シリウスをさがして…

もちっぱち

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初めてのランチ

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プラネタリウムを見に行くと
約束した日曜日。

陸斗は午前中はアルバイトがあるからと会えないと分かっていた紬は、朝寝をした。

 ここのところ、熟睡できずに1週間過ごしていた。熟睡はできないのに朝はぱっちりと目が覚めている。

 不思議な体だった。

 肉体的には疲れているはず。
 精神的な疲れの方が多かったかもしれない。

 森本美嘉に応援してねと言われた時から本当のことが言えずに頭から離れていない。

 夜から朝方まで眠れずに起きたのは朝の11時だった。
 家族の誰も起こしてくれない。

 それもそうだ。


 日曜日のカフェの『シュナイザー』はお客さんでごった返す日で、弟の拓人もお店を手伝うくらいだった。

 紬を起こす暇も無いくらい準備で忙しくしていた。

 ホールで働く大学生のバイトも働くくらいだった。

 店長である遼平も、慌ただしく、調理場で準備していた。

 服に着替えて、下を降りていくとリビングにラップをしてあるご飯がトレイの上に置かれていた。

 父が作ったデミグラスのオムライスだった。

 日本の国旗のつまようじが刺さっていた。

 マグカップを戸棚から取り出して、カフェオレを作って、早速食べようとした。


「姉ちゃん?! 今頃起きたの? 遅いでしょう!」


 拓人がホールの服である白ワイシャツに黒エプロンの姿でこちらに声をかける。


「今からご飯食べるんだからあっち行きなよ!」


「姉ちゃんもお店手伝いなよ!忙しいんだから。」

「私には無理。食べる専門だから。」

 ブツブツ文句を言いながら、拓人はお店の方に戻る。


 店の手伝いをしない姉が羨ましかったらしい。

 そう言いながらも拓人は嬉しそうに手伝っている。なんだかんだでお店の仕事は好きらしい。

「拓人、そっちの食器下げてもらってもいい?」

「了解です。宮島先輩。」

 大学生のアルバイトである宮島 洸みやじま こう。昔からレストランで働くのを夢見てた。前の経営者大越さとしの甥っ子で、一時的にお店とは縁が無かったが、大学生に入ってすぐにバイト募集張り紙で目をつけた。

 現経営者兼店長の谷口遼平は、大越さとしの甥っ子だとは知らずにバイトとして雇っていた。

「小学生だろ? 拓人は。ませてるよな。」

「いやいや、そんなこと無いですよ。」

 拓人は大学生の洸と相性が良いのか、働きながら仲良くやってるみたいだった。
 あまりにも仲良くてふざけ合うのがたまに傷だったが、休みの日に遊びに連れて行けない分、気晴らしになっていいだろうと遼平は思っていた。


 拓人がお店を手伝うようになって数ヶ月。

 洸は1年前から働き始めていたが、覚えるのが早いらしく、小さいながらも良くやっていた。

 イヤイヤやらせているのではなく、自らやりたいと言ってやっているのだから、親としてもありがたいと感じていた遼平だった。


「拓人…あまり、洸くんの迷惑にならないようにするのよ。」

 母のくるみが注意した。

「はーい。」

 返事はいいが、行動が伴っていないことが多い。




 紬がご飯を食べ終わると、スマホのラインがなった。

 陸斗からだった。

慌てて、深呼吸をし、通話ボタンを押して話そうとすると裏声が出た。

「はい。」

『は、へ? 間違えたかな? もしもし?』

 あまりにも裏声だったため、違う人が出たと思った陸斗はスマホの画面を見直すと紬と表示されていた。

「あ、ごめんなさい。裏声になってた。紬です。」


『あはは…何今の。面白いね。』

「そ、そうかな。」

『あ、あのさ、バイト思ったより早く上がれたから…時間早めてもいいかなあって思って、お昼もう食べた? 俺これからなんだけど…。』

「あ…ああ。今食べ終わってしまったんですけど、まだ入りますから!」

『…無理するなって。んじゃ、デザートとかあるところで、どお? 俺はがっつり食べるけど、紬はアイスとかにすれば良いんじゃ無い?』


 今食べたメニューはオムライスにチョコサンデーをガッツリ食べたばかりだった。

 父、遼平は、紬のためにいつもの日曜日には、カフェメニューを準備してくれていたため、結構お腹いっぱいになっていたけども、せっかくのお誘いを断るわけには行かないと思った紬は、電話でも首を横に振った。

