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034『パストバスターズ』
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俺の職業は『パストバスターズ』
文字通り『過去の掃除人』だ
大昔に書いたblogを消したいけど、パスワードもIDも忘れてしまった。
もう誰も使ってないSNSのデータを消去したい。
まあ、主な仕事はそんな感じだ。
簡単にいうとハッカーだ。
膨大に膨れ上がったデジタルデータの中の自分の恥ずかしい過去や、復元したい過去を消去したり、救出したり、そんなことが俺の仕事だ。
故人のデータを消去したり、故人の知られざる過去のデータを探したり。
そんなこともよくある話だ。
たまに・・故人のデータを改ざんして・・・あったことをなかったことに・・・
なんてこともあったりなかったり。
今回の依頼人は・・故人のデータ整理か
若いな・・44歳の女性のデータの整理の依頼だった。
依頼主は旦那さん。
「えーと・・・すみません・・・知人じゃないのであんまり感情がないように思うかもしれませんが、この度はご愁傷様です・・・・」
「あはは・・・いえいえ・・良いんですよ」
「奥様のネット上のデータの整理という依頼でよろしですかね?」
「はい、よろしくお願いします」
「えーと・・・・ざっと調べましたが、twitter、facebook、instgramですかね・・blogやmixiとかその他のデータは見つからなかったですね」
「ええ・・・多分・・そうですか、そんなもんですか」
「そうですねぇ・・・一応色々調べましたけど、見当たらなかったですねぇ・・」
「了解しました、じゃあ、その3つでお願いします」
「はい・・えーと、消去って感じですかね?IDとPWを分析して」
「あーーーーー・・・・・・・・・いえ・・・」
男はバツが悪そうに戸惑っていた、しばらく沈黙が続いた。
男は、何かを飲み込むように俺に話しかけてきた。
「データを追加してくれませんか?」
「え?奥さんのライフログを追加するってことですか?・・いやぁ・・ないものを作るのは流石に・・・・」
「あっ僕のデータを妻目線で書き換えたもので追加して欲しいんですが」
「旦那さんのSNSのデータをですか?・・・まあ・・・できないこともないですけど・・・」
俺は少し嫌な予感がしたが、旦那のSNSのデータの解析を始めた。
まあ・・ありがちな一般的な夫婦関係が書かれた日記のような物だった。
AIで解析して、奥さん目線に文章や画像を書き換えれば対応はできるが・・・・
なんのために?ひょっとして事件の証拠か?
奥さんはひょっとして・・・この旦那に・・・・
「えーと・・・そうですね、できなくもないですけど・・かなりの量のデータを解析して作成することになるんで、かなり金額的に・・・」
「ああ・・大丈夫です、金ならなんとかします」
・・・・保険金殺人か?
その証拠を作らされるのか?・・・あんまり良い話ではないな・・・・
少し様子を探ってやばそうなら手を引いた方が良さそうな気がしてきた。
「じゃあ・・・そうですね・・・2、30分でデータの解析、作成はできると思うので少しお待ちいただけますか?時間に対してかなりの金額になりますけど・・まあ過去を改ざんすることになるんで」
「ええ・・・そうですよね・・・わかりました」
データ解析の時間、沈黙が続いていた。
俺はやばい仕事に手をつけてくなかったので、旦那に話しかけてみることにした。
「あの~・・・こういうのは聞くのはあんまり良くないのは知っているんですが、なんで依頼を?」
「あはは・・・そうですよね・・良い思い出に・・・そうですね、良い思い出を残しておきたいって感じですかね」
・・・・やはり保険金殺人か?
殺意がなかったことを証明するために、幸せな生活があったことをデータとして残す為か?
