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4夜 夢のあとさき
4-10.これからも
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私は一瞬意識を失い、どさりと倒れた。
「痛っ!」
私の体の下で、何かがわめく。それは、人間の男の体だった。あばら骨が浮き出ていて、全身に青あざが痛々しい。
「ソフィー」
求めている声が私の名前を呼ぶ。まだしゃがれ声だったけれど、構わなかった。
私は彼の名前を呼んだ。
「フレディ!!」
フレディは、私と最後にした時の人の姿に戻っていた。顔は青あざだらけで、異様に痩せていて、船が難破して数か月漂流してそうな外見だった。
「とりあえず、腕と足をほどいてよ」
彼は弱弱しく微笑んだ。
私が手足の拘束をほどくと、彼は骨の浮き出た細い手で私を抱きしめた。
顔が固い骨にあたる。
「ソフィー、何で、こんな無茶を」
彼は私の左頬をなでた。私の左半身には、鱗はなかったけど、ざらざらとしたかさぶたをはがしたような跡ができていた。左手首の傷口が開き、血が流れ出ている。フレディはそこに枕を押し当てて止血した。
「泣かないでよ、これくらいでちょうど良いのよ」
私は彼の頬をつたう涙を右手でぬぐった。
「急に、あんなに美女に戻ったら、魔女だと思われて変な噂を立てられるわ。これくらいでちょうど良いのよ」
それに、と続ける。
「あなた元よりかなり美化させたでしょ。そういう余計なことをするから、自分が死にかけたんじゃないの」
私は自分の胸元を見た。明らかにさっきよりサイズが小さくなっている。
「だって、どうせだったらって思って。フレッドに君を好きになってもらわないと困るから……」
フレディはずびずびと鼻をすする。
「どうせだったら」って、馬鹿じゃないの本当に。あと、やっぱり美化はしていたのね。ちょっとショックなんですけど。
「もうフレッドの名前は出さないでよ」
私は彼のほっぺたを引っ張った。やつれた顔なのであまり引っ張れない。
いたたたたと言いながらフレディがぼやく。
「だって君は」
私はその言葉を唇で塞いだ。
「私が欲しいのはあなただって何度言えばわかるの」
フレディは私をぎゅううううと力を入れて抱きしめた。自分の顔が見えないように彼の骨が浮き出た胸に顔を押し付けられる。
「ちょ、ちょっと痛いんだけど」
私がわめいても離してくれない。嗚咽の声だけが聞こえた。
ため息をついて、言う。
「私はあなたが好きよ、フレディ。もう少し私の傍にいて、夢を見せて」
フレディはようやく腕の力を緩めて、青くなった瞳で私を見つめた。
「俺は、好きっていうのはわからないけれど、君に元気でいてほしい。君に、もっと気持ち良いって思ってほしい。もっと君に、いろんな夢を見せたいと思うんだ」
私は彼の目じりにたまった涙を指で拭うと、キスをした。
「それで十分よ」
私は立ち上がると、服を着た。左足をひきずりながら扉へ向かう。左腕からはぼたぼたと血が流れている。
廊下に出ると、真っ暗な中、ランプを足元に置いたボーゲン先生が椅子に座って頭を抱えて丸まっていた。
「先生」
私が呼びかけると、先生ははっと顔を上げて、私を見つめた。
「お嬢様、それは」
私は何から説明しようか、頭の中で言葉を選んだ。
「あの、とりあえず、私、生きてるみたいです」
先生は無言でつかつか私に向かって歩いてくると、私を抱きしめた。
「お嬢様ぁぁぁ!!」
泣きながら絶叫されて、私は思わず耳を押さえた。
先生が私のことをずっと心配してくれていたことがひしひしと伝わってきて、私も涙ぐんだ。
その時、うしろでがちゃりと扉が開いた。私はまさかと振り返る。
「あ、ボーゲン先生、はじめまして。俺は、フレディです」
ガリガリの長身のやつれた全裸の男が、先生に挨拶をしていた。
先生は口をぱくぱくさせて、尻餅をついた。
「大丈夫ですか!?」
彼は先生に駆け寄り、動けなくなった先生に肩を貸し、椅子に座らせた。
私は頭を押さえた。
「先生、彼が、私を治してくれました」
