名探偵が弟になりまして

雨音

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学校襲撃 2

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しん、と。
再び、教室内が静まり返る。
少ししてから、震えた声があちこちから聞こえてきた。
「何それ、占拠って。どういうこと……?」
「なんのイタズラだよ? さすがにやりすぎだろ」
口々に好きなことを言ってるけど、みんな、辺りに漂う異様な空気というか、雰囲気には気づいてるんだろう。
笑顔は固いし、どの子も困惑しているように目が泳いでる。
嫌な予感に、背筋がぞくぞくする。
 これはきっと、遊びじゃない。本当に、何かが起こってるんだ。

「――イタズラじゃねーよ、クソガキどもが」

そして。ガンッ、と激しい音がして、乱暴にクラスの戸が開かれる。
入ってきたのは覆面をして、さらに小銃のようなもので武装した長身の男。
きゃあああっ、と、近くにいた子達が真っ青になって悲鳴を上げる。
「うるせえなっ。とっとと席に着け!」
驚きのあまりへたりこんでしまった子の、すぐ横の壁を蹴りつけて、男が叫ぶ。
恐怖で泣き出してしまった子――めぐみちゃんを見て、チッ、と男が舌打ちをする。そして銃口を向けて怒鳴りつけた。
「とっとと席に着かねえと、撃つぞ!」
「いやああっ! やめてっ!」
めぐみちゃんが真っ青になって悲鳴を上げ、その場にうずくまる。

「……待ちなさいっ!」

すると。
めぐみちゃんの前に立ち塞がったのは、さゆりだった。
さゆりちゃん、とめぐみちゃんが呆然とこぼす。
さゆりも強盗犯に捕まった時と同じように顔を真っ青にしていて、息も荒い。
それでも、クラスメイトをかばった。さゆりだって怖いはずなのに、それを抑えて。
「すぐに座ってもらうから銃を下ろして。お願い。」
「チッ、とっととしろ。」
さゆりに付き添われて、席に着いためぐみちゃんが、震えた声で彼女にお礼を言う。
……目の前で起きていることは、紛れもない現実だ。
そう認識したクラスメイトたちが、蒼白な顔のままそれぞれの席に座っていく。
全員が席に着き終わったと同時、キーンコーンカーンコーンと、場違いに呑気なチャイムが鳴った。
『……さて、諸君。そろそろこれがイタズラではないことを実感した頃だろう。』
Sと名乗る男が忍び笑いを漏らす。
『もう一度言おう。この学園は我々が占拠した。もうわかっていると思うが、諸君のもとには各クラス一名、武装した我が仲間がいるはずだ。おかしな動きをすれば即、射殺する。』
ひっ、とクラスのどこかから引きつった声が聞こえてきた。
――射殺。
あまりに現実離れした言葉に、わたしも血の気が引いていく。
『我々の目的はこの学園にある隠し財産。それを見つけて奪うつもりだ。』
「隠し財産⁉ それって、まさか……。」
 教室中に動揺が走る。隠し財産と聞いて、連想するものは一つだけ。
 ――桜傑学園の隠し財産。実在したんだ。
『クラスの中以外にも見張りはいる。二度目だが、くれぐれもおかしなことはしないことだ。場合によっては、射殺ではなく仕掛けた爆弾を爆破する。学校ごと木っ端微塵かもな。』
爆弾、と聞いてさらにクラスの空気が固まる。
スバルくんもきびしい顔をして、スピーカーをにらみつけている。
『しかけた爆弾はおかしな真似をした者がいた場合に、遠隔操作で爆発させる。さらに、遠隔操作をしなくとも、爆弾は決められた時間になれば勝手に爆発する。』
「時限爆弾ってことかよ」
「そんな……」
 クラスメイトの何人かが悲壮な声を漏らす。
 ということは、爆弾を止めない限り、ゼッタイに学校は爆破されちゃうってこと?
 それにSは、どのくらいがタイムリミットなのかを言わなかった。
もし犯人たちが逃げ始めたのを見て逃げ出そうにも、この学校には何百人と生徒がいる。
パニックも起こるだろうし、避難が間に合うはずがない。
下手をしたら――死んでしまう人が出てしまうかもしれない。
 どうすればいいの。
先生たちはどうしてるんだろう。みんな、無事なのかな。
「たしかここじゃ携帯、スマホのたぐいは朝教師が回収するんだったか。んじゃ、没収の必要もねえか。職員室もおさえてることだしな。」
「……っ。」
 クラスに入ってきた覆面の男が、放送に付け足すように言う。
 それならもう、先生たちもどうにもできないってことだ。
 どうしよう。生徒全員が助かるには、この学校のどこかに仕掛けられてる爆弾を取り除かなきゃだめだけど……。
「い、嫌だッ!」
 すると突然。
 がたん、と音を立てて、クラスメイトの男の子が立ち上がった。
「おい。」
「嫌だ、いやだいやだいやだ! オレはまだ死にたくないっ。」
 いらだたしげな犯人の視線にも、恐怖ゆえの混乱のせいか気づいていないらしく、男の子は死にたくないっ、とさけび続ける。
「助けてくれよっ!」
 その悲痛な叫びは、間違いなくクラス全員の気持ちを代弁した言葉だった。
 しかし、覆面の男は舌打ちをすると銃を構えた。
そして。

「うるせえなっ!」
 
 ――タァン!
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