ。」
「まあ、ちょいと上の人間がな。」
にや、とSが笑って答える。
上の人間……って、ちょっと待って。
まさか、Sの上にも、まだだれかいるってこと? Sは、犯罪グループの、リーダーではない……⁉
スバルくんが、まさか、とつぶやいてSを見た。
「……『桜傑学園の隠し財産』が実在するとお前に知らせたのは、その『上の人間』なのか?」
「いいや、それは違う。隠し財産っていうのは実は、先代理事長のものなんだが……俺はここの先代理事長の遠縁なんだよ。」
「えっ!」
驚いて、声を上げる。
しかしスバルくんは眉一つ動かさなかった。
「……そう。お前、やっぱり学園関係者だったんだな。」
「や、やっぱり?」
その、まるでわかっていたような口ぶりにわたしが思わず声を上げると、スバルくんが「覚えてないの?」と言ってわたしを振り返った。
「こいつの仲間が、この学園じゃケータイやスマホは朝に教師に回収されるってことを誰に教わるでもなく知ってただろ。そんな内輪の習慣が、一般で知られてるわけがない。ということは、こいつらの仲間に学園関係者がいるってことになる。」
「あ……!」
た、たしかに。クラスにいた男は、わたしたちからケータイやスマホを没収しようとしなかった。
先生たちが朝に集めて職員室に置いておくってこと、あらかじめ知っていたっぽかったもんね。なら当然、学園内の習慣にくわしい人間が、彼らの中にいるということになる。
「じゃあ次。こっちが本命。」
スバルくんの声が、一段、低く沈む。
「――オレが以前、探偵をやっていたことは、その『上の人間』に聞いたのか?」
スバルくんの冷たい声に、まるでわたしたちを包む空気まで冷えていくようだ。
わたしは鳥肌の立った腕をおさえながら、スバルくんの背中を見つめる。
Sが笑って言った。
「そう。俺の所属する組織の上司に聞いたのさ。」
所属する、組織――?
そんな、まさか。わたしはいよいよ混乱して声も出せない。
彼らはただの、犯罪グループじゃなくて、もっと大きな組織のメンバーだったってこと?
「警察にすら重宝された頭脳を持つ、たった十一歳の少年。そんな名探偵が、いきなり二年前、姿を消したことも、俺は知っていた。組織のやつにいつだったか、お前のことを聞かされたことがあったからな。」
「お前の今回の学園襲撃も、その組織から出された命令だったってこと?」
「まあ、そういうことになるな。悪党にも金が必要なんでね。」
なんてことだ。わたしはさらに蒼白になる。
……でも、そうか。おかしいとは、ちょっと思ってたから。
だってこんな大きな事件をおかせば、たとえお金を奪えても、Sたちが長く逃げ続けられるとは思えない。遊ぶお金ほしさに起こす悪事にしては、危なすぎる。
――つまりSたちは、自分から、その組織の捨て駒になりにきたんだ。
「そこでだ、時浦昴。お前に一つ提案がある。」
唐突なSの言葉に、スバルくんもいぶかしげに「は?」と声を漏らした。
Sが、にやりと邪悪に笑う。
「――うちの組織に、入らないか?」
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