苦笑しながら言うと、先生は呆然としたまま「とりあえず止血を」とうめいた。
フレディはお願いします、と何気ない様子でいる。
「痛っ!」
私の体の下で、何かがわめく。それは、人間の男の体だった。あばら骨が浮き出ていて、全身に青あざが痛々しい。
「ソフィー」
求めている声が私の名前を呼ぶ。まだしゃがれ声だったけれど、構わなかった。
私は彼の名前を呼んだ。
「フレディ!!」
フレディは、私と最後にした時の人の姿に戻っていた。顔は青あざだらけで、異様に痩せていて、船が難破して数か月漂流してそうな外見だった。
「とりあえず、腕と足をほどいてよ」
彼は弱弱しく微笑んだ。
私が手足の拘束をほどくと、彼は骨の浮き出た細い手で私を抱きしめた。
顔が固い骨にあたる。
「ソフィー、何で、こんな無茶を」
彼は私の左頬をなでた。私の左半身には、鱗はなかったけど、ざらざらとしたかさぶたをはがしたような跡ができていた。左手首の傷口が開き、血が流れ出ている。フレディはそこに枕を押し当てて止血した。
「泣かないでよ、これくらいでちょうど良いのよ」
私は彼の頬をつたう涙を右手でぬぐった。
「急に、あんなに美女に戻ったら、魔女だと思われて変な噂を立てられるわ。これくらいでちょうど良いのよ」
それに、と続ける。
「あなた元よりかなり美化させたでしょ。そういう余計なことをするから、自分が死にかけたんじゃないの」
私は自分の胸元を見た。明らかにさっきよりサイズが小さくなっている。
「だって、どうせだったらって思って。フレッドに君を好きになってもらわないと困るから……」
フレディはずびずびと鼻をすする。
「どうせだったら」って、馬鹿じゃないの本当に。あと、やっぱり美化はしていたのね。ちょっとショックなんですけど。
「もうフレッドの名前は出さないでよ」
私は彼のほっぺたを引っ張った。やつれた顔なのであまり引っ張れない。
いたたたたと言いながらフレディがぼやく。
「だって君は」
私はその言葉を唇で塞いだ。
「私が欲しいのはあなただって何度言えばわかるの」
フレディは私をぎゅううううと力を入れて抱きしめた。自分の顔が見えないように彼の骨が浮き出た胸に顔を押し付けられる。
「ちょ、ちょっと痛いんだけど」
私がわめいても離してくれない。嗚咽の声だけが聞こえた。
ため息をついて、言う。
「私はあなたが好きよ、フレディ。もう少し私の傍にいて、夢を見せて」
フレディはようやく腕の力を緩めて、青くなった瞳で私を見つめた。
「俺は、好きっていうのはわからないけれど、君に元気でいてほしい。君に、もっと気持ち良いって思ってほしい。もっと君に、いろんな夢を見せたいと思うんだ」
私は彼の目じりにたまった涙を指で拭うと、キスをした。
「それで十分よ」
私は立ち上がると、服を着た。左足をひきずりながら扉へ向かう。左腕からはぼたぼたと血が流れている。
廊下に出ると、真っ暗な中、ランプを足元に置いたボーゲン先生が椅子に座って頭を抱えて丸まっていた。
「先生」
私が呼びかけると、先生ははっと顔を上げて、私を見つめた。
「お嬢様、それは」
私は何から説明しようか、頭の中で言葉を選んだ。
「あの、とりあえず、私、生きてるみたいです」
先生は無言でつかつか私に向かって歩いてくると、私を抱きしめた。
「お嬢様ぁぁぁ!!」
泣きながら絶叫されて、私は思わず耳を押さえた。
先生が私のことをずっと心配してくれていたことがひしひしと伝わってきて、私も涙ぐんだ。
その時、うしろでがちゃりと扉が開いた。私はまさかと振り返る。
「あ、ボーゲン先生、はじめまして。俺は、フレディです」
ガリガリの長身のやつれた全裸の男が、先生に挨拶をしていた。
先生は口をぱくぱくさせて、尻餅をついた。
「大丈夫ですか!?」
彼は先生に駆け寄り、動けなくなった先生に肩を貸し、椅子に座らせた。
私は頭を押さえた。
「先生、彼が、私を治してくれました」
苦笑しながら言うと、先生は呆然としたまま「とりあえず止血を」とうめいた。
フレディはお願いします、と何気ない様子でいる。
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