「そうですね。それくらいなら入ると思います。」

『んじゃ、とりあえず駅前集合でいい?ステンドグラスの。俺、今バイト先がデパ地下だったから。』


「はい。今家にいたので、準備出来次第、そちらに向かいます。」


『んじゃ、あとで。』

 陸斗は通話終了ボタンを押した。

 もう、電話は終わってるというのにまだ心臓がドキドキしていた。

 ラインのメッセージを、送るよりも電話は緊張してしまう。

 相手の息づかいや声の調子が、聞こえてくる。

 それと同時に自分も聞こえてるんだと思うと恥ずかしくなってくる。

 上手く話せていたかな。

 なんて話していたから忘れてしまう。

 そうこうしているうちにバスの時刻が迫ってる。急いで支度しなくちゃと自分の部屋に戻って、髪の毛のセットから始めた。この間みたいに、ドライヤーでカールができるものと、前髪を上にして、今日は生まれてはじめてのコンタクトをしてみようと決心した。

 随分前に処方箋を持ってコンタクトは買っていたが、人前で付けることに勇気が出ず、なかなかつけることはなかった。

 使用期限に間に合っていたため、今日は挑戦してみようと決意した。

 眼科で何回か目に入れて練習はしていたが、いざ久しぶりにやると手が震えてくる。
 どうにか装着できた。

 念のため、バッグにはメガネも入れて置いた。


持ち物を確認して、鏡で顔の表情チェックした。学校にいる時とは違う自分になれて、何だかウキウキと心が高鳴った。


 お店はお客さんで混み合っていたため、裏口から家を出た。


お気に入りの服、お気に入りのバッグ、お気に入りのアクセサリー。

 いつもは、こんな格好で出掛けることはない。

 インドア派の紬。

 違う自分になれた気がして嬉しくなった。

 

 外で歩く紬の姿を、ホールで後片付けに追われる洸の目にも止まった。

 その後ろ姿が、幼少期に見た憧れのあの人にそっくりだった。

 拓人に姉がいたことは知らなかった洸はお客さんなのかと勘違いして、少しぼんやりと眺めていた。

 紬がバス停に向かい、姿が見えなくなると食器の片付けに勤しんだ。


「宮島先輩、何がありました?」

「いや、何でもない。」

「ふーん。」

 拓人は不思議そうに同じ方向の、外を向けると誰もいなかった。

 何を見ていたんだろうと疑問符を浮かべた。




ーーー


 仙台駅前のステンドグラスに行くと、いろんな人が待ち合わせに利用していた。

 日曜日のこともあり、混み合っていた。

 改札口近くでは物産展のイベントが行われていた。


 この待ち合わせであってはずなのに、陸斗が見つからない。


 そういえば、私服で会うのは今日が初めてだった。

 紬は見つけられずにそのまま立って待つことにした。


 陸斗はとうの昔に待ち合わせ場所についていたが、物産展が気になってうろうろしていた。

 北海道フェアのため、バター飴に興味惹かれていた。

 紬を探そうとステンドグラスに行ったが、それらしい人はいない。  

 私服を見るのは初めてで、どんな格好で来るかなんて想像できなかった。

 電話を鳴らした。


「今どこ? 着いたけど。」


『私も着いたんですけど…。ステンドグラス目の前にいます。』

あっちもこっちも見て確認すると同じようにスマホで電話している人が真横にいた。

 白のチュールスカートにデニムジャケットを羽織る紬。ベイカーボーイハットを頭につけていた。後ろには小さな黒革のリュック。

 陸斗は、ベージュのパンツにテーラードジャケット、中はボーダーの長袖Tシャツを着ていた。

 お互いに指差して笑い合った。


「近くにいるじゃん。何それ、メガネしてないし。そりゃ、分からないよ。」

「陸斗先輩なんて、サングラスしてるじゃないですか。わからないですよ。そんな目立つ感じで…何か恥ずかしい。」

「え?だめかな。これ。わかったよ、外すから。はい!迷子になるでしょ。」

 陸斗はジャケットにサングラスをさすと、自然と手を差し伸べたが、気づかずに出さない紬の右手をぐいっと左手でつかんだ。

 まさか、突然手を繋いで歩くとは思ってない紬はかぶっていた帽子をおろして顔を隠した。

 恥ずかしくなって顔を赤くした。

「んで、どこにするか俺決めていい?お腹すいちゃって…。」

「はい。どこでもいいですよ。」


 場所なんて考えられなかった。

 あたたかくて骨骨している手につかまれていて、それどころじゃない。

 輝久とも手なんて繋いだのは小学生だったし、高校生になってから男子と手を繋ぐなんて機会が全然なかった紬は心臓バクバクしていた。


「俺のバイト先の近くだけど、履いている店とは違うから、気にしないでいいんだけどさ。ここ、食べてみたかったんだ。」

 デパ地下にあるグリルのお店だった。チーズフォンデュが食べられるらしい。
紬はお腹いっぱいだったはずが、メニューの写真を見て食べたくなった。


「美味しそう。」
「だろ?ここにしよう。名前、書いておくね。」

 順番に呼ばれる表に陸斗はタニグチと大人2名に印を書いて、横にあった丸椅子に座った。

「ほら、こっち。座って。」


 紬は言われるがまま隣の椅子に腰掛けた。少々待ち時間があるらしい。場を和ませようと陸斗はポケットからコードタイプのイヤホンを取り出した。


「耳貸して。」

 イヤホンの片方を紬の耳につけられた。

 陸斗はスマホのYouTube画面を開き、動物面白癒し映像を流し始めた。

 テレビでよくある一瞬で笑えるあれだった。

 おふざけの犬や猫、パンダや水族館のアシカの面白映像特集を厳選しているらしく、陸斗は指差しながら笑っていた。

 紬は、初めの方はそんなの面白くないだろうと思ってみていたが、体が震えるくらい笑い始めていた。

 自然と陸斗の腕をつかみながら、一緒に動画を共有していた。

 紬も良く家でいろんな動画を見て研究はしていたが、面白いことや楽しい映像を見ることは少なかったため、とても新鮮な気持ちで見られた。

 新たな発見ができて、嬉しかった。

 楽しい時間はあっという間に過ぎていく。

 お店の中に呼ばれたかと思うと、それぞれにメニューを選んで、少し間ができた。

 出された水を飲んでいたら、陸斗は手を使った手品を始めた。

 親指が無くなるぞっと子どもでも出来そうな簡単なものだった。

 紬は、そんなことできないと真面目になって見て、見事に騙されていると指を確かめたら、しっかり、親指は存在していて、頬を膨らせた。

 ご機嫌を損ねたところに、チーズフォンデュのメニューが運ばれてきた。

 笑顔に戻るところを見て、陸斗は満足そうだった。

「そういや、紬。幼馴染の輝久だっけ?大丈夫だったの?確認するの今更だけどさ。」

「え…ああ。まあ、いいじゃないですか。本当、今更ですよ。逆に私も聞きたいんですけど、陸斗先輩は私のことどう思ってるんですか?」

 小さなバケットをチーズにつけて食べた。頬を抑えながら美味しそうに食べる紬。負けじと陸斗もウィンナーをつけて食べ始める。

「え、どうって…?」

「付き合ってるんですよね、これって。」

「あ、うん。そうなんじゃないの?違うの?」

「私、付き合うって分からなくて、今まで彼氏って言う彼氏がいたこと無いし、想像とかドラマとか漫画の世界でしか分からないから…てっきり付き合うってなったから、毎日一緒に過ごすものだと思ってたんですが…違うのかなと思って。」

 美味しかったらしく、次々と野菜や、ウィンナーもチーズにつけて食べている。


「まあー、毎日は無理でしょう。俺、土日は基本バイトあるし、今日はたまたま短いけどさ。あと、帰りのバスに毎回乗れるわけじゃないからさ。自転車って言っても学校からバス停まで2分もかからずに着くしねぇ。何、紬は毎日会いたいの?俺に?」

 かまをかけるように陸斗は言う。自分からは言いたく無いようだった。

「……別に忙しくていいなら良いんですけど。ラインだって毎日するわけじゃ無いし、何だか付き合って無いんじゃ無いかと思うんです。むしろ、輝久といる時の方が長くて…。」

