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ゲラシムのその後
時は数年遡る。
しおりを挟む※「あれから四年後」回で述べられていた、アルキニナの元夫ゲラシムのその後の詳細が描かれています。ゲラシムがR18な目(自業自得)にがっつり遭いますので、好きモノな方だけご覧ください。
時は数年遡る。
ゲラシムは船で渡った先にある大国、コブを訪れていた。かつての同僚、ユークスと共に。
「コブに来るのは初めてなんだ」
まだ自分がこの先どのような目に遭うのか知らないゲラシムは、愛する男との旅にご満悦らしく目を細める。
「良いところだよ、君も気に入ると思う」
「ああ、楽しみだな! それにしても同性婚が認められているだなんて、素晴らしい国もあったものだ」
ゲラシムは微笑みながら、ユークスの手に自分の手を伸ばす。その手が握り返えされるのを感じた彼は、真っ平な胸を跳ねさせた。
無邪気に喜ぶゲラシムとは裏腹に、ユークスの瞳の奥はどす黒く濁っている。ユークスはゲラシムへ復讐をするため、遊学に出ていた彼とわざわざ接触した。
(地獄へ堕ちてもらうぞ、ゲラシム……)
ユークスは、ゲラシムとアルキニナが婚約する前から、アルキニナのことをひそかに想っていた。妹の家庭教師をしていたアルキニナはそれはそれは美しく、年頃だったユークスは彼女の姿を見かけるだけで胸を弾ませていた。
出来れば彼女にお近づきになりたいとユークスは思ったが、彼は市井の出。その当時の彼は準騎士から正騎士に昇格したばかりで、とてもではないが伯爵家のお嬢様へ求婚出来るような立場ではなかった。
せめて自分が騎士号が得られる立場であったなら、とユークスを下唇を噛む。
自分が昇進を目指している間にも、アルキニナは他の貴族の男と結婚してしまうだろう。そんな焦燥にかられる毎日を送っていたユークスの元に、ある日彼にとっての悲報が届く。
アルキニナとゲラシムが婚約したという報が近衛騎士団に届いたのだ。
ユークスは落胆しながらも一度は二人の結婚を祝福した。
しかしゲラシムは伯爵家の婿になったはずなのに、騎士を退役することはなく、結婚時に引き払った寮に戻ってきてしまった。
婚家に対し、不誠実な態度を取り続けるゲラシムにユークスは苛立ちを覚えていた。しかし、完全なる外野である自分に出来ることは何もない。
日々苛立ちを募らせていたある日の夜、ユークスはゲラシムから呼び出しを受けた。王城での夜会の日だ。
奥方を放って、東屋で自分への愛をのうのうと述べるゲラシムに、ユークスの怒りは爆発した。
ユークスは思った。
ゲラシムに対する報復は、暴力だけでは足らぬと。
一年半もの間、ゲラシムはアルキニナに不誠実な態度を取り続けていた。アルキニナの初婚を汚した、奴には相応の罰を与えないと気がすまない。
この日から、ユークスのゲラシムへの報復を練る日々が始まったのだ。
◆
「堅牢そうな城だな」
「今夜はここに泊めてもらう手筈になっている」
「ありがたい。宿屋のベッドは布団が薄くて、寝心地が悪かったからな」
二人の目の前には、石造りの城が聳えていた。城と言うよりは要塞と呼べるほどの堅牢さで、薄曇りの空を背景になんとも不気味な様相をしていた。
しかしゲラシムはユークスと共にいられればそれだけで薔薇色の気分になるようで、相変わらず頬を桃色に染めている。
己にとっての地獄へ足を踏み入れている。その自覚が全くないゲラシムの足取りは軽い。
コブの城の食事はどれも絶品だった。
やや味付けは濃いめだなとゲラシムは思ったが、長旅の疲れもあって美味しく感じた。
笑顔で彼は食べ進めていたが、ふと腹に違和感を覚える。
「悪い、ちょっと手洗いに……」
貴族家の出身であるゲラシムは、当然食事中の離席はマナー違反だと分かっていたが、腹はぎゅるぎゅると鳴り続けている。隣にいるユークスや、向かいにいる城主にこの音を聴かせ続けているほうが良くないだろうと思ったのだ。
「ゲラシム様、私めがご案内しましょう」
たっぷりと髭をたくわえた城主が、人の良さそうな笑みを浮かべながら立ち上がる。
城主は四十代ぐらいの恰幅の良い男だった。
「申し訳ありません……食事中に」
「いいのですよ、ご遠慮なく」
ゲラシムは脂汗をかきながら、礼を口にする。
城主はコブ人らしく立派な体躯の持ち主だった。元騎士であるゲラシムが見上げるほどに背が高く、全体的にがっしりしている。中年らしくでっぷり腹は出ているが、きっと歴戦の戦士だったに違いない。
ゲラシムはしぶり腹を抱えてよたよたと歩きながらも、城主の股間にそれとなく視線を走らせる。彼は尻穴を刺激されないと果てることが出来ない生粋のゲイ。過去に何回か男娼を買ったことがあるが、男娼の中にはコブ人もいた。
コブ人の男根は太くて長い。そして持久力もあった。
(ユークスがいなけりゃ、この男とヤッてみても良かったんだがなぁ……)
ゲラシムは根っからのゲイで、そしてクズだった。
長年片想いをしているはずのユークスと旅をしながらも、頭の片隅で現地のコブ人を味わうことが出来ないかと考えていたのだ。
目の前にいる城主はフロックコートの上からでも、筋骨隆々なことがはっきり分かる体つきをしている。
この城主とならば、コブ名物『男根ケース』を味わうことが出来るかもしれない。
男根ケースとは、身体を持ち上げられながら背後から貫かれる体位のことで、攻め手側に相当な腕力が無いと無理だった。受け手がまるで男根に被さっているように見えることからこの名がついた。
幼児の用足しのようなポーズを取らされて、ごりごり結腸を抉られる。想像しただけで、ゲラシムの尻穴はキュンと疼いた。
(少しぐらい、戻るのが遅くなってもユークスは気にしないだろう……)
ゲラシムは脂汗をかきながら、城主の肩に額を寄せた。
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