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 ──何でこの人、こんなところにいるんだろう?

 真向かいに座った美丈夫の様子をちらちら伺いながら、私は出されたコーヒーをずずっと音をたてて飲んだ。隣に座っていた母に軽く足の甲を踏まれた。……痛いな。

「では、後はお若い二人で」

 仲人なこうどのでぷっとしたオバさんが、人の良さそうな笑顔を浮かべて私たちを見る。私は今、お見合いの真っ最中だ。

 相手の男はセドリック=フォン=ダーヴィット。騎士団の長を何人も輩出している名門伯爵家の三男坊で、王宮では白銀の騎士なんて呼ばれている。
 白銀の騎士の二つ名。その由来は彼の髪色にあった。いつみても見事なプラチナ・ヘア。ラウンジの天窓から振りそそぐ柔らかな光を浴びて、今もつやつやと天使の輪が煌めいている。
 顔立ちもそれはそれは美しい。四年前、王宮の廊下で初めてぶつかった時は『えっ?なにこの傾国のお姫様、美人すぎない?』なんて思ったものだ。

 そこいらの令嬢より美しく、可憐だった彼は、この四年でめきめき身長が伸びて、顔立ちもずいぶん精悍さが増した。今では王宮の渡り廊下を歩くたびに女子達の黄色い声が飛び交っている。

 そんなモテ男の彼が、何で私とお見合いなんかしているのか。私の頭上にはハテナマークがぽぽぽぽーんと何個も浮かび上がったままだ。

 親達と仲人のおばさんが席を外し、私たちは二人きりにされた。

「ねえ、セドリックさん」

 私が声をかけると、彼はびくりと肩を震わせた。何びびってんのよ。

「このケーキセット、美味しそうじゃない? 一人で食べるのはキツいから、二人で分けっこして食べようよ」

 私の提案に、彼は銀糸のなっがい睫毛を瞬かせ、「……ああ」と頷いた。
 彼は甘いものが好きだ。ぜったいに断らないだろうと踏んでたけど、のって貰えて地味に嬉しかった。



 ◆



「セドリックさん、もしかしなくても無理やりここに連れてこられた?」

 つるっとした乳白色の楕円の皿に盛られた、長方形に切られた八つのケーキ。私はセドリックが指差しで選んだオペラを小皿に取り分けながら、彼にそっと聞いてみた。
 無理やりなら可哀想だ。
 私の実家は、彼の家ほどじゃないけど、そこそこ財産を持っている伯爵家。しかも私は一人娘。彼は名門貴族の出でも三男坊だから、ご両親が熱心に婿先を探していたとしてもおかしくはない。
 騎士は体力を使う職業柄、40歳前後になればほとんどの人は退役する。多額の退役金を元に商売を始める人も多いが、安定した第二の人生とは言い難く、金持ちの娘の婿を狙う騎士はそれはもう多かった。

「いや、違う」

 彼は銀糸の睫毛をふせて首を振る。

「ふーん……」

 相変わらず彼との会話は続かないし、弾まない。でもこのお見合いが無理やりじゃないなら、とりあえずは安心かな? 知らんけど。

「このレアチーズおいしい~、セドリックさんも食べてみなよ」

 この後は人気のカフェに来た女友達のような会話をして、私たちは別れた。セドリックは私を家まで送っていくと言ったけど、断った。
 彼はとにかく人気がある。他の女性に見られてやっかまれたら大変だ。

 私は魔法しか取り柄のない王宮魔導師、働きにくくなる要因はできるだけ作りたくなかった。できれば結婚もしたくない。
 でもいつかはしなきゃならないだろう。実家のために。

 そこで私は結婚しろしろとうるさい両親に対し、とある条件をつけた。それは。
・結婚相手は私を束縛しない男であること。
・別居を許してくれること。
・私の仕事を認め、続けさせてくれる相手であること。
 この3点だ。

 子どもは同居なんかしなくても作れるし、実家の両親が大切に育ててくれると言っていた。問題は相手がそれを許してくれるかどうかだ。

 セドリックはその条件をのんでくれるつもりがあって、このお見合いを引き受けてくれたのか? そこのところが気がかりだった。

 今度会ったら聞いてみよう。セドリックと出会って四年。彼も王宮で働いているからか、すれ違わない日は無かった。
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