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1章 ことのはじまり
1-1.ある令嬢の新婚初夜のできごと
しおりを挟む 王都ヴェルスタットから南におよそ三キロメートルほどの場所にその森はあった。
広大な森林が広がるこの場所は、別名『アニエス大森林』と呼ばれ、その広さはヴェルスタット王国の国土の約十五パーセントにも及ぶ。
名前の由来は、大地の女神アニエスからきているようだが、いつの頃から呼ばれているのかは誰にも分からないという。
一説によると、森の中心には大地の女神アニエスを祀った神殿があり、そこで祈りを捧げた者には大地の女神アニエスの加護が与えられる、と言われているそうだが到達した者はここ数百年の間、一人も居ない。
森には様々な薬草や木の実が自生しており、それらを主食とした野生の小動物も多く住んでいる。
また、森林の木々は火をおこすのに最適で人々の生活に欠かせないものが多く、入口付近に出現する魔物も弱い為、鉄等級冒険者達が経験を積むための狩場にもなっている。
稀に大地の神殿を目指して等級の高い冒険者達が訪れることもあるそうだが、奥に行けば行くほど迷うそうで、結果は言わずもがなである。
◇
「さて、森に着いたわけだが、どの辺りにゴブリンは居るんだろうな」
俺達は森の入口と思われる場所で作戦会議を行う。
周囲は穏やかな風景が広がっており、少なくともゴブリンがいるようにはまるで見えない。
「オークやオーガはともかくゴブリンが森に住み着くっていうのは聞いたことがないわね。
ゴブリンは活動範囲は広いけど住処は大抵洞窟っていうし」
エルザは周囲を見回してそう答えると、エルリックが森の中を指差す。
「近くにそれらしきものが見えないのなら森の中にあるんだろう。
このままここにいても依頼は達成出来ないんだ。森の中に入ってみよう」
「それもそうだな。エルザ、兄さん、森に入ろう」
周囲を見回しつつ、暫く森の中を進んでいく。
大地の女神アニエスの名前を冠しているだけ、あって森の中も穏やかな雰囲気に包まれており、生い茂る森の隙間から太陽の光が降り注ぐ。
こんな場所に本当にゴブリンがいるのだろうか、疑問に思い始めたその時、不意にエルリックが、俺とエルザの肩を掴む。
「あそこを見てごらん」
頭を屈めながらエルリックが示した先に、森の中には不釣合いなほどポッカリと空いた穴が見える。
穴の大きさは、人一人が通れるくらいだろうか。
その穴の中からゴブリンが三匹立て続けに出てきた。どうやらあの穴が住処で間違いないみたいだ。
魔物の強さで言えば最弱に位置するゴブリンだが、その繁殖能力は凄まじく、弱くとも数が多いというのはそれだけで驚異になる。
穴の中にどれだけいるかは分からないが、全部倒しておかないと、あっという間に増えてしまうだろう。
「行くぞっ」
「了解だっ」
「任せて!」
俺は、【英雄領域】を発動させつつ、茂みから一気にゴブリンに駆け寄る。
「ギャギャッ!?」
不意を突かれたゴブリン三匹は為すすべもなく、俺達の攻撃によって絶命する。
だが、穴の近くで叫ばれたのが拙かったようだ。新手のゴブリンがゾロゾロと出てきた。
数にして七匹。新たに出てきたゴブリン達は、血に塗れ倒れているゴブリンを目にすると、憤慨したかの如く声を荒げ血走った眼をこちらに向けると同時に棍棒を振りかざして向かってくる。
「俺と兄さんで三匹、エルザは一匹だ! やるぞ!」
俺はゴブリンの一撃をロングソードで受け流し、体勢を崩すことに成功すると、その勢いのままに近づいてくるもう二匹のゴブリンの内、一匹の腹を割き、もう一匹は左胸を刺突する。
刺突した直後に、受け流した方のゴブリンが体勢を立て直して棍棒を振り上げるのが見えた。
俺は刺突したゴブリンから素早くロングソードを引き抜き、棍棒を振り上げているゴブリン目掛けて蹴りつける。
棍棒は刺突され蹴りつけられたゴブリンの頭に吸い込まれるように振り下ろされ、グチャっという嫌な音を立てて倒れる。
