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02 契約妻をやめてもいいですか?

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「ミエーレ様、今なんと……?」

 ギドにいきなり『別れたい』なんて言ったらびっくりされちゃうかなと思い、私はまず家令のスタンレーに相談した。彼はギドの腹心だ。きっと良い助言をくれるだろう。

「スタンレーさんは知ってるでしょう? 私がギドの契約妻だってこと」
「は、はい。それはもちろん」
「もう、お義父様が亡くなって二月経つわ。私は儚くなりそうなお義父様を安心させる為にギドの妻になったけど……お義父様が亡くなられた今、私がギドの妻でいる必要はないでしょう?」

 ──うう、自分で言っていて辛くなってきた。泣いてはダメだ。がまんがまん!

 本当は義父が亡くなってもギドの側にいたいけど、手を出す気にならない、コネにもならない、お手当はあげなきゃいけない、美人でもない私はあきらかにお荷物だ。彼の将来のため、私を身を引かなくちゃいけない。

 でも、私が『出て行く』と言ったら、スタンレーは慌てて止めてきた。

「そんなことはありません! 今あなたがいなくなったらギド様はどうなると思います?」
「? どうなるって……。今度はイイトコの奥さんを貰うんじゃない?」

 ギドはまだ二十二様。男の結婚適齢期には若干早い。でも次の奥さんを探しはじめるには良い頃合いだと思う。

「そういうことではありませんっ……! 先代様が亡くなられてまだ二月。あなたまで居なくなったら、ギド様の心の拠り所が無くなってしまいます」
「スタンレーさんがいるじゃない」
「私では無理です! 若い男には若い女性が必要なんです!」

 若い女性が必要と言っても、ギドは私に触れようともしない。妻の役割をまったく果たせてないのだ。

「私はべつに……ギドと特にそういうことは無いんですけど」
「今からでもそういうことをなされば良いのでは?」
「いや、無理でしょ」

 ギドとは本当に友達同士だった。仲が良いと言えば良いのかも知れないけど、明らかにそれは男女のそれではない。
 内心、ギドも辛いと思う。ヤレない妻がいて。

「たぶん、百年経っても進展しないと思う……」
「ミエーレ様が『跡継ぎを産みたい』と言えば、乗っかってくれますよ」
「いや、そんなに単純じゃないでしょ」

 ないないと手を左右に振ると、スタンレーは困ったように眉尻を下げた。

「単純な話ですよ。たしかに当初は契約上の夫婦だったかもしれませんが、我が主人はちゃんとミエーレ様のことを想っていますよ」
「それなら手を出してくるでしょう? 私、ギドからハグすらされたことがないです」
「ギド様は変なところ真面目ですからねー。雇主が雇用者に手出ししたらダメだと思っているのでしょう。実際ダメですけど」

 なるほど、そういうものかと納得しかけたけど、それならそれで告白するものじゃないだろうか?『真の夫婦になろう』とか。

「分かりました。お時間をいただき、ありがとうございました」

 私はぺこりと頭を下げる。スタンレーは頼りにならない。
 やっぱりギドと話をしよう。白黒はっきりさせたかった。

 ──ここはまわりくどい言い方をしちゃダメよね。

 ギドは毎日深夜まで執務をしている。私は夜がふけるのを待った。
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