名探偵が弟になりまして

雨音

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スバルくんが、音もなく眉をしかめた。
「……どういう意味だ?」
「放送が聞こえなかったのか少年。爆発の方法は二通りあると言ったはずだが?」
そ、そうだ。
遠隔操作での起爆もできるんだった……!
そんな大事なことを完全に忘れてしまっていたことに、真っ青になる。
……どうしよう。Sの動きを止めたからって、スイッチを先に押されたら終わりだよ。
しかも、こちらにはSを撃つ覚悟なんてないけど、向こうはわたしたちやこの学校のことなんてどうとも思っていないはず。
爆弾は四つ解除したけど、西棟のものはまだ解除できてない。
それに、まだ他の爆弾が残っている可能性だってある。
完全に不利だ――。
「見回りや見張りを倒してここまでたどり着く度胸があるんだ、こっちに来るまできっと、映画の主人公みたいに爆弾を解除してきたんだろう? ……だがな。」
わたしの方をちらりと見たSが、さらに笑みを深めた。
「そちらのお嬢ちゃんの様子じゃ全部の爆弾の解除は終わってないらしい。」
「っ!」
どうしよう、読まれた。その通りだ。爆弾は解除しきれていない。
ごめん、スバルくん、わたしのせいで作戦が……!
わたしは、焦ってスバルくんを見た。
……しかし彼の表情は、まったく揺らいでいなかった。

「そんな嘘は通じない。」

冷え冷えとした声で言ったスバルくんが、するどく目を細める。
ぐ、と銃口を強く押し付けられて、う、とSがいまいましげにうめいた。
え……どういうこと?
「隠し財産を見つけて、逃亡のことまで考えてるやつに、学校と心中する気があるとはとても思えない。このまま爆破なんてしたら自分たちも道連れになってしまうからだ――隠し財産も見つけられないまま。」
「ぐっ……。」
痛いところをつかれた、という顔をしたSがうめく。
……あっ、そうか。そうだよね。
だって、彼らの目的は隠し財産を奪って逃げることだった。
そして、爆弾は校舎を破壊することを目的とした場所にしかけていた。
爆弾を爆破させてしまったら、自分たちだって逃げ遅れたら死んでしまうかもしれない。
だったら、遠隔操作で起爆するなんて方法、とるはずないんだ――!
「くそっ!」
そう吐き捨てたSの手から、起爆スイッチがこぼれ落ちた。カシャン、と軽い音が放送室に響く。
そして、ゆっくりと両手を上げる。
スバルくんはそれをちらっと見ると、起爆スイッチを拾い上げ、軽く何か操作してから近くの机に置いた。
「これでよし。」
「ま、スバルくん、今、もしかして。」
 そのつぶやきを聞いて、目を丸くしながら思わずそう聞くと、彼はうん、とうなずいてからわずかにほほえんだ。
「爆弾は解除されたみたいだよ。」
「やっ――」

 やったああああ! 

 大柄な男をおさえたままなので、心の中でガッツポーズをする。
 これでもう、校舎が爆発されることも、火事が起きてみんなが巻き込まれることもない。
わたしやったよ、さゆり、お父さん……!
スバルくんはしばらくわたしの方を見て呆れたような微笑を浮かべていたけれど、ややあってから冷たい声でSに命じた。
「放送のスイッチを入れて。」
「……わかった。」
うなずいたSが、言われた通り放送器具をいじって、スイッチを入れたらしい。
スバルくんが銃口を突きつけたまま、マイクに口を近づける。
「この学校を占拠した犯人の一味に告ぐ。」
始まった放送に、わたしは肩で息をしながら聞き入る。
「校舎に仕掛けられた爆弾は全て解除し、あんたたちのボスは捕えた。ボスを無事に返してほしければ、大人しく投降しろ。……なお、」
そこで、スバルくんは大きく息を吸い込んだ。

「――もし人質の生徒たちや先生方に何かすれば、その際は容赦はしない。その点をよく考えて行動することをオススメする。」

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