「・・・・ないんですよね・・・こんな過去」
男は唐突に小さな声で俺に語りかけた。
「え?」
「妻のデータ・・・SNSの最後の更新日っていつでした?」
「え~と・・・・2018年2月4日ですね・・・全部のデータが・・・」
「ですよね・・・・」
男はうつむいて少し黙っていたが、堰を切ったように俺に話しかけてきた。
「その日・・・・ハナ・・妻は交通事故にあったんですよね、そこから4日前まで、植物人間でした。そうですね・・そうですね・・・4日前に妻は息を引き取りました」
「え?じゃあ・・・このデータは?」
旦那からもらったデータは、お花見に一緒に行ったり、箱根の温泉に一緒に行ったり、結婚記念日を祝ってレストランに一緒に行ったり、そんな普通の夫婦の生活が刻まれていた。
「全部僕の妄想です、全部僕が作ったデータです。写真も全部合成です、テキストは全部僕の創作です、そう・・・全部嘘です」
「・・・・え・・・え・・・と、なんのために・・・・・」
「僕・・・ガンになっちゃったみたいなんですよね、余命宣告を受けて、あと1年生きれれば良いみたいなんですよ
僕・・・・・ハナと結婚したのに・・・幸せにするって誓ったのに・・・・
何にもできなかったんですよね・・・
結婚して3ヶ月でハナが事故にあっちゃって・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・」
「僕ももうすぐ死ぬんだけど・・・・嘘でも良いから・・・ハナが幸せだったって・・なんか残したくって・・・
いや・・嘘ですよ・・・全部嘘ですよ・・・
でも、残したくて・・・・
ハナが幸せだったかはわからないけど、幸せであっていて欲しいって・・・
少なくとも不幸じゃなかったって、世の中に残したくって・・・・」
「・・・・・・」
言葉が出なかったが、分析していたパソコンからアラートがなった。
「あ・・・ジオシティ・・・」
奥さんがSNS以外の古いログを残していることのアラートだった。
そこにはblog・・いや・・・・日記のような物が残っていた。
「・・・奥さんの日記みたいな物が見つかったんですが・・・見ますか?」
男はしばらく考え込んでいたが、首を横にふり拒んだ。
俺はその日記の内容を読んで、彼に提案した。
「・・・えーと・・・大きなお世話だと思いますが・・・奥さんの言葉を聞いてから・・なんというか・・・死ぬっていうか・・・これは・・読んだ方が良いと思いますよ」
『合コンに行った、正直見た目はいまいちかなーって思ったけど、隣に座った人がすごく良い人だった、気遣いがすごくて感心した。後で聞いたら仕事もすごくできる人らしい、そうか・・ちょっと見習おうと思った」
『例の良い人から連絡が来た、すごく丁寧な文章のメールだったけど、言いたいことが良くわからなかったけど、デートの誘いだと思った笑』
『映画を一緒に見に行った。確かに感動する映画だったけど、隣で声を殺して泣いてるのをバレないようにしている彼の方が気になってしょうがなかった。
本人はバレてないと思っていたのかな?スクリーンから出た時目が真っ赤になっていたけど笑』
『合コンに誘われたので行ってきた。一流会社の人たちだったらしい、みんなイケメンだったけど、みんな自分の自慢ばっかりでつまらなかった。彼のことを思い出していた』
『週末は彼とデートするようになった、猫とラーメンと映画が好きだって言っている。私も全部好きだから一緒にいて楽しい、特にラーメンは1人じゃ食べに行きにくいので笑』
『彼にプロポーズされた、この人となら幸せになれそうだと思ってオッケーをした。
彼はまた泣いていた。ごまかしていたけど、そんな彼を見てもらい泣きをしてしまった。
これからよろしくお願いします。』
男は日記を見て号泣していた。
「・・・・ハナ・・・・」
「えーと・・・そろそろ処理が終わりそうです・・金額は・・」
「あ・・すみません・・最後に一つだけ・・・」
「え、あっはい、なんですか」
