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第11話
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昨日の出来事は夢だったんじゃないか。
嘘だったんじゃないかと、
星矢は頬をつねった。
屋上で翔太先輩と星矢がキスするなんて、
信じられなかった。
駅から学校までの道のりが工事中で通れなかったはずなのにどんな状態だったかとか、1人で歩くのが今まで寂しくて辛いと思っていたのに、今はそんなことどうだってよくなった。
こんなに心が満たされるなんて
思ってもみない。
真っ平らな道路でズッコケても
全然気にしない。
鼻穴から鼻血が滴り落ちても、
そんなこと…いや、これは
流石に恥ずかしい。
バックからティッシュを取って、
細くくるくると作ってから鼻穴に
突っ込んだ。
その姿を学校の昇降口に入ろうとしていた
翔子先輩に完全に見られていた。
「あれ、あれ?
星矢くん? おはよう。
どーしたの?
そのティッシュ。
大変なことになってるね。」
翔子先輩は自分のバックから
大量のポケットティッシュを
取り出して、星矢に手渡した。
「あ、すいません。
助かります。
何か、さっき、道路で転んで
鼻を思いっきりぶつけてたみたいです。
鼻血が…あーまた出てきた。」
「鼻は血が出やすいから。
乾燥してるだけでも出るよ。」
「そうなんですか。
血圧とか上がっても出ますよね。」
「良かった。
鼻血の理由が転んだからってことで。
星矢くんが良からぬ妄想を始めたのかと
思ったよ。」
「よ、良からぬ妄想?!
な、何を言ってるんですか
先輩、そんな変なこと考えませんよ。」
「えー、そーなの?
いろいろ考えちゃうじゃん。」
「翔子~、行くよー。」
翔子先輩の友達から声がかかると
慌てて、駆け出していく。
「工藤くん、ごめんね。
そのティッシュ、全部使って。
んじゃ、部活…。
あ、昼休みにいつものところでね!」
翔子先輩は手を振って、
思い出したように中庭を指差して
行ってしまった。
ん、ちょっと待って。
昨日、あの調子で会った状態で
どんな顔して翔子先輩の前で
翔太先輩に会えばいいのか困惑した。
そもそも、2人の名前が似てて
なおさらおかしくなるし、
これから翔太先輩と星矢は
どんな関係性になるのかとドキマギした。
鼻血はとりあえず、元に戻って、
ことなきを得たが、数時間経って、
緊張の昼休みの時間になると、
星矢の心臓はマックスに到達する。
胸の前に腕を抱えて、今日のお弁当を持つ。
女子みたいな持ち方に周りの女子たちは
変な顔をして通り過ぎるが、
星矢は気にもしなかった。
自分は今、どんな顔してるか。
ニヤニヤがとまらず、
時々頬をつねって見せた。
中庭に着くと、翔子先輩と翔太先輩は
いつものように屋根つきテーブルの
ベンチに隣同士座っていた。
星矢が来ると、急いで移動してくれる
翔子先輩。優しい人だと改めて、
ほっこりする。
でも、なんら変わりない時間が刻々と
すぎていく。
あれ、昨日のドラマの話とか、
漫画が今これ面白いとか、
最近見た映画で寝なかったものとかの
どうってことのない会話が
繰り広げられていた。
星矢は、そんな話、聞きたいわけじゃない。
なんだろう、このモヤモヤは。
星矢は胸あたりに手を広げて置いてみた。
まだドキドキしている。
「あ、ごめんね。
気づかなかったよ。」
翔子先輩が気を利かせたみたいに
突然、立ち上がった。
「え、どうしたんですか?」
「え、だって、
2人きりになりたかったよね。」
「え?ん?
はい? 翔子先輩どうしたんですか?」
状況が理解できなかった。
公表したわけじゃない。
星矢の心は複雑化していく。
「あー、そうだったな。
忘れてた。」
「でしょう。そうだろうと思った。
翔太くんって鈍感なところあるから。」
「そ、そうか?
