わたしの弟と親友が、彼氏彼女の関係になってしまいそうなんです！

43 しばらく黙って聞いていて下さい！

「Ｐカード？　なにそれ。そんなゲーム、聞いたことないけど」

　驚愕きょうがくの表情を浮かべるわたしとは対照たいしょう的に、ルルは目をすがめ眉まゆをひそめながらそのように口を開きました。

　彼女が知らないのも当然です。Ｐカードはお父さんの後輩こうはいであるお笑い芸人の人がうちに遊びに来た際さい、わたしたち兄弟に教えてくれたもので、お父さんたちが所属しょぞくしていたお笑い系芸能事務所オリジナルのカードゲームなのですから。

「むかしむかし、世界は東西南北四つの国に分かれていました。四つの国には王さまがいて、四人の王さまにはそれぞれ一二人ずつ、とても美しいお姫さまがいたのです」

「え？　なによみっちゃん。急にそんなおとぎ話みたいなことを言い出して」

「おとぎ話ではありませんよルル。Ｐカードのルール……と言うか設定せっていの説明です。ルールより先にこちらを説明したほうが分かりやすいので、しばらく黙だまって聞いていて下さい！」

　困惑こんわく顔で声をあげてくるルルを一喝いっかつしてから、わたしはルルにルールを説明するためさらに言葉を続けました。

　四人の王さまのうち東の王さまはとても好色こうしょくで、他の三人の王さまの娘であるお姫さまたちを自分の愛人にしたくて仕方ありません。そこで東の王さまは他の三人の王さまに『あなたがたの国のお姫さまのうち何人かを私の愛人として我が国に迎むかえたい』と申もうし入れたのです。

　それに対し南西北三人の王さまは異口いく同音どうおんに応こたえました。『いいでしょう。ただしその代わりにあなたの国のお姫さまを、我々の愛人として私たちの国に迎えさせてもらえるなら』と。

　要するにお互たがいの国のお姫さまを、自分の愛人にするためトレードしようということです。冷静に考えるとひどい話ですが、その辺りは物語の本質ではないのでスルーしてください。

　三人の王さまたちの返事を聞いた東の王さまは困りました。他の国のお姫さまたちを自分の愛人として欲しいのはやまやまなのですが、自分の可愛い大切な娘を他の王さまの愛人にするなんて真まっ平ぴらごめんだったからです。

　もちろんそんなわがままが通用するはずはないので、東の王さまは仕方なしにその案あんを受け入れましたが。それでも、なんとか自分の娘は他国の王さま連中に渡さず、自分だけが他国のお姫さまたちを手に入れる方法はないかと虫のいいことを考えていたのです。

　しかしいくら頭をひねっても、そのような都合のいいアイディアなど思いつくことが出来ません。そこで東の王さまは、宮廷きゅうていに勤つとめる知恵者と評判の魔法使いに、どうすればいいのか相談することにしました。

　話を聞いた魔法使いは次のように応えました。『それならば私に豚ブタを三匹お与あたえください。私がその豚に魔法をかけてお姫さまそっくりの姿に変えますから。王さまはその豚をお姫さまと偽いつわって他国の王に引き渡し、代わりに他国のお姫さまがたを受け取ればいいのです』と。

　それはグッドアイディアだぜと喜んだ東の王さまは早速他の三人の王さまを東の宮廷に招まねいて、そこで自分の娘三人（実は豚）を、それぞれの国のお姫さま三人と交換トレードしたのです。

　そうして東の王さまは自分の娘を一人も失うことなく、南西北三国のお姫さまを一人ずつゲットすることが出来たのでした。めでたしめでたし……。

「……と、思っていたのですが。実は南西北三国の王さまたちも東の王さまと全く同じことを考えていたため、東の王さまが手に入れたと喜んでいた他国のお姫さまたちも、実は全員魔法使いによって姿を変えられていた豚でしたというオチがつくわけです」

「ふーん。で？　その話がそのＰカードっていうゲームとなんの関係があるの？」

「Ｐカードは、その四人の王さまの逸話いつわをもとに作られたゲームなんだっていうことだよ」

　わたしにかわって兄さんが、ルルの質問に答えました。

「さて、本番のルールを説明しよう。Ｐカード……正式名称プリンセス・オア・ピッグカードのプレイヤーはさっきの話に出てきた東南西北四人の王さまを演えんじることになる」

「はあ」

「使うものはお姫さま（Ｐｒｉｎｃｅｓｓ）の絵が描えがかれたカードと、豚（Ｐｉｇ）の絵が描かれたカードを数枚ずつだ。それで……」

　と、さらに兄さんは話を続けていますが、兄さんの話は無駄に長い上にまどろっこしく滑舌かつぜつも悪いので分かりにくいため、以下はわたしが分かりやすく簡潔かんけつにまとめたいと思います。

　一）プレイヤーは基本的に三人か四人で。それぞれが東南西三つの国の王さま、あるいは東南西北四つの国の王さまを演じます。

　二）使用するカードはプレイヤーが三人なら、一人につき姫と豚二枚ずつ四枚で合計一二枚。四人なら一人三枚ずつ六枚の、合計二四枚になります。

　三）ゲーム開始後。まず東のプレイヤーが親となり、残りのプレイヤー全員の前にお姫さまか豚、どちらか一枚のカードを伏ふせた状態じょうたいで置きます。

　四）次に南と西（と北）のプレイヤーは、東のプレイヤーが置いたカードの隣に自分のカード……お姫さまか豚のどちらか一枚を表の状態で置きます。

　五）全てのカードが置かれたことを確認してから、東のプレイヤーは自分が裏向うらむきに置いたカードを全て表にひっくり返します。その際、自分の出したカードと相手の出したカードとの組み合わせによって、それぞれ点数が加算されるわけです。

　六）たとえば東のプレイヤーが南のプレイヤーの前にお姫さまのカードを伏せて置き、南のプレイヤーもお姫さまのカードを出した場合。東南どちらのプレイヤーも自分の娘を一人失う代わりに愛人を一人手に入れることが出来たので、それぞれプラス二点を得ます。

　東のプレイヤーも南のプレイヤーも豚のカードを出していた場合。東南どちらのプレイヤーも愛人を手に入れられませんでしたが自分の娘も失わず損そんをしなかったため、どちらもプラスマイナス〇点ということになります。

　一方のプレイヤーはお姫さまを出したけれど、もう一方のプレイヤーは豚を出した場合。お姫さまを出したほうは自分の娘を一人失った上に愛人も手に入らなかったためマイナス三点。逆に豚を出したほうは自分は全く損をせず愛人を得えられたためにプラス四点です。

　七）東のプレイヤーは、西（と北）のプレイヤーに対しても同じようにカードの絵柄を比べて点数を加算します。それぞれの点数が出たら東のプレイヤーのターンは終わり。次は南のプレイヤーが親となり、さらにその次は西（、北）、また東と順番に親を交代していきます。

　八）王さまたちにそれぞれお姫さまは一二人ずつという設定なので、全プレイヤーが一二枚目のカードを出した時点……プレイヤーが三人なら三まわり、四人なら二まわりでゲーム終了です。この時点で点数の一番高いプレイヤーが勝ちとなるのです。