上 下
10 / 14

誤った道

しおりを挟む
『……シーラに不満があったわけではありません。彼女はよく家のことをやってくれている。ただ、私が欲に弱かっただけです』

 ジョンは背を丸める。彼はどこにでもいる、欲に弱い人間だった。

『……俺はあなたを責めるつもりはありません。ただ、あなたを魅了するジェイムスがどんな人間なのか、伝えに来ただけです』

 レオポールは、ジョンに説教をするつもりでここに連れてきたわけではない。
 ただ、ジェイムスのことを何も告げないでいるのはフェアではないと感じたからだ。
 レオポールはゲイバーのママから聞いた内容を伝えた。誰から聞いたかは言わない。

『……ジェイムスが何者であるにせよ、この関係は長くは続かないでしょう。私はどこにでもいる、ただの冴えない中年男ですから』
『……ジョンさん』
『あの、私がジェイムスと会っていることは……』
『シーラさんに伝えるつもりはありません』

 レオポールは、首を横に振る。

『俺はたまたま、張り込み中にジョンさんとジェイムスが一緒にいるところを目にしてしまっただけですから。ジェイムスについて知っていることがあったので、お節介だと思いましたが、ジョンさんにお伝えしたまでです。シーラさんは関係ない』

 シーラには言わないと告げると、ジョンはあからさまにホッとした顔をした。
 そのまぬけづらに苛立ちを覚えたレオポールは、僅かに目を細めると、最後にこう言った。

『ただ、シーラさんから相談されたらすべてを話します。私は探偵ですから。浮気の調査依頼があれば、黙っている道理はない』

 ◆

(……結局、旦那さんはジェイムスの手を取ってしまった)

 誤った道を選んだ自覚はあるのだろう。
 話し合いの場にやってきたジョンの顔色は蒼白だ。

 先日、シーラの元にジェイムスから手紙が届いた。

 手紙の中にはこう書かれていた。
 ジェイムスとジョンの関係について。
 ジェイムスは海外で事業を始めたいと考えているが、恋人関係になったジョンと一緒に移住したいと考えていること。
 金は渡すので、ジョンと別れてほしいことなどが記されていた。
 そして文章の最後には、話し合いを行う日時と場所の記載があった。
 話し合いの場として選ばれたのは、シティホテルのレンタルルームだ。

 まったく身勝手で、シーラのことを何一つ思いやっていない内容だった。

 事実、話し合いの場にやってきたジェイムスは終始にこやかで、一つの家庭を壊そうとしているにも関わらず、罪悪感など微塵も見られない顔をしていた。

 そんなジェイムスの隣で、ジョンは額に汗を浮かべながら、絞り出すようにこう言った。

「……シーラ、すまない。私と別れてほしい」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】忘れてください

仲 奈華 (nakanaka)
恋愛
愛していた。 貴方はそうでないと知りながら、私は貴方だけを愛していた。 夫の恋人に子供ができたと教えられても、私は貴方との未来を信じていたのに。 貴方から離婚届を渡されて、私の心は粉々に砕け散った。 もういいの。 私は貴方を解放する覚悟を決めた。 貴方が気づいていない小さな鼓動を守りながら、ここを離れます。 私の事は忘れてください。 ※6月26日初回完結  7月12日2回目完結しました。 お読みいただきありがとうございます。

私が妊娠している時に浮気ですって!? 旦那様ご覚悟宜しいですか?

ラキレスト
恋愛
 わたくしはシャーロット・サンチェス。ベネット王国の公爵令嬢で次期女公爵でございます。  旦那様とはお互いの祖父の口約束から始まり現実となった婚約で結婚致しました。結婚生活も順調に進んでわたくしは子宝にも恵まれ旦那様との子を身籠りました。  しかし、わたくしの出産が間近となった時それは起こりました……。  突然公爵邸にやってきた男爵令嬢によって告げられた事。 「私のお腹の中にはスティーブ様との子が居るんですぅ! だからスティーブ様と別れてここから出て行ってください!」  へえぇ〜、旦那様? わたくしが妊娠している時に浮気ですか? それならご覚悟は宜しいでしょうか? ※本編は完結済みです。

(完)「あたしが奥様の代わりにお世継ぎを産んで差し上げますわ!」と言うけれど、そもそも夫は当主ではありませんよ?

