1 / 25
西の辺境-衛兵養成所 編
1
しおりを挟む
「カミーユ。今宵はおまえに辛い使命を告げに来たのだ」
ランベルト最高位宰相閣下が国王邸のカミーユの部屋を訪れるのは稀どころか初めてだった。ランベルト邸に住んでいた時でさえ一度しか部屋には来ていない。
ランベルトは一年半ほど前に退官した宰相に変わり最高位宰相になった。コンスティアンの宰相職は三名とその助手で構成されているが、当時31歳だったランベルトが最高位に就く時はかなり王宮内でも話題になった。コンスティアン国歴代宰相中、最年少での就任だったからだ。
最高位宰相に就任してからのランベルトは以前にも増して冷徹な雰囲気を醸し出していたが、今は苦渋に満ちた表情をしていて、尚更カミーユは緊張した。
「衛兵養成所へ行って欲しい」
思っていた言葉と違い、カミーユは暫し何も言えなかった。
衛兵養成所はコンスティアン全土に点在する。王宮内ではないが王都にもある。衛兵養成は最短でも一年を要することはここ二年での勉強でカミーユも知っていた。基本、寄宿舎に入ることも。
約二年前の一月にレアンドロ王太子殿下は戴冠し、コンスティアン国王陛下となった。戴冠日には成婚式もあり、隣国:ラインハルト皇国第二皇女であるアリエル姫を迎え妃としている。
カミーユは男性であるがレアンドロ陛下の愛人である。
コンスティアンには後宮制度もなければ一夫一妻制をしいているうえに同性婚も認められていない。
なので側妃でも愛妾でもなく愛人だ。
愛人とは公ではない立場であり、王族専用の遊廓であるハーレムの住人と同じような位置づけだ。
ハーレムに住まう男女は不特定の王族を相手に枷を務めるが、愛人は特定の者にだけだ。愛人とハーレム住人との大きな違いは住まう場所と相手が特定か否かだけである。
愛人をやめてほしいと言われると覚悟していたカミーユは、ほんの少しだけ安堵した。ただ、寄宿舎入りは免れないだろう。それでも週に一度は休みが与えられると聞くし、その度にここに帰ってくればいい。
カミーユは心中でそう己を宥めた。
「養成所はレオニダだ」
追加の言葉にカミーユの大きな瞳がさらに大きく見開かれた。
紺青の瞳が揺れたことに気付いたランベルトの胸が軋む。
レオニダ。
王都から馬車で五日もかかる辺境村だ。単騎で駿馬を飛ばしても片道二日はかかるだろう。
「…レオニダではないとだめなのでしょうか。もっと他に王都に近い」
「…私の意図が分かっていないわけではあるまい」
カミーユの瞳がさらに揺れた。それでもカミーユは唇をきゅっと真一文字に結んでから、ランベルトに答えた。
「……分かっています」
コンスティアン建国以来最大最強と言われる魔力を持つ現王レアンドロには、次代の優秀な子を成すという使命がある。成婚から二年が経とうとしている今現在、アリエル妃との間に子はひとりもいない。妃との間にだけではなく、レアンドロには血を分けた子が未だにひとりもいなかった。
カミーユを王邸に迎えてから、レアンドロはハーレムに一度たりとも足を向けていない。
「……しかしながらそれは、…ランベルト最高位宰相も分かっていたことではないですか」
カミーユの言葉にランベルトの表情筋は少しも動かない。
「…レアンドロ…陛下は、女性がだめで、だから、俺が、連れて来られたんだから…!」
カミーユは王都から北東に位置する辺境にある精霊村出身だ。
王族と精霊の村人しか知らないことだが、精霊村は王族の伽を務める者を排出するために存在する。精霊の血を継ぐ者との性交は魔力の安定を図る最良の方法と言われている。カミーユは、三年ほど前、女性を受け付けない身体のレアンドロの伽をするために王宮に連れて来られた少年だった。
伽を務めるために王宮に来た少年とレアンドロ殿下は逢瀬を重ねるに連れ次第に惹かれあっていたのだが、互いのことを思う余り破局を迎える寸でまで行き、周囲の人々の協力もあり漸く結ばれたという経緯がある。
