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虐げられた姉の決意
しおりを挟む翌朝。
朝日をバックに、パヴェルの金髪はきらきら輝いていた。
寝不足の目に沁みる。
「もう心は決まったのか? レティシア」
「ええ……。モーラもスオルクも両親も、みんな完膚なきまでにボコるわ」
広げた手のひらに拳骨をパシッと当てる。
夕べは再熱した怒りで眠れなかった。
気合いの入る私を見、パヴェルは納得したように深く頷いた。
「でも、復讐って具体的に何をするの? 私、考えたんだけど、実家の焼き討ちぐらいしか思い浮かばなかったわ」
「お前……相変わらず発想が物騒だな。焼き討ちだと他の使用人に被害が出るだろうが」
確かに。
まあ、個人的には妹の味方ばかりする使用人達は皆死んでいいと思っている。
特に家令のジジイとかマジ最悪だった。
私にはやれ勉強しろだの、夜更かしするなだのうるさかったくせに、モーラが部屋でゴロゴロしていても何も言わなかったのだ。
──何でいつもいつも私ばっかり!
周りが私に厳しすぎるせいで、私はこんなに可愛げのない人間に育ってしまった。
こんなことを言うと『人のせいにするな』とどうせ言われるので言わないが、もう私は都合の良い姉は辞めたので開きなおる。
どうも私は怖い顔をしていたらしい。
パヴェルは一歩後ろに下がると咳払いをし、口を開いた。
「俺が考えた復讐作戦はこうだ。まずは兄上の力を借りる」
「陛下の?」
「おう。うちの長兄は不倫とか寝取り寝取られとか大嫌いだし、俺から進言すれば聞いてくれると思うぜ。不貞を犯したモーラとスオルクに罰を与えよう」
──復讐というから期待したのに。
パヴェルは口は悪いが、所詮、王子様だ。
なんというか、考えがぬるい。
まるで真夏の水風呂のようだ。
もう一気に脱力した。
「レティシア。モーラとスオルクを追い出して、お前の実家イリス家を取り戻すぞ!」
「……う~ん、夕べ一人で寝ないで考えたんだけど、もういっそのこと実家ごとぶっ潰そうと思うのよね。陛下にもそう言ってくれる? イリス家ごと潰したいと」
「おいおい……家ごと潰すって。お前の両親はどうするつもりなんだよ。使用人たちも職を失って路頭に迷うぞ?」
「新しい仕事を斡旋すればいいんじゃない? たとえば炭鉱とか。たしかパヴェル、鉱山を持ってたわよね?」
「……持ってるけど、役立たずは送りたくねぇな。他の炭坑夫の迷惑になるし」
「うちの無能な両親だって、帳簿付けぐらいは出来るわよ」
私は少女小説のように、ヒロインを虐げる両親をカントリーハウス送りにするのは嫌だった。
そんなのぬるすぎる。
子どもの頃から妹びいきばかりして、私の自尊心をズタズタにした両親は万死にあたいする。
「パヴェル、陛下に進言するのもいいんだけど、まずは王妃様に相談してみない?」
「義姉上か」
私の直属の主人は王妃様だ。
実家に復讐するということは、ある程度の休みも必要だろう。
それに王妃様は私の師範でもある。
復讐を決行する心構えとか、なんかいい感じの必殺技とかも教えてくれそうな気もする。
「なんか、お前……急に目がイキイキし始めたな」
「そおお?」
今まで色々悩んでいたが、パヴェルと再会して決意が固まったからかもしれない。
元婚約者や家族から手酷く裏切られたからといって、いつまででもウジウジしているのはよくないって、自分でも思う。
──あいつらを倒して、私の自信に変えてみせる……!
まああんまり派手にやると、パヴェルは引いちゃうかもしれないけど。
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