名探偵が弟になりまして

雨音

文字の大きさ
上 下
23 / 28

決着 2

しおりを挟む
スバルくんが、音もなく眉をしかめた。
「……どういう意味だ?」
「放送が聞こえなかったのか少年。爆発の方法は二通りあると言ったはずだが?」
そ、そうだ。
遠隔操作での起爆もできるんだった……!
そんな大事なことを完全に忘れてしまっていたことに、真っ青になる。
……どうしよう。Sの動きを止めたからって、スイッチを先に押されたら終わりだよ。
しかも、こちらにはSを撃つ覚悟なんてないけど、向こうはわたしたちやこの学校のことなんてどうとも思っていないはず。
爆弾は四つ解除したけど、西棟のものはまだ解除できてない。
それに、まだ他の爆弾が残っている可能性だってある。
完全に不利だ――。
「見回りや見張りを倒してここまでたどり着く度胸があるんだ、こっちに来るまできっと、映画の主人公みたいに爆弾を解除してきたんだろう? ……だがな。」
わたしの方をちらりと見たSが、さらに笑みを深めた。
「そちらのお嬢ちゃんの様子じゃ全部の爆弾の解除は終わってないらしい。」
「っ!」
どうしよう、読まれた。その通りだ。爆弾は解除しきれていない。
ごめん、スバルくん、わたしのせいで作戦が……!
わたしは、焦ってスバルくんを見た。
……しかし彼の表情は、まったく揺らいでいなかった。

「そんな嘘は通じない。」

冷え冷えとした声で言ったスバルくんが、するどく目を細める。
ぐ、と銃口を強く押し付けられて、う、とSがいまいましげにうめいた。
え……どういうこと?
「隠し財産を見つけて、逃亡のことまで考えてるやつに、学校と心中する気があるとはとても思えない。このまま爆破なんてしたら自分たちも道連れになってしまうからだ――隠し財産も見つけられないまま。」
「ぐっ……。」
痛いところをつかれた、という顔をしたSがうめく。
……あっ、そうか。そうだよね。
だって、彼らの目的は隠し財産を奪って逃げることだった。
そして、爆弾は校舎を破壊することを目的とした場所にしかけていた。
爆弾を爆破させてしまったら、自分たちだって逃げ遅れたら死んでしまうかもしれない。
だったら、遠隔操作で起爆するなんて方法、とるはずないんだ――!
「くそっ!」
そう吐き捨てたSの手から、起爆スイッチがこぼれ落ちた。カシャン、と軽い音が放送室に響く。
そして、ゆっくりと両手を上げる。
スバルくんはそれをちらっと見ると、起爆スイッチを拾い上げ、軽く何か操作してから近くの机に置いた。
「これでよし。」
「ま、スバルくん、今、もしかして。」
 そのつぶやきを聞いて、目を丸くしながら思わずそう聞くと、彼はうん、とうなずいてからわずかにほほえんだ。
「爆弾は解除されたみたいだよ。」
「やっ――」

 やったああああ! 

 大柄な男をおさえたままなので、心の中でガッツポーズをする。
 これでもう、校舎が爆発されることも、火事が起きてみんなが巻き込まれることもない。
わたしやったよ、さゆり、お父さん……!
スバルくんはしばらくわたしの方を見て呆れたような微笑を浮かべていたけれど、ややあってから冷たい声でSに命じた。
「放送のスイッチを入れて。」
「……わかった。」
うなずいたSが、言われた通り放送器具をいじって、スイッチを入れたらしい。
スバルくんが銃口を突きつけたまま、マイクに口を近づける。
「この学校を占拠した犯人の一味に告ぐ。」
始まった放送に、わたしは肩で息をしながら聞き入る。
「校舎に仕掛けられた爆弾は全て解除し、あんたたちのボスは捕えた。ボスを無事に返してほしければ、大人しく投降しろ。……なお、」
そこで、スバルくんは大きく息を吸い込んだ。

「――もし人質の生徒たちや先生方に何かすれば、その際は容赦はしない。その点をよく考えて行動することをオススメする。」

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

お嬢様、お仕置の時間です。

moa
恋愛
私は御門 凛(みかど りん)、御門財閥の長女として産まれた。 両親は跡継ぎの息子が欲しかったようで女として産まれた私のことをよく思っていなかった。 私の世話は執事とメイド達がしてくれていた。 私が2歳になったとき、弟の御門 新(みかど あらた)が産まれた。 両親は念願の息子が産まれたことで私を執事とメイド達に渡し、新を連れて家を出ていってしまった。 新しい屋敷を建ててそこで暮らしているそうだが、必要な費用を送ってくれている以外は何も教えてくれてくれなかった。 私が小さい頃から執事としてずっと一緒にいる氷川 海(ひかわ かい)が身の回りの世話や勉強など色々してくれていた。 海は普段は優しくなんでもこなしてしまう完璧な執事。 しかし厳しいときは厳しくて怒らせるとすごく怖い。 海は執事としてずっと一緒にいると思っていたのにある日、私の中で何か特別な感情がある事に気付く。 しかし、愛を知らずに育ってきた私が愛と知るのは、まだ先の話。

お兄ちゃんはお医者さん!?

すず。
恋愛
持病持ちの高校1年生の女の子。 如月 陽菜(きさらぎ ひな) 病院が苦手。 如月 陽菜の主治医。25歳。 高橋 翔平(たかはし しょうへい) 内科医の医師。 ※このお話に出てくるものは 現実とは何の関係もございません。 ※治療法、病名など ほぼ知識なしで書かせて頂きました。 お楽しみください♪♪

体育教師に目を付けられ、理不尽な体罰を受ける女の子

恩知らずなわんこ
現代文学
入学したばかりの女の子が体育の先生から理不尽な体罰をされてしまうお話です。

生贄にされた先は、エロエロ神世界

雑煮
恋愛
村の習慣で50年に一度の生贄にされた少女。だが、少女を待っていたのはしではなくどエロい使命だった。

My Doctor

west forest
恋愛
#病気#医者#喘息#心臓病#高校生 病気系ですので、苦手な方は引き返してください。 初めて書くので読みにくい部分、誤字脱字等あると思いますが、ささやかな目で見ていただけると嬉しいです! 主人公:篠崎 奈々 (しのざき なな) 妹:篠崎 夏愛(しのざき なつめ) 医者:斎藤 拓海 (さいとう たくみ)

意味が分かると○○話

ゆーゆ
児童書・童話
すぐに読めちゃうショートショートストーリーズ! 意味が分かると、怖い話や、奇妙な話、時には感動ものまで?! 気軽に読んでみてね!

饕餮的童話集

饕餮
児童書・童話
泣ける童話、ほっこりする童話の置き場です。 更新はかなりゆっくりの、超不定期更新。

双葉病院小児病棟

moa
キャラ文芸
ここは双葉病院小児病棟。 病気と闘う子供たち、その病気を治すお医者さんたちの物語。 この双葉病院小児病棟には重い病気から身近な病気、たくさんの幅広い病気の子供たちが入院してきます。 すぐに治って退院していく子もいればそうでない子もいる。 メンタル面のケアも大事になってくる。 当病院は親の付き添いありでの入院は禁止とされています。 親がいると子供たちは甘えてしまうため、あえて離して治療するという方針。 【集中して治療をして早く治す】 それがこの病院のモットーです。 ※この物語はフィクションです。 実際の病院、治療とは異なることもあると思いますが暖かい目で見ていただけると幸いです。

処理中です...