62 / 67
第62話
しおりを挟む
防音が行き届いたスタジオで、
星矢はケースの中からいつものフルートを
取り出した。
今日は、
久しぶりにフルートの演奏会の練習に
参加していた。
パイプ椅子に座って、音の調子を確認する。
「あれ、工藤くん、久しぶりね。
ずっと待ってたんだよ。
来週の演奏会参加できるのね。」
楽器演奏クラブの
部長 佐藤 知子に
声をかけられた。
「ずっと休んでて、すいません。
みなさんに顔忘れてないかなっって
心配でした。」
「そんな、可愛い顔の工藤くんを
忘れるわけないでしょう。
マダムに人気なんだから。」
知子はまもなく60歳になる。
他の部員も40歳から
50歳の女性が多かった。
唯一、近い年齢なのは同じ30代の
宮下 紀子だった。
東京に引っ越したときの部長だった。
高校から一緒の友人1人でもある。
彼女はクラリネットを担当していた。
「そうですかね。それは嬉しいです。」
「知子さん、
そうやって、工藤くんを
いじらないでくださいよ。
困ってますよ。
ねぇ、全然来なくなったのは
知子さんの原因なの?
工藤くん。」
紀子は、星矢に近寄って、
フォローした。
まさかそんなはずはと思った
知子は、そっとそばから離れて、
楽器演奏練習に戻って行った。
「あ、ありがとう。宮下さん。」
「いいのよ。別に。
気にしないで。
工藤くんはこのクラブで
モテモテなのは確かだから。
唯一の黒一点なんだからさ。
それはそうでしょう。
若い子好きなマダムなんだからさ。
それより、随分来てなかったじゃない?
大丈夫だった?
具合悪かったの?」
「いえいえ、違いますよ。
友達の家に引っ越し作業があって、
なかなか来られなかったんです。
本当はフルート弾きたくて
ウズウズしてました。
仕事も立て込んでて忙しくて…。
やっと来られて、今は、興奮してますよ。」
「ちょ、鼻息荒くしなくても…。
もしかして、ルームシェアってやつ?
家賃も折半になるから良いよね。
私もそうしようかな。
そろそろ、1人暮らしも飽きてきたかな。」
「宮下さんもそろそろですか。」
「え?彼氏なんていないわよ。
良い相手いない?
紹介して欲しいくらい。
誰かいないかなぁ。」
知子は、照れて誤魔化し、
星矢から離れて歩いて行く。
「紹介する人って言っても…
対象が一緒だからなぁ。」
ボソッとつぶやいて、
フルートを口につけて、軽く吹いた。
良い音色が響いた。
これが好きだなぁと安心して
続けて演奏する。
周りで楽器演奏していた部員たちは
手を止めて、星矢の音色を静かに
聞いていた。
優しくて、眠くなりそうな音。
皆、うっとりと聞いていた。
フルートを吹いている星矢も嬉しくなった。
周りの空気がふんわりとして、
居心地がよくなった。
星矢はケースの中からいつものフルートを
取り出した。
今日は、
久しぶりにフルートの演奏会の練習に
参加していた。
パイプ椅子に座って、音の調子を確認する。
「あれ、工藤くん、久しぶりね。
ずっと待ってたんだよ。
来週の演奏会参加できるのね。」
楽器演奏クラブの
部長 佐藤 知子に
声をかけられた。
「ずっと休んでて、すいません。
みなさんに顔忘れてないかなっって
心配でした。」
「そんな、可愛い顔の工藤くんを
忘れるわけないでしょう。
マダムに人気なんだから。」
知子はまもなく60歳になる。
他の部員も40歳から
50歳の女性が多かった。
唯一、近い年齢なのは同じ30代の
宮下 紀子だった。
東京に引っ越したときの部長だった。
高校から一緒の友人1人でもある。
彼女はクラリネットを担当していた。
「そうですかね。それは嬉しいです。」
「知子さん、
そうやって、工藤くんを
いじらないでくださいよ。
困ってますよ。
ねぇ、全然来なくなったのは
知子さんの原因なの?
工藤くん。」
紀子は、星矢に近寄って、
フォローした。
まさかそんなはずはと思った
知子は、そっとそばから離れて、
楽器演奏練習に戻って行った。
「あ、ありがとう。宮下さん。」
「いいのよ。別に。
気にしないで。
工藤くんはこのクラブで
モテモテなのは確かだから。
唯一の黒一点なんだからさ。
それはそうでしょう。
若い子好きなマダムなんだからさ。
それより、随分来てなかったじゃない?
大丈夫だった?
具合悪かったの?」
「いえいえ、違いますよ。
友達の家に引っ越し作業があって、
なかなか来られなかったんです。
本当はフルート弾きたくて
ウズウズしてました。
仕事も立て込んでて忙しくて…。
やっと来られて、今は、興奮してますよ。」
「ちょ、鼻息荒くしなくても…。
もしかして、ルームシェアってやつ?
