ブレーメン

もちっぱち

文字の大きさ
上 下
24 / 44

仲間がいることに安心する

しおりを挟む
黒い真四角の建物の中に入ると、
ひよこのルークに社長室に案内された。

リアムはここはどこなんだろうと辺りを
ぐるぐると見回した。

「あー、わかった。
 その会場で手配よろしく。」

 スマホを片手に窓を見ながら、
 ライオンのボスは電話をしていた。

 ルークとリアムは、ボスのデスクの前に
 立つ。

 電話の最中、リアムはデスクにあった
 ニュートンのゆりかごのインテリアが
 気になって、カチカチと音が鳴るのを
 見ていた。右左と揺れるのが楽しかった。
 
「すまん、電話終わったよ。」

 ボスは、ずっとデスクを見ているリアムに
 視線をズズイと合わせた。
 今にも食べられるんでは無いかと
 壁ギリギリまで後退りした。
 怖くて鳥肌が立った。

「食べやしないよ。
 俺は、ライオンだが、
 好物は、ジャーキーだから。
 うさぎ肉はくせが強いから食べません。」

「くせの問題では…。
 肉食か草食かの問題かと…。」

 まだ、体がブルブルと震える。

「すまんすまん。
 許せ。
 そこにいるひよこが生きてるんだから
 食べないよ。
 信じておくれ。」

「た、確かに。
 ひよこも焼き鳥にすれば
 美味しいごちそうになりますもんね。
 わかりました。
 信じます。」

「はいはい。
 落ち着いて、ここのソファに座って。」

 商談席を思い出すかのような
 大きなふわふわの黒いソファにボスは
 座った。

 リアムが気になっていた
 ニュートンのゆりかごを
 テーブルに移動した。

 少し、ほっとするリアム。
 惹かれるようにソファに座る。

「とりあえず、自己紹介しよう。
 私は、この株式会社Spoonの社長
 本名は明かせないが、ボスと呼んでくれ。
 そこにいるひよこのルークは
 副社長兼秘書をしている。
 あと、工場長?」

「あ、最後の工場長は言わないでください。
 1人で作ってるだけなんで
 長にされても困ります。」

 ルークは不機嫌そうに言う。

「わかったよ。
 君のことを教えてくれるかな。」

「は、はい。
 僕は、リアムと申します。
 あ、あれ、これって面接ってことに
 なるんですか?」

「あー、いいよ。
 リラックスして。
 そこまで堅苦しくないから。
 大丈夫。
 不採用にすることはないから。
 むしろ、君みたいにね、
 ジェマンドっていたじゃない?
 ああいう人たちから救いたいと
 思ってこの会社を立ち上げたから。
 見返したくない?
 落としたあの人たちを。」

「え……。まぁ。そうですね。
 可能ならば。」

「だよね。
 あいつ、ジェマンドも
 歌手を目指していた1人だったんだけど
 いつからか、あんなふうなやり方で
 俳優を育てるようになってね。
 私はあいつを認めてないんだけど……。
 まぁ、過去のことはいいや。
 とりあえず、私は音楽プロデューサーという
 肩書きで君を歌手にしたいと
 思っているよ。
 舞台俳優では無いけど、
 まずは歌手でドカンと売れれば
 いずれ俳優業もできるから。
 どうかな?」


「歌手…。
 ほんの一握りの人しか
 活躍できませんよね。
 大丈夫ですか?
 僕みたいので。
 今回の俳優応募も適当というか
 やってみようって感覚で受けただけ
 なので思い入れはそこまでないん
 ですけど。」

「いいんだよ。
 行動力があるだけで。
 私は君を救いたいから。
 理不尽に蹴落とす、あいつに
 ギャフンを言わせたいの。
 人というか、動物なんだけどね。
 育てるには、愛がないとやっていけない
 ことをしらしめたいの。
 ね、頑張ろう!
 0からのスタートでも
 なんでもできるから。」

 ボスはリアムの両肩をがっしりと掴んだ。

「伸び代があるってことですか?
 あ、でも、僕、
 昔、何年かピアノ教室通ってたので
 絶対音感はありますよ。
 そう言われるとやる気が出るというか…。
 やってみようかと。」

