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美形の客員騎士
しおりを挟むあれからヘレナはがっかりした様子ですぐに戻ってきた。どうもお目当ての客員騎士様は彼女好みのオジサンではなかったようだ。
肩を落としたヘレナの、耳の下で切り揃えられた赤い髪がさらりと揺れる。
「客員騎士様は若い男だったわ……。まだ二十代だと思う」
「意外ね。近衛騎士の指南役ってだいたいオジサンなんでしょう?」
「退役した元騎士とかね。あーあ、がっかり! ロマンスグレーのオジ様が見たかったのに! 皆はキャーキャー言ってたけど、私は好みじゃなかったなぁ。背が高くて女の人みたいな顔してた」
「そう」
さっそく客員騎士様には取り巻きがついているらしい。演習の見学には上流貴族のお嬢様もいたそうだ。
若い男には興味がないヘレナは頰をぷくっと膨らませている。
「客員騎士様、まだ独身だって。アレクシアもアタックしてみたら?」
「私はそういうのはいいわ」
「えー⁉︎ もったいない! 私、アレクシアはスタイルもいいし、結構美人だし、イケると思うのにな」
ヘレナはよく私のことを褒めてくれる。エリオンから身体のパーツについて褒められた時は微妙な気持ちになったが、ヘレナにスタイルを褒められるのは純粋に嬉しい。
「この間もアレクシアのこと、いいなって言っている近衛騎士様がいたよ」
「やめてよ、気持ち悪い」
エリオンの件があってから、私はすっかり男の人が苦手になってしまった。性的な目で見られてるかもしれないと思うと鳥肌が立つ。
エリオンと性的な関係になる前は、彼と離縁したら今度こそ幸せな結婚をしようと思っていたのに。
今は男の人と暮らすだなんてとんでもないと思っている。
王城の使用人の仕事は給金も悪くないし、このままお婆さんになるまで続けてもいいかもしれない。
ここは何せ、話し相手には困らない。
下手にお嫁に行くよりもずっと楽しく過ごせそうだ。
◆
侍女長に呼び出されたヘレナの分を含めた掃除道具を抱え、使用人用の通路を歩く。
今日もよく働いた。
夕飯は何を食べようかなぁと考えを巡らせていると、中庭の方からワッと黄色い歓声が聞こえた。
女性たちのキャッキャとはしゃぐ声に何だろうと思い、つい窓の外を見てしまった。
中庭には、五、六人の女性に囲まれた背の高い男性がいた。長めの前髪が邪魔で顔はよく見えないが、女性たちの惚けた表情を見るに相当な美形だろう。
──関係ないか。
私も昔は美形が好きだった。顔とスタイルさえ良ければそれで良いと本気で思うレベルの重度の面食いだったが、エリオンと出会い、無理やり矯正されてしまった。
今では顔の綺麗な男性が逆に怖い。
男は顔じゃない。
これは間違いない。
山盛りの雑巾が入ったブリキのバケツを抱え直し、踵をかえす。
この時の私は、自分の姿を目に留めた人がいたことにまったく気がついていなかった。
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