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※ 気持ちを伝える時

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 アーダンが王城に来てからしばらく経った頃、国内の要人が集まる議会にて、ヴィンダードが王位を退く日程が正式に決まった。
 名家の子息が集まる士官学校でも、優秀な成績をおさめたアーダンこそ次代の王にふさわしい。そんな声が議会でいくつも上がったらしい。

 ラーファは口には出さないものの、複雑な気持ちになった。別に、自分が王妃でなくなるのは良いのだ。それよりも、ヴィンダードがこの国の王でなくなることが寂しい。ヴィンダードが守ってきたこの国が、隣国の属国と化するのが辛い。

「ラーファ、王位を退く日が決まった。二週間後だ。一年ほどアーダンの摂政役を務めるが、その後は公爵位を貰えるらしい」
「陛下、なんと申し上げてよいか」
「そんな顔をしないでくれ。私は肩の荷がおりた気分なんだ。ずっと自分がこの国の王としてふさわしいか、疑問に思ってきたのだ」
「陛下はこの十年、国に泰平をもたらしてくれました。充分過ぎるぐらい、王にふさわしい王だったかと」
「ありがとう、ラーファ。君にそう言って貰えるだけで充分だ」

 ヴィンダードは腕を伸ばすと、ラーファの身体をそっと抱き寄せる。

 これから、目まぐるしく色々なことが変わっていくだろう。それでも自分は、この方をお支えしたい。
 ラーファはそう決心すると、ヴィンダードの背に腕を回し、抱きしめ返した。

 ◆

 (今が、私の気持ちを伝える時かもしれない)

 結婚して半年。労り合える関係になったものの、男女の関係には至っていない。かりそめの王だったヴィンダードは、子どもを儲けるわけにはいかなかったからだ。
 しかし今、ヴィンダードが王位を退く日が正式に決まった。
 もう男女の仲になっても問題はないのではないか。

 (でも……)

 この半年間、ずっと隣で眠っていたのに、キスのひとつもしなかった。その事実がラーファを怯ませる。
 抱きしめあうことはあったが、あれぐらいなら肉親や親しい友人とでもすることだ。
 そう考えたところで、ラーファは首を横に振った。
 今は余計なことを考えたらいけない。断られたら断られたで、その時考えればいい。
 ヴィンダードは優しい。自分を女として見てくれなくても、これからも家族として暖かく接してくれるだろう。そう考えると、少しだけ気が楽になった。

 ラーファはしばらく着ていなかった、薄いナイトドレスを身に纏う。ヴィンダードに『見ているこっちが寒いから』と言われ、この半年間ずっと厚手の夜着を着ていた。

 今夜は先にヴィンダードの方がベッドへ横になっていた。
 ラーファは帷の隙間から、ベッドへ入る。

「お、珍しい格好だな」

 ヴィンダードはうつ伏せになっていたが、ラーファが入ってきたことに気がつくと、上体をあげて振り向いた。
 妻が脱がしやすい格好をしているというのに、ヴィンダードは特に意識した様子もない。
 やはりもう、女としては見てはもらえないのか。
 躊躇しそうになるが、ラーファは下唇を噛んで逃げたくなる自分を奮い立たせようとする。

「陛下」

 声が少し震えてしまった。

「そう呼んで貰えるのもあと二週間だな」
「陛下、お慕いしております」

 ラーファは太ももを揃えて座ると、ヴィンダードの目を真っ直ぐに見つめる。

 言ってしまった。ずっと避けていた、決定的な言葉を。

 ◆

 しばらく二人とも、言葉を発することが出来なかった。
 ヴィンダードはのそりと身体を起こすと、彼もまたラーファに向かい合うように座った。
 永遠に続くかに思えた沈黙。
 それを破ったのは、ヴィンダードの方だった。

「先を越されてしまったな」

 困ったような夫の口調に、ラーファは瞬きをする。

「二週間後、王位を退いてから君に自分の気持ちを伝えるつもりだったのだが」
「も、申し訳ございません、先走ってしまって」
「いや、いいんだ。安心した。私達は同じ気持ちだったのだな。良かった……」
「陛下……」

 胸を押さえて眉尻を下げるヴィンダードに、ラーファは泣きたくなった。だが、ここで泣くわけにはいかない。ぐっと唇を引き結ぶ。

「男らしくはないが、私から先に気持ちを伝えなくて良かったかもしれない。君が私のことを男として愛していなくても、同意しなくてはいけないだろう? こういう時、権力というのは難儀だな」
「お言葉ですが、私の気持ちはバレバレだったと思いますが……」