突然のことに驚くゴブリンに近づき、首めがけてロングソードを真一文字に斬りつけると、血飛沫が上がりその場に崩れ落ちた。
ふぅ、と一息ついて周りを見渡すと、エルリックもちょうど倒し終えたところのようだ。
流石に『元騎士』で俺の剣術指南役だっただけのことはある。
後はエルザだけなのだが、戦い慣れていないのかまだゴブリンとの戦闘は終わっていない。
剣を抜いているもののエルザ自身は攻撃せず、ゴブリンの攻撃を避けてばかりいる。
意匠の素晴らしい鞘から抜かれた剣は、見るものを圧倒する輝きを放っている。
あれほど見事な剣はそうないだろう。惜しむらくは使い手が未熟なところだろうか。
「はああ!」
エルザが意を決して剣を振り上げ、ゴブリン目掛けて振り下ろす。
ゴブリンは防御しようと棍棒を自分の頭の上にやるが、剣は紙のように棍棒ごとゴブリンを真っ二つに切り裂いた。なんというか、凄まじい剣だな……。
「やったわっ!」
俺達の方を振り返り、柔かに笑うその顔は、とても可愛らしく見るものを惹きつける笑みではあるのだが、頬からは先程真っ二つにした際に付いたであろう、ゴブリン特有の緑色の血が一雫垂れており、傍らにはゴブリンの死体だ。
俺達は思わず苦笑いを浮かべた。
◇
俺達は十匹のゴブリンの死体から耳を斬り取り、小袋に入れてから穴の方に目をやる。
「穴の中にまだ居ると思う?」
「うーん、外であれだけ音がしたんだ。
中にまだ居るのであれば気づかない筈がない」
エルザの問いかけに対してエルリックが答える。
確かに普通であれば気づかないということは有り得ない。だが、気づいていて敢えて出てこなかったのだとしたら……。
「二人共。万が一ということもある。
念のため穴の中も調べてみないか?」
「それはいいけど、私達って松明の準備をしてないわよね?
視界が悪いのは致命的だと思うけど」
エルザが最もな疑問を口にし、エルリックも同意するように頷く。
「明かりについては問題ない。
俺の能力を使う。『輝く光』」
洞窟の前で俺が唱えると周囲が光に包まれ、暗かった穴の中が見えてくる。
それを見たエルザとエルリックが大きく目を見開く。
「カ、カーマイン! これって貴方の能力なの?」
「ああ。光属性に関係する魔法であれば何でも使用出来る能力なんだ。
これはその中の一つさ。まぁ、他にもあるんだけど……」
魔法の属性は大きく分けて六つ。火・水・風・土・光・闇だ。
これとは別に回復魔法と契約魔法もあるが、回復魔法はともかく契約魔法は神々や神獣、精霊といった存在との契約が必要となるので、術者は殆ど居ないらしい。
また、どの魔法も使用するにあたって体内にある魔力を消費するので、熟練度を上げないと強力な魔法は使用することが出来ない。
「他にも? 一体いくつ能力を持ってるのっ!?
って、人に話すことじゃないわよね。ゴメンなさい」
浮き沈みの激しいエルザの表情に俺は思わず苦笑する。
「ははは、別に隠してるわけじゃないからいいさ。
俺が所持している能力は全部で七つ。
その内、言えるものでは【生命癒術】、【英雄領域】、【光の加護】の三つ。
後四つに関しては追々説明するよ」
俺はそう言って、エルザとエルリックに三つの能力の効果を説明する。
「どれも凄い効果じゃない。特に【英雄領域】は、強くなればなるほど効果が上昇するんでしょ?
私もその能力が欲しかったわ……」
エルリックがしきりに頷いている。お前の能力だって【身体強化】で身体能力を上昇させることの出来る効果だろうに……。
「聞いていいのか分からないが、エルザはどんな能力を持っているんだ?」
「あー、私の能力はね……一応三つ持ってるのよ、一応ね。」
「三つ! それは凄いじゃないか!!」
エルリックが目を見開いて称賛するものの、エルザの顔は優れない。
複数持ちは稀で三つ持ちだと英雄を目指せるくらいだったか?
俺の持っている七つと比べると確かに少なく感じるが、それでも三つというのは凄いことのはず。それなのに何故?