 リアムは初めは乗り気ではなかったが、
 ボスにアドバイスされると
 何だかやる気が満ち溢れてきた。

 なんでもできそうな気がしてきた。

「そう?
 んじゃ、これからよろしくね。
 仲間が他にもいるから。
 ホールに集まってもらえるかな?」

「仲間?」

「そう、ほら、行くよ。」

ボスは社長室の扉を開くとホールに続く廊下をリアムとルークとともに移動した。

 ホールにつくと、
 甲羅の中に入ってくるくると
 まわっていたのはミドリカメの
 オリヴァだった。

 暇になるとすぐに回り始める。

「おーい、オリヴァ。
 仲間が増えたから。
 出てきて。」

ボスは甲羅に大きな声で叫ぶ。


手から順番に足をポンポンポンポンと出した。最後に頭をいい音を出して登場する。

「え?
 仲間ってだれ?」

オリヴァは鏡のある方に体を向けたが、
自分しか映ってなかった。

「こっちです。オリヴァさん!」

ルークが空中を飛びながら声をかける。

リアムはパタパタと長い耳を動かした。

「今日から新しく加入しました
 うさぎのリアムさんです。」

「え?うさぎとかめでもやるの?」

「やらないやらない。
 それは別な話。
 今回は対決しない
 バンドメンバーだから。」

「あー、そういうこと。
 僕は、ミドリカメのオリヴァです。
 よろしくお願いします。」

「リアムです。
 よろしくお願いします…。」

「2人揃ったね。
 このままじゃ、フラッグ取り合いしなきゃ
 いけなくなるからバンドメンバー集まる
 までもう少し待ってね。
 とりあえず、発声練習して
 終わりでいいよ。」


「ボーカル…するわけじゃないですよね?」

「メンバーが集まらないと
 決められないから。
 目星はついてるから、大丈夫。
 明日くらいには
 連れてこれるかも。」

「そうなんですか。」

 リアムはまだ何も活動できないことに
 少し不満だった。

「メンバー揃い次第、連絡するから
 ルークから紙もらって
 連絡先書いておいてね。
 あれ、オリヴァはもう書いてた?」

「はい。昨日、ルークさんに渡しました。」

「んじゃ、大丈夫だ。
 悪い、電話入った。
 あと、解散でいいから。」

 ボスはスマホの着信に気づいて、
 社長室へ入って行った。

 オリヴァが一緒だと思うと本能的なのか
 なぜかほっとしたリアム。

 本当に救われた気がした。

 胸を撫で下ろした。
 
 配達員ばかりの仕事が減るだけで
 生き甲斐が感じられそうだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

番だからと攫っておいて、番だと認めないと言われても。

七辻ゆゆ
ファンタジー
特に同情できないので、ルナは手段を選ばず帰国をめざすことにした。

【完結】悪役令嬢は3歳?〜断罪されていたのは、幼女でした〜

白崎りか
恋愛
魔法学園の卒業式に招かれた保護者達は、突然、王太子の始めた蛮行に驚愕した。 舞台上で、大柄な男子生徒が幼い子供を押さえつけているのだ。 王太子は、それを見下ろし、子供に向って婚約破棄を告げた。 「ヒナコのノートを汚したな!」 「ちがうもん。ミア、お絵かきしてただけだもん!」 小説家になろう様でも投稿しています。

勝負に勝ったので委員長におっぱいを見せてもらった

矢木羽研
青春
優等生の委員長と「勝ったほうが言うことを聞く」という賭けをしたので、「おっぱい見せて」と頼んでみたら……青春寸止めストーリー。

冷宮の人形姫

りーさん
ファンタジー
冷宮に閉じ込められて育てられた姫がいた。父親である皇帝には関心を持たれず、少しの使用人と母親と共に育ってきた。 幼少の頃からの虐待により、感情を表に出せなくなった姫は、5歳になった時に母親が亡くなった。そんな時、皇帝が姫を迎えに来た。 ※すみません、完全にファンタジーになりそうなので、ファンタジーにしますね。 ※皇帝のミドルネームを、イント→レントに変えます。(第一皇妃のミドルネームと被りそうなので) そして、レンド→レクトに変えます。(皇帝のミドルネームと似てしまうため)変わってないよというところがあれば教えてください。

《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。

友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」 貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。 「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」 耳を疑いそう聞き返すも、 「君も、その方が良いのだろう?」 苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。 全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。 絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。 だったのですが。

異世界TS転生で新たな人生「俺が聖女になるなんて聞いてないよ!」

マロエ
ファンタジー
普通のサラリーマンだった三十歳の男性が、いつも通り残業をこなし帰宅途中に、異世界に転生してしまう。 目を覚ますと、何故か森の中に立っていて、身体も何か違うことに気づく。 近くの水面で姿を確認すると、男性の姿が20代前半~10代後半の美しい女性へと変わっていた。 さらに、異世界の住人たちから「聖女」と呼ばれる存在になってしまい、大混乱。 新たな人生に期待と不安が入り混じりながら、男性は女性として、しかも聖女として異世界を歩み始める。 ※表紙、挿絵はAIで作成したイラストを使用しています。 ※R15の章には☆マークを入れてます。

処理中です...