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第二章 後宮編(後)

閨教育の成果

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 この日、扇情的なナイトドレスに身を包んだジネットは、壁に取り付けられた巨大な鏡に向かって色々なポーズを取っていた。
 青紫色のナイトドレスは足首を覆うほど丈が長いが、へその位置がはっきり分かるほど透けている。また、太ももが見えるほど深いスリットが入っていた。
 裾を掴み、スリットをさらに広げて太ももを露わにしたり、細い肩紐をずらしてみたり──だが、どのポーズもしっくりこないような気がする。

「はぁ……」

 ジネットの深いため息が落ちる。 
 指南書を読み込み、自主練習をしているがどうにも身が入らなかった。

 つい先日、アロイスとエマのその後についてマーガリッタから聞いたのだ。
 アロイスは側女を雑に扱ったことが皇帝にばれ、騎士号を剥奪されたという。
 エマはアロイスにすげなくされたショックからか、部屋から出られなくなってしまったらしい。

 ──色々あるわよね……ここは特殊な場所だもの。

 ジネットも、皇帝の渡りがないことでフィンセントの足を引っ張っているのではないかと気にすることもあった。だが、フィンセントが励ましてくれるおかげで頑張れている。

 ジネットは努力を怠らない。
 最近も、積極的に運動をするようにして少々太りぎみだった身体を絞った。腰まわりは少しほっそりしたのだが、乳房は相変わらず大きく膨らんだままだ。
 ナイトドレスの、胸を支える小さな三角の布地は重たげに押し広げられている。

 ジネットが鏡に映る自分の姿をぼんやりと見つめていると、部屋の扉が叩かれた。
 壁掛け時計を見る。
 もうフィンセントがやってくる時間だった。

「あら、いけない!」

 ジネットは慌てて、扉を開ける。

「いらっしゃい、フィンセント」
「ジネット様、その格好は……」
「今日の閨教育の服装よ。今日は着衣行為の練習をするのでしょう? せっかくだし、最初から着ておこうと思って。……どう? 似合うかしら?」

 ナイトドレスに合わせ、靴もビジューがふんだんにあしらわれた青紫色のピンヒールを選んだ。
 さしずめ、今日のジネットは夜の蝶と言ったところか。緩く頭の上で白銀の髪をまとめ、背中がよく見えるようにした。

「とてもよくお似合いです」
「嬉しいわ。さっ、早く始めましょう……」

 ジネットはいつものとおり、フィンセントの前で両膝をつくと、彼のズボンに手をかけた。

 ◆

「ふおお~……これは眼福だな」

 ジネットの部屋の隣にも、監視部屋はあった。
 巨大な鏡の向こう側を喰い入るように見つめる人物がいた。──皇帝だ。

「普段は颯爽としている騎士が、歳上のおっとり系お姉さんの手で性処理をされている……。この背徳感、癖になるのぉ、マーガリッタよ」
「お悦びいただけて光栄にございます」

 マーガリッタは恭しく腰を折る。
 この場に皇帝を誘ったのはマーガリッタだ。

 帝国の後宮には国内外から集められた約五百人の側女がいる。
 渡りのない側女の方が多いのは当然なのだが、それでもただ後宮で安穏と暮らしているだけでは立場は悪くなる。それは側女の閨教育係である騎士にも言えることだ。
 だから、マーガリッタは皇帝に見てもらうことにしたのだ。
 二人の閨教育の成果を。

 最初はやに下がった目で二人を見つめていた皇帝であったが、だんだんその目は真剣味を帯びてきた。
 
「ジネットは素晴らしいな。最初こそナイトドレス姿での行為に恥じらいを見せつつも、いざ一物を攻める時は躊躇がないとは……プロフェッショナルだ」

 寝台の上にいるフィンセントは丸裸だが、ジネットは青紫色のナイトドレスを着たままだ。
 今日のテーマは着衣行為。
 だが、ジネットの豊満な乳房を包み込むには胸当ての面積はまったく足りておらず、彼女が前屈みになるたびにまろび出てしまう。
 ジネットは最初こそ溢れ出てしまう胸を恥ずかしそうに押さえていたが、一物を怒張させて苦しげにするフィンセントを目のあたりにして意を決したのか、最終的には両乳を晒け出しながら一物を攻めていた。
 吃立したそれを上からずっぽり咥えこみ、一心に頭を振るジネットに、皇帝はパチパチと拍手した。

「おお……今度は乳で一物を挟みこんでおる……。フィンセントのあんな顔、見たことがないな」

 筒形のスピーカーからは、息をたえだえさせている二人の声が聞こえる。

『……フィンセント、気持ちいい?』
『ふわとろで、最高に気持ちがいいです……っ、あっ、あ、また出ます……!』

 鏡の向こう側では、ジネットは自分の胸でフィンセントの雄を包みこむと、それを上下に振っていた。

「すごいのぅ、フィンセントは……。もう今日だけで五回ぐらい出してるだろう。若いってすごいな。あと色気もすごい」

 全身汗だくで、フィンセントは腰を震わせている。いつもは険のあるその目は、完全に蕩けきっていた。
 
「真面目そうな二人が、最高にいやらしい行為をしている……。それはクるものがあるな。マーガリッタよ」
「はい」

 ──陛下が楽しんでくださっている。きっとフィン兄様とジネット様の評価は上がるに違いない……。

 後宮に対する世間の目は、日を追うごとに厳しくなっている。
 最後に後宮で子が産まれたのは五年も前だ。
 皇帝はもう限界なのではないか、後宮は無駄ではないかという声がいくつも上がっている。
 後宮の予算が減らされれば、ジネットのような渡りのない側女から生活の質を落とされてしまう。
 少しでもジネットに快適に過ごしてもらいたい──それがマーガリッタの願いであった。
 
「フィンセントとジネットに報奨金を出そう。彼らの努力は素晴らしい。儂が出しためいを体現しようとこれだけ努力できるとは……なかなかやれることではない」

 マーガリッタの狙いは当たった。
 後宮はもはや予算の取り合いだ。第一皇子が主導となって後宮の予算を減らしているのだ。
 側女でさえあれば、豪華な生活が送れる──そんな時代は終わりを告げようとしていた。
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