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誤った道

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『……シーラに不満があったわけではありません。彼女はよく家のことをやってくれている。ただ、私が欲に弱かっただけです』

 ジョンは背を丸める。彼はどこにでもいる、欲に弱い人間だった。

『……俺はあなたを責めるつもりはありません。ただ、あなたを魅了するジェイムスがどんな人間なのか、伝えに来ただけです』

 レオポールは、ジョンに説教をするつもりでここに連れてきたわけではない。
 ただ、ジェイムスのことを何も告げないでいるのはフェアではないと感じたからだ。
 レオポールはゲイバーのママから聞いた内容を伝えた。誰から聞いたかは言わない。

『……ジェイムスが何者であるにせよ、この関係は長くは続かないでしょう。私はどこにでもいる、ただの冴えない中年男ですから』
『……ジョンさん』
『あの、私がジェイムスと会っていることは……』
『シーラさんに伝えるつもりはありません』

 レオポールは、首を横に振る。

『俺はたまたま、張り込み中にジョンさんとジェイムスが一緒にいるところを目にしてしまっただけですから。ジェイムスについて知っていることがあったので、お節介だと思いましたが、ジョンさんにお伝えしたまでです。シーラさんは関係ない』

 シーラには言わないと告げると、ジョンはあからさまにホッとした顔をした。
 そのまぬけづらに苛立ちを覚えたレオポールは、僅かに目を細めると、最後にこう言った。

『ただ、シーラさんから相談されたらすべてを話します。私は探偵ですから。浮気の調査依頼があれば、黙っている道理はない』

 ◆

(……結局、旦那さんはジェイムスの手を取ってしまった)

 誤った道を選んだ自覚はあるのだろう。
 話し合いの場にやってきたジョンの顔色は蒼白だ。

 先日、シーラの元にジェイムスから手紙が届いた。

 手紙の中にはこう書かれていた。
 ジェイムスとジョンの関係について。
 ジェイムスは海外で事業を始めたいと考えているが、恋人関係になったジョンと一緒に移住したいと考えていること。
 金は渡すので、ジョンと別れてほしいことなどが記されていた。
 そして文章の最後には、話し合いを行う日時と場所の記載があった。
 話し合いの場として選ばれたのは、シティホテルのレンタルルームだ。

 まったく身勝手で、シーラのことを何一つ思いやっていない内容だった。

 事実、話し合いの場にやってきたジェイムスは終始にこやかで、一つの家庭を壊そうとしているにも関わらず、罪悪感など微塵も見られない顔をしていた。

 そんなジェイムスの隣で、ジョンは額に汗を浮かべながら、絞り出すようにこう言った。

「……シーラ、すまない。私と別れてほしい」
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