「里親募集を追加してくれないですか?僕死んじゃったら、花・・あっ猫の方なんですけど、花がさみしがっちゃうから・・・」
「・・・・僕に譲ってもらってもいいですか?花ちゃん。ちょうど飼いたいなぁって思っていたんですよ」
「本当ですか?よかった・・これで、死んでも悔いはないな笑」
男はここに来て初めて笑った。
数ヶ月後男は死んだ。
俺の家には猫の花ちゃんが、ネット上には男とハナさんの幸せな結婚生活が今も生きている。
文字通り『過去の掃除人』だ
大昔に書いたblogを消したいけど、パスワードもIDも忘れてしまった。
もう誰も使ってないSNSのデータを消去したい。
まあ、主な仕事はそんな感じだ。
簡単にいうとハッカーだ。
膨大に膨れ上がったデジタルデータの中の自分の恥ずかしい過去や、復元したい過去を消去したり、救出したり、そんなことが俺の仕事だ。
故人のデータを消去したり、故人の知られざる過去のデータを探したり。
そんなこともよくある話だ。
たまに・・故人のデータを改ざんして・・・あったことをなかったことに・・・
なんてこともあったりなかったり。
今回の依頼人は・・故人のデータ整理か
若いな・・44歳の女性のデータの整理の依頼だった。
依頼主は旦那さん。
「えーと・・・すみません・・・知人じゃないのであんまり感情がないように思うかもしれませんが、この度はご愁傷様です・・・・」
「あはは・・・いえいえ・・良いんですよ」
「奥様のネット上のデータの整理という依頼でよろしですかね?」
「はい、よろしくお願いします」
「えーと・・・・ざっと調べましたが、twitter、facebook、instgramですかね・・blogやmixiとかその他のデータは見つからなかったですね」
「ええ・・・多分・・そうですか、そんなもんですか」
「そうですねぇ・・・一応色々調べましたけど、見当たらなかったですねぇ・・」
「了解しました、じゃあ、その3つでお願いします」
「はい・・えーと、消去って感じですかね?IDとPWを分析して」
「あーーーーー・・・・・・・・・いえ・・・」
男はバツが悪そうに戸惑っていた、しばらく沈黙が続いた。
男は、何かを飲み込むように俺に話しかけてきた。
「データを追加してくれませんか?」
「え?奥さんのライフログを追加するってことですか?・・いやぁ・・ないものを作るのは流石に・・・・」
「あっ僕のデータを妻目線で書き換えたもので追加して欲しいんですが」
「旦那さんのSNSのデータをですか?・・・まあ・・・できないこともないですけど・・・」
俺は少し嫌な予感がしたが、旦那のSNSのデータの解析を始めた。
まあ・・ありがちな一般的な夫婦関係が書かれた日記のような物だった。
AIで解析して、奥さん目線に文章や画像を書き換えれば対応はできるが・・・・
なんのために?ひょっとして事件の証拠か?
奥さんはひょっとして・・・この旦那に・・・・
「えーと・・・そうですね、できなくもないですけど・・かなりの量のデータを解析して作成することになるんで、かなり金額的に・・・」
「ああ・・大丈夫です、金ならなんとかします」
・・・・保険金殺人か?
その証拠を作らされるのか?・・・あんまり良い話ではないな・・・・
少し様子を探ってやばそうなら手を引いた方が良さそうな気がしてきた。
「じゃあ・・・そうですね・・・2、30分でデータの解析、作成はできると思うので少しお待ちいただけますか?時間に対してかなりの金額になりますけど・・まあ過去を改ざんすることになるんで」
「ええ・・・そうですよね・・・わかりました」
データ解析の時間、沈黙が続いていた。
俺はやばい仕事に手をつけてくなかったので、旦那に話しかけてみることにした。
「あの~・・・こういうのは聞くのはあんまり良くないのは知っているんですが、なんで依頼を?」
「あはは・・・そうですよね・・良い思い出に・・・そうですね、良い思い出を残しておきたいって感じですかね」
・・・・やはり保険金殺人か?
殺意がなかったことを証明するために、幸せな生活があったことをデータとして残す為か?