だが、コンスティアンを治める王と同性のカミーユではどうあっても結婚は出来ず、カミーユは王の愛人と言う微妙な立ち位置にいた。
カミーユは少しでも周りに認められる人間になろうと勉強に鍛錬に勤しむ日々を送っていた。
衛兵養成所は剣術や弓術を学ぶには適した場所だ。体の鍛錬もできる。だが、三ヶ月に一度の長期休暇以外は王都に戻ることも出来ない距離にある養成所に入ることは躊躇われた。
「陛下は女も抱ける」
ランベルトの返答に今度こそカミーユは動揺した。
「なに言ってんだよ。だって俺が王宮に連れて来られたのは」
動揺したカミーユは敬語を使うことも忘れている。
「レアンドロ殿下が精通を迎えてから数年、伽を務めていたのは皆女性だ」
「…うそ」
「嘘ではない。当然、閨作法も然るべき家柄の女に」
「嘘だ」
「……」
「…嘘じゃなかったら、俺はずっとレアンドロに騙されてたってことになるじゃないか…」
「カミーユ…」
「ランベルトだって俺を騙してたってことじゃないか」
「カミーユ」
「放せ!」
190センチを超える身長のランベルトほどではないが、カミーユもかなり背が伸び、鍛錬の甲斐もあって全体にうっすらと筋肉のついた美しい肢体に成長していた。この二年で見た目はすっかり少年ぽさが抜けたカミーユだが、たった今ランベルトから受けた告白はショックが大き過ぎて動揺していた。
肩を掴み宥めようとしたランベルトの手を力任せに剥ぎ取る。
「落ちつけ。話しを最後まで聞け」
「なんで騙したんだよ。もし女も大丈夫だったなら、俺じゃなくて他の…」
「あれぇ。カミーユちゃんはあいつが女とデキるんだったら俺は王都に来なかったのにって言いたいのかぁ?」
声に振り向けば、大男が寝台に寝そべっていた。
真っ黒の髪に黒褐色の肌。黒のワンピースを纏った大男を目にして、カミーユの感情が一気にそちらに向いた。
「俺の寝台に寝るなと言っただろう!」
「こんなにでっかいんだからカミーユが一緒に乗っても平気だぞ」
「誰がおまえとなんか一緒に寝るか」
「ランベルトがいるからってそんなに照れるな。いつもはもっと素直に」
「嘘をつくな!」
「怒るなよ。綺麗な顔が台無しだぞ」
大男は愉快そうに笑いながら寝そべった横をぽんぽんと叩く。
「俺様が添い寝をしてやろう。ついでにレアンドロなんぞ忘れるくらい快楽に溺れさせてやる。ほら来い」
こいつが来ると調子が狂う。いつも俺のことをばかにしてからかいやがって。
今日こそしっかり抗議してやろうと寝台に一歩足を踏み出したカミーユの肩を、ランベルトが後ろから掴んで引き留めた。
「聖獣様。ここはレアンドロ陛下の親愛なる御方の部屋でございます。入室はどうか御遠慮下さいと今までも何度も申し上げておりますが」
そう。こいつは魔獣。じゃなかった。レアンドロの契約獣だ。
今は人間に変化しているが、正体は…なんだろう。獣は間違いないけど、実在の動物に例えるならいちばん近いのが虎だと思う。
魔力の質量が多い王族には、成人を過ぎると聖獣が契約をしてくれる場合があるんだそうだ。契約獣のついた王族はさらに強力な魔導を使えるようになるらしく、聖獣に選ばれるということはとても名誉なことだと本には書いてあった。
こんなのに選ばれるのが名誉だって?と思うのだが。
「ランベルトって本当にカタイなー。そんなんだから、好きなヤツ口説くのに何年もかかって」
「余計なことは言わなくて結構です」
“聖獣様”とか言っておきながらランベルトはぴしゃりと大男の言葉を遮った。
「聖獣様。カミーユに大事な話しがあるのです。席を外していただきたいのですが」
「あー分かった分かった。そんな怖い顔することないだろ。そんなだからいつまでたってもあいつは気付かずに」
「だから余計なことは言うなとさっきから言っていますよね」
ニヤニヤ笑いながら大男に化けた聖獣が寝台から上半身を起こした。
「はいはい。退散してやるよ。カミーユちゃん、またな」
