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3章 交錯
3-4.夜(1)
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朝食を終え、結婚式へ訪れた来客の応対を終えたチャールズはクロエを伴って自室で横になっているアメリアのもとへ向かった。
「アメリアの様子はどうだい?」
「――手足の痺れは、当分続くと思います。ルークの身体が痺れていれば、それが奥様にも伝わってしまいますので……」
チャールズは唇を噛み締める。
「番は身体の痛みも共にする、と。――本当に、呪いのようなものじゃないか、それじゃ」
「――だからこそ――、彼らはお互いを大切にするんでしょうか」
クロエは里で過ごした時間を思い出した。安定した揺り籠のような小さな社会――番同士で構成された閉じた空間。
番という関係性の中へ、外にいる自分たちが入ることは、もうできないのだろうか。
だけど、とクロエは思う。
(――だってルークとお姉さまは愛し合っているようには見えないもの。番なんて、ただの欲求――呪いじゃない)
クロエは呟いた。
「チャールズ様、奥様をルークのところに連れてきて頂けませんか」
チャールズは訝し気に首を傾げる。
「――どうして。僕は、アメリアをあいつに会わせたくない――」
「お気持ちはわかります。ですが、番同士で会わないと……、心が開けませんもの」
「心を開く?」
ええ、とクロエは頷くと、主人を見つめた。
「奥様は本当はチャールズ様をお好きなはずなのに、番の意識に縛られてしまっているのです。――心を開いた状態で、もう一度お気持ちをきちんと伝えれば、お姉さまにも伝わると思うのです」
自分を真剣に見つめるクロエの緑の瞳にチャールズはたじろいだ。
番や、野人のことを、より知っているのは彼女だ。
(それで、僕のアメリアが戻って来るなら)
――彼女の言葉に従おう。
チャールズはわかった、と頷いた。
***
「チャーリー、ねえ、どこに行くの」
夜――チャールズはまだ手足に痺れの残るアメリアを担いで部屋を出た。暗い屋敷の廊下を進むチャールズの背中からアメリアは不安げな声を漏らした。
行きついた先は、屋敷の端にある、今は使われていない石造りの離れだった。
アメリアの鼻は番の匂いを感じた。
「ルーク」
その名前を呟く。顔を上げると、首と手足に、壁からのびる鎖でつながれた狼が横たわっていた。
「……アメリア」
ルークも彼女を認識し、名前を呼んだ。
「そのまま、床に座ると硬いですから。チャールズ様。奥様をこちらに」
ベッドから離れたところに、積み上げた藁に布を被せたものが用意されていた。
促されるまま、チャールズは妻をその上に降ろす。ふかっとした藁にアメリアは腰を埋めた。ルークと向かい合う形になった彼女は、番に向かって手を伸ばした。
「クロエ、何を考えているんだ」
狼は小さく唸った。クロエは姉の後ろにしゃがむと、彼女の着ている夜着の腰紐を緩めた。
「だって、貴方は、番にしか反応しないのでしょう。――番の匂いに、かしら」
そのまま白い手触りの良い布を持ち上げる。衣擦れの音がして、アメリアの細い裸体が無機質な石造りの部屋の中で、赤いランプに照らされた。事態が飲み込めないアメリアは、夜の空気に晒された自分の身体を見つめて息を飲んだ。
クロエは無言で、目の前の姉の細い痩せた体の胸の膨らみを手で包んで、大事なものを扱うように、ゆっくりと円を描くように擦った。
アメリアはふ、と息を吐いて、夫を見た。
「チャーリー……?」
怯えたような瞳を向けられて、呆然と立っていたチャールズは、クロエに駆け寄ると腕を掴んだ。
「クロエ……手を離しなさい」
クロエは微笑むと、主人の手を穏やかに払いのけた。
「……チャールズ様、お姉さまを見てください」
そのまま掌を下腹部へとつたわせ、人差し指で花弁の縁を柔らかに辿る。
「ぁあっ……」
ひやりとした細い指の優しい感触にアメリアは悶えた。クロエは腹違いの姉の膝の下に手を入れると、横で立ち尽くす彼女の夫へと向けた。痩せている彼女の体は、手足から力が抜けていることもあって、クロエでも容易く開かせることができた。
昨夜ぴったりと折りたたまれていた花びらは充血して外側にめくれ、生き物のように収縮する露わになった秘芯からは透明な愛液がしたたり、アメリアの薄い恥毛をぐっしょりと濡らし、そこだけをやけに貪欲に見せていた。
クロエは、指ををその湿った茂みに伸ばすと、敏感な芽に指で触れた。
「っん……あ……ん」
アメリアは痺れを感じる手足を左右にゆすった。異母妹でもある侍女の手で、チャールズとルークの前で乱れた姿を見せているということへの羞恥心から、身体中が熱くなった。熱を帯びれば帯びるほど感覚が敏感になり、ぞわぞわとそこから全身に広がる快感の波が肌に漣を立てた。
チャールズは、目の前で全身を紅潮させよがる妻の姿に唖然として立ち尽くした。それは、彼の知っているアメリアの姿ではなかった。身をゆすり、震わせながら喘ぐ目の前の女は、彼の知っている、長年の婚約者だった、年下の可愛らしい令嬢の姿と合致しなかった。
「これが……番……」
