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45 え? なんでそんな方法が必勝なのかですって?
しおりを挟むその方法はきわめて簡単。基本的にお姫さまのカードを出すこと。ただし相手プレイヤーの誰かが豚のカードを出してきた場合、その後そのプレイヤーに対しては豚のカードを出す。これが必勝の最適戦略となります。
え? なんでそんな方法が必勝なのかですって? その戦略ではこちらがお姫さまを出した時に相手が豚のカードを出してくることもありうるから、その分得点が減って不利になるのは明らか? こんな方法で勝てるはずがないですって?
では仮に。この後ずっと、わたしと兄さんが最適戦略を続け、ルルだけがずっと豚のカードを出し続ける不敗戦略を取っていたらどうなるか検証してみましょう。
次の兄さんのターンで、兄さんはわたしとルルそれぞれの場にお姫さまのカードを置くことになります。当然わたしもお姫さまのカードを出し、ルルは豚のカードを出します。そのためこのターンでの得点は兄さんがマイナス一点、ルルがプラス四点、わたしがプラス二点。
この時点での合計点は一位がルル(プラス八点)、二位は兄さんとわたしが同点(プラス一点)で並びます。ルルが圧倒的に有利です。ここまでは。
さらに次のルルのターン。ここでルルはわたしと兄さん双方に対して当然豚のカードを出してくるでしょう。わたしと兄さんもルルには一度裏切られていますので、最適戦略に従い豚のカードで応えます。そのため全員〇点で点数と順位は変わりません。
二周目のわたしのターン。わたしは兄さんにはお姫さまのカードを、ルルには豚のカードを出します。それに対して兄さんはお姫さま、ルルは豚のカードで応えるため、このターンでの得点はわたしと兄さんがプラス二点、ルルが〇点。
合計点は一位ルル(プラス八点)、二位は兄さんとわたしが同点(プラス三点)です。
分かりますか? ルルは点数が動かないのに、兄さんとわたしは徐々にですが確実に点数を増やしていっているのです。
この調子でゲームを進めていけば、三周目の兄さんのターン終了時の合計点は、兄さんとわたしが共にプラス九点になる計算ですが、ルルはずっと〇点なのでプラス八点のまま。つまりここでルルは初めて逆転されることになります。
その後の三周目最終ターンではルルが親なので三人とも〇点になり、最終順位は一位兄さんとわたし(プラス九点)、ビリがルル(プラス八点)のまま確定です。
ゲーム開始時には圧倒的有利だったはずのルルが、終わってみればあ~ら不思議。びりっけつになってしまうという塩梅なのですよ。
もちろん兄さんはそうなることを……目先の点数に惑わされたルルが積極的に豚のカードを出す不敗戦略を取り自滅することを予測した上で、Pカードでの勝負を持ちかけたのです。
Pカードのことを熟知している兄さんとわたしは、堅実に最適戦略を取ることで最終的な勝利者になれるに決まっていますからね。つまりPカードで勝負をするということが決まった時点で、わたしと兄さんの勝利はすでに決定されていたのです。
本来ならばルルはPカードでの勝負を受けるべきではありませんでした。
プレイヤー三人のうち二人はルールを熟知しているのに、ルル一人だけは完全な初心者なのです。それだけでも大きく不利なのは目に見えていますからね。
にも関わらずルルが勝負を受けてしまったのは、ルールに欠点があると思いこんでしまったから。具体的にはプレイヤー二人が両方ともお姫さまのカードを出した時の点数が低すぎておかしいと気づき、そこを突けば勝てると勘違いしてしまったからなのです。
その証拠にルルは最初の一手から豚のカードを出してきました。この時点ですでに最適戦略から外れているため、この後わたしと兄さんの二人がそろって最適戦略を取り続けさえしていればルルの勝利はもう完全にありえません。
もうすでにゲームは詰んでいるのに、この場でただ一人ルルだけがそのことに気づいていません。それどころか自分が圧倒的に有利な状態にあると勘違いしてほくそ笑んですらいることでしょう。その愚かさには嗤うを通り越して、もはや憐れみの気持ちしか湧いてきませんね。
と、まあ。そんなことを素早く一秒強ほどの時間で考えをめぐらせているうちに、第二ターン、兄さんが親の順番が回ってきました。兄さんは自分の手札から二枚のカードを抜くと、一枚ずつをそれぞれわたしとルルの前に裏向きに置きます。
もちろんカードの表側はわたしには見えませんが、二枚とも赤、つまりお姫さまのカードであることは疑いありません。なのでわたしも最適戦略に従って兄さんのカードの隣に赤いカードを置きました。一方ルルが置いたのは、黒。豚のカードです。
続いて兄さんが裏向きに置いた二枚のカードを表にひっくり返します。そのカードは予想通り二枚とも赤、お姫さまでした。
親である兄さんはわたしに対してはお姫さま同士でプラス二点を、ルルに対してはお姫さまに豚を出されたためマイナス三点をそれぞれ得ることになり、合計マイナス一点。ルルはお姫さまに豚を出したのでプラス四点、わたしはお姫さま同士でプラス二点をそれぞれ加算。
従って現在順位は一位ルル(プラス八点)、二位が兄さんとわたし(プラス一点)。予想通りですね。結果が分かりきっている出来レースをこのまま最後まで続けるというのもバカらしい話ですが。まあ、仕方ありません。
「あたしのターン、ドロー!」
次にルルが親の第三ターン。ルルは妙に格好つけた口調で言って、やたらオーバーアクションで手札からカードを二枚抜き取ると、わたしと兄さんそれぞれの前に裏向きで置きます。
その二枚ともが黒、つまり豚のカードであることは間違いないでしょう。なのでわたしもその脇に黒のカードを置きます。同じように兄さんも黒のカードを置きました。
(はい。このターンは全員〇点で終了、と。次は二周目に入ってわたしが親ですね)
「えっ!?」
次の番に備えていたわたしの耳に、兄さんが意外そうに驚く声が入ってきました。兄さんがそんな声をあげるなんて珍しいことです。意外に思ったわたしは何気なくテーブルの上に目をやって、そこで思わず絶句してしまいました。
ルルが表に返した二枚のカードのうち、わたしの前に置かれていたものは予想通り黒のカードでした。ところが兄さんの前に置かれたのは赤のカードだったのです。
従ってこの第三ターン、親であるルルはわたしに対しては豚同士で〇点。兄さんに対しては豚にお姫さまを出したためマイナス三点が加算されます。わたしは豚同士なので〇点で、兄さんはお姫さまに対して豚を出したのでプラス四点。
すなわち現在の点数は一位がルルと兄さん(プラス五点)、ビリはわたし(プラス一点)というふうに変わります。ゲームが当初の予想とは違った方向へと進んでいきそうな予感を覚えて、わたしは思わずぶるりと、小さく身体を震わせてしまうのでした。
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