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第33話

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横断歩道で信号機の音が鳴った。
たくさんの人が反対側の商店街に移動している。

遠くの方で救急車のサイレンが鳴っている。

雪菜と凛汰郎は、いつの間にか
数センチ離れて歩いている。

手をつないでいない。

この微妙な距離感。
周りにたくさんの人がいる。
見られるのが恥ずかしい方が勝っている。

目的地がわからずに
ただ、凛汰郎の後ろで
アーケード商店街を歩いている。

ふと、気が付くと、
凛汰郎が、雪菜の方を見て、
右側の店を指さして誘導した。

「え、ここ?」

 キラキラと光りガチャガチャと音が鳴る。
 目の前には、大きな可愛いぬいぐるみが
 ガラスケースの中に入っていた。

 お金を入れずにボタンを押してみる。
 何もならないのはわかっていたが、
 突然、音楽が鳴る。

 凛汰郎が100円玉を入れた。

「1回やってみなよ。」

「え?! これ、どこ狙えばいいの?」

「このぬいぐるみの脇にアーム寄せれば取れる
 かもしれない。」

 UFOキャッチャーの機械を右から横からのぞいて
 どこを狙うかを吟味した。
 
 今のゲーム機械は進化していて、
 確率機でアームが緩くなったり、
 きつくなったりと変則的に力が変わる。
 それが運良ければ、少額でとれることもある。
 のめりこみすぎると散財してしまう。
 
「…無理だぁ。取れなかった。
 つかんだと思ったら、すり抜けたよ。」

「俺、やるよ。」
 
 凛汰郎は、両替してきたばかりの
 お金を一気に500円入れて、回数を増やした。
 この機械は100円で1プレイだったが、
 500円入れると6回できるお得になるものだった。

 右から左からといろいろ試しては、
 最後の6回目にタグに見事に引っ掛かり、
 景品出口まで落ちてきた。

「よっしゃー。」
 
 見たことない笑顔で喜んでいる。
 こんな一面もあるんだなと少し安心した。

「何笑ってんだよぉ。」

「ううん。
 何か普通の高校生なんだなって
 思っただけ。」

「は?俺が普通じゃないって
 言いたいわけ?」

「そういうことじゃなくて、
 凛汰郎くん、いつもロボットみたいに
 学校いるとき、こわばってるから、
 今みたいな笑顔見せると
 みんなも接しやすいのにって
 思っただけ…。」

「俺、人間嫌いだから。
 愛想ふりまく意味わからない。
 人に媚び売ったり、
 ごますったりするの
 好きじゃないから。」

 急に顔が暗くなった。
 せっかく笑顔をほめたのに
 機嫌が悪くなった。

「え、でも、なんで、
 さっき笑ってたの?」

「知らない。
 笑いたくて笑っただけだし……。」

「ふーん。そうなんだ。」

 ぎゅっと持っていたぬいぐるみを
 雪菜に手渡した。

「え?」

「これ、やる。」

「もらっていいの?」

「ああ。」

 顔を向こう側にして、恥ずかしいそうに
 頬を赤らめていた。

「ありがとう。うれしい。
 大事にするね。
 今日は、なんだかもらってばかりだね。」

 ふわふわ素材でできたの真っ白な可愛い
 うさぎのぬいぐるみだった。
 雪菜の笑顔がキラキラと輝いて見えた。
 
 さらに耳まで赤くして、商店街の通路に走っていく。
 あまりにも雪菜が可愛くて、照れているようだった。

「え!ちょっと、凛汰郎くん、
 置いてかないでよ。
 早いよぉ!!」
 
 数メートル先をささっと早歩きで進んで行く。 
 雪菜は、必死で追いかけた。

 近くで鳩がぽーぽーと鳴いている。

 2人横並びにならぶとはたから見たら、
 彼氏彼女と見られても
 全然おかしくない後ろ様子だった。

 帰りにハンバーガーショップによって、
 ランチを一緒に食べた。
 
 待ち合わせた場所で別れを告げて、
 その日は、何も進展せずに終わりを迎えた。

 
 
◇◇◇

 雪菜は自分の部屋について、テーブルの上に
 UFOキャッチャーで取ってもらった
 ぬいぐるみをポンと置いて見つめ合った。

 ふわふわで赤いキラン光る眼、
 ピンク色のリボンを首につけている。

 ぎゅーっと抱きしめた。

 目の前に凛汰郎は、いないのに
 いまだに心臓が早く打ち鳴らす。

 ワイヤレスイヤホンを弁償するだけかと思っていた。
 ゲームセンターでぬいぐるみを取ってくれたり、
 おみやげの狼の小さなキーホルダー買ってくれたり
 どうしてそういうことをしてくれるのか
 不思議でありがたさより、申し訳なさが勝つ。

 部活で接してる時よりも表情が柔らかかった。
 話し方が優しかった。
 周りに知っている人がいないためか。
 
 雪菜は純粋に違った凛汰郎を見て、
 ますます気になる存在になってきていた。

 ベッドの上、うさぎを抱きしめて、
 眠りについた。

 どんな安眠グッズよりも優れていた。
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