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第2章「愛別離苦」

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ピピピピピピ………

ケータイのアラームの音が今まで見ていた夢を破壊するように鳴り響いて、俺は手探りでケータイに手を伸ばして寝惚ける思考でその音を止める。

そしてベッドの上でボーっと天井の染みを眺めながら、さっきまで見ていた夢を思い出していた。

見覚えのない光景だった。
俺と朝陽が高校三年生で、流星群の夜に学校の屋上に忍び込もうと計画して、行ってみれば飛び降り自殺寸前の睦月先生がいた。
そして先生を止めようとした俺は代わりに落ちて…死んだ。

なんて不吉な夢だろうか。いや、でも死ぬ夢は実は縁起がいいんだっけ?

それにしてもいつもは夢なんて起きて数分もすれば忘れてしまうはずなのに、今見た夢だけはまだ鮮明に思い出せる。

睦月先生、泣いてた。
あんなに瞼を真っ赤に腫らして、全てを拒絶して、絶望して、一体何があったんだろうか。

数日前に何故か30歳のころから高校の頃にタイムスリップしてきた俺は、まだ高校2年生で、今の夢は未来の話という事になる。

まさか予知夢…というやつではないだろうな。だとしたら本当に不吉というか不穏だ。でも30歳まで生きた俺の人生であんな経験はなかったし、高校3年で死んでいたら今までの俺が何だったのかという事になる。

ではやはりただの夢?それにしては何だか違和感があるんだが…。

「お兄ちゃ~ん、そろそろ起きないと遅刻だよ!」

思考の海に沈んだ俺を、廊下から聴こえた妹の声が引き上げる。
その声にケータイを確認すると、そろそろ起きて支度をしなければいけない時間ギリギリだった。
俺はまだ寝ていたい欲求に抗って体を起こす。

だけどいつまでも夢の中の先生の悲しそうな顔が、頭から離れてはくれなかった。









朝のホームルーム中、俺は無意識に睦月先生の顔を見つめていたんだけれど、その顔に夢で見た悲しみの色は見つけられず、いつものように優しく微笑む先生がそこにいるだけだった。

まぁあの夢は俺が高3の時のことだし、高2の今は何もないのかもしれない。それに所詮夢は夢だ。現実と一緒にするのは馬鹿げている。

俺はあの夢の事を気にしないことに決めた。



そしていつものように人生2度目の退屈な授業を受けて、昼休み。俺はどうしようかと少し頭を悩ませた。
何故かというと、いつも一緒にお昼を食べている朝陽が今日から3日間、家の法事でいないのだ。

だからと言って1度目の人生の時みたいにクラスの連中と食べるのは嫌で、俺は誰かに声を掛けられる前に母親の弁当を持って教室を出た。

普段は通り過ぎるだけの中庭まで来て、何気なく周囲を見回すと、ちょうど木陰になっているベンチに見知ったクラスメイトが一人でぽつんと座って本を読んでいた。

あれは、宇田川君だ。

1度目の人生でいじめていた同級生。
過去に戻ってからはいじめに加担することはなく、関わりも全くなかったけれど、相変わらず一人で過ごしているようだ。

少しだけ声を掛けてみようか、なんて考えが浮かんだけれど、今までいじめられていた奴から声を掛けられても宇田川君も迷惑だろうと思いなおし、俺はそのまま声を掛けることなく中庭を通り過ぎた。



う~ん…どうしよう。

屋上は生徒の立ち入り禁止だし(そもそもあんな夢を見た後で行きたくはない)、空いている教室で食べようかな。

いつまでもブラブラしていたら食べる時間が無くなると少し焦り始めた時、前方からあからさまに「私困っています!」という表情の女子生徒が歩いてきた。

その女生徒は俺の顔を見るとぱっと表情を明るくして近寄ってきた。

「秋月君!ちょうどよかった!!」

「え?」

その前にどちら様?と言いかけそうになって、この子がクラスメイトだとようやく気付く。

ごめん、未来から来たばかりでクラスメイトの大半は覚えてないんだよね。
心の中だけで謝罪して女生徒に向き合うと、彼女は手に持っていたプリントを俺に差し出してきた。

「何これ?」
「これ、急ぎで睦月先生に渡してほしいって田中先生に頼まれたんだけど、私これから部活のミーティングがあるの忘れてて…代わりに睦月先生に渡してきてくれない?」
「えぇ~…」
「睦月先生は家庭科室にいると思うから、よろしく!」
「は、ちょっと…」

俺の了承も取っていないのに女生徒は言い逃げしてそのまま走り去ってしまった。そして俺の手には押し付けられたプリントが1枚…。

「マジかよ…」

せめて俺の都合くらいは聞けよ。そう言ってやりたいが女生徒の姿はもう見えず後の祭りだ。

強引すぎるクラスメイトに呆れのため息を吐き出して、俺は家庭科室へ足を向けることにした。
まぁ睦月先生の事は夢のせいで気になっていたし、少し話をしてみてもいいかもしれないと、そんな軽い気持ちで俺は先生のもとへ行くことにした。

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