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17 本当のこと1
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――月曜日、朝七時半。
私はスマホのコール音によって叩き起こされた。
「えっ、な、何⁉」
朝日がまぶしい中、慌てて飛び起きる。コール音はそこそこの長さ、鳴り響いている。
え、誰から? かけ続けてきてるってことは間違い電話ではないだろうけど……。
慌ててスマホを取り、液晶を見て。
そこに表示されている文字を見て、私は、息を呑んだ。
「お、母さん……。」
そう。
それは、お母さんからの電話だった。
お母さんは事務所に泊まり込んで家を留守にしているあいだも、必ず二日に一回は電話をくれる。でも、それは決まって家の固定電話に掛けられる。
……なのにわざわざ、このタイミングで電話をかけてくるということは。
「――もしもし? お母さん?」
『ひな? おはよう、朝早くごめんなさいね。でも、早く伝えなきゃと思って……!』
電話の向こうのお母さんの声は、ひどく焦っているようだった。
私はぎゅっとスマホを握りしめると、絞り出した声で「うん、なに?」と続きをうながす。
『昨日、蒼くんが言ってたって伝えてくれたメール、あるでしょ? お母さん、そのことについて昨日の夜から調べてたんだけど、』
「うん……、」
『いい、ひな。よく聞いてね――』
――神妙な、そしてどこかおびえたような声で続けられたその内容に。
私は大きく、目を見開いた。
*
――昨日買った服に着替え、髪をとかして、サイドにひかえめな髪飾りをつける。
リップは――ないから、塗らない。
そしてそのままカバンに参考書と勉強ノート、筆箱を詰めていく。カフェでケーキを食べる予定だから、少し多めにお金を入れたお財布も。
「……あはは、我ながら酷い顔。」
笑顔を作って鏡を見て、そこに映った自分の顔に、私は思わずそうつぶやいた。
笑っているつもりなのに、ただくしゃりとゆがんでいるだけにしか見えない表情。
――いろんな感情がごちゃまぜになって、どうしていいのかわからなくなった顔。
「行かなきゃ、そろそろ時間だし。」
もう九時半になる。腕時計をはめて、カバンを持って、歩き出した。
そして部屋を出て、階段を下りて行く。
「おはよ、ひな。遅かったなー。」
リビングに行くと、いつものように声を掛けられた。彼は私の頬を見て、「その服……。」とつぶやいて目を見開いた。
ひどく焦ったような、おびえたような、そんな表情で彼は硬直する。
「ひな、お前……出かけるのか? 昨日も出かけたのに。なんで……。」
「……うん。直樹くんと、カフェで一緒に勉強会するって約束したから。」
「は?」
なにそれ、聞いてないんだけど、と彼がおもむろに眉を寄せる。
不機嫌そうにしかめられた表情に、私はしいて淡々と「言ってないもん。」と応えた。
「言わなきゃいけない理由なんてないでしょ?」
「それは……そうかもしれないけど、ひなはいいのか? 直樹の言動、いろいろ変なところがあるだろ? ひながクラスの女子の反感を買うかもしれないってわかってたはずなのに、お前に名前呼びさせたりして……。だから」
「――言動が変なのは!」
こらえきれずに、彼の言葉を遮った。
私がいきなり大きな声を上げたことに驚いたのか、彼が目を見張る。
「茜くんの頬でしょ! ……ううん、あなたは、『茜くん』ですらない!」
「……は? ひなお前何言って、」
私の言葉の意味がわからない。
そういう態度を取ろうとした彼の言葉尻が、ほんの少し、震えるのがわかった。
ぎり、と奥歯を噛みしめる。
「あなたは茜くんじゃない。そんなはずがない。」
だって、と続ける。
「――篠崎茜は、もうとっくに死んでるんだから!」
私はスマホのコール音によって叩き起こされた。
「えっ、な、何⁉」
朝日がまぶしい中、慌てて飛び起きる。コール音はそこそこの長さ、鳴り響いている。
え、誰から? かけ続けてきてるってことは間違い電話ではないだろうけど……。
慌ててスマホを取り、液晶を見て。
そこに表示されている文字を見て、私は、息を呑んだ。
「お、母さん……。」
そう。
それは、お母さんからの電話だった。
お母さんは事務所に泊まり込んで家を留守にしているあいだも、必ず二日に一回は電話をくれる。でも、それは決まって家の固定電話に掛けられる。
……なのにわざわざ、このタイミングで電話をかけてくるということは。
「――もしもし? お母さん?」
『ひな? おはよう、朝早くごめんなさいね。でも、早く伝えなきゃと思って……!』
電話の向こうのお母さんの声は、ひどく焦っているようだった。
私はぎゅっとスマホを握りしめると、絞り出した声で「うん、なに?」と続きをうながす。
『昨日、蒼くんが言ってたって伝えてくれたメール、あるでしょ? お母さん、そのことについて昨日の夜から調べてたんだけど、』
「うん……、」
『いい、ひな。よく聞いてね――』
――神妙な、そしてどこかおびえたような声で続けられたその内容に。
私は大きく、目を見開いた。
*
――昨日買った服に着替え、髪をとかして、サイドにひかえめな髪飾りをつける。
リップは――ないから、塗らない。
そしてそのままカバンに参考書と勉強ノート、筆箱を詰めていく。カフェでケーキを食べる予定だから、少し多めにお金を入れたお財布も。
「……あはは、我ながら酷い顔。」
笑顔を作って鏡を見て、そこに映った自分の顔に、私は思わずそうつぶやいた。
笑っているつもりなのに、ただくしゃりとゆがんでいるだけにしか見えない表情。
――いろんな感情がごちゃまぜになって、どうしていいのかわからなくなった顔。
「行かなきゃ、そろそろ時間だし。」
もう九時半になる。腕時計をはめて、カバンを持って、歩き出した。
そして部屋を出て、階段を下りて行く。
「おはよ、ひな。遅かったなー。」
リビングに行くと、いつものように声を掛けられた。彼は私の頬を見て、「その服……。」とつぶやいて目を見開いた。
ひどく焦ったような、おびえたような、そんな表情で彼は硬直する。
「ひな、お前……出かけるのか? 昨日も出かけたのに。なんで……。」
「……うん。直樹くんと、カフェで一緒に勉強会するって約束したから。」
「は?」
なにそれ、聞いてないんだけど、と彼がおもむろに眉を寄せる。
不機嫌そうにしかめられた表情に、私はしいて淡々と「言ってないもん。」と応えた。
「言わなきゃいけない理由なんてないでしょ?」
「それは……そうかもしれないけど、ひなはいいのか? 直樹の言動、いろいろ変なところがあるだろ? ひながクラスの女子の反感を買うかもしれないってわかってたはずなのに、お前に名前呼びさせたりして……。だから」
「――言動が変なのは!」
こらえきれずに、彼の言葉を遮った。
私がいきなり大きな声を上げたことに驚いたのか、彼が目を見張る。
「茜くんの頬でしょ! ……ううん、あなたは、『茜くん』ですらない!」
「……は? ひなお前何言って、」
私の言葉の意味がわからない。
そういう態度を取ろうとした彼の言葉尻が、ほんの少し、震えるのがわかった。
ぎり、と奥歯を噛みしめる。
「あなたは茜くんじゃない。そんなはずがない。」
だって、と続ける。
「――篠崎茜は、もうとっくに死んでるんだから!」
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