名探偵が弟になりまして

雨音

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学校襲撃 4

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挙手をする。犯人の視線がわたしに向く。

 どくん、どくん、どくん、どくん。

 心臓の音が耳の近くで聞こえる。いや、いっそ、全身が心臓になったかのようだった。
「なんだ。」
「ご……ごめんなさい。その、わたし、お腹痛くて、お手洗いに行きたくて。」
「はあ、トイレだあ?」
 男が、イライラした様子でこちらに向かって歩いてくる。
 ……大丈夫、大丈夫。落ち着いて、わたし。緊張したら、ふだんの動きができなくなっちゃう。
 失敗はできない。クラスメイトを危険にさらさないためにも。
「な、おい、何を……!」
 となりのスバルくんが焦ったような声を出す。
 スバルくんは目を見開いてこっちを見ていた。なんのつもりだ、って顔。
「……わたし、覚悟、決めたの。もう、オドオドしない。」
お父さんがわたしを鍛えたのはきっと、誰かを守る力をつけてくれるためだった。
誰かを怖がらせたり、傷つけるためじゃない。
「わたしは自分が嫌い。誰かを傷つけてしまうかもしれない自分の力が嫌い。でも」
きっ、と前を見る。

「誰かが犠牲になることを、見すごしたら、もっと自分を嫌いになる……!」

 スバルくんが、息を呑んで目を見開くのが見えた。
 それは、きっと、スバルくんだってそうだよね。だってスバルくんは、ヒーローにあこがれた、名探偵だったんだから。
「スバルくん。わたしは爆弾を止めたい。でも、一人じゃきっと無理だと思う。」
「……それって、」
 わたしは答えず、代わりに、へたくそな笑顔を作ってみせた。
 そう。わたしは、スバルくんに、助けてほしい。
……でも、彼に変わってほしいなら、わたしが先に覚悟を見せるべきだよね。
「ついてこい!」
「……はい。」
 男の声をかけられて前を向けば、こん、と後頭部に当たる重い感触。
多分、銃口を頭につきつけられてるんだ。クラスメイトたちが、こちらを引きつった表情で見てるし。
ううん、それだけじゃない。クラスメイトの中には「何やってるんだよ?」という目で、にらみつけてくる人もいた。……そうだよね、わたしが格闘技が強いことは、みんなには隠してるもんね。
でも、このまま教室を出れば、万が一危険な目に遭うとしたら、わたしだけ。
大丈夫だ。大丈夫――。
「おい、お前ら。今から少し出るが、くれぐれもおかしな行動はとるなよ。死にたくなければな!」
そうすごむ男に銃を突き付けられたまま、わたしはそのまま教室を出た。



 *




「オラ、クソガキ。着いたぞ。」

 同じフロアの女子トイレの前。
わたしは後頭部に銃口を突きつけられたまま中に入る。
「ったく、ふざけるなよ。とっとと行ってこい!」
 個室の前に着き、ごつ、と後頭部に銃口をぶつけられる。
「はい、」
 そう答えて。
――次の瞬間、わたしは後ろにいる男の顔に、裏拳を叩き込んだ。
「あっがぁ⁉」
 完全に油断していたのか、簡単に鼻が折れる感触が手の甲に伝わる。
 次いで、がしゃんという音。……どうやら、持っていた小銃を地面に落としたらしい。
一瞬肝を冷やしたけど、そこまで大きな音じゃなかったからほっとする。
急いで小銃をトイレの壁際まで蹴り飛ばした。暴発しないように、あくまでもかるーく。
「てんめえ、このクソガ、」
 キ。
 彼は、その言葉を発しきれずに、どさりと力なく床にひざをついた。
わたしがすかさず、みぞおちに中段突きを入れたからだ。
「ふうっ。」
男が気絶して横たわるのを見て、わたしは大きく息を吐く。そして手早く小銃のほかに常備していたらしい拳銃を抜き取り、その場に置いた。そして洋式トイレの便器に座らせたあと、防弾ベストを探って、見つけた細めのロープで便器ごとしばりつける。
「よ、よし……!」
うう、まだ心臓がバクバクいってる。
 でも、これでしばらくは動けないだろう。
 そう考え、一安心したわたしが額の汗をぬぐった、その時だった。

「おい」
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