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1夜 初体験は白馬の王子様と
1-1.初体験は白馬の王子様と(1)
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「こんにちは」
窓辺にとまった鳩に近づく。1歩、2歩、3歩。すると鳩はぽっぽーと鳴いて飛び立っていってしまった。私はよしっとガッツポーズをつくる。昨日より、2歩距離が縮まった。信頼関係が回復してきた証。
私、ソフィアの最近の楽しみは、やってくる鳥と距離を縮めること。今飛んで行った鳩には、前は触れるくらいまで近づけたんだけど、いい気になって手で触ろうとしたらよろけてぶつかっちゃって、正面から押しつぶしちゃったのよね。それですっかり怖がられて、一歩でも近づけば飛んでってしまうようになっちゃった。でも、あれは事故だったって、だんだん伝わってる気がする。
次はスズメが来た。
「いらっしゃい」
この子は常連さん。微笑みかけて手を伸ばせば、私の手の甲に乗ってきてくれる。かわいい。
窓の外を見てため息をつく。誰か人間と話したい。
この部屋から、もうどれくらい出てないかしら。窓の外には、私の心を安らげようとお母さまが綺麗な花壇を作ってくれているけれど。花なんか動かないし、ちらっと見たら飽きちゃう。
私は自分の足をさすった。竜の鱗のようなものがびっしりと生えている。頬を触る。そこもざらざらして、硬い感触しかない。もう鏡を見るのはやめた。そうとうひどいことになってるだろうから。私の顔を見てびっくりしないのは鳥くらいだ。
『竜皮症』名前のとおり、皮膚が竜の鱗みたいになって、そのうち死んでしまう珍しい病気。しかも感染症。どこから感染したのかはよくわからない。12歳のときまでは、普通に生活してたのに、突然発症して今に至る。
普通だったら感染したら山かなんかに捨てられるんだけど、私は一応お嬢様なので。
地方の別荘の一室に隔離されて4年。お父様とお母様は熱心に呪術士だとか魔術師だとかいろんな人を連れてきてくれるけど、何にも変わらずどんどん鱗は増えていくばかり。
気付いたら16歳になってしまった。本当だったら、もう結婚してるはずだったのに。
フレッド。私の旦那様になるはずだったかつての婚約者の名前を思い出す。
カッコ良くなってるだろうな。私が覚えているのは12歳の彼の姿だけ。
金髪に青い目の私の王子様。いつも隣にいた幼馴染。
「わたしとけっこんしてくれる?」
「いいよ」
7歳の誕生日の日に、そんなやりとりで婚約した私たち。
今どうしてるかな。もうどこかの誰かとお付き合いしているのかしら。
はあ、と自分でもびっくりするくらい大きなため息をついてしまった。
それにびっくりしたのかスズメは飛んで行ってしまった。
「ああああ、わざとじゃないのよう」
空っぽになった手を見つめる。また、部屋にひとりぼっち。
1人で過ごす1日は長いようで短い。1日3回、扉についている小さな扉からトレーに乗った料理が差し出され、それを食べて、あとは差し入れの本を読んだり、窓の外を見たりして過ごしているとあっという間に夜になる。暗いのは嫌いなので、陽が落ちてきたらすぐにベッドに潜り込む。
瞳を閉じて、毎回考えるのは成長したフレッドの姿。
きっと背はすごく高くなっていて、顔立ちはもっと男っぽくなっている。
眠る時は、いつも朝が来なければいいのにと考えながら眠る。
どうせ、目が覚めたってまた独りぼっちなんだから。
眠っている間は幸せだ。頭に思い描いたフレッドが、その姿で花束を持って扉の先に待っている。
「ソフィア、ずっと君が治るのを待っていたよ。他の女性なんか目に入らない。僕には君だけしかいないんだから」
そう言って彼は私の手をとって、一緒に庭に出るの。そこには白馬が待っていて、フレッドは私を白馬の後ろに乗せて…って、ちょっと待って。
私は目の前のフレッドを見つめた。
いる、ほんとに、フレッドが。
そして、気づいた。私、今、実際に外にいる。