 アーダンにも『叔母上はほんと、叔父上にベタ惚れですよね~~』と何度揶揄われたことか。
 ラーファは唇を尖らせる。

「そうなのか? むう、今まで私は恋をしてこなかったからな。愛したのは君だけだ、ラーファ」

 愛したのは、君だけ。
 耳には確かに聞こえたが、頭の中がふわふわしていて、夢を見ているようだ。
 黙っていると、肩を掴まれて、そのまま抱き寄せられた。
 サンダルウッドの柔らかな匂いと、心地よい温かさに包まれる。久しぶりに薄着をしたせいか、身体が冷えていたようだ。

 このままずっとヴィンダードの腕の中にいたい。そうラーファは思ったが、ゆっくり身体を離される。名残惜しさに、彼女は彼の顔を見上げた。
 大きな手が頬をそろりと撫でる。まるで硝子細工を扱うように。

「まだ私は王だが……このまま君に触れても良いだろうか」
「……はい、陛下」
「半年待ったのに、あと二週間が待てないとはな」

 半年待ったとは。ずっと手出ししたいと思われていたのだろうか。
 胸にじんわり広がる安心感。
 ラーファはヴィンダードににっこり微笑んだ。

 ◆

 触れるだけの口づけを交わす。少し湿った温かい感触に、それだけでも胸がいっぱいで押し潰されそうになる。

「戴冠式より緊張する」

 それはヴィンダードも同じだったようだ。

「触れ合っていれば、慣れますわ。きっと」
「ああ、そうだな」

 互いの夜着を脱がせあい、薄暗い帷の中で生まれたままの姿になる。
 ヴィンダードは最初は迷ったようにラーファのほっそりした肩や腕を撫でていたが、その手は少しずつ胸元へと落ちていく。
 大きな手のひらで、乳房を包み込むように握りこまれたラーファは、その力強さに息をのむ。

「あ、痛いか?」
「大丈夫ですわ」
「すごく柔らかくて気持ちがいいな」

 ラーファは自分の膨らみが少々ボリューム不足ではないかと気にしていたが、ヴィンダードは初めて触れる女の身体に興味津々なようで、胸の尖りを摘んだり、弾いたりしている。
 その興味の対象は下半身にも向けられた。
 ヴィンダードはするりと腰の曲線をなぞるように撫で、太ももを掴む。手だけではなく、唇も使って、ラーファの全身に触れていく。

 (陛下、息が上がってらっしゃる?)
 
 衣擦れの音すらはっきり聞こえるような静さの中、ヴィンダードの息を吐き出す音が耳につく。
 ヴィンダードは毎朝、武術の鍛錬を欠かさない。ラーファの身体を撫で回す程度で息が上がるとは考えづらい。
 ラーファは、ふとヴィンダードの脚の間へ視線をやる。
 そこには、暗がりでもはっきり怒張しているのが分かる男の象徴があった。
 王妃となった時に、座学だが閨教育を受けた。男の生理現象についても、知識としては知っている。

 (たしか、挿れる前に陽根を舐めて潤すのよね?)

 結婚当初はいくら相手が国王とはいえ、男性の排泄器を舐めるなんてとんでもないと思っていたが、今はまったく嫌悪は感じていない。むしろ、ヴィンダードが喜ぶのならなんでもしてあげたいぐらいだ。

「陛下、そろそろ交代しませんか?」
「交代……?」
「男女は交代でお互いを刺激しあうものだそうですよ。教育係がそう申しておりました」
「そうなのか? だがなぁ……」

 ヴィンダードは優しいひとだ。妻に性的な奉仕をさせるなどとんでもないと思っているのだろう。

「私も陛下に触れたいですわ」
「そうか、では、少しなら……」
「ありがとうございます。では、脚を開いてくださいませ」
「あ、脚をか。こうか?」

 ヴィンダードは戸惑いながらも、ラーファの指示どおり脚を広げる。その中央には天を仰ぐ肉の棒があった。その根元にある丸い袋のようなものも、ぷっくり膨らんでいる。
 
 (陛下が興奮されている。この私に)

 今まで感じたことのない優越感が胸に広がる。結婚して半年間、家族としてとても大切にされてきたが、何かが足らない気がしていた。今やっと、足らなかったものが満たされようとしている。

