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1章 ことのはじまり

1-12.諦め(3)

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 背中の傷が大分良くなると、マクシムからメイドの部屋を割り当てられた。ヴィクトリア付の侍女の部屋から荷物を運ぶ。私物はほとんどなかったが、ベッド下から絵本を取り出して、埃をはらった。久しぶりにページをめくると、汚れてくしゃくしゃになったピンク色の押し花が出てきた。いつか汚してしまった母親のものを、集めて布にくるんで保管していたのだった。

 それを手に取りポケットに入れた。マクシムの執務室へ向かう。

「――母に、これを送ったのはあなたですか」

 マクシムは無言で頷くと、その汚れた花を掌に乗せてしばらく見つめた。そして俯くと、それを机の引き出しにしまった。

 服を脱ぎ、背中を晒す。マクシムは壺から薬をとると、まだうっすら赤みの残るそこに塗り込んだ。
 
「クロエ」

 呼ばれて振り返ると、マクシムは目じりに皺を作って微笑んだ。

「君は、目がエマに似ているね」

 彼はクロエの頬に手を触れると、そのままその手を降ろし、クロエの乳房に触れた。最初は指についた薬を拭いとるようにさらりと丸みの周辺に指を沿わせ、次になだらかな丘を包むように覆うと、ぎこちなく、それをゆっくりと掴んで、放した。

「……あ」

 背中を触られるのとは違う、ぞくっとした寒気が身体を抜けるのを感じてクロエは小さな声をもらした。マクシムは裸の肩を数度擦ると、いつもと同じ口調で言った。

「これで、大丈夫だろう」

「……ありがとうございます」

 クロエは俯きながらそう呟いた。

 部屋に帰ると服を脱ぎ、自分の身体を見た。胸は手の平で下から持ち上げると、やや重みを感じられるほどの大きさに膨らんできていた。マクシムの手の感触を思い出し、嫌悪感に襲われそのままそこにうずくまった。唇を噛む。

(……仕方ないわ、)

 他に背中の傷に薬を塗ってくれる人はいない。それに、マキシムのお陰で、鞭で打たれることはなくなった。それに、彼は自分に対して悪意を持っていない。

(私は、他に行く場所がないんだから。マクシムさんに、気に入られないと)

 マクシムは日に日に激しくクロエの身体を触るようになっていった。だんだんと大きくなっていく胸の重さを楽しむように掌に乗せ揺らした後に、ゆっくりと揉んでいく。突起をつままれて、クロエは身体を震わせた。彼は満足そうに「服を着なさい」と言う。

 そのうち彼はその手を下腹部に伸ばした。下着越しに足の付け根を撫でられる。じわじわと身体の中から生温かい液体がにじみ出るのを感じた。

 クロエが15になった年に、チャールズは辺境伯領に移ってきた。アメリアとの正式な結婚はまだだが、将来的に領地をイアンから継ぐことになるので、領地に住み、運営を学ぶため、領地内で生活することになった。
 
「クロエ、チャールズ様のご推薦で、お前を王宮仕えさせることになった」

 ある日、イアンに呼び出されたクロエはそう告げられた。

「王宮……ですか」

 国境付近の幼少期を過ごした別宅か、本宅の屋敷の敷地外に出たことがないクロエにとって、王宮がどんなところなのか全く想像がつかなかった。

「何年かそこで働きなさい。それからは、王都の商人や、騎士や誰かと結婚させてやろう」

 いつものようにマクシムの執務室に呼ばれ、服を脱ぐように言われた。
 彼は後ろからいつもより強く、痛みを感じるほどの力で乳房を揉んだ。

「クロエ……、すっかり、大人になって」

 マキシムはもう片方の手を下着の中へ入れた。秘部をなぞるように指を動かす。

「ぁあ」

 ぞわぞわとした今までとは段違いの刺激が身体を走る。思わず逃れようと身体をひねった。マクシムはその身体をぐっと腕で押さえると、花弁を押し開き、指で花芯に触れると、指先を震わせた。

「ん、あ、あ、」

 振動が脳の奥にまで伝わってきて、クロエは身体を痙攣させた。身体の中からじわじわと生温かい液体が出てくるのを感じる。マクシムの指が動く度、濡れた下着の布が肌をかすめた。彼はその粘った液体を全体にに擦りつけるように指を動かした。クロエは身体をぶるっと震わせ、不意に力が抜けるのを感じた。マクシムはクロエの上体を支えたまま、彼女下着を下した。そして自分のズボンを下げると、ずるりと勃起した男根を引き出した。

「クロエ、君は、私のものだ。エマのことは幸せにできなかったが、君のことは幸せにしたい。王宮仕えなどさせるものか」

 言いながら、マクシムは垂直に立ったそれを、後ろ向きのクロエに尻の間に突き立てた。クロエは自分の身体の中に何か違う塊が入ってくるのを感じて、その痛みに思わず身をよじり、逃れようとしたが、肩を掴むマクシムの腕の力は強かった。

 マクシムは腰を引き、深くクロエの奥に杭を打ち込む。

「ん、あ、」

 クロエは力を抜いた。「やめて」という言葉が意味を持たないことは、もうずっと前から知っていた。これでいいんだろう。彼に気に入られようとした時から、いつかこうなることはわかっていた。

 自分の尻とマクシムの下腹部がぶつかる音が室内に響く。

「あっ、あっ、あっ」

 噛んでいた唇を緩め、声を漏らした。それが彼を喜ばせることを感じ取っていたからだ。父親の頭を膝にのせ、その髪を撫でていた母のように。苦痛なく生きていくためには、相手に従い、喜ばせることが必要だと学んでいた。

「気持ちいいか」

 マクシムはクロエの被る白い帽子を取ると結った髪をほどいて、それを指ですいた。顔を自分の方へ向けさせ唇を重ねる。生温かい何かが口の中を動き回るのを感じ、クロエは呼吸ができず咳き込んだ。男は腰をぐっと押し、さらに奥へ押し込んだ。体内をかきまわされるような感覚を感じながら、クロエは窓の外を見つめた。

 今頃、アメリアはチャールズとまた裏の森へ散歩にでも行っているだろうか。

「う」と背中で悶えるような男の声が響いた。彼はクロエの体内で精を吐き出した。

 ひとしきり出し終えると、マクシムはそれを抜いた。股を粘り気のある液体がつたう。その中に一筋、赤い血が混じっていた。執事は息を大きく吐きながら、熱に浮かされたように呟いた。

「君と一緒になりたいんだ」

 クロエは「そうですね」と虚ろに呟いた。痛みや嫌悪感はいずれ、鞭の痛みと同じように慣れるだろう。彼は少なくとも、自分に危害は加えない。きっとこのまま、自分は彼に抱かれ、そして子どもを作り、それが女の子なら、また母のように、『あなたはあなたの王子様と結婚するのよ』と語り掛けるのだろうとぼんやりと思った。

 そう考える一方で、自分にとっての王子様というものがどういうものかはわからなかった。
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