「三つと言ってもその内二つは戦闘には何の関係もないの。一つは【炎の加護】。
カーマインの【光の加護】に似ているけど、私の場合は火属性魔法であれば何でも使用出来る能力よ。
二つ目は【世界地図】。名前の通り、世界中のどこに何があるのか、どうやって行けばいいのか、目的地まで距離はどれくらい離れているのかが正確に分かるわ。
但し、地上に限るから建物やダンジョン内には適用されないという欠点があるわ」
火属性魔法が使用できるというのは大きなメリットだし、【世界地図】も使い方によっては冒険に大いに役立つ能力だ。
「どちらも素晴らしい能力だと思うけど、何が問題なんだ?」
俺の言葉にエルリックも首を傾げる。
「……三つ目の能力の効果を聞いても同じことが言えるかしらね……」
「三つ目の能力?」
「ええ。三つ目の能力はね、【万能調理】。どんな食材も美味しく調理出来る能力よ」
「どんな食材も……」
「美味しく調理出来る能力……」
俺とエルリックは一瞬呆けてしまう。
人の数だけ色んな種類の能力があるのだしおかしいことではないのだが、これは……。
「笑いたければ笑えばいいじゃないっ!
うぅ。料理が上手になる能力なんて……」
エルザは余程この能力が嫌なのか、それとも恥ずかしいのか、その場に屈んで両手で顔を覆う。
俺は慌ててフォローを入れることにした。
「エルザ」
「……何よ?」
「良い能力じゃないか?
どんな食材も美味しく調理出来るってのは野宿もすることのある冒険者には大事な能力だと思うし、そんな能力をエルザが持っていてくれて俺は嬉しい」
「……そ、そうかしら?」
こちらに顔を向けるエルザに手応えを感じた俺は、微笑とともに追い込みをかける。
「そうとも。だから何も気にすることはないんだ。
そうだ! 今度エルザの作ったご飯を食べさせてくれよ、楽しみにしてるから」
「……もぅ、仕方ないわねっ。王都に戻った時にでも作ってあげるわ」
顔を赤くしてチラチラとこちらを見ながらそう答えるエルザの姿に、ホッと胸を撫で下ろし、俺は表情を真剣なものに変える。
「よし! ひとまず能力の話はこれまでにして、穴の中に入ろう」
「ええ!」
「ああ!」
俺達は気を引き締めて、ゴブリン達の住処である穴の中へと入っていった。
広大な森林が広がるこの場所は、別名『アニエス大森林』と呼ばれ、その広さはヴェルスタット王国の国土の約十五パーセントにも及ぶ。
名前の由来は、大地の女神アニエスからきているようだが、いつの頃から呼ばれているのかは誰にも分からないという。
一説によると、森の中心には大地の女神アニエスを祀った神殿があり、そこで祈りを捧げた者には大地の女神アニエスの加護が与えられる、と言われているそうだが到達した者はここ数百年の間、一人も居ない。
森には様々な薬草や木の実が自生しており、それらを主食とした野生の小動物も多く住んでいる。
また、森林の木々は火をおこすのに最適で人々の生活に欠かせないものが多く、入口付近に出現する魔物も弱い為、鉄等級冒険者達が経験を積むための狩場にもなっている。
稀に大地の神殿を目指して等級の高い冒険者達が訪れることもあるそうだが、奥に行けば行くほど迷うそうで、結果は言わずもがなである。
◇
「さて、森に着いたわけだが、どの辺りにゴブリンは居るんだろうな」
俺達は森の入口と思われる場所で作戦会議を行う。
周囲は穏やかな風景が広がっており、少なくともゴブリンがいるようにはまるで見えない。
「オークやオーガはともかくゴブリンが森に住み着くっていうのは聞いたことがないわね。
ゴブリンは活動範囲は広いけど住処は大抵洞窟っていうし」
エルザは周囲を見回してそう答えると、エルリックが森の中を指差す。
「近くにそれらしきものが見えないのなら森の中にあるんだろう。
このままここにいても依頼は達成出来ないんだ。森の中に入ってみよう」
「それもそうだな。エルザ、兄さん、森に入ろう」