「金輪際、無断でカミーユの部屋に入室しないでくださいね」
ランベルトの次の言葉に応えることなく、あっという間に聖獣の姿は部屋からかき消えていた。
ランベルトとカミーユは意図せずに同時にふうと息を吐き出していた。
「陛下の聖獣様はお調子者で困ります」
聖獣の愚痴をぽろりと零したランベルトは、カミーユの身体を反転させ、しっかりと目を見据えて話しだした。
「カミーユ。陛下は決しておまえを騙しているわけじゃない。…陛下が成人される前、王族はもとより、お父上である前陛下や正妃様などとも関係を断絶したことは知っているだろう。それに起因するのだ」
「ぇ」
カミーユの胸の奥がぎゅっと掴まれたように痛みを訴える。
…王族を、魔力を持つ者を、忌み避けたのかもしれない。
過去に大切な人を自身が持つ甚大な魔力のせいで失ったようなことを聞いた。
…そういえば、女性を抱けないとレアンドロの口から直接聞いていたわけではない。
失くした人というのはもしかしたら愛した女性だったのかもしれない…。
「詳しくは話すことなどできないが…すまない」
カミーユは静かに頭を振った。
「…レアンドロが自身の過去についてとても苦しんでいるのは分かっています」
まだレアンドロが王太子だった頃、自分が少しでも癒しを与えられる存在になれればいいと、カミーユは現陛下の手をとった。王になれば妃を娶り、子を成さなければならないことは承知していた。これは避けては通れないことなのだ。アリエル妃と過ごした翌日カミーユのもとを訪れるレアンドロは苦痛を耐えたような表情を時折見せていた。互いに幾分無理を承知でそのことには触れずにきた。あんなに辛そうな顔を見せるのだ。…どんな方法で子を成すのか些か疑問に感じてはいたが、女性を抱けるのなら…アリエル妃との間に子供をもうけることができるのなら、カミーユにそれを阻む権利など無いのだ。
カミーユは男で、レアンドロの子を成すことなどできないのだから。
ランベルト最高位宰相閣下が国王邸のカミーユの部屋を訪れるのは稀どころか初めてだった。ランベルト邸に住んでいた時でさえ一度しか部屋には来ていない。
ランベルトは一年半ほど前に退官した宰相に変わり最高位宰相になった。コンスティアンの宰相職は三名とその助手で構成されているが、当時31歳だったランベルトが最高位に就く時はかなり王宮内でも話題になった。コンスティアン国歴代宰相中、最年少での就任だったからだ。
最高位宰相に就任してからのランベルトは以前にも増して冷徹な雰囲気を醸し出していたが、今は苦渋に満ちた表情をしていて、尚更カミーユは緊張した。
「衛兵養成所へ行って欲しい」
思っていた言葉と違い、カミーユは暫し何も言えなかった。
衛兵養成所はコンスティアン全土に点在する。王宮内ではないが王都にもある。衛兵養成は最短でも一年を要することはここ二年での勉強でカミーユも知っていた。基本、寄宿舎に入ることも。
約二年前の一月にレアンドロ王太子殿下は戴冠し、コンスティアン国王陛下となった。戴冠日には成婚式もあり、隣国:ラインハルト皇国第二皇女であるアリエル姫を迎え妃としている。
カミーユは男性であるがレアンドロ陛下の愛人である。
コンスティアンには後宮制度もなければ一夫一妻制をしいているうえに同性婚も認められていない。
なので側妃でも愛妾でもなく愛人だ。
愛人とは公ではない立場であり、王族専用の遊廓であるハーレムの住人と同じような位置づけだ。
ハーレムに住まう男女は不特定の王族を相手に枷を務めるが、愛人は特定の者にだけだ。愛人とハーレム住人との大きな違いは住まう場所と相手が特定か否かだけである。
愛人をやめてほしいと言われると覚悟していたカミーユは、ほんの少しだけ安堵した。ただ、寄宿舎入りは免れないだろう。それでも週に一度は休みが与えられると聞くし、その度にここに帰ってくればいい。
カミーユは心中でそう己を宥めた。
「養成所はレオニダだ」