「…紬は一緒にいる時間の長い人が付き合ってる人なの?気持ちとか想いとかじゃなくて? 俺ってさ、ラインとかってこまめにできるタイプじゃなくて、話すなら直接だし、会えなかったら電話の方がいいんだよね。ほら、今会ってるじゃない。学校いる時よりかなり長いよ? プラネタリウムも見るんでしょう?」

 お腹が空いていた陸斗はパクパクと平げた。追加で頼んでいた大盛りパスタもテーブルに置かれた。


「そうですよね。確かに長くいる人が付き合ってる人ではないですね。そしたら、家族はどうなるのってなるし、クラスメイトや先生も…。私、分からないんです。輝久以外の男子と話したこと無いですし、そりゃ、モテモテの陸斗先輩はいろんなご経験なさってると思うので、ベテランかと思うんですが…。」

 少し憤慨する陸斗。

「俺は好きでモテてるわけじゃ無いよ。周りからの誘導とか、雰囲気に流されて付き合ったりしたことあったけど、紬みたいに本気で好きになったことないから。好きでも無い人に好かれるのも建前とか体裁とか周りの推薦とか…色々あって…でも、それはやっぱり上手くいかなくて…って俺の話はいいんだよ。」

 どさくさ紛れに告白した陸斗は話終わった後に顔がお猿のように真っ赤してパスタを黙々と食べた。

 紬は突然の告白の流れで、まさか言われるとは思っていなくて、現実だったかなと頬をつねってみたが痛かった。

「あ、ありがとうございます。」

「ど、どういたしまして…って別に感謝されても困るけども。でも、俺が好きでも紬が嫌なら無理に付き合う必要はないし、あいつがいいなら…輝久と付き合えばいい。俺は俺のやり方でしか対応できないから。ごめん、不安にさせて。」

 少し安心した紬は大きく首を振った。

「陸斗先輩が良いです。私はあのバス停の時に私が陸斗先輩を選びました。私は確認したかっただけなので…付き合うってどう言うものなんだろうって。無知でごめんなさい。」

 頭を下げた。

「手、出して。」

 食べていた食器をよけて紬は右手を出した。

 陸斗は手を繋いで握手をした。

「仲直り。ってケンカなのかな?誤解がとけたから。これでいいかな。」

 陸斗はそっと、紬の手を両手でおさえた。

「俺、思ってる以上に紬のこと好きかもしれない。会ってからそんなに経ってないけど、毎日会わないと付き合ってないとか言われて、ちょっと嬉しかった。本当は毎日会いたいけどさ、会えないんだよな。家の距離遠いし、通学の仕方もバラバラだし、会えるの学校と帰りとか休みの日だもんな。紬、学校で会うのは嫌なんだろ?」

 紬はハッと気づく。

 場面寡黙症のことを知ってか知らずか、あの時も話さずにジェスチャーで言ってたのはあえてそうしてた。

 陸斗なりの配慮だったらしい。

「他に誰もいないなら話せるけど、学校は難しい。話せなくなるから、無理です。」

「最初にクラスに行った時から、様子がね。違かったからさ。嫌なんだろうなって思って…でも、スリルがあって良かったけどな。」

「あれはもうやめてほしい。」

「あ。あの時は平気だったね。図書室の隣の進路相談室とか。先生いないときかな。」

 陸斗は思い出す。

「んじゃ、今度からあそこで一緒に帰れない時に会うのはいいんじゃないの?」

「うん。あそこなら大丈夫…。」

「よし、俺も頑張って要求に応えられるようにするから、なるべくなら毎日でそれが無理なら週3とかで。な?これで文句ないでしょう?」

 紬は、黙って頷く。満足してるようだった。
 陸斗はスマホを確認して時間を見た。

「あれ、そろそろ、バスに乗らないといけない時間かな。出よう。」

 陸斗は伝票を片手に小型バッグから財布を取り出した。

 紬も財布からお金を出そうとしたが、陸斗の手が阻んだ。

「いーよ、全部俺が出すから。紬は少ししか食べてないでしょ。」

 朝の新聞配達と夜のコンビニバイト、土日は単発のバイトで稼いでいる陸斗の財布は高校生の割に裕福だった。

 紬は軽く会釈した。


 会計を済ませると、2人は手を繋いで、ペデストリアンデッキの下のバスプールへと足を進めた。





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