気をつけるよ。」
「んじゃ、お弁当も食べ終わったことだし、
一通り、3人での会話も済んだから。
私、行くね。じゃ。」
翔子先輩は食べ終わったお弁当を丁寧に
包んで、バックに閉まった。
「お、おう。
んじゃ、また明日だな。」
「はーい。」
「………。」
星矢は何も言わずに
ただただ手を振ることしか
できなかった。
いっぽう、翔太先輩はというと、
お弁当を食べ終えて、頬杖をつきながら、
スマホの画面を見始めた。
いつもと全然変わらないよなと
落胆するようにため息をつく。
星矢は、お弁当をハンカチに包んで片付けると、ポケットからスマホを取り出した。
画面を見ようとしたら、急に翔太先輩は、
星矢のスマホを持っていった。
「あ……。」
「俺の前でスマホ禁止。」
「え?……。」
「ヤキモチ妬くだろ。
誰と連絡してるのかなとか。
何に興味持ってるのかなって。」
「……。」
翔太先輩も自分のスマホを持ったまま、
右手にも星矢のスマホがある。
何だか納得できなかった。
「ず、ずるいです。
僕のスマホ、持っていくなんて。
翔太先輩だって、
ずっとスマホ見ていますよ。」
「あ! そうだった。
ごめんごめん。」
やけに素直な返しに星矢は驚く。
謝りながら、スマホをポケットにしまい、
星矢のスマホだけテーブルに置いた。
「これ、中身見たら怒るの?」
翔太先輩は、星矢の顔を見ながら、
スマホを指差す。ロックがかかったままだ。
嫉妬されていることに気づいて、
少し嬉しかった。気にかけてくれてると
思った。
「別に、中身見ても、友達も少ないですし、
コンビニのスイーツ情報くらいしか
来ないですよ。」
パスワードを入力して、
ラインアプリを開いた。
友達リストの中に翔太先輩と
翔子先輩が並んでいるのが見えた。
「あー、これ、間違えそう。
名前変更ってしないの?
俺と翔子間違えないの?」
細かいチェックが入る。
星矢は仕方ないなと名前変更をした。
一つは翔太先輩を翔太に
翔子先輩を吹奏楽部 部長と
名称を変えた。
「……それならいいな。」
ご満悦な表情。
腕を組んでよろこんだ。
ジリジリと近くに迫っている気がする。
こんなに近くにいていいのかと疑問が
湧くくらいだ。
星矢の肩にふっと頭を乗せた。
「ちょっと昼寝したい。」
小声でつぶやくと
そのまま寝入ってしまった。
体が硬直して動けない。
嬉しすぎて、心臓がもたない。
星矢は、反対の方向を見て、
ごまかしながら、
ずっと屋上の空を見ていた。
翔太先輩の寝息がオルゴールに思えた。
嘘だったんじゃないかと、
星矢は頬をつねった。
屋上で翔太先輩と星矢がキスするなんて、
信じられなかった。
駅から学校までの道のりが工事中で通れなかったはずなのにどんな状態だったかとか、1人で歩くのが今まで寂しくて辛いと思っていたのに、今はそんなことどうだってよくなった。
こんなに心が満たされるなんて
思ってもみない。
真っ平らな道路でズッコケても
全然気にしない。
鼻穴から鼻血が滴り落ちても、
そんなこと…いや、これは
流石に恥ずかしい。
バックからティッシュを取って、
細くくるくると作ってから鼻穴に
突っ込んだ。
その姿を学校の昇降口に入ろうとしていた
翔子先輩に完全に見られていた。
「あれ、あれ?
星矢くん? おはよう。
どーしたの?
そのティッシュ。
大変なことになってるね。」
翔子先輩は自分のバックから
大量のポケットティッシュを
取り出して、星矢に手渡した。
「あ、すいません。
助かります。
何か、さっき、道路で転んで
鼻を思いっきりぶつけてたみたいです。
鼻血が…あーまた出てきた。」
「鼻は血が出やすいから。
乾燥してるだけでも出るよ。」
「そうなんですか。
血圧とか上がっても出ますよね。」
「良かった。
鼻血の理由が転んだからってことで。
星矢くんが良からぬ妄想を始めたのかと
思ったよ。」
「よ、良からぬ妄想?!
な、何を言ってるんですか
先輩、そんな変なこと考えませんよ。」
「えー、そーなの?