家賃も折半になるから良いよね。
私もそうしようかな。
そろそろ、1人暮らしも飽きてきたかな。」
「宮下さんもそろそろですか。」
「え?彼氏なんていないわよ。
良い相手いない?
紹介して欲しいくらい。
誰かいないかなぁ。」
知子は、照れて誤魔化し、
星矢から離れて歩いて行く。
「紹介する人って言っても…
対象が一緒だからなぁ。」
ボソッとつぶやいて、
フルートを口につけて、軽く吹いた。
良い音色が響いた。
これが好きだなぁと安心して
続けて演奏する。
周りで楽器演奏していた部員たちは
手を止めて、星矢の音色を静かに
聞いていた。
優しくて、眠くなりそうな音。
皆、うっとりと聞いていた。
フルートを吹いている星矢も嬉しくなった。
周りの空気がふんわりとして、
居心地がよくなった。
0
お気に入りに追加
16
あなたにおすすめの小説
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
日本一のイケメン俳優に惚れられてしまったんですが
五右衛門
BL
月井晴彦は過去のトラウマから自信を失い、人と距離を置きながら高校生活を送っていた。ある日、帰り道で少女が複数の男子からナンパされている場面に遭遇する。普段は関わりを避ける晴彦だが、僅かばかりの勇気を出して、手が震えながらも必死に少女を助けた。
しかし、その少女は実は美男子俳優の白銀玲央だった。彼は日本一有名な高校生俳優で、高い演技力と美しすぎる美貌も相まって多くの賞を受賞している天才である。玲央は何かお礼がしたいと言うも、晴彦は動揺してしまい逃げるように立ち去る。しかし数日後、体育館に集まった全校生徒の前で現れたのは、あの時の青年だった──
王様は知らない
イケのタコ
BL
他のサイトに載せていた、2018年の作品となります
性格悪な男子高生が俺様先輩に振り回される。
裏庭で昼ご飯を食べようとしていた弟切(主人公)は、ベンチで誰かが寝ているのを発見し、気まぐれで近づいてみると学校の有名人、王様に出会ってしまう。
その偶然の出会いが波乱を巻き起こす。
家事代行サービスにdomの溺愛は必要ありません!
灯璃
BL
家事代行サービスで働く鏑木(かぶらぎ) 慧(けい)はある日、高級マンションの一室に仕事に向かった。だが、住人の男性は入る事すら拒否し、何故かなかなか中に入れてくれない。
何度かの押し問答の後、なんとか慧は中に入れてもらえる事になった。だが、男性からは冷たくオレの部屋には入るなと言われてしまう。
仕方ないと気にせず仕事をし、気が重いまま次の日も訪れると、昨日とは打って変わって男性、秋水(しゅうすい) 龍士郎(りゅうしろう)は慧の料理を褒めた。
思ったより悪い人ではないのかもと慧が思った時、彼がdom、支配する側の人間だという事に気づいてしまう。subである慧は彼と一定の距離を置こうとするがーー。
みたいな、ゆるいdom/subユニバース。ふんわり過ぎてdom/subユニバースにする必要あったのかとか疑問に思ってはいけない。
※完結しました!ありがとうございました!
学園と夜の街での鬼ごっこ――標的は白の皇帝――
天海みつき
BL
族の総長と副総長の恋の話。
アルビノの主人公――聖月はかつて黒いキャップを被って目元を隠しつつ、夜の街を駆け喧嘩に明け暮れ、いつしか"皇帝"と呼ばれるように。しかし、ある日突然、姿を晦ました。
その後、街では聖月は死んだという噂が蔓延していた。しかし、彼の族――Nukesは実際に遺体を見ていないと、その捜索を止めていなかった。
「どうしようかなぁ。……そぉだ。俺を見つけて御覧。そしたら捕まってあげる。これはゲームだよ。俺と君たちとの、ね」
学園と夜の街を巻き込んだ、追いかけっこが始まった。
族、学園、などと言っていますが全く知識がないため完全に想像です。何でも許せる方のみご覧下さい。
何とか完結までこぎつけました……!番外編を投稿完了しました。楽しんでいただけたら幸いです。
鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。
学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語
紅林
BL
『桜田門学院高等学校』
日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ
しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ
そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である
フローブルー
とぎクロム
BL
——好きだなんて、一生、言えないままだと思ってたから…。
高二の夏。ある出来事をきっかけに、フェロモン発達障害と診断された雨笠 紺(あまがさ こん)は、自分には一生、パートナーも、子供も望めないのだと絶望するも、その後も前向きであろうと、日々を重ね、無事大学を出て、就職を果たす。ところが、そんな新社会人になった紺の前に、高校の同級生、日浦 竜慈(ひうら りゅうじ)が現れ、紺に自分の息子、青磁(せいじ)を預け(押し付け)ていく。——これは、始まり。ひとりと、ひとりの人間が、ゆっくりと、激しく、家族になっていくための…。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる