名探偵が弟になりまして

雨音

文字の大きさ
上 下
19 / 28

協力 2

しおりを挟む
彼らのボスに爆弾を止めさせるというスバルくんに、わたしはびっくりして一瞬固まってしまった。
「そ、そんなこと本当にできるの? ボスに爆弾を止めさせるなんて……。」
「おそらくね。というより爆弾の種類も数もわからない以上、こういう場合は頭を取った方が早い。二十五分でできることなんてたかが知れてる。」
「なら、放送室に先に向かっちゃった方がいいんじゃ……?」
「いや、ボス、つまりSが、『実は爆弾を遠隔操作で解除できない』というケースも一応頭に入れて、最低限の爆弾は解除する。Sは自分たちが逃げてから爆弾が爆発するように設定してるはずだから、その可能性は普通にありうるよ。……それにどうせ放送室は西棟、東棟のここからじゃ遠すぎる。」
たしかに、そうかも。
わたしたちが通う桜傑学園は北棟、南棟、東棟、西棟、が中央にある中央棟と多目的広場を囲むように位置している。
わたしたち一年生のクラスがあるのは東棟、放送室があるのは西棟。まっすぐ向かっても中央棟か多目的広場を経由しなければならない。
「とりあえずここを移動しよう。あんまり同じ場所に留まっているのはまずいしね。」
「う、うん。」
辺りに人がいないのを確認し、二人で一緒に歩き出す。
わたしはうしろ、スバルくんは前。それぞれ警戒しながら進んでいく。
「それにしてもスバルくん、最低限の爆弾って……?」
「おそらくだけど、爆弾は校内に最低五個仕掛けられているから、そのこと。もちろんそれより多い可能性の方が高いけど、まずはその五個を止める。」
「五個って……もしかして棟の数?」
そう、とスバルくんはうなずいた。
「あいつらが爆弾をしかけた目的はたぶん主に二つ。一つは、オレたちの脅しに使うこと。銃を向けられるのに加えて爆弾の存在を匂わせられれば、普通の人間なら命の危険を強く感じ、正常な判断能力を奪われる。」
「な、なるほど。」
「そして二つ目は、爆発やそれにともなう火事騒ぎによって、逃げた後に駆けつけた警察に自分たちが追われるのを遅らせるため。……校舎を派手に壊し、学校全体に火事が起きやすくなるようにするためには、少なくとも爆弾は、棟の数は必要になる。」
姿勢を低くしながら階段を降りつつ、スバルくんが言う。
命を奪うのは二の次だが、爆発に生徒が巻き込まれてパニックになればもうけもの、そういう考えの可能性が高いらしい。
それはわかった。でも……。
「あと二十数分で、少なくとも五つも爆弾を解除しなきゃいけないなんて……。見回りの人がどこにいるのかもわからないのに。」
「爆弾解除自体はオレがやるから問題ないよ。すぐ終わらせてみせる。」
キッパリ言い切ってみせたスバルくんに、わたしは目を見開く。
すごい。やっぱりそういうこともできるんだ、スバルくんって。
「それに見回りは教室のあるフロアにはあまり来ないと思うしね。」
「え? そうなの?」
たしかに、階段を降りてみて、一階にきても見回りの人はいないみたいだけど。
どうしてなんだろう。
「Sは放送で、『見つけて奪う』って言ってた。つまりあいつらは隠し財産の場所を知らないってことだ。だから、オレたち生徒の脱走を警戒するよりも、財産を見つけることに重きを置いているはず。」
「そっか。教室のある階には、隠し財産なんて置いておけそうな場所はないもんね。」
「そういうこと。……ああ、ほら、あった。これが爆弾だよ。」
足を止めたスバルくんが、下の方を指差す。
するとそこには、デジタル数字が小刻みに動いている黒い物体。
「ほ、ほんとにあった……!」
多目的広場に比較的近い、東棟を支える大きな柱の裏。
目の前には、教室内に木材などがたくさん積まれている金工木工室。
……たしかにここを爆破したら、間違いなく木材に引火してすぐに火事になってしまうだろう。東棟も壊れちゃうかもしれない。
「オレは爆弾の種類を確認する。だから金工木工室から工具取ってきて。」
「う、うん。」
言われるがままに急いで金工木工室に入り、使えそうな工具を探す。
中は散らかっていたけれど、わりとすぐに工具箱らしきものを見つけて、わたしはそれをスバルくんに渡した。
「ど、どう? 解除、できそう?」
「できる。解除したら相手に伝わるようになってるみたいだから、そこを弄るのにちょっとかかるかもしれないけど。三分あれば十分だよ。」
「三分!」
すごい! 予想してたより、ずっと早い。
わたしは驚くとともに、気を引き締める。
……スバルくんが爆弾を解除するなら、わたしは周りを警戒しなくちゃ。こういうことでは役に立てないんだから、少しでもスバルくんが作業に集中できるようにするんだ。
工具を手に解除を始めるスバルくんを横目に、わたしは姿勢を低くしつつ警戒を強める。
スバルくんは迷いなくコードをぱちんぱちんと切っていっていて、その表情は真剣そのものだ。
そんな彼の姿を横目に、わたしは腕時計を確認する。
……定期報告まで、二十分を切りそうだ。
それを伝えようとして顔を上げた、その時。

「っ、スバルくん、敵!」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ご主人様と呼びなさい! ―ひょんなことから最強の鬼の主になりました―

雨音
児童書・童話
ユキは平凡な中学生女子。転校したのは「鬼」と「退治屋」が住まうと言われる小さな町。 これから転入生活をはじめようとするユキだが、 ひょんなことから「氷の王」と呼ばれる「原初の鬼」の封印を解いてしまって……!?

たった一度の、キセキ。

雨音
児童書・童話
「幼なじみとか、昔の話だし。親しくもないやつからこんなんもらったって、気持ち悪いだけだろ」 片思いする幼馴染み・蒼にラブレターを渡したところ、教室で彼が友達にそう言っているところを聞いてしまった宮野雛子。 傷心の彼女の前に現れたのは、蒼にそっくりな彼の従兄・茜。ひょんなことから、茜は雛子の家に居候することになる。突然始まった、片思いの人そっくりな年上男子とのひとつ屋根の下生活に、どぎまぎする雛子だが、 どうやら彼には秘密があるようで――。

イケメン男子とドキドキ同居!? ~ぽっちゃりさんの学園リデビュー計画~

友野紅子
児童書・童話
ぽっちゃりヒロインがイケメン男子と同居しながらダイエットして綺麗になって、学園リデビューと恋、さらには将来の夢までゲットする成長の物語。 全編通し、基本的にドタバタのラブコメディ。時々、シリアス。

トウシューズにはキャラメルひとつぶ

白妙スイ@書籍&電子書籍発刊!
児童書・童話
白鳥 莉瀬(しらとり りぜ)はバレエが大好きな中学一年生。 小学四年生からバレエを習いはじめたのでほかの子よりずいぶん遅いスタートであったが、持ち前の前向きさと努力で同い年の子たちより下のクラスであるものの、着実に実力をつけていっている。 あるとき、ひょんなことからバレエ教室の先生である、乙津(おつ)先生の息子で中学二年生の乙津 隼斗(おつ はやと)と知り合いになる。 隼斗は陸上部に所属しており、一位を取ることより自分の実力を磨くことのほうが好きな性格。 莉瀬は自分と似ている部分を見いだして、隼斗と仲良くなると共に、だんだん惹かれていく。 バレエと陸上、打ちこむことは違っても、頑張る姿が好きだから。

「羊のシープお医者さんの寝ない子どこかな?」

時空 まほろ
児童書・童話
羊のシープお医者さんは、寝ない子専門のお医者さん。 今日も、寝ない子を探して夜の世界をあっちへこっちへと大忙し。 さあ、今日の寝ない子のんちゃんは、シープお医者んの治療でもなかなか寝れません。 そんなシープお医者さん、のんちゃんを緊急助手として、夜の世界を一緒にあっちへこっちへと行きます。 のんちゃんは寝れるのかな? シープお医者さんの魔法の呪文とは?

月神山の不気味な洋館

ひろみ透夏
児童書・童話
初めての夜は不気味な洋館で?! 満月の夜、級友サトミの家の裏庭上空でおこる怪現象を見せられたケンヂは、正体を確かめようと登った木の上で奇妙な物体と遭遇。足を踏み外し落下してしまう……。  話は昼間にさかのぼる。 両親が泊まりがけの旅行へ出かけた日、ケンヂは友人から『旅行中の両親が深夜に帰ってきて、あの世に連れて行く』という怪談を聞かされる。 その日の放課後、ふだん男子と会話などしない、おとなしい性格の級友サトミから、とつぜん話があると呼び出されたケンヂ。その話とは『今夜、私のうちに泊りにきて』という、とんでもない要求だった。

こちら第二編集部!

月芝
児童書・童話
かつては全国でも有数の生徒数を誇ったマンモス小学校も、 いまや少子化の波に押されて、かつての勢いはない。 生徒数も全盛期の三分の一にまで減ってしまった。 そんな小学校には、ふたつの校内新聞がある。 第一編集部が発行している「パンダ通信」 第二編集部が発行している「エリマキトカゲ通信」 片やカジュアルでおしゃれで今時のトレンドにも敏感にて、 主に女生徒たちから絶大な支持をえている。 片や手堅い紙面造りが仇となり、保護者らと一部のマニアには 熱烈に支持されているものの、もはや風前の灯……。 編集部の規模、人員、発行部数も人気も雲泥の差にて、このままでは廃刊もありうる。 この危機的状況を打破すべく、第二編集部は起死回生の企画を立ち上げた。 それは―― 廃刊の危機を回避すべく、立ち上がった弱小第二編集部の面々。 これは企画を押しつけ……げふんげふん、もといまかされた女子部員たちが、 取材絡みでちょっと不思議なことを体験する物語である。

極甘独占欲持ち王子様は、優しくて甘すぎて。

猫菜こん
児童書・童話
 私は人より目立たずに、ひっそりと生きていたい。  だから大きな伊達眼鏡で、毎日を静かに過ごしていたのに――……。 「それじゃあこの子は、俺がもらうよ。」  優しく引き寄せられ、“王子様”の腕の中に閉じ込められ。  ……これは一体どういう状況なんですか!?  静かな場所が好きで大人しめな地味子ちゃん  できるだけ目立たないように過ごしたい  湖宮結衣(こみやゆい)  ×  文武両道な学園の王子様  実は、好きな子を誰よりも独り占めしたがり……?  氷堂秦斗(ひょうどうかなと)  最初は【仮】のはずだった。 「結衣さん……って呼んでもいい?  だから、俺のことも名前で呼んでほしいな。」 「さっきので嫉妬したから、ちょっとだけ抱きしめられてて。」 「俺は前から結衣さんのことが好きだったし、  今もどうしようもないくらい好きなんだ。」  ……でもいつの間にか、どうしようもないくらい溺れていた。

処理中です...