あたりを見回す。暗闇に満月が浮かんでいる。庭園の花々が月光に照らされ、心地よい夜風にそよいでいる。白い毛の馬が青白く輝くその毛並みをブルブルと震わせた。
「ソフィア、どうしたの?迎えにきたんだよ」
振り返ると、フレッドが微笑んでいた。でも、それは、私の知っているフレッドの無邪気な笑顔ではなかった。
窓辺にとまった鳩に近づく。1歩、2歩、3歩。すると鳩はぽっぽーと鳴いて飛び立っていってしまった。私はよしっとガッツポーズをつくる。昨日より、2歩距離が縮まった。信頼関係が回復してきた証。
私、ソフィアの最近の楽しみは、やってくる鳥と距離を縮めること。今飛んで行った鳩には、前は触れるくらいまで近づけたんだけど、いい気になって手で触ろうとしたらよろけてぶつかっちゃって、正面から押しつぶしちゃったのよね。それですっかり怖がられて、一歩でも近づけば飛んでってしまうようになっちゃった。でも、あれは事故だったって、だんだん伝わってる気がする。
次はスズメが来た。
「いらっしゃい」
この子は常連さん。微笑みかけて手を伸ばせば、私の手の甲に乗ってきてくれる。かわいい。
窓の外を見てため息をつく。誰か人間と話したい。
この部屋から、もうどれくらい出てないかしら。窓の外には、私の心を安らげようとお母さまが綺麗な花壇を作ってくれているけれど。花なんか動かないし、ちらっと見たら飽きちゃう。
私は自分の足をさすった。竜の鱗のようなものがびっしりと生えている。頬を触る。そこもざらざらして、硬い感触しかない。もう鏡を見るのはやめた。そうとうひどいことになってるだろうから。私の顔を見てびっくりしないのは鳥くらいだ。
『竜皮症』名前のとおり、皮膚が竜の鱗みたいになって、そのうち死んでしまう珍しい病気。しかも感染症。どこから感染したのかはよくわからない。12歳のときまでは、普通に生活してたのに、突然発症して今に至る。
普通だったら感染したら山かなんかに捨てられるんだけど、私は一応お嬢様なので。
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気付いたら16歳になってしまった。本当だったら、もう結婚してるはずだったのに。
フレッド。私の旦那様になるはずだったかつての婚約者の名前を思い出す。
カッコ良くなってるだろうな。私が覚えているのは12歳の彼の姿だけ。
金髪に青い目の私の王子様。いつも隣にいた幼馴染。
「わたしとけっこんしてくれる?」
「いいよ」
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それにびっくりしたのかスズメは飛んで行ってしまった。
「ああああ、わざとじゃないのよう」
空っぽになった手を見つめる。また、部屋にひとりぼっち。
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きっと背はすごく高くなっていて、顔立ちはもっと男っぽくなっている。
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どうせ、目が覚めたってまた独りぼっちなんだから。
眠っている間は幸せだ。頭に思い描いたフレッドが、その姿で花束を持って扉の先に待っている。
「ソフィア、ずっと君が治るのを待っていたよ。他の女性なんか目に入らない。僕には君だけしかいないんだから」
そう言って彼は私の手をとって、一緒に庭に出るの。そこには白馬が待っていて、フレッドは私を白馬の後ろに乗せて…って、ちょっと待って。
私は目の前のフレッドを見つめた。
いる、ほんとに、フレッドが。
そして、気づいた。私、今、実際に外にいる。
あたりを見回す。暗闇に満月が浮かんでいる。庭園の花々が月光に照らされ、心地よい夜風にそよいでいる。白い毛の馬が青白く輝くその毛並みをブルブルと震わせた。
「ソフィア、どうしたの?迎えにきたんだよ」
振り返ると、フレッドが微笑んでいた。でも、それは、私の知っているフレッドの無邪気な笑顔ではなかった。
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