夜空に舞う星々のノクターン

もちっぱち

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第3話

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静かな音楽室の窓を開けた。
少し遠くでボールをバットで打つ音が
響いている。

今日も野球部は練習しているのだろう。

星矢は、校庭の音を聞いて安心した。

窓を閉めると3年部長の佐々木翔子《ささきしょうこ》が中へ入ってきた。

「あれ、工藤くん。
 早いわね。
 練習はどう?順調かな。」

 席にバックを置く部長は、優しく声を
 かけてくれた。部員の中で唯一、
 会話できる人だった。

「そうですね。
 少しずつ練習してました。」

「フルート…なんでもそうなんだけど、
 吹けるようになるまで時間かかるから。
 頑張ってね。
 でも、工藤くん、熱心だから。
 昨日も、自主練して帰ったでしょう?」

「あ、はい。
 ごめんなさい。 
 まずかったですか?」

「ううん。
 音楽室の鍵返す時、
 職員室にノート書くでしょう。 
 あれに名前と時間が書いてあったから。」

「あー、それで。
 すいません、バレてたんですね。
 恥ずかしい。」

「練習真面目にするのは悪いこと
 じゃないよ。1年生なのにすごい。
 私が1年の時はまっすぐ帰ってたから。」

「そうなんですか。」

「お疲れ様です。」

 他の部員たちが次々と中に入ってきた。
 会話をするのが苦手な星矢は、
 席に戻って、静かに座った。

「部長、今度の演奏会。
 私、真ん中でいいですか?」

「美紀ちゃん、
 随分思い切ったことするわね。
 まだ全然クラリネット吹けてないのに。」

「えー、だって、ポジション大事でしょう。
 野球だって、ライトレフトってありますし、私はセンターで。って、アイドルみたいだから、野球関係ないかぁ…ハハハ。」

 上機嫌の1年里中優奈さとなかゆうな。テンション高めの女子だ。
 星矢は苦手なタイプだ。

「アイドルみたいになれるんじゃない?
 ダンスしちゃったりして?」

 ノリノリの部長は、
 優奈の話に乗っかった。
 ムードメーカーの部長で
 雰囲気は柔らかくなる。
 楽しくできるのは、
 部長がいてこそだった。


「んじゃ、練習始めるよ。
 それぞれ、自分の楽器準備して、
 演奏会の曲を吹けるように
 なってください。」

 手を叩いて、仕切りなした。
 それぞれの楽器で練習が始まった。
 もちろん、星矢もフルートを準備して、 
 1曲吹けるように何度も練習した。

 いつもより、綺麗に吹くことができて、
 嬉しかった。

 数時間後、部長に声をかけられた。

「工藤くん、今日はどうするの?
 練習してく?」

「練習してもいいですか?」

「もちろん、鍵は忘れずに職員室に
 返してね。」

 星矢は部長から音楽室の鍵を預かった。
 他の部員たちはゾロゾロと帰っていく。

 1人になって、ふーっとため息をつく。
 
 人が多い空間にいるとどっと
 疲れてしまう。
 1人になってからの方が落ち着いて
 練習できる。

「さてと。綺麗に吹けるように
 ならないと_。」

 昨日と同じように何度も同じ曲を吹いた。

 力を入れすぎて、音が外れることもある。

「あ…。」

 15分くらい練習すると、
 ガヤガヤと外が騒がしくなっていた。

 窓の外を見る。
 デジャブだろうか。
 
 昨日と変わらない景色が見える。

 翔太がまたこちら側の方へ歩いてくる。
 でもここは2階の音楽室。

 窓から下を覗くと、翔太が手を振って、
 笑顔を見せていた。
 さっきまで一緒にいた部員たちは
 反対方向の校門へ向かっていて、

 キャプテンである翔太しかいない。

 グラウンドの鍵を持っていた。

「工藤だよな?
 今日も練習?」

「はい、そうです。」

「もう、練習やめるのか?」

「あと1回くらいしたら、帰ろうかと。」

「そうか。聞いてもいいか?」

「あ、はい。どうぞ。
 今やりますね。」

 星矢は、花壇をベンチ代わりに座って、
 目をつぶる翔太のためにフルートを
 吹いた。
 何度も練習していたから昨日よりは
 上手く吹けていた。

 きっと瞑想していたんだろう。

 天を仰いでいた。

「うん。良かった。」


「ありがとうございます!」


「おう、んじゃ、そろそろいくな。」


「あ、ちょっと待ってください。
 その鍵って職員室行くんですか?」


「ああ、そうだけど。」


「僕も、ここの鍵持っていくので
 一緒に行ってもいいですか?」


「…ああ、もちろん。」

翔太はえくぼを見せて笑っていた。

2階の音楽室から駆け降りて、翔太のいる
外の駐車場に出た。

初めて、近くに向き合った。

星矢は薄暗い中、筋肉質な翔太に
ドキッとした。制服に着替えている翔太を
間近に見るのはドキッとした。

星矢は、小柄で肌が白い。

華奢だった。


「初めて近くで見るけど、
 女の子みたいだな。」


「え、いや。まぁ、よく言われますけど、
 男子ですよ。」


「わかってるって。
 ほら、行くぞ。」

 翔太は星矢の背中に触れた。

 星矢は、その仕草だけで
 心臓が尋常じゃなかった。

 
 隣同士、電灯の下で、
 外の渡り廊下から職員室に向かう。


 ほんの一瞬の出来事だったが、
 お互い居心地が良かった。


 三日月が空にぼんやりと出ていて、
 雲のない夜空に星がキラキラと
 輝いていた。


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