 ラーファは、そそり勃つ一物へと手を伸ばそうとした。
 その時だった。彼女の手がふいに止められる。

「だ、駄目だ」
「何故ですか? 私も陛下へ触れて、昂りを慰めて差し上げたいのです」
「こ、これをか? そんな……破廉恥なことを……」
「自分の中へ入るものに触れたいと思うのは、いけないことでしょうか?」
「それは……少し、触れるだけなら」

 堅物なヴィンダードは、やはり口淫を許してはくれなかった。だが、手で触ることなら許して貰えた。ラーファは嬉々として、ヴィンダードの一物へ手を伸ばす。
 それは今まで触れたことのない感触だった。人体とは思えぬほど熱を持っていて、硬い。この状態はかなり辛いのではないかと、女のラーファでも思う。
 張り出した丸い先からは透明な体液が漏れ出ていて、舐めなくても潤すことは出来そうだった。ラーファは丸い先に触れると、指先に体液をまとわせ、それを肉棒の表面に塗りつけていく。

「ラーファ……くっ」

 ヴィンダードは先ほどから、何度も腰を浮かせていて落ち着きがない。
 肉棒に触れるたび、反応を示すヴィンダードに楽しくなってきたラーファは、両手を使って肉棒をマッサージし始めた。肉棒を握ると手を回すように動かす。根元についた袋も、見た目に反して触り心地が良い。力を入れすぎないように揉んだ。

「駄目だ、これ以上触られたら……」
「触ったらどうなるので……きゃあっ!」

 ヴィンダードは起き上がると、ラーファの腕を掴み、そのまま彼女を押し倒した。
 ラーファは咄嗟のことに驚く。

「初めてなのに、君の手の内で果てるわけにはいかない」
「出してくださっても良かったですのに」
「積極的になってくれるのは嬉しいが、今夜はおとなしく私を受け入れて欲しい」

 閨事の勝手はよく分からないが、今夜のところはおとなしくヴィンダードに任せておいたほうがよさそうだ。
 ラーファはヴィンダードの首に腕を回すと、瞼を閉じた。


 ◆

「濡れているな」
「あっ、陛下……」

 膣口に浅く挿れられた指を、ばらばらと動かされる。初めて感じる圧迫感。だが、挿れられているのが愛する人の指だという事実だけでラーファは堪らなくなる。
 ヴィンダードの手を濡らすぐらい愛液を滴らせているラーファは、彼の指をなんとか三本咥えこんでいた。

「あぁぁっ」

 ヴィンダードは処女膜を破ってしまわないよう、浅く指を挿れながら、恥丘の下にあるぷっくり膨れた紅い芽を舐める。
 彼の舌先が淫芽に触れるたび、ラーファは腰を浮かせて喘いだ。

「陛下、もう」

 ラーファはもう限界だった。膣の奥が切なく疼いている。もっと奥にも刺激が欲しくて涙が出るぐらいだ。
 彼女の懇願に、ヴィンダードは眉尻を下げる。

「だが、まだこんなに狭いのに。今夜のところはこれで終わったほうが……」
「いやです。こんな中途半端な状態で終えられては、おかしくなってしまいます」
「ラーファ……辛かったらすぐに言うのだぞ?」

 ここでやめられる方が辛いとラーファはヴィンダードに縋る。
 ヴィンダードの股間にあるものは、先ほどよりも角度が急になっているような気がする。あれが欲しいと息をのむ。
 いつの間に、自分はこんなにもはしたなくなったのだろうか。

 ヴィンダードはラーファの脚の間に座り直すと、彼女の手に指を絡ませた。そして、濡れそぼった肉のあわいに肉棒の先を押し当て、擦りつける。張り出た丸い先は、難なく膣口に埋まった。

「うっ……」
「ラーファ、大丈夫か?」
「は、はい」

 膣口が押し広げられる感覚にラーファは呻く。痛みはないが、内臓が押し上げられているような気がする。
 ヴィンダードはまた荒く息を吐き出していた。早く彼の一物を慰めてあげたい。欲を吐き出させてあげたい。その一心で、ラーファは破瓜の痛みを感じても耐えた。

「もっと奥まで来てくださいませ……」
「ラーファ、ラーファ……」

 (すごく、熱い)