追加の言葉にカミーユの大きな瞳がさらに大きく見開かれた。
紺青の瞳が揺れたことに気付いたランベルトの胸が軋む。
レオニダ。
王都から馬車で五日もかかる辺境村だ。単騎で駿馬を飛ばしても片道二日はかかるだろう。
「…レオニダではないとだめなのでしょうか。もっと他に王都に近い」
「…私の意図が分かっていないわけではあるまい」
カミーユの瞳がさらに揺れた。それでもカミーユは唇をきゅっと真一文字に結んでから、ランベルトに答えた。
「……分かっています」
コンスティアン建国以来最大最強と言われる魔力を持つ現王レアンドロには、次代の優秀な子を成すという使命がある。成婚から二年が経とうとしている今現在、アリエル妃との間に子はひとりもいない。妃との間にだけではなく、レアンドロには血を分けた子が未だにひとりもいなかった。
カミーユを王邸に迎えてから、レアンドロはハーレムに一度たりとも足を向けていない。
「……しかしながらそれは、…ランベルト最高位宰相も分かっていたことではないですか」
カミーユの言葉にランベルトの表情筋は少しも動かない。
「…レアンドロ…陛下は、女性がだめで、だから、俺が、連れて来られたんだから…!」
カミーユは王都から北東に位置する辺境にある精霊村出身だ。
王族と精霊の村人しか知らないことだが、精霊村は王族の伽を務める者を排出するために存在する。精霊の血を継ぐ者との性交は魔力の安定を図る最良の方法と言われている。カミーユは、三年ほど前、女性を受け付けない身体のレアンドロの伽をするために王宮に連れて来られた少年だった。
伽を務めるために王宮に来た少年とレアンドロ殿下は逢瀬を重ねるに連れ次第に惹かれあっていたのだが、互いのことを思う余り破局を迎える寸でまで行き、周囲の人々の協力もあり漸く結ばれたという経緯がある。
だが、コンスティアンを治める王と同性のカミーユではどうあっても結婚は出来ず、カミーユは王の愛人と言う微妙な立ち位置にいた。
カミーユは少しでも周りに認められる人間になろうと勉強に鍛錬に勤しむ日々を送っていた。
衛兵養成所は剣術や弓術を学ぶには適した場所だ。体の鍛錬もできる。だが、三ヶ月に一度の長期休暇以外は王都に戻ることも出来ない距離にある養成所に入ることは躊躇われた。
「陛下は女も抱ける」
ランベルトの返答に今度こそカミーユは動揺した。
「なに言ってんだよ。だって俺が王宮に連れて来られたのは」
動揺したカミーユは敬語を使うことも忘れている。
「レアンドロ殿下が精通を迎えてから数年、伽を務めていたのは皆女性だ」
「…うそ」
「嘘ではない。当然、閨作法も然るべき家柄の女に」
「嘘だ」
「……」
「…嘘じゃなかったら、俺はずっとレアンドロに騙されてたってことになるじゃないか…」
「カミーユ…」
「ランベルトだって俺を騙してたってことじゃないか」
「カミーユ」
「放せ!」
190センチを超える身長のランベルトほどではないが、カミーユもかなり背が伸び、鍛錬の甲斐もあって全体にうっすらと筋肉のついた美しい肢体に成長していた。この二年で見た目はすっかり少年ぽさが抜けたカミーユだが、たった今ランベルトから受けた告白はショックが大き過ぎて動揺していた。
肩を掴み宥めようとしたランベルトの手を力任せに剥ぎ取る。
「落ちつけ。話しを最後まで聞け」
「なんで騙したんだよ。もし女も大丈夫だったなら、俺じゃなくて他の…」
「あれぇ。カミーユちゃんはあいつが女とデキるんだったら俺は王都に来なかったのにって言いたいのかぁ?」
声に振り向けば、大男が寝台に寝そべっていた。
真っ黒の髪に黒褐色の肌。黒のワンピースを纏った大男を目にして、カミーユの感情が一気にそちらに向いた。
「俺の寝台に寝るなと言っただろう!」
「こんなにでっかいんだからカミーユが一緒に乗っても平気だぞ」
「誰がおまえとなんか一緒に寝るか」
「ランベルトがいるからってそんなに照れるな。いつもはもっと素直に」
「嘘をつくな!」