青空一夏
恋愛
夫のセオは文官。最近は部署も変わり部下も増えた様子で帰宅時間もどんどん遅くなっていた。 私は夫を気遣う。 「そんなに根を詰めてはお体にさわりますよ」 「まだまだやらなければならないことが山積みなんだよ。新しい部署に移ったら部下が増えたんだ。だから、大忙しなのさ」 夫はとても頑張り屋さんだ。それは私の誇りだった……はずなのだけれど?

(完結)貴方から解放してくださいー私はもう疲れました(全4話)

青空一夏
恋愛
私はローワン伯爵家の一人娘クララ。私には大好きな男性がいるの。それはイーサン・ドミニク。侯爵家の子息である彼と私は相思相愛だと信じていた。 だって、私のお誕生日には私の瞳色のジャボ(今のネクタイのようなもの)をして参加してくれて、別れ際にキスまでしてくれたから。 けれど、翌日「僕の手紙を君の親友ダーシィに渡してくれないか?」と、唐突に言われた。意味がわからない。愛されていると信じていたからだ。 「なぜですか?」 「うん、実のところ私が本当に愛しているのはダーシィなんだ」 イーサン様は私の心をかき乱す。なぜ、私はこれほどにふりまわすの? これは大好きな男性に心をかき乱された女性が悩んで・・・・・・結果、幸せになったお話しです。(元さやではない) 因果応報的ざまぁ。主人公がなにかを仕掛けるわけではありません。中世ヨーロッパ風世界で、現代的表現や機器がでてくるかもしれない異世界のお話しです。ご都合主義です。タグ修正、追加の可能性あり。

【完結】選ばれなかった王女は、手紙を残して消えることにした。

曽根原ツタ
恋愛
「お姉様、私はヴィンス様と愛し合っているの。だから邪魔者は――消えてくれない?」 「分かったわ」 「えっ……」 男が生まれない王家の第一王女ノルティマは、次の女王になるべく全てを犠牲にして教育を受けていた。 毎日奴隷のように働かされた挙句、将来王配として彼女を支えるはずだった婚約者ヴィンスは──妹と想いあっていた。 裏切りを知ったノルティマは、手紙を残して王宮を去ることに。 何もかも諦めて、崖から湖に飛び降りたとき──救いの手を差し伸べる男が現れて……? ★小説家になろう様で先行更新中

(完結)私は家政婦だったのですか?(全5話)

青空一夏
恋愛
夫の母親を5年介護していた私に子供はいない。お義母様が亡くなってすぐに夫に告げられた言葉は「わたしには6歳になる子供がいるんだよ。だから離婚してくれ」だった。 ありがちなテーマをさくっと書きたくて、短いお話しにしてみました。 さくっと因果応報物語です。ショートショートの全5話。1話ごとの字数には偏りがあります。3話目が多分1番長いかも。 青空異世界のゆるふわ設定ご都合主義です。現代的表現や現代的感覚、現代的機器など出てくる場合あります。貴族がいるヨーロッパ風の社会ですが、作者独自の世界です。

砕けた愛は、戻らない。

豆狸
恋愛
「殿下からお前に伝言がある。もう殿下のことを見るな、とのことだ」 なろう様でも公開中です。

旦那様、そんなに彼女が大切なら私は邸を出ていきます

おてんば松尾
恋愛
彼女は二十歳という若さで、領主の妻として領地と領民を守ってきた。二年後戦地から夫が戻ると、そこには見知らぬ女性の姿があった。連れ帰った親友の恋人とその子供の面倒を見続ける旦那様に、妻のソフィアはとうとう離婚届を突き付ける。 if 主人公の性格が変わります(元サヤ編になります) ※こちらの作品カクヨムにも掲載します

処理中です...