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この時が来てしまった
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「それでその……アウナスが攻めてくる前に話そうとしていたことなのだが……」
(ああああっっ……!!)
とうとう来てしまった、この時が。
全身にぶわりと嫌な汗が吹きだす。後悔の波に胸が押し潰されそうだ。
(なんで私、あんなことをしてしまったの……!?)
この砦に来たその日の晩、メリアローズはエリヴェルトを性的に襲った。寝ている彼の身体を無理やり興奮させ、繋がったのだ。
今思えば、急ぐことはなかったのだ。ゆっくり関係を築いてから身体を重ねていれば、こんなに後悔することはなかったのに。
(ばかっ……ばかっ! 私のいんらんっ! 考えなしっ! すぐに頭に血がのぼるっ!)
あの晩は自分自身にたくさんの言い訳をして、寝ているエリヴェルトに性的なことをした。なにが性的な行為で彼を癒したいだ。彼には跡継ぎが必要だ、だ。
ただ、自分がエリヴェルトとそういうことがしたかっただけなのに。
なんと罪深くて、愚かなことか。
「……メリアローズ?」
「ひっっ、ご、ごめんなさい、話を続けて?」
「やはり、君から話したほうがいい。君も私に話があったのだろう?」
どくりと、胸が大きく波打つ。血が沸騰しそうだ。
全身にびっしょり汗をかきながら、メリアローズは震える口を開く。
「エリヴェルト……別れましょう」
口から出たのは、別れを告げる言葉。
ラントとは停戦した。和平のための婚姻も結ばれる。もう自分達が夫婦でいる意味はないのだ。
(すべてを白状して……別れましょう、エリヴェルトと)
教会で永遠の愛を誓う前に、寝ている相手を犯す女がどこにいる? なんと浅ましい。王女として相応しくないどころか、人間として駄目だ。失格だ。
こんな女がエリヴェルトの妻の座に居続けるなんて許されない。
「どうして……」
「いっ……!」
俯いていると、いきなりがしりと肩を掴まれた。
すごい力だった。肩に指が食い込むのではないかと、錯覚するほどの。
「私がっ……私が寝ているふりをして、君を襲ったからか?」
一瞬、エリヴェルトが何を言っているのか分からなかった。寝ているふり? 君を襲った?
「ど、どういうことなの……?」
「最初は、都合の良い夢を見ていると思っていた。俺は君のことがずっと……ずっと好きだったから、昔から何度も見たさ……君から誘われる夢を」
エリヴェルトの顔は、首筋まで真っ赤に染まっていた。
彼の言葉に、メリアローズは瞬きを繰り返す。
「う、嘘でしょう?」
「本当だ。というか、何で君は俺の気持ちを疑うんだ。俺が愛を告げても、君、信じてないだろ?」
エリヴェルトの一人称が変わった。彼の中で何かが吹っ切れたのだろうか。
「だって私、お姉様達みたいに美しくないですし、何回もお見合いを断られているし……」
「見合いを断られているのは……正直なところ、外見は関係ないと思う」
「えっ……」
(た、確かに……私は性格も良くないし、短気ですし、頭に血がのぼると色々やらかしてしまう性質ですし……)
思えば外見以外にも駄目なところはたくさんある。今まで見た目がよくないと言い訳をしていたが、あきらかに人格にも問題がある。
「そうですよね……私、性格も終わってますし……」
「違う! 何で君はいつもそうなんだ? 君が結婚相手として敬遠されていたのは、君の魔力のせいだ!」
「魔力のせい……? で、でも、私の魔力は高いですわ」
魔力の高い女性は結婚相手として人気があっても、それで敬遠されることなんてない。
メリアローズはそう考えていたのだが……。
「確かに、魔力の高い女性は人気だろう。だが、君は高すぎるんだ……!」
「高すぎる……?」
魔力が高い自覚はある。上の兄姉よりも、自分は魔力が豊富だった。どれだけ魔力消費が高い魔法でも、子どもの頃から気兼ねなく連発できた。
だがそれは、男性から見て駄目なことだったのだろうか?
「はじめて君に出会った時、我が目を疑ったよ。こんなにも魔力に溢れた人間がいるのかと」
「そんなに?」
「君が驚くのも当然だ。殿下達も皆が皆魔力が高かったからな。でも君は桁違いだ。この大陸に住まう上位の人間のだいたいが魔力持ちだ。そこそこの魔力の持ち主なら結婚相手として魅力的に映っても、桁が違えば畏怖を覚える」
「そう、だったの……」
自分の魔力の高さは唯一の自慢だった。魔力が豊富なら、それだけ多くの人々を癒せる。
だが、その魔力が自分を結婚から遠ざけていただなんて。
「すまない……君にとって辛い話をしてしまった。私は、君の魔力は誇っていいものだと思う」
「エリヴェルトは、私の魔力が高くても怖いと思わないのですか?」
「その魔力で、どれだけ救われてきたと思う? 君の魔力ごと愛している」
(これは夢……? ううん、違いますわ……)
ぐっと掴まれている肩が痛い。間違いなく、これは現実だ。
(ああああっっ……!!)