昨晩自分の腕の中で見せた姿との違いに、胸が締め付けられるような気持ちになった。しかし、同時に快感の波に溺れるその女の肢体に激しい情欲を感じた。
「アメリアの様子はどうだい?」
「――手足の痺れは、当分続くと思います。ルークの身体が痺れていれば、それが奥様にも伝わってしまいますので……」
チャールズは唇を噛み締める。
「番は身体の痛みも共にする、と。――本当に、呪いのようなものじゃないか、それじゃ」
「――だからこそ――、彼らはお互いを大切にするんでしょうか」
クロエは里で過ごした時間を思い出した。安定した揺り籠のような小さな社会――番同士で構成された閉じた空間。
番という関係性の中へ、外にいる自分たちが入ることは、もうできないのだろうか。
だけど、とクロエは思う。
(――だってルークとお姉さまは愛し合っているようには見えないもの。番なんて、ただの欲求――呪いじゃない)
クロエは呟いた。
「チャールズ様、奥様をルークのところに連れてきて頂けませんか」
チャールズは訝し気に首を傾げる。
「――どうして。僕は、アメリアをあいつに会わせたくない――」
「お気持ちはわかります。ですが、番同士で会わないと……、心が開けませんもの」
「心を開く?」
ええ、とクロエは頷くと、主人を見つめた。
「奥様は本当はチャールズ様をお好きなはずなのに、番の意識に縛られてしまっているのです。――心を開いた状態で、もう一度お気持ちをきちんと伝えれば、お姉さまにも伝わると思うのです」
自分を真剣に見つめるクロエの緑の瞳にチャールズはたじろいだ。
番や、野人のことを、より知っているのは彼女だ。
(それで、僕のアメリアが戻って来るなら)
――彼女の言葉に従おう。
チャールズはわかった、と頷いた。
***
「チャーリー、ねえ、どこに行くの」
夜――チャールズはまだ手足に痺れの残るアメリアを担いで部屋を出た。暗い屋敷の廊下を進むチャールズの背中からアメリアは不安げな声を漏らした。
行きついた先は、屋敷の端にある、今は使われていない石造りの離れだった。
アメリアの鼻は番の匂いを感じた。
「ルーク」
その名前を呟く。顔を上げると、首と手足に、壁からのびる鎖でつながれた狼が横たわっていた。
「……アメリア」
ルークも彼女を認識し、名前を呼んだ。
「そのまま、床に座ると硬いですから。チャールズ様。奥様をこちらに」
ベッドから離れたところに、積み上げた藁に布を被せたものが用意されていた。
促されるまま、チャールズは妻をその上に降ろす。ふかっとした藁にアメリアは腰を埋めた。ルークと向かい合う形になった彼女は、番に向かって手を伸ばした。
「クロエ、何を考えているんだ」
狼は小さく唸った。クロエは姉の後ろにしゃがむと、彼女の着ている夜着の腰紐を緩めた。
「だって、貴方は、番にしか反応しないのでしょう。――番の匂いに、かしら」
そのまま白い手触りの良い布を持ち上げる。衣擦れの音がして、アメリアの細い裸体が無機質な石造りの部屋の中で、赤いランプに照らされた。事態が飲み込めないアメリアは、夜の空気に晒された自分の身体を見つめて息を飲んだ。
クロエは無言で、目の前の姉の細い痩せた体の胸の膨らみを手で包んで、大事なものを扱うように、ゆっくりと円を描くように擦った。
アメリアはふ、と息を吐いて、夫を見た。
「チャーリー……?」
怯えたような瞳を向けられて、呆然と立っていたチャールズは、クロエに駆け寄ると腕を掴んだ。
「クロエ……手を離しなさい」
クロエは微笑むと、主人の手を穏やかに払いのけた。
「……チャールズ様、お姉さまを見てください」
そのまま掌を下腹部へとつたわせ、人差し指で花弁の縁を柔らかに辿る。
「ぁあっ……」
ひやりとした細い指の優しい感触にアメリアは悶えた。クロエは腹違いの姉の膝の下に手を入れると、横で立ち尽くす彼女の夫へと向けた。痩せている彼女の体は、手足から力が抜けていることもあって、クロエでも容易く開かせることができた。
昨夜ぴったりと折りたたまれていた花びらは充血して外側にめくれ、生き物のように収縮する露わになった秘芯からは透明な愛液がしたたり、アメリアの薄い恥毛をぐっしょりと濡らし、そこだけをやけに貪欲に見せていた。
クロエは、指ををその湿った茂みに伸ばすと、敏感な芽に指で触れた。
「っん……あ……ん」
アメリアは痺れを感じる手足を左右にゆすった。異母妹でもある侍女の手で、チャールズとルークの前で乱れた姿を見せているということへの羞恥心から、身体中が熱くなった。熱を帯びれば帯びるほど感覚が敏感になり、ぞわぞわとそこから全身に広がる快感の波が肌に漣を立てた。
チャールズは、目の前で全身を紅潮させよがる妻の姿に唖然として立ち尽くした。それは、彼の知っているアメリアの姿ではなかった。身をゆすり、震わせながら喘ぐ目の前の女は、彼の知っている、長年の婚約者だった、年下の可愛らしい令嬢の姿と合致しなかった。
「これが……番……」
昨晩自分の腕の中で見せた姿との違いに、胸が締め付けられるような気持ちになった。しかし、同時に快感の波に溺れるその女の肢体に激しい情欲を感じた。
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