夜空に舞う星々のノクターン

もちっぱち

文字の大きさ
上 下
64 / 67

第64話

しおりを挟む
夕ご飯も食べ終わり、
まったりとしたリビングでぼんやりと
有料チャンネルの映画やドラマを
何を見ようかとリモコンをポチポチと
押していた颯人に星矢は声をかけた。

「颯人、来週の日曜日って
 何か用事あったかな?」

翔太には連絡もなしにずっと颯人の家に居候している星矢は、ごくごく自然な生活をしていた。
颯人の家に暮らし始めてもう1週間はなる。
会社にはいつも通り出勤している。
いつかは翔太のところに戻りたいと思っているが、踏ん切りがつかない。
戻っても安泰となるのだろうかと不安になる。

気分転換にしばらく行っていなかった、
幽霊部員として登録となっていた
楽器演奏クラブに参加した。
高校の時に熱心に吹いていたフルートを
大人になった今でも時々吹きたくなる。
次の日曜日に
お客さんの前で演奏会をすることになっていた。
チケット販売を積極的にするように
部長の知子に言われていた。
星矢の場合は、自腹切って
無料で配ることにしていた。
聴きに来てくれるだけでもありがたかった。


「来週…たぶん、何もなかったよ。
 夜勤明けの次の日だね。
 何、何かあるの?」

「もし良ければだけど、聴きに来ない?
 僕、フルート吹くから。」

「あーー、そういや、星矢、高校の時
フルート吹いていたよなぁ。
文化祭で見ていたよ。懐かしい。
まだ、フルート吹いていたんだな。
聴けるの?うん、行くよ。いくら?」

颯人は、財布を出して、チケット代を払おうとした。星矢の手元にはチケット2枚あった。

「お金はいらないよ。
 2枚あるから、誰かと一緒に見に来てよ。」

「いくらも払わなくていいの?
 なんか悪いなぁ。誰かと…かぁ。」

颯人はチケットの書いてある文字を
マジマジと見た。

「ちょっと待て、これって2000円も
 するんじゃん。会場の手配とか、準備でお金かかるんだろ。払うから。ほら、貰って…
2枚だからお釣りいらないから、5000円。」

颯人は財布から5000円札を星矢の手のひらにあてた。

「い、いらないよ!颯人からもらえない。
生活費でいろいろかかってるんだから、
そのお礼だと思ってよ。
居させてくれるだけでもありがたいと
思ってるから、本当。」

「いやいや、全然、むしろ、食材の買い出しとか
いつも星矢だろ。逆に申し訳ないっていうか。」

出した手を引っ込められてはまた出しての
繰り返しだった。

「いいから。」

「いいから。」

同じ言葉の繰り返しのオウム返しになっていた。

「これ、いつまでやる?」

お互いに笑いがとまらない。
腹を抱えて涙が出る。

「んじゃ、お言葉に甘えて…。」

颯人は、出したお金を引っ込めて
財布にしまった。

「それでいいんだよ、はじめから。」

「だな。」

「うん。」

またお互いに笑顔になる。

「楽しみにしてるな。」

「何の曲かは当日までお楽しみね。」

「おう、わかった。
 そういや、今日、
 星矢の好きなお酒、買ってきたよ。」

「何?」

「これ、カシスと炭酸水、
 あと、オレンジジュース。」

「手作り?」

「昔、居酒屋でバイトしたからな。
これくらいなら、作れるわ。
カシスオレンジでいい?」

「うん、めっっちゃ好きだから。」

 星矢は自分のために考えて用意してくれる
 颯人がさらに好きになった。
 胸の奥の方が何かサクッと刺さる感じがある。

「よし、乾杯しよう。」

「うん、乾杯。」

 グラスに注いだカシスの原液と
 オレンジジュースがマドラーで
 くるくると回る。
 グラスが重なっていい音が響く。

   カシスオレンジの甘さが口に広がった。

 2人はにこっと笑いあう。

 この何気ないひとときが好きだなと
 感じた星矢だった。


 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜

きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員 Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。 そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。 初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。 甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。 第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。 ※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり) ※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り 初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。

壁乳

リリーブルー
BL
俺は後輩に「壁乳」に行こうと誘われた。 (作者の挿絵付きです。)

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

アルバイトで実験台

夏向りん
BL
給料いいバイトあるよ、と教えてもらったバイト先は大人用玩具実験台だった! ローター、オナホ、フェラ、玩具責め、放置、等々の要素有り

ある少年の体調不良について

雨水林檎
BL
皆に好かれるいつもにこやかな少年新島陽(にいじまはる)と幼馴染で親友の薬師寺優巳(やくしじまさみ)。高校に入学してしばらく陽は風邪をひいたことをきっかけにひどく体調を崩して行く……。 BLもしくはブロマンス小説。 体調不良描写があります。

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

処理中です...