愛の充電器がほしい

もちっぱち

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第49話

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玄関のドアがバタンと閉まった。
夜遅いから静かに閉めるつもりが
思わず鳴ってしまった。

(やばい。
 寝かしつけ中に帰って来ないでって
 言われてたのに…。)

 時刻は午後21時。
 ちょうど美羽は紬と一緒に
 ベッドで寝ては絵本を読み聞かせたり、
 学校での出来事を話したりする時間だ。

 何の物音がしない。

 何とか免れたようだ。

 リビングに移動して、
 ソファにバックとスーツジャケットを
 脱いでひっかけた。

 まともにご飯を食べていなかった颯太は
 冷蔵庫の中をあさった。

 冷蔵庫の扉を閉めた瞬間、
 亡霊のように
 美羽が左横に立っていた。

「うわ?!」

「何よ、人をおばけみたいに。」

「ご、ごめん。
 びっくりしたから。」

「おかえり。
 ご飯食べてないの?」

「あ、うん。
 ただいま。
 食べる時間なくてさ。
 上司の付き合いで
 飲みには行ってきたんだけど。」

 美羽は、台所に立ち、
 何かを準備しようとするが、
 食べ物の匂いで少し嗚咽をしてた。

「大丈夫?
 いいよ、準備自分でできるから。
 残りご飯でチャーハンでも
 作ろうかと思ってたから。」

「うん。大丈夫。
 吐くまではいかないし、
 少しよだれ多くなるだけ。
 つわりって安定期すぎても
 あるんだよね。」

 颯太は、冷蔵庫から取り出した
 タッパと卵を置いて、
 フライパンをコンロの上に
 セットした。

「ねぎとかきのことか入れないと、
 味気ないよ。
 ベーコンもあったよ。」

 美羽は冷蔵庫の中から適当に取り出して
 颯太に渡した。

「うん。
 んじゃ、入れて作るよ。
 座ってて。
 疲れちゃうんでしょう。」

 火をつけて、
 溶き卵をフライパンに
 入れた。
 美羽は、言われるがまま
 マグカップにハーブティーを
 入れてソファ移動をした。

 颯太はワイシャツとネクタイをつけたまま
 台所であっちやこっちに移動して
 チャーハンを作った。
 大きな白い皿に丸く盛り付けて
 レンゲを置いた。
 トレイに乗せて、食卓に運んだ。
 缶ビールを持ってきて、
 席に座る。

 美羽は、ソファから移動することもなく、
 声をかける。

「今日、
 話、聞いてくれるって言うから
 起きていようと思って、
 寝室で音楽聴きながら
 待ってたよ。」

 カップにふぅーと息を吹きかけて
 暑いハーブティを冷ました。

 缶ビールのプルタブの音が響く。
 レンゲでチャーハンをかっこんだ。

「あ、うん。
 そうだったよね。
 病院の話、なんだっけ。」

「性別、そろそろわかるかなと思ったら、
 足でしっかりクロスして隠してたって。
 先生も恥ずかしがり屋だねって
 言ってたよ。」

 美羽は、産婦人科の検診でもらった
 超音波白黒写真を颯太に見せた。

「え、どれどれ。
 ほぉー、器用に隠すね。
 わかってるみたい。
 写真撮ってるって。
 顔立ちはっきりしてきたね。」

 ぼんやりと写ったその姿は
 小さく可愛かった。
 指しゃぶりをしている。

「そうだよね。
 あと3ヶ月くらいで
 出産なのに
 全然性別わからないから
 服の色とか決められないよ。
 女の子はピンクとか
 男の子は青ってあるでしょう。」

「そうだけどさ。
 どっちでも良い色選んだら?
 間をとって黄色とか白とか。
 紬の時はすぐに分かったから
 ピンク買ってたけどね。」

「ほら、わかってるなら良いじゃない。
 名前だって決めなくちゃいけないのに。
 大変だよぉ。」

 食卓の颯太の隣に座る美羽。
 いろんなことを決めなくちゃいけなくて
 不安になってくる。

 頭をポンポン優しく撫でた。

「よしよし、頑張ってるね。
 美羽ママはよく頑張ってるよ。
 紬の宿題見なくちゃいけないとか
 洗濯も掃除もご飯もね。
 お疲れ様。」

「うん、そおだよ。
 毎日やってるよ。
 眠くてできないことも多いけど。」

 情緒不安定でちょっとしたことで
 涙が出そうになる。

 颯太は肩に顔を寄せた。

「うんうん。」

「紬ちゃん、最近、冷たくて。
 まともに会話ができなくなってるの。
 私がお腹の赤ちゃんのこというからかな。
 楽しみにしてくれてると思って、
 生まれたらベビーカーに乗せて
 一緒に公園行こうねとか
 お洋服一緒に買いに行こうねって
 言うんだけど。」

「紬、反抗期だと思うんだよね。
 今まで
 あまり反抗してこなかったわけだし
 しっかり手伝いとかしてくれてたけど、
 美羽のお腹に赤ちゃんいることで
 嫉妬してるのかもしれない。
 生まれる前に大きな公園
 連れてってあげたいけど、
 仕事がなかなか休み取れなくてさ。」