「・・・・ないんですよね・・・こんな過去」
男は唐突に小さな声で俺に語りかけた。
「え?」
「妻のデータ・・・SNSの最後の更新日っていつでした?」
「え~と・・・・2018年2月4日ですね・・・全部のデータが・・・」
「ですよね・・・・」
男はうつむいて少し黙っていたが、堰を切ったように俺に話しかけてきた。
「その日・・・・ハナ・・妻は交通事故にあったんですよね、そこから4日前まで、植物人間でした。そうですね・・そうですね・・・4日前に妻は息を引き取りました」
「え?じゃあ・・・このデータは?」
旦那からもらったデータは、お花見に一緒に行ったり、箱根の温泉に一緒に行ったり、結婚記念日を祝ってレストランに一緒に行ったり、そんな普通の夫婦の生活が刻まれていた。
「全部僕の妄想です、全部僕が作ったデータです。写真も全部合成です、テキストは全部僕の創作です、そう・・・全部嘘です」
「・・・・え・・・え・・・と、なんのために・・・・・」
「僕・・・ガンになっちゃったみたいなんですよね、余命宣告を受けて、あと1年生きれれば良いみたいなんですよ
僕・・・・・ハナと結婚したのに・・・幸せにするって誓ったのに・・・・
何にもできなかったんですよね・・・
結婚して3ヶ月でハナが事故にあっちゃって・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・」
「僕ももうすぐ死ぬんだけど・・・・嘘でも良いから・・・ハナが幸せだったって・・なんか残したくって・・・
いや・・嘘ですよ・・・全部嘘ですよ・・・
でも、残したくて・・・・
ハナが幸せだったかはわからないけど、幸せであっていて欲しいって・・・
少なくとも不幸じゃなかったって、世の中に残したくって・・・・」
「・・・・・・」
言葉が出なかったが、分析していたパソコンからアラートがなった。
「あ・・・ジオシティ・・・」
奥さんがSNS以外の古いログを残していることのアラートだった。
そこにはblog・・いや・・・・日記のような物が残っていた。
「・・・奥さんの日記みたいな物が見つかったんですが・・・見ますか?」
男はしばらく考え込んでいたが、首を横にふり拒んだ。
俺はその日記の内容を読んで、彼に提案した。
「・・・えーと・・・大きなお世話だと思いますが・・・奥さんの言葉を聞いてから・・なんというか・・・死ぬっていうか・・・これは・・読んだ方が良いと思いますよ」
『合コンに行った、正直見た目はいまいちかなーって思ったけど、隣に座った人がすごく良い人だった、気遣いがすごくて感心した。後で聞いたら仕事もすごくできる人らしい、そうか・・ちょっと見習おうと思った」
『例の良い人から連絡が来た、すごく丁寧な文章のメールだったけど、言いたいことが良くわからなかったけど、デートの誘いだと思った笑』
『映画を一緒に見に行った。確かに感動する映画だったけど、隣で声を殺して泣いてるのをバレないようにしている彼の方が気になってしょうがなかった。
本人はバレてないと思っていたのかな?スクリーンから出た時目が真っ赤になっていたけど笑』
『合コンに誘われたので行ってきた。一流会社の人たちだったらしい、みんなイケメンだったけど、みんな自分の自慢ばっかりでつまらなかった。彼のことを思い出していた』
『週末は彼とデートするようになった、猫とラーメンと映画が好きだって言っている。私も全部好きだから一緒にいて楽しい、特にラーメンは1人じゃ食べに行きにくいので笑』
『彼にプロポーズされた、この人となら幸せになれそうだと思ってオッケーをした。
彼はまた泣いていた。ごまかしていたけど、そんな彼を見てもらい泣きをしてしまった。
これからよろしくお願いします。』
男は日記を見て号泣していた。
「・・・・ハナ・・・・」
「えーと・・・そろそろ処理が終わりそうです・・金額は・・」
「あ・・すみません・・最後に一つだけ・・・」
「え、あっはい、なんですか」
「里親募集を追加してくれないですか?僕死んじゃったら、花・・あっ猫の方なんですけど、花がさみしがっちゃうから・・・」
「・・・・僕に譲ってもらってもいいですか?花ちゃん。ちょうど飼いたいなぁって思っていたんですよ」
「本当ですか?よかった・・これで、死んでも悔いはないな笑」
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