周囲を見回しつつ、暫く森の中を進んでいく。
大地の女神アニエスの名前を冠しているだけ、あって森の中も穏やかな雰囲気に包まれており、生い茂る森の隙間から太陽の光が降り注ぐ。
こんな場所に本当にゴブリンがいるのだろうか、疑問に思い始めたその時、不意にエルリックが、俺とエルザの肩を掴む。
「あそこを見てごらん」
頭を屈めながらエルリックが示した先に、森の中には不釣合いなほどポッカリと空いた穴が見える。
穴の大きさは、人一人が通れるくらいだろうか。
その穴の中からゴブリンが三匹立て続けに出てきた。どうやらあの穴が住処で間違いないみたいだ。
魔物の強さで言えば最弱に位置するゴブリンだが、その繁殖能力は凄まじく、弱くとも数が多いというのはそれだけで驚異になる。
穴の中にどれだけいるかは分からないが、全部倒しておかないと、あっという間に増えてしまうだろう。
「行くぞっ」
「了解だっ」
「任せて!」
俺は、【英雄領域】を発動させつつ、茂みから一気にゴブリンに駆け寄る。
「ギャギャッ!?」
不意を突かれたゴブリン三匹は為すすべもなく、俺達の攻撃によって絶命する。
だが、穴の近くで叫ばれたのが拙かったようだ。新手のゴブリンがゾロゾロと出てきた。
数にして七匹。新たに出てきたゴブリン達は、血に塗れ倒れているゴブリンを目にすると、憤慨したかの如く声を荒げ血走った眼をこちらに向けると同時に棍棒を振りかざして向かってくる。
「俺と兄さんで三匹、エルザは一匹だ! やるぞ!」
俺はゴブリンの一撃をロングソードで受け流し、体勢を崩すことに成功すると、その勢いのままに近づいてくるもう二匹のゴブリンの内、一匹の腹を割き、もう一匹は左胸を刺突する。
刺突した直後に、受け流した方のゴブリンが体勢を立て直して棍棒を振り上げるのが見えた。
俺は刺突したゴブリンから素早くロングソードを引き抜き、棍棒を振り上げているゴブリン目掛けて蹴りつける。
棍棒は刺突され蹴りつけられたゴブリンの頭に吸い込まれるように振り下ろされ、グチャっという嫌な音を立てて倒れる。
突然のことに驚くゴブリンに近づき、首めがけてロングソードを真一文字に斬りつけると、血飛沫が上がりその場に崩れ落ちた。
ふぅ、と一息ついて周りを見渡すと、エルリックもちょうど倒し終えたところのようだ。
流石に『元騎士』で俺の剣術指南役だっただけのことはある。
後はエルザだけなのだが、戦い慣れていないのかまだゴブリンとの戦闘は終わっていない。
剣を抜いているもののエルザ自身は攻撃せず、ゴブリンの攻撃を避けてばかりいる。
意匠の素晴らしい鞘から抜かれた剣は、見るものを圧倒する輝きを放っている。
あれほど見事な剣はそうないだろう。惜しむらくは使い手が未熟なところだろうか。
「はああ!」
エルザが意を決して剣を振り上げ、ゴブリン目掛けて振り下ろす。
ゴブリンは防御しようと棍棒を自分の頭の上にやるが、剣は紙のように棍棒ごとゴブリンを真っ二つに切り裂いた。なんというか、凄まじい剣だな……。
「やったわっ!」
俺達の方を振り返り、柔かに笑うその顔は、とても可愛らしく見るものを惹きつける笑みではあるのだが、頬からは先程真っ二つにした際に付いたであろう、ゴブリン特有の緑色の血が一雫垂れており、傍らにはゴブリンの死体だ。
俺達は思わず苦笑いを浮かべた。
◇
俺達は十匹のゴブリンの死体から耳を斬り取り、小袋に入れてから穴の方に目をやる。
「穴の中にまだ居ると思う?」
「うーん、外であれだけ音がしたんだ。
中にまだ居るのであれば気づかない筈がない」
エルザの問いかけに対してエルリックが答える。
確かに普通であれば気づかないということは有り得ない。だが、気づいていて敢えて出てこなかったのだとしたら……。
「二人共。万が一ということもある。
念のため穴の中も調べてみないか?」
「それはいいけど、私達って松明の準備をしてないわよね?
視界が悪いのは致命的だと思うけど」
エルザが最もな疑問を口にし、エルリックも同意するように頷く。
「明かりについては問題ない。
俺の能力を使う。『輝く光』」
洞窟の前で俺が唱えると周囲が光に包まれ、暗かった穴の中が見えてくる。
それを見たエルザとエルリックが大きく目を見開く。
「カ、カーマイン! これって貴方の能力なの?」
「ああ。光属性に関係する魔法であれば何でも使用出来る能力なんだ。
これはその中の一つさ。まぁ、他にもあるんだけど……」
魔法の属性は大きく分けて六つ。火・水・風・土・光・闇だ。
これとは別に回復魔法と契約魔法もあるが、回復魔法はともかく契約魔法は神々や神獣、精霊といった存在との契約が必要となるので、術者は殆ど居ないらしい。
また、どの魔法も使用するにあたって体内にある魔力を消費するので、熟練度を上げないと強力な魔法は使用することが出来ない。
「他にも? 一体いくつ能力を持ってるのっ!?
って、人に話すことじゃないわよね。ゴメンなさい」
浮き沈みの激しいエルザの表情に俺は思わず苦笑する。
「ははは、別に隠してるわけじゃないからいいさ。
俺が所持している能力は全部で七つ。
その内、言えるものでは【生命癒術】、【英雄領域】、【光の加護】の三つ。
後四つに関しては追々説明するよ」
俺はそう言って、エルザとエルリックに三つの能力の効果を説明する。
「どれも凄い効果じゃない。特に【英雄領域】は、強くなればなるほど効果が上昇するんでしょ?
私もその能力が欲しかったわ……」
エルリックがしきりに頷いている。お前の能力だって【身体強化】で身体能力を上昇させることの出来る効果だろうに……。
「聞いていいのか分からないが、エルザはどんな能力を持っているんだ?」
「あー、私の能力はね……一応三つ持ってるのよ、一応ね。」
「三つ! それは凄いじゃないか!!」
エルリックが目を見開いて称賛するものの、エルザの顔は優れない。
複数持ちは稀で三つ持ちだと英雄を目指せるくらいだったか?
俺の持っている七つと比べると確かに少なく感じるが、それでも三つというのは凄いことのはず。それなのに何故?
「三つと言ってもその内二つは戦闘には何の関係もないの。一つは【炎の加護】。
カーマインの【光の加護】に似ているけど、私の場合は火属性魔法であれば何でも使用出来る能力よ。
二つ目は【世界地図】。名前の通り、世界中のどこに何があるのか、どうやって行けばいいのか、目的地まで距離はどれくらい離れているのかが正確に分かるわ。
但し、地上に限るから建物やダンジョン内には適用されないという欠点があるわ」
火属性魔法が使用できるというのは大きなメリットだし、【世界地図】も使い方によっては冒険に大いに役立つ能力だ。
「どちらも素晴らしい能力だと思うけど、何が問題なんだ?」
俺の言葉にエルリックも首を傾げる。
「……三つ目の能力の効果を聞いても同じことが言えるかしらね……」
「三つ目の能力?」
「ええ。三つ目の能力はね、【万能調理】。どんな食材も美味しく調理出来る能力よ」
「どんな食材も……」
「美味しく調理出来る能力……」
俺とエルリックは一瞬呆けてしまう。
人の数だけ色んな種類の能力があるのだしおかしいことではないのだが、これは……。
「笑いたければ笑えばいいじゃないっ!
うぅ。料理が上手になる能力なんて……」
エルザは余程この能力が嫌なのか、それとも恥ずかしいのか、その場に屈んで両手で顔を覆う。
俺は慌ててフォローを入れることにした。
「エルザ」
「……何よ?」
「良い能力じゃないか?
どんな食材も美味しく調理出来るってのは野宿もすることのある冒険者には大事な能力だと思うし、そんな能力をエルザが持っていてくれて俺は嬉しい」
「……そ、そうかしら?」
こちらに顔を向けるエルザに手応えを感じた俺は、微笑とともに追い込みをかける。
「そうとも。だから何も気にすることはないんだ。
そうだ! 今度エルザの作ったご飯を食べさせてくれよ、楽しみにしてるから」
「……もぅ、仕方ないわねっ。王都に戻った時にでも作ってあげるわ」
顔を赤くしてチラチラとこちらを見ながらそう答えるエルザの姿に、ホッと胸を撫で下ろし、俺は表情を真剣なものに変える。
「よし! ひとまず能力の話はこれまでにして、穴の中に入ろう」
「ええ!」
「ああ!」
俺達は気を引き締めて、ゴブリン達の住処である穴の中へと入っていった。
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