とうとう来てしまった、この時が。
全身にぶわりと嫌な汗が吹きだす。後悔の波に胸が押し潰されそうだ。
(なんで私、あんなことをしてしまったの……!?)
この砦に来たその日の晩、メリアローズはエリヴェルトを性的に襲った。寝ている彼の身体を無理やり興奮させ、繋がったのだ。
今思えば、急ぐことはなかったのだ。ゆっくり関係を築いてから身体を重ねていれば、こんなに後悔することはなかったのに。
(ばかっ……ばかっ! 私のいんらんっ! 考えなしっ! すぐに頭に血がのぼるっ!)
あの晩は自分自身にたくさんの言い訳をして、寝ているエリヴェルトに性的なことをした。なにが性的な行為で彼を癒したいだ。彼には跡継ぎが必要だ、だ。
ただ、自分がエリヴェルトとそういうことがしたかっただけなのに。
なんと罪深くて、愚かなことか。
「……メリアローズ?」
「ひっっ、ご、ごめんなさい、話を続けて?」
「やはり、君から話したほうがいい。君も私に話があったのだろう?」
どくりと、胸が大きく波打つ。血が沸騰しそうだ。
全身にびっしょり汗をかきながら、メリアローズは震える口を開く。
「エリヴェルト……別れましょう」
口から出たのは、別れを告げる言葉。
ラントとは停戦した。和平のための婚姻も結ばれる。もう自分達が夫婦でいる意味はないのだ。
(すべてを白状して……別れましょう、エリヴェルトと)
教会で永遠の愛を誓う前に、寝ている相手を犯す女がどこにいる? なんと浅ましい。王女として相応しくないどころか、人間として駄目だ。失格だ。
こんな女がエリヴェルトの妻の座に居続けるなんて許されない。
「どうして……」
「いっ……!」
俯いていると、いきなりがしりと肩を掴まれた。
すごい力だった。肩に指が食い込むのではないかと、錯覚するほどの。
「私がっ……私が寝ているふりをして、君を襲ったからか?」
一瞬、エリヴェルトが何を言っているのか分からなかった。寝ているふり? 君を襲った?
「ど、どういうことなの……?」
「最初は、都合の良い夢を見ていると思っていた。俺は君のことがずっと……ずっと好きだったから、昔から何度も見たさ……君から誘われる夢を」
エリヴェルトの顔は、首筋まで真っ赤に染まっていた。
彼の言葉に、メリアローズは瞬きを繰り返す。
「う、嘘でしょう?」
「本当だ。というか、何で君は俺の気持ちを疑うんだ。俺が愛を告げても、君、信じてないだろ?」
エリヴェルトの一人称が変わった。彼の中で何かが吹っ切れたのだろうか。
「だって私、お姉様達みたいに美しくないですし、何回もお見合いを断られているし……」
「見合いを断られているのは……正直なところ、外見は関係ないと思う」
「えっ……」
(た、確かに……私は性格も良くないし、短気ですし、頭に血がのぼると色々やらかしてしまう性質ですし……)
思えば外見以外にも駄目なところはたくさんある。今まで見た目がよくないと言い訳をしていたが、あきらかに人格にも問題がある。
「そうですよね……私、性格も終わってますし……」
「違う! 何で君はいつもそうなんだ? 君が結婚相手として敬遠されていたのは、君の魔力のせいだ!」
「魔力のせい……? で、でも、私の魔力は高いですわ」
魔力の高い女性は結婚相手として人気があっても、それで敬遠されることなんてない。
メリアローズはそう考えていたのだが……。
「確かに、魔力の高い女性は人気だろう。だが、君は高すぎるんだ……!」
「高すぎる……?」
魔力が高い自覚はある。上の兄姉よりも、自分は魔力が豊富だった。どれだけ魔力消費が高い魔法でも、子どもの頃から気兼ねなく連発できた。
だがそれは、男性から見て駄目なことだったのだろうか?
「はじめて君に出会った時、我が目を疑ったよ。こんなにも魔力に溢れた人間がいるのかと」
「そんなに?」
「君が驚くのも当然だ。殿下達も皆が皆魔力が高かったからな。でも君は桁違いだ。この大陸に住まう上位の人間のだいたいが魔力持ちだ。そこそこの魔力の持ち主なら結婚相手として魅力的に映っても、桁が違えば畏怖を覚える」
「そう、だったの……」
自分の魔力の高さは唯一の自慢だった。魔力が豊富なら、それだけ多くの人々を癒せる。
だが、その魔力が自分を結婚から遠ざけていただなんて。
「すまない……君にとって辛い話をしてしまった。私は、君の魔力は誇っていいものだと思う」
「エリヴェルトは、私の魔力が高くても怖いと思わないのですか?」
「その魔力で、どれだけ救われてきたと思う? 君の魔力ごと愛している」
(これは夢……? ううん、違いますわ……)
ぐっと掴まれている肩が痛い。間違いなく、これは現実だ。
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