「そっかぁ。
 紬ちゃんヤキモチ妬いてるのか。
 てっきり私のことを
 嫌いになっちゃったのかなって
 思ってた。
 良かった…。」


「え、いや、それはないよ。
 俺も忙しくて
 まともに相手してあげて
 ないからさ。
 美羽がいてくれて助かるよ。
 想像以上に今は忙しくてさ。
 ちょっと前まではホワイト企業だと
 思ってたけど、
 若い従業員が減ってきてさ。
 悠長にしてられなくなったんだ。
 4月には新人さん入るから
 そのうち
 少し落ち着くとは思うけど
 今、その採用面接の仕事も
 入ってるからさ。」

「大変だね。
 今の若い人も持続力が足りないって
 聞くし、人数と仕事の分量は
 どうしても補えない部分はあるもんね。
 
 私はただ単に家の中に存在することしか
 できてないけど、
 それでいいのか自問自答だよ。
 役に立ててるのかな。」

 席に座る颯太は、立ちあがった美羽の
 両手をつかんで
 向かい合わせに見つめた。

「役に立ってるよ。
 大丈夫。
 お腹の赤ちゃんも
 美羽も大事に思ってるから。 
 そんなネガティブにならないで。」

 ぎゅっと体を抱きしめた.

「うん。」

 颯太の首の後ろに手をまわす。
 お腹から聞こえる鼓動を
 直接近づけて聞く。
 足でお腹を蹴るのがわかった。

「ポコポコ言ってるね。」

「うん。最近、胎動が出てきたかも。」

「……明日に響くから早めに寝よう。
 お風呂入ってくる。」

 颯太は、何かを察したように
 食器を片付けて、
 お風呂場へ行く。

 何を急ぐ必要があるのだろうと
 疑問符を浮かべながら、
 ソファに移動した美羽は、
 Bluetoothにつないだ
 ヘッドホンをして
 音楽を聴いた。
 
 数分後、
 いつもより早めにお風呂を終わらせた
 
 颯太はドライヤーとタオルを持ってきて、
 ソファに置いた。
 上がってきた颯太を見て
 静かに美羽はドライヤーのコードを
 コンセントにさして、
 髪を乾かした。

「髪、長くなってきたね。
 耳のあたりにかぶってきた。」

「うん、そうかも。
 そろそろ切りにいかないとね。」

 耳のところに美羽の手が伸びると
 颯太は手首をつかんだ。
 膝立ちで後ろから乾かしていた
 美羽はびっくりした。

 手の匂いを嗅ぐ。

「アロマのハンドクリーム塗った?
 良い匂いする。」

「うん。今、塗ったよ。
 洗い物してすぐカサカサするから。」

「頑張ってる証拠じゃん。」

「どうしたの?
 何か今日、甘えっ子だね。」

 颯太は、膝立ちする
 美羽の腰後ろに両手を回す。

「俺だって嫉妬するよ。
 そのお腹の子に。
 ずっと一緒でずるいな。」

 ハグをした。

「颯太も嫉妬するの?
 初めて聞いた。
 素直に言うの。」

「……うん。」

「何かあった?」

「していい?」

「え、でも、できる?
 つけるのあるの?」

「買ってたよ。
 引き出しにたっぷり用意してたもん。」

「そーなんだ。
 でも何だっけ。
 産婦人科の説明会で
 激しいのはダメだとか
 詳しく書いてたけど… 
 私も初めてだからわからない。」

 テーブルに置いていた資料を
 取ろうとすると
 腕で体を支える。
 手に胸にあたった。

「うひゃ。」

 妊娠してからかなりご無沙汰だった
 美羽は過剰反応した。

「そんな触ってないよ。
 危ないから支えたのに!」

「えー?
 明らかに
 触ってるんですけどぉ。」

「良いじゃん別に。
 夫婦なんだから。」

 頬を膨らませて怒る颯太。
 小さな子どものようだ。

「わかったよ。
 んじゃ、寝室行こう。
 ここじゃ寒いから。」

「よっしゃ。」

 そう言って嬉しそうに
 美羽をお姫様抱っこして、
 寝室へ運んで行った。
 
 7ヶ月以上何もなかったため、
 浦島太郎状態。
 敏感すぎる美羽に
 とまどいを見せながら、
 順序立てて丁寧に
 愛撫した。

 2人は熱い夜を過ごした。


 お互いに
 胸にひっかかっていた
 わだかまりが
 消えた気がした。



 絶頂期を迎えてから
 すぐに
 どさっとベッドに
 それぞれ分かれて
 隣同士にくっついた
 天井を見上げた。


「お腹の赤ちゃんってどんな気持ちで
 いるのかな。」

「見えるわけじゃないけどな。
 侵入者だ?!とか思うのかな。」

「そんな中までいかないでしょう。
 防いでるもの。」

「パパとママが
 ラブラブでいいなぁって
 思ってるといいけど。」

「0歳児で知能レベル高くない?」

「まぁ、確かに…。」


 お互いの額同士を
 顔をくっつけて
 くすくすと
 笑いが止まらなかった。




 隣のこども部屋では
 いびきをかいて
 紬は熟睡していた。





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