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第70話
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類は友を呼ぶと言う。
今の漆島家は、石川亜香里と同じで
家族との交流が少なくなっていた。
雪は玄関のドアを開けた。
小学生になりたての時は挨拶は大事だと
笑顔でただいまと言っていた。
高校2年生になった今は、真っ暗な家の中を
ただいまを言わずに中に入る。
暗く静かな部屋の中をパチッと電気をつけた。
冷蔵庫の横にかけてある家族の予定表ホワイトボードを確認すると、
母は、相変わらずの残業で
父は、会社の同僚の人と飲み会、
妹の亜弥は、友達の家に寄ってから帰る
と書いてあった。
いつからか
家族みんなで夕飯を食べることが
なくなっていた。
一緒に食べるとしたら、
朝に母から渡される
お弁当くらいが一緒のメニュー。
他は買ってきたお惣菜やレトルトを
それぞれに食べるようになっている。
亜香里に誘われれば、雪も一緒に
外で食べることもあった。
親子で会話するのは朝起きた時くらい。
両親は髪色だって、とがめることはなかった。
もう朝の忙しい時間に雪のことを話す余裕なんてないのだ。
おはようのただそれだけの会話だ。
朝の食卓をいつも思い出すと
本当は注意されたかったのかもしれない。
不良みたいに金髪って変なじゃないって、
言われたかったのかもしれない。
やっちゃだめだって分かっているのに
平気な顔して、部屋の中で隠しながら
いたずら心でタバコだって吸っている。
怒られないからいいかと思っていたりする。
そう、それも亜香里から教わっている。
悪いことしてたって親から何も言われないのは
亜香里も雪も同じだ。
何だか亜香里と付き合い初めてからか
自動的にその環境になってしまったか
ものすごくやさぐれていた。
どうしてこうなったかと言うと、
母の仕事が忙しくなったからだ。
ずっと勤めていた会社での昇格があり、
部署の課長に抜擢されて帰りが遅くなるのが
毎日。土日には顧客のクレーム対応や
部下のミスのフォローなど、
休みがほぼ無いときもある。
その分、毎月のお金が溢れるばかりに
入ってくる。
それもこれも雪がもうすぐ大学受験で
入学費用がかかる。
その学費を貯めるために
働かないと必死なのだ。
仕事を頑張れば頑張るほど家のことは
適当になる。
それを誰も助けてくれない。
祖父母も頼れなくなるくらい母は
親子を喧嘩した。
もちろん理由は子育てのやり方に
お互いに納得できないと言って
それ以来会わなくなった。
空回りなのだ。
お金を稼げば何かを失う。
父は、いつまでも平社員。
昇格する気も起きない。
行きつけの居酒屋でほぼ毎日
お酒を飲みに行き、ストレスと心の癒しを
求めに行く。
雪は、学校の宿題をしないといけないなと
机に向かう。
やさぐれているが、大学に行くために
勉強はしていた。
食べたくなくなった夕飯用のレトルトカレーには手をつけず、コンビニで買ってきた補助食品のクッキーを頬張って夕飯を終わらせた。
教科書とノートを広げた。
机の脇に置いておいたスマホの画面を
タップする。
集中力が途切れて
今は何だかやる気がなくなった。
ふと写真アルバムをタップして、
過去の写真を見始めた。
ベッドにどさっと寝転んだ。
薄暗いスタンドライトの光があった。
外からカラスの鳴き声と
どこかで火事があったのか
消防車のサイレンが鳴っている。
写真を見返すと、亜香里とのツーショットが
数枚、さーっともっと前の写真に指を滑らせた。
たくさんの桜とのツーショットや亮輔とのツーショットが写っている。
その写真は今のものと比べると枚数が
多かった。
過去の自分はリア充だなと嫉妬した。
見ていくうちに動画も流れていた。
その動画では桜の声も入っていた。
その声を何度も無心に聞いた。
ラジオのDJじゃないかくらいに繰り返した。
もう、この声を聞けないと思うと
涙が流れた。
『雪、好きだよ。
もうやだぁ…やめてよ!』と
学校の帰りの公園のベンチで
照れている桜の顔を写してカメラが
降り落ちた。
恥ずかしくなって、
スマホを下に向けられたワンシーンだった。
お互いに撮りあった動画だった。
桜のスマホには雪の動画がある。
どうして、この時の自分は
心から笑っていたんだろう。
喜怒哀楽を素直に表現していたはずなのに
今は抜け殻のように心が空っぽで心から
笑っていないような気がしていた。
ベッドの上寝転んで
桜の写った動画を何度も流し続け、
スマホをぎゅっと抱きしめた。
近くに桜はいない。
学校で桜に会っても
他人のような対応だ。
あの頃にはもう戻れない。