 一物がおさめられた下腹が、自分の身体ではないみたいに熱く感じる。半年越しの初夜が、ついに叶った。痛みよりも圧迫感よりも喜びの気持ちの方が上回る。

「嬉しいです、陛下……」
「ああ、私もだ。ラーファ、愛している」

 ヴィンダードは感極まった声を出しながら、腰を遠慮がちに揺らしている。そのことに気がついたラーファは声をかける。

「どうぞ、陛下のお好きなように動いてくださいませ」
「優しく出来なくてすまない」

 ものすごく切迫詰まっている状況だろうに、それでも気遣いを忘れないヴィンダードが愛おしい。
 この方の妻になれた。その幸運を天に感謝せずにはいられなかった。

 ぐちゅぐちゅと、みだらな水音がする。初めは異物感ばかり感じていた抽送に、別の感覚をおぼえはじめる。
 時折、下腹や足先にぐっと力が入った。これが教育係の言っていた、絶頂というものなのだろうか。

「……ラーファ、あまり締めつけては駄目だ」

 ラーファが膣内を震えさせるたびに、ヴィンダードは眉根を寄せる。だが、この反応は身体が勝手に起こすものだ。

「へい、か……あっ、ああっ!」

 自分の身体に何が起こっているのか、伝えたいのに身体は浅ましく快楽を拾う。声が震えてしまって言葉にならない。教育係は、よほど愛しあっている男女でも、女がこの行為で快感を得るのは難しいと言っていたのに。話が違う。

 (きっと、陛下は器用なのね)

 人間関係は不器用でも、ヴィンダードは基本的には器用で何でも出来る。裁縫もラーファより上手いぐらいだ。

「陛下、とても気持ちがいいです」
「そうか、良かった。足腰が辛くはないか?」
「あ、あ……ま、また来ます!」

 ラーファはヴィンダードの腕にぐっと指を立て、薄い下腹をびくびく震わせる。硬い肉棒が弱いところを擦り続けると、身体がすぐに反応してしまう。
 何度も自身を締め付けられたヴィンダードは、とうとう屈してしまった。

「……ぅっ」

 低い呻き声と共に、膣壁に熱い液体が吐きかけられる。
 下腹の奥にじわりと広がる熱に、ラーファは目に涙を浮かべた。

 (ようやく、私は……)

 身も心もこの方の妻になれた。
 ラーファのすべらかな頬に、一筋の涙が流れ落ちた。

 ◆

「ラーファ、大丈夫か?」
「はい、陛下」
「自分本位に行為を進めてしまったな」
「そんなことありませんわ」

 脚の間に違和感はあるし、節々に痛みも感じているが、それよりも愛する人とようやく結ばれた、その多幸感でラーファは笑顔がとまらなくなる。

「嬉しい、陛下、嬉しいです」
「ありがとう、ラーファ」

 身体中が色々な体液でべたべたになっていて、シーツもしっとりしているが、ここがどこよりも居心地の良い場所に感じられる。
 互いに腕を伸ばし、抱き合う。
 この半年間、ずっと隣で寝ていたのに、素肌の温かさがこれほどまでに心地のよいものだとは知らなかった。

 ヴィンダードは、ラーファの柔らかな髪を指先で梳きながらつぶやく。

「ラーファ……」
「何でしょうか?」
「今までは『陛下』と呼んで貰っていたが、これからはどうしようか……」

 この国では、王など高貴な人間の名前を呼ぶのは夫婦間でも無礼だとされている。
 ヴィンダードは二週間後、王位から退く。しかし、次の王アーダンからの強い要望で、摂政役に就くことが決まっていた。だが、その摂政役も半年を目処に退く予定だ。
 ころころ呼び方が変わるのもどうかとラーファは思う。今宵、身も心も真の夫婦になったのだ。
 夫婦らしい呼び方に変えてもいいかもしれない。

「旦那様、は如何でしょうか?」

 ラーファは良い案だと思ったが、ヴィンダードはうーんと唸っている。納得がいっていないようだ。

「悪くはない、が……」
「そうですか? 何かご希望はございますか?」
「その、言いにくいのだが」

 もごもごと、ヴィンダードは口を動かしている。そんなにお願いしにくいことなのだろうか。

 (愛称で呼ばれたいとかかしら?)

 さすがに人前では呼びにくいが、二人きりでいる時ぐらいは愛称で呼ぶのもやぶさかではない。

「遠慮なさらないで」
「そうか。では、な、名前で呼んでほしい。ヴィンダード、と……」

 想像していたよりも普通の願いだった。
 しかし、ヴィンダードはこの十年王位についていた。名前で呼ばれることなどほぼ無かったのではないか。

「……ヴィンダード」

 その名を口にすると、琥珀色の瞳が見開かれる。

「ありがとう。嬉しいよ……とても」

 ヴィンダードは笑っていたが、少し泣き出しそうな顔をしていた。
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