いろいろ考えちゃうじゃん。」
「翔子~、行くよー。」
翔子先輩の友達から声がかかると
慌てて、駆け出していく。
「工藤くん、ごめんね。
そのティッシュ、全部使って。
んじゃ、部活…。
あ、昼休みにいつものところでね!」
翔子先輩は手を振って、
思い出したように中庭を指差して
行ってしまった。
ん、ちょっと待って。
昨日、あの調子で会った状態で
どんな顔して翔子先輩の前で
翔太先輩に会えばいいのか困惑した。
そもそも、2人の名前が似てて
なおさらおかしくなるし、
これから翔太先輩と星矢は
どんな関係性になるのかとドキマギした。
鼻血はとりあえず、元に戻って、
ことなきを得たが、数時間経って、
緊張の昼休みの時間になると、
星矢の心臓はマックスに到達する。
胸の前に腕を抱えて、今日のお弁当を持つ。
女子みたいな持ち方に周りの女子たちは
変な顔をして通り過ぎるが、
星矢は気にもしなかった。
自分は今、どんな顔してるか。
ニヤニヤがとまらず、
時々頬をつねって見せた。
中庭に着くと、翔子先輩と翔太先輩は
いつものように屋根つきテーブルの
ベンチに隣同士座っていた。
星矢が来ると、急いで移動してくれる
翔子先輩。優しい人だと改めて、
ほっこりする。
でも、なんら変わりない時間が刻々と
すぎていく。
あれ、昨日のドラマの話とか、
漫画が今これ面白いとか、
最近見た映画で寝なかったものとかの
どうってことのない会話が
繰り広げられていた。
星矢は、そんな話、聞きたいわけじゃない。
なんだろう、このモヤモヤは。
星矢は胸あたりに手を広げて置いてみた。
まだドキドキしている。
「あ、ごめんね。
気づかなかったよ。」
翔子先輩が気を利かせたみたいに
突然、立ち上がった。
「え、どうしたんですか?」
「え、だって、
2人きりになりたかったよね。」
「え?ん?
はい? 翔子先輩どうしたんですか?」
状況が理解できなかった。
公表したわけじゃない。
星矢の心は複雑化していく。
「あー、そうだったな。
忘れてた。」
「でしょう。そうだろうと思った。
翔太くんって鈍感なところあるから。」
「そ、そうか?
気をつけるよ。」
「んじゃ、お弁当も食べ終わったことだし、
一通り、3人での会話も済んだから。
私、行くね。じゃ。」
翔子先輩は食べ終わったお弁当を丁寧に
包んで、バックに閉まった。
「お、おう。
んじゃ、また明日だな。」
「はーい。」
「………。」
星矢は何も言わずに
ただただ手を振ることしか
できなかった。
いっぽう、翔太先輩はというと、
お弁当を食べ終えて、頬杖をつきながら、
スマホの画面を見始めた。
いつもと全然変わらないよなと
落胆するようにため息をつく。
星矢は、お弁当をハンカチに包んで片付けると、ポケットからスマホを取り出した。
画面を見ようとしたら、急に翔太先輩は、
星矢のスマホを持っていった。
「あ……。」
「俺の前でスマホ禁止。」
「え?……。」
「ヤキモチ妬くだろ。
誰と連絡してるのかなとか。
何に興味持ってるのかなって。」
「……。」
翔太先輩も自分のスマホを持ったまま、
右手にも星矢のスマホがある。
何だか納得できなかった。
「ず、ずるいです。
僕のスマホ、持っていくなんて。
翔太先輩だって、
ずっとスマホ見ていますよ。」
「あ! そうだった。
ごめんごめん。」
やけに素直な返しに星矢は驚く。
謝りながら、スマホをポケットにしまい、
星矢のスマホだけテーブルに置いた。
「これ、中身見たら怒るの?」
翔太先輩は、星矢の顔を見ながら、
スマホを指差す。ロックがかかったままだ。
嫉妬されていることに気づいて、
少し嬉しかった。気にかけてくれてると
思った。
「別に、中身見ても、友達も少ないですし、
コンビニのスイーツ情報くらいしか
来ないですよ。」
パスワードを入力して、
ラインアプリを開いた。
友達リストの中に翔太先輩と
翔子先輩が並んでいるのが見えた。
「あー、これ、間違えそう。
名前変更ってしないの?
俺と翔子間違えないの?」
細かいチェックが入る。
星矢は仕方ないなと名前変更をした。
一つは翔太先輩を翔太に
翔子先輩を吹奏楽部 部長と
名称を変えた。
「……それならいいな。」
ご満悦な表情。
腕を組んでよろこんだ。
ジリジリと近くに迫っている気がする。
こんなに近くにいていいのかと疑問が
湧くくらいだ。
星矢の肩にふっと頭を乗せた。
「ちょっと昼寝したい。」
小声でつぶやくと
そのまま寝入ってしまった。
体が硬直して動けない。
嬉しすぎて、心臓がもたない。
星矢は、反対の方向を見て、
ごまかしながら、
ずっと屋上の空を見ていた。
翔太先輩の寝息がオルゴールに思えた。
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