「怒るなよ。綺麗な顔が台無しだぞ」
大男は愉快そうに笑いながら寝そべった横をぽんぽんと叩く。
「俺様が添い寝をしてやろう。ついでにレアンドロなんぞ忘れるくらい快楽に溺れさせてやる。ほら来い」
こいつが来ると調子が狂う。いつも俺のことをばかにしてからかいやがって。
今日こそしっかり抗議してやろうと寝台に一歩足を踏み出したカミーユの肩を、ランベルトが後ろから掴んで引き留めた。
「聖獣様。ここはレアンドロ陛下の親愛なる御方の部屋でございます。入室はどうか御遠慮下さいと今までも何度も申し上げておりますが」
そう。こいつは魔獣。じゃなかった。レアンドロの契約獣だ。
今は人間に変化しているが、正体は…なんだろう。獣は間違いないけど、実在の動物に例えるならいちばん近いのが虎だと思う。
魔力の質量が多い王族には、成人を過ぎると聖獣が契約をしてくれる場合があるんだそうだ。契約獣のついた王族はさらに強力な魔導を使えるようになるらしく、聖獣に選ばれるということはとても名誉なことだと本には書いてあった。
こんなのに選ばれるのが名誉だって?と思うのだが。
「ランベルトって本当にカタイなー。そんなんだから、好きなヤツ口説くのに何年もかかって」
「余計なことは言わなくて結構です」
“聖獣様”とか言っておきながらランベルトはぴしゃりと大男の言葉を遮った。
「聖獣様。カミーユに大事な話しがあるのです。席を外していただきたいのですが」
「あー分かった分かった。そんな怖い顔することないだろ。そんなだからいつまでたってもあいつは気付かずに」
「だから余計なことは言うなとさっきから言っていますよね」
ニヤニヤ笑いながら大男に化けた聖獣が寝台から上半身を起こした。
「はいはい。退散してやるよ。カミーユちゃん、またな」
「金輪際、無断でカミーユの部屋に入室しないでくださいね」
ランベルトの次の言葉に応えることなく、あっという間に聖獣の姿は部屋からかき消えていた。
ランベルトとカミーユは意図せずに同時にふうと息を吐き出していた。
「陛下の聖獣様はお調子者で困ります」
聖獣の愚痴をぽろりと零したランベルトは、カミーユの身体を反転させ、しっかりと目を見据えて話しだした。
「カミーユ。陛下は決しておまえを騙しているわけじゃない。…陛下が成人される前、王族はもとより、お父上である前陛下や正妃様などとも関係を断絶したことは知っているだろう。それに起因するのだ」
「ぇ」
カミーユの胸の奥がぎゅっと掴まれたように痛みを訴える。
…王族を、魔力を持つ者を、忌み避けたのかもしれない。
過去に大切な人を自身が持つ甚大な魔力のせいで失ったようなことを聞いた。
…そういえば、女性を抱けないとレアンドロの口から直接聞いていたわけではない。
失くした人というのはもしかしたら愛した女性だったのかもしれない…。
「詳しくは話すことなどできないが…すまない」
カミーユは静かに頭を振った。
「…レアンドロが自身の過去についてとても苦しんでいるのは分かっています」
まだレアンドロが王太子だった頃、自分が少しでも癒しを与えられる存在になれればいいと、カミーユは現陛下の手をとった。王になれば妃を娶り、子を成さなければならないことは承知していた。これは避けては通れないことなのだ。アリエル妃と過ごした翌日カミーユのもとを訪れるレアンドロは苦痛を耐えたような表情を時折見せていた。互いに幾分無理を承知でそのことには触れずにきた。あんなに辛そうな顔を見せるのだ。…どんな方法で子を成すのか些か疑問に感じてはいたが、女性を抱けるのなら…アリエル妃との間に子供をもうけることができるのなら、カミーユにそれを阻む権利など無いのだ。
カミーユは男で、レアンドロの子を成すことなどできないのだから。
0
お気に入りに追加
60
あなたにおすすめの小説
一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!
