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※ 急な求婚
しおりを挟む「メリザンさん、私と結婚してくれませんか‼︎」
ある日、私は見知らぬ貴族らしき男からいきなり求婚された。
男は仕立ての良さそうなフロックコートに身を包んでいたが、肩や胸元がパンと張っていて、明らかに体格が良かった。非番の騎士だろうかと思い、記憶を手繰り寄せるがこの顔に見覚えはない。男は顔を茹でたタコのように上気させているが、青空色をした大きな瞳とスッと筋が通った高い鼻、整った口許が印象的なかなりの美形だった。髪色は目の覚めるような明るい金髪。
(こんな煌びやかな美丈夫、一度見たら忘れないと思うのだけど)
「失礼ですが、貴方様は?」
「あっ、あ! も、申し訳ございません! いつもは兜を被っていますから、顔なんて知りませんよね!」
男の口調と声量でピンと来た。
私はポンと手のひらを打つ。
「もしかして、あなた……門番のロードリックさん?」
「はい‼︎ ロードリック・フォン・エナートリでございます‼︎」
キーーンと耳鳴りがした。声が大きすぎる。いつも彼は顔を丸ごと覆う兜を被っていたから、そこまで声の大きさは気にしていなかったが、素のままだと耳が痛いぐらいだ。
「ちょっ、ちょっと、声量を下げて貰えますか?」
「申し訳ございません……。兜を被っていると、かなりはっきり話さないと相手に内容が伝わらないことも多くて……。大きな声を出すのが癖になってしまいました」
しょんぼり肩を落とすロードリックの頭に、ぺったり下げた犬の耳が見えたような気がした。
まぁ声のことはいい。
それよりも。
「私と結婚したいってどういうことですか?」
ロードリックの実家、エナートリ伯爵家は貴族家の中でもかなりの名家だ。騎士の彼は嫡子ではないだろうが、それでも花嫁の選定には慎重になってもおかしくはない立場だと思う。それなのに、わざわざこの私を選ぶとは。
私は一応王城で働く侍女だが、母方の祖母が男爵令嬢だったというだけの、限りなく市井に近い人間。名門伯爵家出身の彼と結婚出来るとは、とてもではないが思えない。私が人目を引くような美女ならばまだしも、顔も体型もいたって普通だ。
それなのに、ロードリックは私の顔を見るともじもじし始めた。
「あの、あの……ずっとメリザンさんのことを見ていました」
「はぁ……」
「好きなんですっ‼︎」
ここまではっきり誰かに好意を伝えられたのは初めてかもしれない。名家出身の美丈夫に好きだと言われて悪い気はしないが、私はこの求婚を受けるわけにはいかなかった。
「ごめんなさい。私、お付き合いしている方がいるのです。申し訳ありませんが、結婚は出来かねますわ」
私は腰を折るロードリックの頭に断りを告げる。
勿体ないなと思わなくもないが、ここで私が求婚を受け入れても誰も幸せにならないだろう。
「……てます」
「はい?」
「存じあげております」
ロードリックは『苦渋』と言わんばかりに綺麗な顔に皺を寄せている。
存じあげている、とは? 何を?
「何をですか?」
「フィランダー補佐官とお付き合いされていることです」
フィランダーは近衛部隊の団長補佐官の名。
ああ、この人は知っていたのか。城門勤務だから知らないと思っていた。
「ご存じだったのですね。では、そういうことですから」
「知っていても、諦められませんでした」
フィランダーはロードリックの直属の上官だ。上官の女と知っているのに、求婚するなんて。今まで門番のロードリックには真面目で誠実な印象を持っていたが、以外と恋愛面では大胆なのかもしれない。
「あの人には黙っておきますから、引いて貰えませんか?」
「そうですね……。今日のところは引き下がります。でも、私は諦めません!」
そう、捨て台詞を吐いてロードリックは去っていく。
何だか面倒くさい人に好かれてしまったようだ。
◆
「あっ、あぁぁ……っ!」
ロードリックから告白を受けたその夜。
私は男の股間に跨り、快楽を貪っていた。
愛液の滴る膣でがちがちに硬くなった男のものをずっぽり咥えこみ、汗の浮く逞しい身体に抱きついて、あんあん喘ぎながらただひたすら下半身を震わせていた。
「はぁ……やっぱりメリザンは最高だよ。アソコの具合は王城一だな」
「おじさんみたいなこと……っ! 言わないでちょうだい!」
この下品なことを言う男は、件のフィランダーだ。職務中は猫を被っているのか、清廉潔白な近衛騎士ぶっているが、夜の床の上だと途端に下品になる。
年齢は私よりも十歳上の三十三歳。今は結婚していないが、二度程離縁歴があるかなりのワケあり男だ。
本人は二度の離縁理由を『俺のイチモツがデカすぎて、政略結婚した妻のアソコに入らなかったから』と笑っていたが、私は浮気がバレたのだと思っている。
何せこの人は女癖がとてつもなく悪い。女関係が原因で、実家の貴族家から何度も追い出されそうになったと苦笑いしていた。
私も人のことは言えない。
王城は出会いの宝庫だ。何せ、騎士と侍女の殆どが歳若い未婚の男女。避妊が容易となった今、私は他の侍女達同様、誘われるがまま色々な男と寝てきた。その中でもフィランダーとは一番身体の相性が良かったので、二年もの間ずるずる関係を続けている。
一昔前なら非難されたような行いだが、今では私のような女の方が一般的だ。色んな人と付き合って、その中から結婚相手を決めるというのが今のスタンダードなのだ。
(……まぁ、私には結婚願望はないのだけど)
背に腕を回されて、互いの性器が繋がったまま身体を持ち上げられる。視界がぐるりと回り、シーツの上に押し倒された。シーツの冷たい感触が熱った肌に心地良い。
フィランダーはにやにやしながらこちらを見下ろしている。
「何よ、にやにやして」
「今日、俺の部下にプロポーズされたらしいな?」
「何、知ってたの?」
「あいつの声はデカいからな。そりゃ王城内でプロポーズなんかしてりゃあ、誰か耳にするわな」
そう言いながら、フィランダーは覆い被さってくる。人の太もも裏をぐっと掴み、秘部が上向くようにされてから一物をズンッと奥まで挿れられた。そして、がつがつ音がしそうなぐらい激しく出し入れされる。
「あっあっ、ああっ、あっん、あぁぁっ」
無遠慮に腰を打ちつけているようで、緩急をつけて抽送されている。一物で中をこねるようにされると、嫌でも膣がひくついてしまう。一物の丸い先が快いところをいちいち擦り上げてくる。この人は異常にセックスが上手かった。私は彼とセックスするようになって初めて、膣内の刺激だけで気をやることを覚えた。
「メリザン、ロードリックと結婚すんのか?」
私の両側に腕を突き、腰を前後に振りながらフィランダーは言う。
「するわけ……ないでしょう!」
貴族家の男と結婚など出来るわけがない。
それに私には元々結婚願望は、ない。
だから、こんな結婚に向かない男と二年も付き合っているのだ。
「なんで、結婚すりゃいいじゃん」
「い、いやよ。ああっ、あなた、……! よく、自分の恋人にっ……他の男と結婚しろなんて、……言えるわねっ」
膣の中で一物を引いたり、挿れたりしながら話さないで欲しい。弱いところを硬くて熱いもので何度もごりごり擦られて、いちいち腰が浮く。声が上擦ってしまった。
「あっああ!」
何度も弱いところを貫かれて、とうとう快楽の高みへ昇ってしまった。目の前に火花が散り、息が苦しくなる。こんな経験が出来たのは、フィランダーとするセックスだけだった。
「あーー……やっべ、出そう」
そう言いながら、フィランダーは前屈みになると、私の中へ滾るものを断続的に吐き出した。他の男との結婚を勧めながら精を吐き出すなんて。私生活になるとこの人は本当にめちゃくちゃだ。
「フィランダー……」
「ああ、すまんすまん。すっげえ、気持ち良かったよ」
フィランダーは私の中から一物を引き抜くと、膣に指を入れて中に出したものを掻き出し始めた。
「ロードリック、悪い相手じゃないと思うがな」
「少なくともあなたよりかはずっと良い人よ」
「なら結婚したらどうだ?」
「出来るわけないでしょう? ロードリックさんはエナートリ家のご子息じゃない」
「ご子息ったって、ロードリックは三男坊で嫡子じゃないからなぁ。逆にあいつは良いとこのお嬢さんを嫁に貰うわけにはいかないんだよ。あいつの一番上の兄貴の嫁さんは男爵令嬢でしかない。嫡子の兄貴の嫁さんより良いとこのお嬢さんを嫁に貰うわけにはいかないだろ? 実際、二番目の兄貴は良いとこのお嬢さんを嫁に貰っちまって、兄弟仲は微妙らしいからな。王城勤めで身元は確かなのに、貴族じゃないメリザンはロードリックの嫁に打って付けなんだよ」
「詳しいわね」
「これでも、俺はあいつの上官だからな」
ロードリックにそんな事情があっただなんて、全然知らなかった。そもそも、私は今日初めて彼の顔を知ったのだ。彼の家の事情なんて知る由もない。
「だからさ、安心してロードリックの求婚を受けな」
「私に結婚願望はないわ。自分の食い扶持ぐらい自分でなんとかするわよ」
「一度ぐらい結婚してみてもバチは当たらんと思うがな」
「まったく、今日のあなたは何なの? 私、一応あなたの恋人のつもりなんだけど。何で他の男を勧めるのよ?」
もしかして、別れたがっているのでは。部下の男をしきりに勧めるフィランダーに、どうしても勘繰ってしまう。背中に嫌な汗が伝う。
そして、一拍沈黙があった後、彼は口を開いた。
「メリザン、別れようぜ」
すぐに、彼の言葉を理解することが出来なかった。
「なによ、それ」
声が震えてしまった。
「いや、ずっとさ。思ってたんだよ。若いメリザンをいつまででも繋ぎ止めておくのは良くねえなって」
「らしくないわよ。それに私には結婚願望は無いって何度も言ってるじゃない」
「メリザンはしっかりしてるから一人でも生きていけると思うが、俺ぁ、お前さんにはもっと幸せになって貰いたいんだよ」
フィランダーの言葉に心底イライラした。二年も付き合ってきたのに、彼には私のこと、何も理解して貰えなかった。私はそんな風に感じた。
「シャワー浴びてくるわ」
気怠い身体を起こし、立ち上がる。
私はこれ以上フィランダーの顔を見ることが出来なかった。
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