雪は声を殺して、
薄暗い部屋、ふとんの中で悲しみに暮れた。
今の漆島家は、石川亜香里と同じで
家族との交流が少なくなっていた。
雪は玄関のドアを開けた。
小学生になりたての時は挨拶は大事だと
笑顔でただいまと言っていた。
高校2年生になった今は、真っ暗な家の中を
ただいまを言わずに中に入る。
暗く静かな部屋の中をパチッと電気をつけた。
冷蔵庫の横にかけてある家族の予定表ホワイトボードを確認すると、
母は、相変わらずの残業で
父は、会社の同僚の人と飲み会、
妹の亜弥は、友達の家に寄ってから帰る
と書いてあった。
いつからか
家族みんなで夕飯を食べることが
なくなっていた。
一緒に食べるとしたら、
朝に母から渡される
お弁当くらいが一緒のメニュー。
他は買ってきたお惣菜やレトルトを
それぞれに食べるようになっている。
亜香里に誘われれば、雪も一緒に
外で食べることもあった。
親子で会話するのは朝起きた時くらい。
両親は髪色だって、とがめることはなかった。
もう朝の忙しい時間に雪のことを話す余裕なんてないのだ。
おはようのただそれだけの会話だ。
朝の食卓をいつも思い出すと
本当は注意されたかったのかもしれない。
不良みたいに金髪って変なじゃないって、
言われたかったのかもしれない。
やっちゃだめだって分かっているのに
平気な顔して、部屋の中で隠しながら
いたずら心でタバコだって吸っている。
怒られないからいいかと思っていたりする。
そう、それも亜香里から教わっている。
悪いことしてたって親から何も言われないのは
亜香里も雪も同じだ。
何だか亜香里と付き合い初めてからか
自動的にその環境になってしまったか
ものすごくやさぐれていた。
どうしてこうなったかと言うと、
母の仕事が忙しくなったからだ。
ずっと勤めていた会社での昇格があり、
部署の課長に抜擢されて帰りが遅くなるのが
毎日。土日には顧客のクレーム対応や
部下のミスのフォローなど、
休みがほぼ無いときもある。
その分、毎月のお金が溢れるばかりに
入ってくる。
それもこれも雪がもうすぐ大学受験で
入学費用がかかる。
その学費を貯めるために
働かないと必死なのだ。
仕事を頑張れば頑張るほど家のことは
適当になる。
それを誰も助けてくれない。
祖父母も頼れなくなるくらい母は
親子を喧嘩した。
もちろん理由は子育てのやり方に
お互いに納得できないと言って
それ以来会わなくなった。
空回りなのだ。
お金を稼げば何かを失う。
父は、いつまでも平社員。
昇格する気も起きない。
行きつけの居酒屋でほぼ毎日
お酒を飲みに行き、ストレスと心の癒しを
求めに行く。
雪は、学校の宿題をしないといけないなと
机に向かう。
やさぐれているが、大学に行くために
勉強はしていた。
食べたくなくなった夕飯用のレトルトカレーには手をつけず、コンビニで買ってきた補助食品のクッキーを頬張って夕飯を終わらせた。
教科書とノートを広げた。
机の脇に置いておいたスマホの画面を
タップする。
集中力が途切れて
今は何だかやる気がなくなった。
ふと写真アルバムをタップして、
過去の写真を見始めた。
ベッドにどさっと寝転んだ。
薄暗いスタンドライトの光があった。
外からカラスの鳴き声と
どこかで火事があったのか
消防車のサイレンが鳴っている。
写真を見返すと、亜香里とのツーショットが
数枚、さーっともっと前の写真に指を滑らせた。
たくさんの桜とのツーショットや亮輔とのツーショットが写っている。
その写真は今のものと比べると枚数が
多かった。
過去の自分はリア充だなと嫉妬した。
見ていくうちに動画も流れていた。
その動画では桜の声も入っていた。
その声を何度も無心に聞いた。
ラジオのDJじゃないかくらいに繰り返した。
もう、この声を聞けないと思うと
涙が流れた。
『雪、好きだよ。
もうやだぁ…やめてよ!』と
学校の帰りの公園のベンチで
照れている桜の顔を写してカメラが
降り落ちた。
恥ずかしくなって、
スマホを下に向けられたワンシーンだった。
お互いに撮りあった動画だった。
桜のスマホには雪の動画がある。
どうして、この時の自分は
心から笑っていたんだろう。
喜怒哀楽を素直に表現していたはずなのに
今は抜け殻のように心が空っぽで心から
笑っていないような気がしていた。
ベッドの上寝転んで
桜の写った動画を何度も流し続け、
スマホをぎゅっと抱きしめた。
近くに桜はいない。
学校で桜に会っても
他人のような対応だ。
あの頃にはもう戻れない。
雪は声を殺して、
薄暗い部屋、ふとんの中で悲しみに暮れた。
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