当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。
しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。
彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。
このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。
しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。
好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。
※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*)
※他のサイトにも重複投稿しています。
【R-18】僕は堕ちていく
奏鈴
BL
R-18です。エロオンリーにつき苦手な方はご遠慮ください。
卑猥な描写が多々あります。
未成年に対する性的行為が多いですが、フィクションとしてお楽しみください。
初投稿につき読みづらい点もあるかと思いますがご了承ください。
時代設定が90年代後半なので人によっては分かりにくい箇所もあるかもしれません。
-------------------------------------------------------------------------------------------------
僕、ユウはどこにでもいるような普通の小学生だった。
いつもと変わらないはずだった日常、ある日を堺に僕は堕ちていく。
ただ…後悔はしていないし、愉しかったんだ。
友人たちに躰をいいように弄ばれ、調教・開発されていく少年のお話です。
エロ全開で恋愛要素は無いです。
愛して、許して、一緒に堕ちて・オメガバース【完結】
華周夏
BL
Ωの身体を持ち、αの力も持っている『奏』生まれた時から研究所が彼の世界。ある『特殊な』能力を持つ。
そんな彼は何より賢く、美しかった。
財閥の御曹司とは名ばかりで、その特異な身体のため『ドクター』の庇護のもと、実験体のように扱われていた。
ある『仕事』のために寮つきの高校に編入する奏を待ち受けるものは?
翠玉の導き手 〜魔界の王子だったのに両親が死んだら〝導き手〟に覚醒しました!だから過去の人間界で家族を救いに行ってきます!〜
彌攻&紗々置
BL
天界と魔界の聖戦後、世界は滅んだ。
その世界をやり直す為に〝導き手〟となったルディース。
人間界に転生し、無事に家族を救えるのか?!
そして滅んだ後に現れた最高神と人間界で出会い惹かれ合う中に…。
快楽短編集②
ぎょく大臣
BL
長くはないエロ話を詰め込んだ短編集2。
美醜、年齢、体系は特に好き嫌いなく誰でも受けてるし攻めてる。基本はモブレ。
愛よりもエロを込めています。
※この物語はフィクションです。実在の人物・団体・事件などには一切関係ありません。
【完結】見守り(覗き)趣味の腐男子令息は、恋人たちの交遊を今日も楽しく考察する
ゆずは
BL
とある学院には密会やなんやかんやに使われる秘密の庭園(狭め)がある。
そこは恋を実らせ深くしときには終わらせる場所になる。
誰もが知っている秘密の場所。
その庭園のさらに死角になる場所が僕の秘密の場所。
ここで僕は恋人たちの行く末を見守っているのです――――
……え?
覗きじゃないよ?
_______________
とある腐男子令息が目撃したなんやかんやに対して心の中でツッコミと考察を繰り返すお話です(1〜2話)
3話以降主人公君自身の恋話です
_______________
*息抜きにどうぞ
*主人公エロ思考しかしてません
*全編エロしかありません。色々苦手な方はごめんなさい。
*ゆるゆる設定なので、そのあたりツッコミ無しでお願いします…(;´∀`)
飴と鞭
真鉄
BL
【飴と鞭】
変態イケメンリーマン×眼鏡スジ筋リーマン
後輩のミスを謝罪しに、以前組んでいた取引先の営業・片山と話し合う吉岡。しかしその最中、いきなり切羽詰まった尿意が吉岡を襲う。粗相したことを周囲にバラされたくなければ言うことを聞けと片山は笑う――。
小スカ/おもらし/乳首責め/腸内洗浄(※大スカなし)/エネマグラ/潮吹き/結腸責め/淫語責め(※伏せ字なし)
【横恋慕】
元ラガーマンマッチョリーマン×眼鏡スジ筋リーマン
あの日以来、吉岡が何だか色っぽい――。そんな事を考えていた同僚・高田は偶然、泥酔した吉岡を駅で見つけ、家まで送ることになってしまう。
NTR(失敗)/イラマチオ/潮吹き/駅弁/
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる